【ドナルド・トランプ】議論が絶えない新アメリカ大統領の真実の姿とは!?
民主党のカマラ・ハリスに圧勝し、再びアメリカ合衆国大統領となることが決まったトランプ。その言動に世界中が注目し、全方位に火種を撒き続けてきた男を、果たして私たちはどう評価すべきなのだろうか。さて、モーリーはどう見ている!?
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- アメリカ偉人伝! vol.32
2024年11月6日、フロリダ州ウェストパームビーチのコンベンションセンターで開催された集会で、支持者を前に勝利宣言するトランプ。予想を覆す大差で大統領選に勝利し、132年ぶりに任期が連続しない再選となった
今回のトランプの映画、僕も観ました。ある種のリアリズムが追求されていて、壮大なテーマ性を感じましたね。この作品がトランプを褒めているのか、貶めているのかは意見が割れるはず。それも織りこみ済みで、どちら側からも安易に判断できないようにしています。脚本のレベルが極めて高く、役者の演技も本当に素晴らしい。一番すごかったのは、悪名高い弁護士のロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)。今までに何度も描かれてきた人物ですが、一番本人らしいと思います。史実でもコーンはやりたい放題で、最期はあまりにも寂しかった。そのあたりをうまく描いています。
コーンの物語というのは、実はシェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』なんです。シーザーが自分を神にたとえて酔っている瞬間、腹心たちに刺される。その後、アントニーが民衆の心を掴むために「私はシーザーではなくローマを愛していた」と語る。これはコーンやトランプの言葉にもよく出てきます。“アメリカ・ファースト”です。シーザーやコーンのように、トランプも黄昏までの時間は長くないのかも。終わる時は呆気なく、その理由は自業自得です。
コーンはマッカーシーによる赤狩りを検察官として先導した人物です。法や倫理を無視してね。マフィアの顧問弁護士となって人脈を築き、大儲けしてモンスター化する。でも、やがてかばってくれる仲間が減り、脅しに屈する人脈も高齢化で消え、最後は寂しく亡くなる。汚い手で築いた人脈には賞味期限があるんです。コーンが描いた成功と没落の弧において、トランプは今ピークにいる。この映画はそれを暗示的に重ねています。
ただ、この映画を観てトランプを絶対悪と捉えるのは、想像力の欠如。もちろん映画は自由に観ていいと思いますが、安直に判断するのは要注意です。映画でも描かれましたが、’80年代前半のNYは極端に治安が悪かった。その荒廃ぶりを知っている人からすれば、トランプの再開発は“いいこと”でした。低所得者向け住宅を提供して以降、経済能力がないままNYへの人口流入が進んだ。貧困が広がり、街が荒廃していく中で、トランプのような人たちが揺さぶりまくった。時代が彼らを望んだ側面があるんです。
この時代、社会的な公正さや寛容さが必要だという立場でありながら、共和党のレーガンを支持した“レーガン・デモクラット”という人たちがいました。目の前の現実を見て、まずは力強いリーダーが必要だと考えた。こうした人たちが出てきた背景も、映画の中で語られます。レーガン政権は確かに負け組をたくさん生んだ。でもアメリカ経済が沸いたのも事実。これまでの多くの映画で描かれた“悪い金持ち”は、どこか漫画的で立体感がありませんでした。コーンのような俗物がいて、ニクソンやレーガンがいて、トランプがいる。そこには必然性があり、寛容さやリベラルさとは背中合わせなのだと。この作品のそんな深い時代設定は新鮮だったし、映画の成熟を感じます。時代を立体視させてくれるんですね。
トランプ支持者を“悪あがきする負け組”とくくるのは簡単。でも群衆の中の各個人には、それぞれの思いや物語があります。今回の大統領選挙でも、フロリダのヒスパニック系住民が象徴的でした。多くの人が「トランプは夢を見せてくれる」と考えたわけです。トランプが自分をどう幸せにするのか曖昧であっても、やっぱり彼を選ぶ。ここですよね。簡単にわかった気にならず、現在起きていることはなんなのかという視点が必要です。そういう意味では、この作品を観ることでトランプのどこが魅力的なのか、その謎解きができるかもしれません。
歴史をひもとく大きな絵と、個人の小さな物語が共存するのがこの映画。これを機にアメリカ史やロイ・コーンについて調べてみるのもいいと思いますよ。
1983年、マンハッタンのミッドタウン5番街に超高層ビル“トランプ・タワー”がオープン。そのレセプションに出席したトランプ(左)とロイ・コーン(右)。真ん中は当時のNY市長だったエド・コッチ
トランプとマイク・タイソンの関係性は深く、’88年のスピンクス戦をホストしたほか、タイソンの財務顧問を務めたことも。タイソンは2016年の大統領選でも支持を表明した
1970年に撮影された若き日のトランプ。当時24歳。まさにニューヨークに進出しはじめた頃で、実業界での注目も高まっていた
1度めの大統領退任後、多くの訴訟を抱えたトランプ。2024年大統領選後の現在、34件の州法違反で重罪人となり、複数の刑事裁判で被告人となっている。ホワイトハウスに復帰することで、進行中の裁判はすべて打ち切られる可能性が高い。
歴史に残る怪物はいかにして生まれたか!
全米公開時にトランプが上映阻止に動いた衝撃の問題作。気弱で繊細だった20代のトランプが、辣腕弁護士のロイ・コーンと出会い、「勝つための3つのルール」を伝授され……。今こそ一見の価値あり!!
『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』
2025年1月17日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
© 2024 APPRENTICE PRODUCTIONS ONTARIO INC. / PROFILE PRODUCTIONS 2 APS / TAILORED FILMS LTD. All Rights Reserved.
教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家など幅広く活動中。最新著作『日本、ヤバい。「いいね」と「コスパ」を捨てる新しい生き方のススメ』(文藝春秋)が発売中。
35/100
やっぱりこの人はヤバいかもしれない!?
「映画の前半は感情移入して35点。でも真ん中あたりからヤベェと思いだし、後半はなるべく遠くに逃げようと思いました。今後のアメリカ、やっぱりヤバいかも」
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雑誌『Safari』2月号 P178〜179掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.)
photo by AFLO