『JSA』
製作年/2000年 監督・脚本/パク・チャヌク 出演/ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、イ・ヨンエ、キム・テウ
ソン・ガンホが味のある演技で評価を高めた!
“JSA”とは韓国と北朝鮮の国境線にある共同警備区域のこと。ここで北朝鮮の兵士ふたりが殺されたことから、中立国監視委員会は女性中尉を捜査官として派遣する。事件解決の鍵を握るのは、容疑者と見られる韓国軍兵長スヒョクと、そのときに撃たれて負傷したという北朝鮮軍の隊長ギョンピル。両者の証言は食い違うものの、真相は次第に明らかになる。その背景には両国間では決して許されない、国境を越えた友情があった……。
『シュリ』の好助演によって注目されたガンホが大役を務め、さらにその名を高めたエモーショナルなミステリー。大らかな性格で部下にも慕われている軍人ギョンピルを人間味たっぷりに演じている。友人をかばうための芝居じみた振る舞いなどの、泣かせる場面での味な演技も忘れ難い。後に『オールド・ボーイ』などで世界的な名声を得るパク・チャヌク監督、スヒョク役で共演したイ・ビョンホンにとっても、本作は出世作となった。
『オアシス』
製作年/2002年 監督・脚本/イ・チャンドン 出演/ソル・ギョング、ムン・ソリ、アン・ネサン、リュ・スンワン
轢き逃げ犯と被害者の娘の純愛に涙する!
轢き逃げ死亡事故を起こして服役し、出所したばかりのジョンドゥ(ソル・ギョング)。ある日、事故の被害者宅を訪れた彼は、被害者の娘であり、重度の脳性麻痺を持つコンジュ(ムン・ソリ)と出会う。社会に適応できないジョンドゥと日常生活もままならないコンジュはやがて惹かれ合い、確かな愛情を育んでいくことになるが……。
『ペパーミント・キャンディー』などの名匠イ・チャンドンが手掛け、ベネチア映画祭で監督賞などを受賞。はたから見れば特異だが、当人たちにとっては紛れもない純愛が見る者の価値観を大きく揺さぶり、問いかけてくる。主演を務めた実力派2人の魂のこもった熱演も見事。
『殺人の追憶』
製作年/2003年 監督・脚本/ポン・ジュノ 出演/ソン・ガンホ、キム・サンギョン、パク・ヘイル
未解決事件を追う!
韓国の農村で若い女性を狙った殺人事件が続発。地元警察のパク刑事と、都会から派遣されたソ刑事が中心となって捜査に当たる。ぶっきらぼうなパク刑事は、さっさと捜査を終わらせようと、容疑者でっちあげの暴挙に出ることも。対するソ刑事は論理的かつ冷静に捜査に当たるが、解決の糸口が見つからないまま新たな被害者を出してしまう。やがて目撃者の証言により、ついに容疑者が浮かび上がるのだが……。
『パラサイト 半地下の家族』で今や世界的な鬼才となったポン・ジュノ監督の出世作。サスペンスフルなドラマで社会性もあるが、一方で彼らしいユーモアが全編にあふれている。そんな笑いの部分の多くを担うのが、ガンホふんするパク刑事。犯人は陰毛のない男と決めつけて銭湯に張り込むなどの、ピント外れの捜査がおかしい。仕事ぶりは、いい加減で強引かつ乱暴だが、それでも憎めないのはガンホの人間臭い個性ゆえ、だろう。
『オールド・ボーイ』
製作年/2003年 監督・脚本/パク・チャヌク 出演/チェ・ミンシク、ユ・ジテ、カン・へジョン
監禁された衝撃の理由とは!?
日本のコミックを韓国で映画化し、ハリウッドではリメイクもなされた、凶暴にして哀切なサスペンス。ある日突然、何者に誘拐され、15年にわたり監禁された、平凡な会社員デス。解放された後、犯人への復讐を誓った彼はその正体を探る一方で、偶然知り合った若い女性ミドと恋に落ちていく。犯人は意外にあっさり判明したが、この男はミドを盾に取り、監禁した理由を突き止めることを要求。やがてデスが行き着く、衝撃の真実とは!?
【ココからネタバレ】
タイトルの“オールド・ボーイ”とは同窓生の意味。犯人は高校時代のデスの同窓生で、高校の頃に実の姉と愛し合っていたことをデスに知られ、それが言いふらされたことにより、姉は自殺していた。15年に渡るデスの監禁は、これに対する復讐。しかし、それははじまりに過ぎなかった。デスとミドが出会ったのも、実は犯人の差し金。デスもミドも知る由もなかったが、彼らは実の親子だったのだ……。この衝撃は、見ていて胸を引き裂かれずにいられない。
『私の頭の中の消しゴム』
製作年/2004年 監督・脚本/イ・ジェハン 出演/チョン・ウソン、ソン・イェジン、ペク・チョンハク
ソン・イェジン出演の号泣ラヴストーリー!
天真爛漫な社長令嬢のスジン(ソン・イェジン)は、建築家志望のチョルス(チョン・ウソン)と運命的に出会い、すぐさま恋におちる。スジンの献身的な愛はチョルスの孤独な心を癒し、やがて2人は結婚。その幸せな暮らしは永遠に続くかと思われたが、あるときからスジンは物忘れがひどくなり……。
若年性アルツハイマーで記憶を失っていく妻と、妻を一心に支える夫の愛を描いた珠玉のラヴストーリー。チョン・ウソンとソン・イェジンのリアルな演技が観客の心をわしづかみにし、公開当時の日本を涙で濡らす事態に。ロマンティックな愛の芽生えから一転、深刻な展開の描写も真摯で、タイムレスな感動を呼ぶ。
『グエムル 漢江の怪物』
製作年/2006年 監督/ポン・ジュノ 出演/ソン・ガンホ、ぺ・ドゥナ
家族や仲間が結束して立ち向かうことが大事!
米軍の研究施設によって韓国の漢江に廃棄したホルマリンに反応し、川底の一匹の生物が巨大化。エサ、すなわち人間を求めて、やがて地上に姿を現わす。
この怪物=グエムルに最愛の娘をさらわれた、ぐうたらなダメ親父が奮起。老父や妹、弟ら家族の協力を得て、娘の救出に乗り出す。一方で、街はこの怪物と謎のウイルスによってパニック状態に。混乱の中、ダメ親父はグエムルを倒すことができるのか?
『パラサイト 半地下の家族』で今や世界注視の巨匠となったポン・ジュノの監督作品。彼らしい社会風刺やユーモアは宿ってはいるが、モンスター映画としてもよくできていて、とにかくスリリング。
グエムルを倒すために必要なのは、まずグロい容姿にひるまない勇気。さらに火器やアーチェリーの腕前。何より、巧みな連携を可能にする家族間の絆が重要だ。『パラサイト~』にも通じるファミリー連携の妙は見逃せない。“半地下の家族”の父親ソン・ガンホが本作でもダメ親父を妙演。
『息もできない』
製作年/2008年 監督・脚本・出演/ヤン・イクチュン 出演/キム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク
借金取りと女子高生の魂の結びつきに心が震える!
粗暴な借金取りのサンフン(ヤン・イクチュン)は、勝気な女子高生・ヨニ(キム・コッピ)と出会う。それぞれ心に傷を負った2人は強く惹かれ合い、魂と魂で結ばれていくが……。父親への激しい怒りと憎しみを抱えながら生きる男が、シンパシーを覚える相手との時間を経て自らの傷を癒していく。
主演も兼任したヤン・イクチュン監督による力強い演出の中で荒々しい描写が続くが、やがて見えてくるのは一筋の光。ボロボロの日常を送るサンフンとヨニは現状を抜け出し、幸せをつかみ取ることができるのか? まさに、息もできないギリギリのラインを進む展開が大勢の心を震わせ、各国の映画祭を席巻した。
『母なる証明』
製作年/2009年 監督/ポン・ジュノ 出演:キム・へジャ、ウォンビン
光と闇をさらけ出す重厚さに心底圧倒される
『パラサイト〜』のポン・ジュノ監督が、母なる存在が放つ強烈な”光と闇”に迫ったサスペンス。とある小さな街で女子高校生の殺人事件が発生し、現場周辺で所有物が見つかったことからトジュンが容疑者として逮捕される。この子に限ってそんなことは絶対にないと信じる母は、息子のために駆け回る中、殺された少女が多くの男と関係を結び、その全員の写真を携帯電話に保存していたことを知る。ならば事実を知られたくない誰かが、少女を殺したのだろうか……?
【ここからネタバレ】
事件解決まであと一歩かという中、トジュンの母は、犯行場面を目撃したという廃品回収業の男を見つけ出す。だが、彼が口にしたのは「犯人はトジュンで間違いない」という最初の入り口に戻ったかのような真実だった。母は激情と混乱のあまり男を殺し、その場に火を放つ。全ての真相は闇に葬られ、やがてトジュンは釈放。だが真犯人は紛れもなくトジュンであり、母もまた殺人を犯した事実は消えない。ここまでして息子を守るのは愛か、それとも狂気か。心のつかえを無くすツボに自ら針を打ち、母は狂ったように踊り続けるのだった。
『渇き』
製作年/2009年 監督・脚本/パク・チャヌク 出演/ソン・ガンホ、キム・オクビン、シン・ハギュン
ソン・ガンホが吸血鬼を演じる!
主人公サンヒョンは敬虔で真面目な神父。無力さにさいなまれた彼は老神父の勧めで、ワクチン開発のための被験者となることに。ところが、そこでの輸血により、身体能力が著しく向上。一方で、陽の光が苦手になり、吸血欲に憑かれるというヴァンパイアのような体質になってしまう。肉体の変化にとまどいつつも聖職に戻ったサンヒョンは、やがて旧友の妻テジュと知り合い、道ならぬ恋に落ちてしまう。それは彼の破滅のはじまりでもあった……。
『JSA』のパク・チャヌク監督と3度めのタッグを組んだガンホが10キロ体重を減量し、このスリラーで演じたのは、なんと吸血鬼! 欲を捨てたはずの聖職者が、吸血の欲望にさからえなくなったばかりか、肉欲も抑えられない。そんなブラックユーモアを体現しつつ、壮絶な運命のドラマを表現する。病院で輸血用の血を呑んだり、目覚める見こみのない昏睡状態の患者の血を頂戴したりの、涙ぐましい対処がユーモラス。
『サニー 永遠の仲間たち』
製作年/2011年 監督・脚本/カン・ヒョンチョル 出演/シム・ウンギョン、カン・ソラ、キム・ミニョン、パク・チンジュ
笑って泣ける感動作!
主婦として幸せな毎日を送るナミ(ユ・ホジョン)は、高校時代の親友チュナ(チン・ヒギョン)と再会。25年ぶりに会ったチュナはガンを患っており、余命2カ月の状態だった。ナミはチュナの最後の願いを叶えるため、高校時代の仲間たちを捜しはじめるが……。
40代になった女性たちが青春を謳歌し合った仲間との再会を通し、人生において大切なものと向き合っていく友情ドラマ。仲間たちを訪ねる旅が繰り広げられる現在と、夢や希望に満ちた高校時代。それら2つの物語が、彼女たちの青春を彩った80年代のヒットソングとともに綴られていく。人生の美しさと揺るぎない友情に、笑いと温かい涙が浮かぶ感動作。
『建築学概論』
製作年/2012年 監督・脚本/イ・ヨンジュ 出演/オム・テウン、ハン・ガイン、イ・ジェフン、ペ・スジ
静かな涙を誘うラストが印象的!
建築家のスンミン(オム・テウン)の前に、大学時代に一目惚れしたソヨン(ハン・ガイン)が現れる。15年ぶりに会ったソヨンは、スンミンに家の設計を依頼。再び一緒の時間を過ごす中で、スンミンは初恋の記憶をよみがえらせていくが……。
建築家の男性と初恋相手が織りなす物語を、過去と現在を交錯させながら綴るラヴストーリー。奥手な大学生の初恋がただただ甘酸っぱさを感じさせる一方、大人になった2人を描く現在にはもどかしさやしっとり感も。大学時代を『模範タクシー』のイ・ジェフンと『イ・ドゥナ!』のペ・スジが演じているのも見どころ。過ぎし青春の尊さを感じさせるラストが静かな涙を誘う。
『嘆きのピエタ』
製作年/2012年 製作総指揮・監督・脚本/キム・ギドク 出演/チョ・ミンス、イ・ジョンジン、ウ・ギホン、カン・ウンジン
暴力的な描写と衝撃のラストに驚愕
極悪非道な手口で借金を取り立てることから、債務者たちに恐れられているガンド(イ・ジョンジン)。身寄りもなく、孤独に生きてきた彼の前にある日、母親だと名乗るミソン(チョ・ミンス)が現われる。当初は疑念を抱き、徹底して邪険に扱うガンドだったが、いつしかミソンの存在を受け入れるようになり……。
生まれて初めて母親の愛を知った男と、彼に無償の愛を注ぐ女のねじれた関係を描いていくヒューマンストーリー。監督を務めたキム・ギドクならではの痛々しく暴力的な描写と予想の斜め上を行く展開、衝撃のラストに心を疲弊させられる。ベネチア映画祭では審査員の支持を集め、金獅子賞を受賞した。
『弁護人』
製作年/2013年 監督・脚本/ヤン・ウソク 出演/ソン・ガンホ、イム・シワン、キム・ヨンエ、クァク・ドウォン
正義に目覚めていく弁護士をソン・ガンホが熱演!
1980年代初頭、軍事政権下の韓国、プサン。高卒だが独学で法律を学び、弁護士となったウソクは法廷には立たず、割のよい税務の仕事で家族を養っていた。そんなある日、恩人である食堂の女将の、大学生の息子が共産主義者のレッテルを貼られ、不当に逮捕・拘束されるという事件が発生。拷問を受け、自白を強要された彼を救うため、ウソクは弁護にあたる。しかし、それは自身を危険にさらすことを意味していた……。
後に韓国の大統領となったノ・ムヒョンの若き日の体験に基づく社会派ヒューマンドラマ。最初は家族のために金を稼ぐことしか考えていなかった弁護士が、法を逸脱した権力に怒りを覚え、社会正義に目覚めていく。そんな胸中の変化を、ガンホが鮮やかに体現する。法廷で怒りに突き動かされて怒鳴るのは常識的にどうかと思うが、ガンホが演じるとそこに人間味が宿る。彼の愛すべきキャラクターを再確認できるに違いない。
『傷だらけのふたり』
製作年/2014年 監督/ハン・ドンウク 脚本/ユ・ガビョル 出演/ファン・ジョンミン、ハン・ヘジン、クァク・ドウォン、チョン・マンシク
異なる世界に生きてきた2人の運命は!?
高利貸しの取り立てをするテイル(ファン・ジョンミン)は、昏睡状態に陥った男の借金を娘のホジョン(ハン・ヘジン)に肩代わりさせることに。だが、テイルはホジョンにたちまち一目惚れ。借金を帳消しにする代わりに自分とデートをするよう、ホジョンに持ちかけるが……。
武骨で粗暴なチンピラが、堅気の銀行員に恋心を寄せるラヴストーリー。好き勝手に生きてきた男がピュアな想いを実らせようと、たどたどしく奮闘していく。異なる世界に生きてきた2人の関係の行方を追った展開に、心を揺さぶられる観客が続出。名優ファン・ジョンミンが切なくも愛おしい男泣きを見せ、見る者の涙も誘ってくる。
『タクシー運転手 約束は海を越えて』
製作年/2017年 監督/チャン・フン 脚本/オム・ユナ 出演/ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・へジン、リュ・ジュンヨル
タクシー運転手の心の変化に胸が熱くなる!
ソウルのタクシー運転手・マンソプ(ソン・ガンホ)は高額の謝礼につられ、ドイツ人ジャーナリストのピーター(トーマス・クレッチマン)を乗せて光州を目指す。数々の検問を切り抜け、光州にたどり着いた2人だったが、そこは民主化を求める市民と軍が衝突する危険地帯と化していて……。
1980年の韓国で起きた光州事件にまつわる物語を、平凡なタクシー運転手の目線から描いたヒューマンストーリー。激しい闘争を目の当たりにしていく中、自らの使命感と向き合うようになるタクシー運転手の変化が熱い。事件を報道しようと尽力するドイツ人記者との国境を超えた友情にも、涙腺を刺激されてしまうはず。
『工作 黒金星と呼ばれた男』
製作年/2018年 監督/ユン・ジョンビン 出演/ファン・ジョンミン、イ・ソンミン、チョ・ジヌン
北のミサイル発射は韓国がお願いしている!?
韓国と北朝鮮。世界でも唯一、同じ民族の中で緊張関係が続く関係にあるため、韓国映画でもその攻防は常に描かれてきた。日本に暮らす我々は、そのあまりに衝撃的な事実をこうして映画で知ることができる、というわけ。
北朝鮮の核兵器開発を探るため、韓国軍の情報部隊の将校が、スパイとして潜入する物語。コードネーム"黒金星(ブラック・ヴィーナス)"という主人公は、韓国のスパイ史上で最も成功をおさめた対北工作員として有名だ。黒金星はやがて、当時(1990年代)の北朝鮮の最高指導者、キム・ジョンイルとも接見することに!
ビジネスマンとして北朝鮮高官や上層部から信頼を得ていく、地道で慎重な工作活動。そして、北朝鮮側で韓国のCMを撮影するというネゴシエーションなど、実在の人物をモデルにしつつ、フィクションとしての大胆な展開が見どころ。
しかし最も驚くのは、韓国側の"裏工作"。スパイを使って北朝鮮に武力挑発させ、国民の危機をあおって、次の選挙で与党に勝利させる……というシナリオだ。
もちろんここもフィクションだけど、選挙のために信じがたい戦略をとる政治の闇は、実際にほかの国でも行われていそう。そんなことを考えさせられ、背筋も凍る!
『82年生まれ、キム・ジヨン』
製作年/2019年 原作/チョ・ナムジュ 監督/キム・ドヨン 出演/チョン・ユミ、コン・ユ、キム・ミギョン、コン・ミンジョン
主人公ジヨンの物語にグッとくる!
結婚と出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われる日々を送るジヨン(チョン・ユミ)。妻として、母として徐々に追い詰められていくジヨンはやがて、不可解な言動を取りはじめる。そんな妻を前に、夫のデヒョン(コン・ユ)はなす術もなく……。
現代の韓国を生きる女性の息苦しさを描き、日本でも共感を呼んだベストセラー小説を映画化。現在のジヨンにつきまとう痛みや苦しみを見つめながら、少女時代に味わった生きづらさ、家族の中ですら感じる女性としての理不尽な負い目、社会に出て気づく困難や疎外感などを1つ1つすくい上げていく。そんなジヨンの物語にはヒリヒリとした涙がこぼれるが、ラストには希望も。
『パラサイト 半地下の家族』
製作年/2019年 監督・脚本/ポン・ジュノ 出演/ソン・ガンホ、チョ・ヨジョン、イ・ソンギュン、チェ・ウシク
米アカデミー賞を獲得した傑作!
下町にあるアパートの半地下の部屋で、肩を寄せ合って暮らす、失業中の4人家族、キム一家。ある日、息子が裕福なパク家で、女子高校生相手の家庭教師の仕事をはじめた。金ヅルを見つけたとばかりに、娘は家庭教師、父は運転手、母は家政婦として、家族であることを隠して、この山の手の上流家庭に入りこむ一家。そんなある日、パク家に地下室があることを知ったキム家の人々は、そこに隠されていた、ある秘密を知ってしまう……。
カンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞したばかりか、非英語作品でありながら米アカデミー賞の栄冠に輝く快挙を成し遂げた傑作。『殺人の追憶』のポン・ジュノ監督と4度めのタッグを組んだガンホは、キム家の家長にふんして、格差社会の現実をユーモラスに体現する。「計画は無計画であること。計画しなければ想定外のことも起こらない」というナゾの哲学を持つ、ノンキな父親役は、まさにハマリ役。ラストの名演も印象的だ。
『KCIA 南山の部長たち』
製作年/2019年 原作/キム・チュンシク 監督・脚本/ウ・ミンホ 出演/イ・ビョンホン、イ・ソンミン、クァク・ドウォン
全編、緊張の糸がとぎれない!
1979年、衝撃のニュースが世界を駆け巡った。韓国のパク・チョンヒ大統領が、側近である中央情報部(KCIA)部長に殺害されたのだ。18年もの間、大統領に君臨し、独裁者としての側面も強まったことで、悲劇へと導かれた。この事実を、フィクションも加えてドラマチックに再現したのが今作。アメリカへ亡命したKCIAの元部長がパク大統領を批判する証言を行ったため、大統領は激怒。現部長のキム・ギュピョン(実際の人物から名前は変更)が、事態の収拾を命じられる。これをきっかけに、キム部長と大統領、別の側近との確執が水面下で進行。そしてついに、ある計画が実行されることに……。
キム部長がアメリカへわたり、様々な裏工作を仕掛けるほか、ヨーロッパでもKCIAのミッションが進行。豪華ロケによる本格派スパイ映画のスケール感を備えつつ、ポイントのシーンでは目を覆うような描写も用意される。全編、緊張の糸がとぎれない展開。パク大統領のセリフのところどころに日本語が入ったり、日本との意外な関わりを示す謎めいた演出がなされたりと、韓国と日本の複雑なつながりをも実感。予想外に事件を身近に感じられるのもポイントだ。
『声もなく』
製作年/2020年 監督・脚本/ホン・ウィジョン 出演/ユ・アイン、ユ・ジェミョン、ムン・スンア
誘拐犯と少女の奇妙な絆に感動!
犯罪組織の下請けとして、死体処理を黙々とこなしながら生きるテイン(ユ・アイン)。幼い妹と2人で小屋のような家に住む彼は、身代金目的で誘拐された少女・チョヒ(ムン・スンア)を1日だけ預かることに。だが、トラブルが重なった上に、チョヒの親から身代金が支払われる気配はなく……。
社会の底辺で生きる男と家族に見放された少女が、疑似家族のような生活を始めるヒューマンストーリー。口のきけない主人公・テインの存在、彼と奇妙な絆で結ばれることになる少女、その両者の思いに胸をえぐられるラストが、弱き者たちの孤独を浮き彫りにする。独特のユーモアと切なさが入り混じる語り口も出色。
『モガディシュ 脱出までの14日間』
製作年/2021年 監督・脚本/リュ・スンワン 出演/キム・ユンソク、チョ・インソン、チョン・マンシク、ホ・ジュノ
内戦のソマリアから韓国と北朝鮮の大使がともに脱出!
1990年12月、内戦の影響で暴動が日増しに激化するソマリアの首都モガディシュ。韓国の国連加入を目指す大使ハンは、同目的の北朝鮮の大使としのぎを削りながら、ソマリア政府を味方に付けようとロビー活動を行なっていた。しかし、反乱軍の矛先は大使館にも向けられ、暴徒が押し寄せる非常事態に。空港も封鎖される、身動きの取れない状況下、ハン大使は北朝鮮の大使に救いの手を差し伸べ、ともに国外脱出を図る。
『アルゴ』をはじめ戦乱の赴任地から決死の帰国を試みる人々の奔走を描いた作品には力作が多いが、本作もそのひとつ。実話をベースにしており、その上で南北朝鮮の国境を越えた奇跡の共闘が描かれる。エモーショナルな物語はもちろん、緊張感満点の展開も魅力的。暴徒の襲撃をかわして他国の大使館に逃げ込もうとする、主人公たちのクルマでの奔走をビジュアル化したカーアクションは迫力満点!
『カーター』
製作年/2022年 監督・脚本/チョン・ピョンギル 出演/チュウォン、イ・ソンジェ、チョン・ソリ 配信/ネットフリックス
驚愕のノンストップアクション!
自分の名前も含め、記憶を失って目覚めた男が、耳の奥に埋め込まれた装置を通して指示を受け、信じがたいミッションに挑む物語。“カーター”という名で数々の指令を受けるこの男、もともと超人的な身体能力を備えているらしく、襲いかかってくる無数の敵を次々と本能で倒し、瞬発的な判断で危機を乗り越えていく。記憶をなくした最強の男という点で、あのジェイソン・ボーンも連想させるが、カーターの能力は、はっきり言ってボーン以上。全世界を震撼させるウイルスという、まさに今っぽい背景が用意され、その治療薬とされる少女を確保するカーターの任務は、韓国と北朝鮮の関係も深く絡んで二転三転の運命へとなだれ込む。
『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』
製作年/2022年 監督・脚本/パク・デミン 出演/パク・ソダム、ソン・セビョク、キム・ウィソン、チョン・ヒョンジュン
意外性のあるアクション映画!
韓国の釜山で廃車処理を仕事にするペッカン産業。海辺の小さな会社だが、じつは裏稼業も請け負っていた。それは“特送(とくそう)”。郵便や宅配で送れないモノ、つまり犯罪絡みの品や人間を秘密裏に、しかも迅速に指定場所へ送り届ける仕事だ。社員のウナは天才的なドライビング・テクニックで、その仕事をつねにパーフェクトにこなす。彼女が新たに受けたのは、元プロ野球選手の賭博ブローカーとその息子を、海外へ逃がすために港へ運ぶ指令だったが……。ウナ役は『パラサイト 半地下の家族』で半地下側の長女を演じたパク・ソダム。今回もとことんクールに任務をこなすので、ギャップ萌えする人が続出しそうだ。
『ハント』
製作年/2022年 監督・脚本・出演/イ・ジョンジェ 出演/チョン・ウソン、チョン・ヘジン、ホ・ソンテ
イ・ジョンジェの初監督作品!
そのイ・ジョンジェが4年間も温めてきたシナリオを、初監督作として満を持して完成させたのが『ハント』。韓国映画ならではの、南北の分断を絡めたポリティカルアクションで、あの『シュリ』を思い出すような衝撃作になっている。舞台は1980年代。韓国では1980年、軍事政権に対する民主化デモで多数の犠牲者が出た光州事件が起こるなど、政治が混迷していた。そんな状況で、アメリカの首都ワシントンD.C.で米韓首脳会談が行われ、韓国大統領の命が狙われる。かろうじて阻止したのは、安全企画部の精鋭たち。一連の不穏な事件の背後に“トンニム”という暗号名の北側のスパイが関わり、安全企画部にも侵入しているという疑惑が濃厚になるなか、同部の国内チームのキム次長と、海外チームのパク次長は、たがいに疑惑の目を向けながら半ば強引に捜査を進めていき……。
『非常宣言』
製作年/2022年 製作・監督・脚本・編集/ハン・ジェリム 出演/ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チョン・ドヨン、キム・ナムギル、イム・シワン
新種のウィルスが機内で蔓延!
見知らぬ相手が多く乗り合わせる交通機関。列車や船、バスなど走行中の乗り物は、アクションやサスペンス映画にとって最高の舞台になる。なかでも飛行機は、緊迫感とスリルを与えるのに最適だ。閉ざされた空間で逃げ場はないし、着陸の判断も難しい……。
そんな飛行機パニック映画として、『非常宣言』は想像を超えたスペクタクルを用意する。ソウルからホノルルへ向かう旅客機で、乗客の一人がバイオテロを仕掛ける。一人また一人と犠牲者が増えるなか、各空港は事件を引き起こす未知のウィルスを怖れ、緊急着陸の要請を断るしかない。死の恐怖が迫る乗客たち。機長やCAにも被害が広まり、政府や警察には究極の決断が迫られることに。
犯人が使う新種のウィルス。人体に与えるショッキングな効果が背筋を凍らせ、その感染が機内で急激にではなく、じわじわと広がるプロセスが恐怖感を倍増。観ているこちらも乗客の気分になり、何度も息を止めたい衝動にかられる! 機内のサバイバルと並行して描かれる地上での攻防、さらにアメリカや日本の対応も急展開をみせるので、とにかく一瞬も目が離せない時間が続き、絶体絶命のクライマックスへとなだれ込む。
『別れる決心』
製作年/2022年 監督・脚本/パク・チャヌク 出演/パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
“ざわめき度”が究極のレベルに達する!
岩山から男性が転落し、死亡する事件が発生。現場に駆けつけた刑事のヘジュンは、被害者の妻ソレにも接触するが、彼女が妙に冷静な態度だったことを怪しむ。しかしソレの行動を監視し、尋問を繰り返すうちに、2人の距離はどんどん縮まっていき……。刑事と容疑者という本来なら警戒し合う関係が、男と女の危険な愛へと変わる展開に、ヘジュンと妻のドラマ、中国から韓国に来たソレの過去なども交錯し、予想外の方向へ突き進む。ヘジュンとソレの視線がやたらと艶めかしく絡み合い、それぞれの妄想も盛り込まれたりと、全編とにかく妖しく心をかき乱す一作。
監督は日本のコミックを映画化した『オールド・ボーイ』など“復讐三部作”で知られる韓国の鬼才パク・チャヌク。衝撃的なバイオレンス描写を得意とする監督だが、今回はその部分は抑えめ。濃密なラヴサスペンスという印象だ。しかし死体の視線を表現するなど、センセーショナルな映像はたっぷり用意され、翻訳アプリの効果的な使用、ヘジュンが捜査する他の事件での壮絶なアクションも興奮を高める。
『バレリーナ』
製作年/2023年 監督・脚本/イ・チュンヒョン 出演/チョン・ジョンソ、キム・ジフン、パク・ユリム
女性版ジョン・ウィックのような激しさ!
見どころのひとつは激しいアクションシーンで、冒頭のコンビニでの格闘戦からはじまりラブホテル、犯罪組織の麻薬工場と様々な場所で死闘が繰り広げられる。特に麻薬工場でのアクションは必見。大人数の男たちを相手に戦う近距離でのガンアクションは、まるでキアヌ・リーヴス主演の『ジョン・ウィック』を彷彿とさせるほどの激しい内容となっている。
アクションだけでなく、スタイリッシュな映像にも目を奪われる。韓国の復讐劇といえばジメッとした路地裏や街中の雑踏が舞台となることが多いが(そこが魅力なのだが)、本作では美しく印象的なシーンが数多く登場。さらにセリフが少なく、映像で物語を説明していく演出も特徴的。主人公オクジャを演じるのは『バーニング 劇場版』(2018年)、『ザ・コール』(2020年)のチョン・ジョンソ。復讐のためには手段を選ばない無慈悲な役柄を体当たりで演じている。監督はイ・チュンヒョン。『短編映画『身代金』(2015年)や『ザ・コール』を手がけ、革新的なストーリーテリングと大胆な演出で知られる存在。その独創性は本作でも十分に発揮されている。
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