【クエンティン・タランティーノ】映画ファンの心を掴んだ男の本当のすごさとは!?
カンヌ国際映画祭のパルム・ドールや、アカデミー賞の脚本賞を受賞した『パルプ・フィクション』をはじめ、歴史に残る作品を送り出してきた映画監督クエンティン・タランティーノ。そのすごみや面白さを、モーリーはどう見ている!?
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- アメリカ偉人伝! vol.14
2004年に開催された第57回カンヌ国際映画祭で、『キル・ビル Vol.2』について記者会見するタランティーノ。この年の審査委員長も務めており、パルム・ドールはマイケル・ムーア監督の『華氏911』に贈られている
タランティーノという監督は、映画の転換点に立ち、自ら変えていった人。とても推進力のあるクリエイターだと思います。非常に緻密かつ微視的で、細かいところまで徹底してリサーチしている。映画史に残る名場面や名セリフを観る人が共有していることを前提に、それを踏まえたメタ的な作りになっています。音楽でいうサンプリング。製作過程への強いこだわりと、ディテールへの神経質なまでの気配りが斬新でした。
直近の作品『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)を観るとわかりますが、オマージュやパロディにあそこまでこだわると、映画がメタ化します。ネット上によくある“まとめサイト”みたいなものって、ほとんどのリソースは外部リンクですよね。まさにあれ。作品の構造の中に構造があることを透けて見せるあたり、HTML世代っぽさを感じます。映画の歴史も1世紀が経ち、作品が相互作用しながら成熟していった過程とか、撮影技術の進化だとか、そうした映像財産をオマージュし、展開したメタ的な視点。つまり彼は映像をリソースとして見ているんです。
彼は『ワンス~』で’60年代をオマージュしましたが、当時の人々の時代感覚を描くのが非常に巧み。強く印象に残ったのが、いわゆるプレイボーイ・マンションにスターや映画関係者が集まって、パーティをしているシーンです。バニーガール、バンドの生演奏、プールサイドのダンス。その超リアルなジオラマを真上から見せて、観客が「こいつらバカだなあ」と思うように撮影しています。
そして、そのシーンの白人たちの肌が真っ白じゃない。微妙な濃淡があるのだけど、みんな白人を自称し、有色人種と区別している。それは勝手な思い込みだとほのめかしているように僕は感じました。そうした差別や醜悪さを含めて当時を復元している。それはある種のハイパーリアリズムなのだけど、「本当はこうじゃないの?」という問いかけになっていて、そこにタランティーノの意図があります。つまりシーンの中で、演技やセット、それを撮るタランティーノの視点、当時を知る人への問いかけが重層的になっている。この成熟度はすごいです。
彼の作品には人種差別や性差別的な言動がたくさん出てきます。スパイク・リーなどは以前から批判しているし、今後もそういう議論は出ると思います。その状況に対してタランティーノは沈黙し、議論に加わることを避けている。野暮だし、意味がないと思っているのでしょう。彼はそうした議論の方向性を、映像の撮り方で提示します。今の映画業界にある規制、忖度、圧力、配慮に対して、「うまくいっていた頃のハリウッドだって、お金を配っていただけだよね」というジオラマを見せた。倫理的な問題に向き合わず、衰退していくハリウッド。だから彼の作品は、今後の映画はどうすべきかという問いかけも含みます。これから作品を観る方は、そうした裏のメッセージを見抜いてほしい。それがタランティーノの醍醐味だと思います。
でも、僕は日本での『キル・ビル』ブームがすごく嫌だった。タランティーノの仕掛けたトリビアを全部拾って、映画ファンが狂喜する。そういうファンダムが嫌いなんです。彼自身にもそういう面があったけど、その後は成熟して、すべてのピースが意味をもちはじめた。自身の内にあるファンダムを卒業して、すべてを血肉にしたんじゃないかな。その成長を感じてほしいですね。彼はじっくり緻密に映画を撮るので、作品数は多くない。でも、信じてお金を出し続ける人がいた。そういう映画の作り方は、最近はなかなかできません。次作で引退するそうですが、いろいろな圧力を含め、彼のやり方が難しくなっているのかな。ハリウッド崩壊前の最後の力で頑張っているのが、タランティーノかもしれません。
名シーンを生み出してきた!
監督・脚本のデビュー作で、カルト的なヒットとなった『レザボア・ドッグス』(1992)。カンヌの特別招待作品にも選ばれた
数々の賞を受賞し、映画史に輝く作品となった『パルプ・フィクション』(1994)。主演のジョン・トラボルタが最高の演技を見せ、ユマ・サーマンとのダンスシーンは非常に印象的だった
華やかな場所が似合う!?
2019年、第72回カンヌ国際映画祭での『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のプレミア。レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピットといった出演者とともに
『キル・ビル』、『ジャッキー・ブラウン』、『パルプ・フィクション』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の順に視聴するのが、タランティーノの成長を知るうえでのモーリーのおすすめ。次回作での引退を示唆している。
カンヌで明かした次作が最後の監督作品になる!?
今年のカンヌ国際映画祭に名誉ゲストとして招待され、今秋から撮影予定の次回作について、映画評論家が主人公になることを明かした。なお、すでに本作での引退を宣言している。写真は、映画史に関する著書『Cinema Speculation(原題)』の出版に集まったファンたち。
教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。日米双方の教育を受け、東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家、DJとして幅広く活動中。最近はモーション・グラフィックスなどの映像加工にハマり中。
45/100
尊敬しているけれどかなり大変そう……
作品の完成度にはすごく憧れますが、それを実現するために彼が飲まなきゃならなかったであろう“毒”は僕の肝臓ではとても処理できそうにありません! 無理!
前回の“アメリカ偉人伝”は
◆【カート・コバーン】カリスマの音楽はどのようにして生まれてきた!?
雑誌『Safari』8月号 P194~195掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.) photo by AFLO