【フランク・シナトラ】アメリカの光と闇を体現した男の正体とは!?
数々の名曲を世に送り出し、映画俳優としても多くの作品に出演したフランク・シナトラ。20世紀のアメリカを象徴するエンターテイナーの1人であり、その美しい歌声は時代を超えて愛され続けている。そんなレジェンドを、モーリーはどう見ている!?
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- アメリカ偉人伝! vol.33
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1977年に行われたTVショーで歌うシナトラ。すでに60代を迎えていたが、世界各地を飛び回り、大規模なショーや定期公演を行なっていた。’74年には日本ツアーも実施していて、日本武道館などで3公演を開催している
およそ半世紀にわたってアメリカ文化を代表し、その光と闇を一身に体現したのがシナトラです。彼が最も輝いたのは第二次大戦の直後。たくさんの若者が戦争で亡くなり、残された家族に訃報が届いた。兵士たちが帰還すると瞬く間にカップルができ、戦争で奪われた幸せを取り返すように家庭を作った。そこで生まれたのがベビーブーマーで、空前の経済成長へと繋がる。そんな時代にシナトラは絶頂期を迎えます。ロマンスを後押しする歌と、ハリウッド映画への進出で、時代を象徴する存在になりました。
その少し前、'40年頃に最初の熱狂的な人気を得ます。当時の映像や写真を見る限り、ビートルズよりすごいかも。ファンの子たちがシナトラの写真を切り抜いてバッヂにしたり、ボビー・ソックスという短い靴下をお揃いで履いたり。今の推し活と同じ。全米の学校にファンクラブができ、雪の降る中で何時間も出待ちをした。婆ちゃんたち、すごいです。
彼はよくマフィアとの繋がりをいわれますが、それには理由があります。彼はニュージャージーの貧しいエリアで生まれ、板で囲っただけの掘っ立て小屋で育ちました。両親はイタリア系の移民1世。当時、様々な差別や嫌がらせを受けていたイタリア・コミュニティの中で、自警団的なものとして、また便利屋や仕切り役として、マフィアの親分たちが台頭します。マフィアは禁酒法時代に巨大化し、歓楽街を手広く仕切っていた。その中でチャンスを掴んだのがシナトラです。
実はこの頃、ふたつの技術革新がありました。ひとつはマイク。電気的な拡声器により、シナトラの柔らかい歌い方が可能になった。さらにAMラジオの登場です。恐慌の余韻が残る中、まだダンスホールに行く金がない若者はラジオを聴く。シナトラはマイクを使った新しい歌い方で、情緒やニュアンスのある歌声を届けた。まさに時代の最先端だったんです。
彼はスターになり、ゴシップ誌に追われるようになります。絶世の美女のエヴァ・ガードナーとの不倫がネタになると、開き直って旅行の様子などを記者に書かせてあげる。でも喧嘩っ早いから、気に入らない記者は殴る。彼はハリウッドの貴族で、やりたい放題です。さらには、別れた女性を連想させる思わせぶりな歌を歌った。期待に応えて、割り切っていたんですね。よくプライベートを切り売りするユーチューバーがいますが、その元祖といえるかも。普通ならどこかでヒューズが飛ぶんだけど、生命力が強い。
また彼は、'50年代後半にサミー・デイヴィスJr.たちとラット・パックというグループを組みました。天才少年だったサミーにチャンスを与えたのがシナトラ。自身が差別されたイタリア系ということもあり、黒人への差別は理不尽と考え、彼らの地位向上に大きく貢献しました。クインシー・ジョーンズやマイケル・ジャクソンもシナトラ抜きに語れません。
それから彼は、アメリカの反戦運動をすごく嫌いました。いくら政治的に反対でも、戦争する以上は勝たねばならず、兵士の足を引っ張るのは許せないと。つまりヒッピーがダメだった。それもあって民主党員だったシナトラは共和党に転向します。有名になって保守化したと軽く考えられがちで、実際に冷遇された時期もあったけど、そうじゃないんです。
多くの人にとってシナトラは、名前くらいは聞いたことがある程度かも。でも彼は数多のスターが脱落する中で、半世紀を走り抜けた。芯の太さが圧倒的で、まさに「マイ・ウェイ」です。また彼は当時の最先端であり、人と違うことをやりました。若い世代の人は、ヒップホップがシナトラになる日を想像してみてほしい。クリーピーナッツが老人の音楽とされる日が来るとしたら。つまり最新の音楽に熱狂する自分と、ひいおばあさんを重ね合わせてほしい。この時系列を感じ取れたら、すごく面白いはずです。
幅広い交友関係!
1984年に発売されたシナトラのアルバム『L.A. Is My Lady』のレコーディングに参加したマイケル・ジャクソン。プロデュースはクインシー・ジョーンズが担当
’60年に開催された民主党全国大会でのケネディとの一幕。シナトラはアメリカ国家を歌い、大統領候補のケネディへの支援を募った。後に袂を分かつが、ケネディはシナトラを「最高の友人だ」と称賛した
シナトラ一家が総出演した’60年公開の映画『オーシャンと十一人の仲間』。後に映画『オーシャンズ11』としてリメイクされた
1950年代後半に結成したラット・パックには、サミー・デイヴィスJr.のほか、ディーン・マーティン、ピーター・ローフォード、ジョーイ・ビショップなどがいた。ラスベガスのナイトクラブでアドリブのショーを行い、映画も多数製作した。
今でもずっと愛され続ける存在!?
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教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家など幅広く活動中。最新著作『日本、ヤバい。「いいね」と「コスパ」を捨てる新しい生き方のススメ』(文藝春秋)が発売中。
6.25/100
清濁併せ呑むタフじゃないから無理!
「マフィアで半分、暴力で半分、自殺未遂で半分、大衆に押し潰されそうなので半分。それで16分の1です。彼に師事したクインシーの立場なら、なってみたいな」
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雑誌『Safari』3月号 P170〜171掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.)
photo by AFLO