【時計】ブランド刷新の仕掛け人CEOが語る
〈オリス〉は、イタリアにおける“ピアッツァ=広場”でありたい
グループに属さない独立系時計ブランドならではの自由な時計作りで、存在感を放つ〈オリス〉。スイスの機械式時計の文化継承に多大な貢献を果たしてきた“正統派の後継者”である一方、1980年代に趣味的な高級品に留まっていた機械式時計を身近な存在にした“解放者”としての顔ももつ。そんな同社のリブランディングが話題を集めている。時計作りの軸となるブランドパーパスは、かつての“Go Your Own Way(自分らしく行こう)”から、“Make People Smile(人々を笑顔に)”に。このブランド刷新によって何が変わり、何が変わっていないのか。今回のリブランディングを象徴する“ビッグクラウン2025年モデル”を引っ提げて来日した共同経営責任者のロルフ・ステューダー氏に、新しい〈オリス〉の魅力を語ってもらった。
- TAGS:
- Watches

ロルフ・ステューダー
1972年スイス・ルツェルン生まれ。スイスのフリブール大学とフランスのモンペリエ大学で法律を学び、弁護士資格を取得。スイスのザ・コカ・コーラ カンパニーでのマーケティング業務を経て、2006年に〈オリス〉入社。2016年にCO-CEO(共同経営者)に就任。バックカントリースキーを愛するアクティブ派でもある。
今回のリブランディングを象徴するアイコン・ウォッチとして、ブランドのレガシーを体現する“ビッグクラウン”のリニューアルを発表した〈オリス〉。新たなムーブメントの搭載など話題は盛りだくさんだが、とりわけ注目を集めているのが、新たなブランドカラーとしてこの新作のダイヤルにも採用されたあざやかな配色だ。スイス・ヘルシュタイン本社の壁の色もであるピーチローズと、同じく本社の周辺に広がある豊かな森を表現したグリーン。はたして、これらの配色は新生〈オリス〉の何を体現しているのだろうか。
「〈オリス〉は1903年に創業した独立系の機械式ブランドですが、企業として掲げる価値は122年前から変わっていません。私たちが創業当初から掲げてきたミッションは、人々を笑顔にするための美しい機械式時計を作ること。これは、今も全く変わっていないのです。〈オリス〉は一部の特定の人たちのためのブランドではなく、より多くの人と機械式時計を身につける喜びを分かち合い、笑顔を届ける存在でありたいと願い、時計を作り続けてきました。こうした価値をよりモダンかつフレッシュな形で、より多くの人に伝えたい。その思いを形にしたのが、今回のリブランディングなのです。ピーチローズ、そしてグリーンという新しいブランドカラーを見て、大胆な色使いを採用したと思われるかもしれません。しかし、〈オリス〉が醸し出す温かみや独立性、そして自分らしさを大切にするブランドとしての立ち位置をあらためて表現することを考えた場合、この2色に至ったのは自然な流れだったのです」

120年以上に渡って、スイス・ヘルシュタインに拠点を置く〈オリス〉本社。その壁を彩るテラコッタカラーが、温かみや生命力、新たな発見や喜びを象徴する新しいブランドカラーの一つとして採用された
人々を笑顔にすることをパーパスに掲げ、本格志向の機械式時計を手に取りやすい価格帯で提供し続けている〈オリス〉だが、時代の変化とともにラグジュアリーというものの価値観も大きく変わろうとしている。あらためて〈オリス〉が考える“現代のラグジュアリー”とはどのようなものなのだろうか。
「人生において一番大事なことというのは、大切な人と質の高い時間を過ごしたり、喜びを分かち合ったりするといったごくシンプルなことであり、それこそが現代におけるラグジュアリーなのではないでしょうか。ラグジュアリーという価値観にはエクスクルーシブという排他的な意味合いが強く感じられた時代もありましたが、本来はもっとインクルーシブなもの、つまり何かを人と共有したり、分かち合ったりするものの中から生まれるものではないかと私たちは考えています。歴史的に見ると、フランス革命以前は封建社会というものが当たり前でした。人々がステイタスや特権的なもので分断されていた時代です。そうした価値観は革命によって崩壊しましたが、高級機械式時計の世界においては依然としてそうした旧来の価値観が見え隠れすることがあります。そうした封建的な価値観の象徴が“宮殿”だとすれば、私たち〈オリス〉は、イタリアにおける“ピアッツァ=広場”でありたいと思っています。欧州の各国にそうした広場はありますが、そこには上下関係などはなく、訪れるみんなが平等に誰とでも分け隔てなく話し、コミュニケーションを取りながら楽しい時間を共有できる。そうした空間から生まれるものが私たちの理想であり、実は今年の“ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ”のブースでも“ピアッツァ=広場”をイメージした空間を表現していたんですよ」
〈オリス〉を象徴するロングセラーモデルにおける新作の一つとして発表された、“ビッグクラウンポインターデイト 40mm”。明るさ、元気、幸せ、輝きを表現したウォームイエロー、ターコイズブルー、ライラックの3つのダイヤルカラーが、手元をあざやかに彩る。アイコンであるポインターデイト針の先端はキーカラーと同じカラーリングに。1983年発表の初代モデルに見られたスムーズベゼルを採用し、針もコブラ針からバトン針に変更された。裏蓋は“ビッグクラウンポインターデイト403”と同じくケースバック仕様となり、〈オリス〉のトレードマークであるレッドローターを眺めることも。スイス製のセリタムーブメントを改良した自動巻きムーブメント、キャリバーOris754-1は、約41時間のパワーリザーブを実現。ケース径40㎜、自動巻き、SSケース&ブレス、5気圧防水。各34万1000円(以上オリス/オリスジャパン)そう語るステューダー氏が思い描く〈オリス〉における“理想の時計”を聞くと、真剣に考えながらこんな風に答えてくれた。
「デザイン的なことで言えば、やはり1930年代から受け継いできた“ビッグクラウン”のスタイルが私自身の理想で、具体的なスペックで言うと手巻きの自社ムーブメントのポインターデイトで、パワーリザーブ搭載のケースバック仕様といったところでしょうか。こうした理想を満たす時計はすでに当社に存在していますが、究極の理想としてはやはりGMT搭載でアラーム付きですね。GMTとアラームはどちらも非常に高い技術が必要とされるものですが、アラーム付きのモデルは過去にも発表しているので不可能ではないと信じています。現在はキャリバー400シリーズに注力していますが、もしかしたらこうした理想も近い将来に実現できるかもしれません。こうした私の発言から機械式時計に対し、高い理想を持っているように思われるかもしれません。しかし〈オリス〉としては、手の届く価格帯であることと同様、高い技術力を追い求めることも大切にしていきたいと考えています。その両立が実現できてこそ、より多くの人に機械式時計を持つことの喜びを伝えることができると思っています」
●オリスジャパン
TEL:03-6260-6876
URL:https://www.oris.ch/ja-JP
※記事内で紹介している商品はすべて税込みの価格です。