Safari Online

SEARCH

CULTURE カルチャー

2023.07.24


【クエンティン・タランティーノ】映画ファンの心を掴んだ男の本当のすごさとは!?

カンヌ国際映画祭のパルム・ドールや、アカデミー賞の脚本賞を受賞した『パルプ・フィクション』をはじめ、歴史に残る作品を送り出してきた映画監督クエンティン・タランティーノ。そのすごみや面白さを、モーリーはどう見ている!?

【クエンティン・タランティーノ】映画ファンの心を掴んだ男の本当のすごさとは!?2004年に開催された第57回カンヌ国際映画祭で、『キル・ビル Vol.2』について記者会見するタランティーノ。この年の審査委員長も務めており、パルム・ドールはマイケル・ムーア監督の『華氏911』に贈られている

タランティーノという監督は、映画の転換点に立ち、自ら変えていった人。とても推進力のあるクリエイターだと思います。非常に緻密かつ微視的で、細かいところまで徹底してリサーチしている。映画史に残る名場面や名セリフを観る人が共有していることを前提に、それを踏まえたメタ的な作りになっています。音楽でいうサンプリング。製作過程への強いこだわりと、ディテールへの神経質なまでの気配りが斬新でした。

直近の作品『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)を観るとわかりますが、オマージュやパロディにあそこまでこだわると、映画がメタ化します。ネット上によくある“まとめサイト”みたいなものって、ほとんどのリソースは外部リンクですよね。まさにあれ。作品の構造の中に構造があることを透けて見せるあたり、HTML世代っぽさを感じます。映画の歴史も1世紀が経ち、作品が相互作用しながら成熟していった過程とか、撮影技術の進化だとか、そうした映像財産をオマージュし、展開したメタ的な視点。つまり彼は映像をリソースとして見ているんです。

彼は『ワンス~』で’60年代をオマージュしましたが、当時の人々の時代感覚を描くのが非常に巧み。強く印象に残ったのが、いわゆるプレイボーイ・マンションにスターや映画関係者が集まって、パーティをしているシーンです。バニーガール、バンドの生演奏、プールサイドのダンス。その超リアルなジオラマを真上から見せて、観客が「こいつらバカだなあ」と思うように撮影しています。

そして、そのシーンの白人たちの肌が真っ白じゃない。微妙な濃淡があるのだけど、みんな白人を自称し、有色人種と区別している。それは勝手な思い込みだとほのめかしているように僕は感じました。そうした差別や醜悪さを含めて当時を復元している。それはある種のハイパーリアリズムなのだけど、「本当はこうじゃないの?」という問いかけになっていて、そこにタランティーノの意図があります。つまりシーンの中で、演技やセット、それを撮るタランティーノの視点、当時を知る人への問いかけが重層的になっている。この成熟度はすごいです。

彼の作品には人種差別や性差別的な言動がたくさん出てきます。スパイク・リーなどは以前から批判しているし、今後もそういう議論は出ると思います。その状況に対してタランティーノは沈黙し、議論に加わることを避けている。野暮だし、意味がないと思っているのでしょう。彼はそうした議論の方向性を、映像の撮り方で提示します。今の映画業界にある規制、忖度、圧力、配慮に対して、「うまくいっていた頃のハリウッドだって、お金を配っていただけだよね」というジオラマを見せた。倫理的な問題に向き合わず、衰退していくハリウッド。だから彼の作品は、今後の映画はどうすべきかという問いかけも含みます。これから作品を観る方は、そうした裏のメッセージを見抜いてほしい。それがタランティーノの醍醐味だと思います。

でも、僕は日本での『キル・ビル』ブームがすごく嫌だった。タランティーノの仕掛けたトリビアを全部拾って、映画ファンが狂喜する。そういうファンダムが嫌いなんです。彼自身にもそういう面があったけど、その後は成熟して、すべてのピースが意味をもちはじめた。自身の内にあるファンダムを卒業して、すべてを血肉にしたんじゃないかな。その成長を感じてほしいですね。彼はじっくり緻密に映画を撮るので、作品数は多くない。でも、信じてお金を出し続ける人がいた。そういう映画の作り方は、最近はなかなかできません。次作で引退するそうですが、いろいろな圧力を含め、彼のやり方が難しくなっているのかな。ハリウッド崩壊前の最後の力で頑張っているのが、タランティーノかもしれません。

映画史に残る数々の
名シーンを生み出してきた!


【クエンティン・タランティーノ】映画ファンの心を掴んだ男の本当のすごさとは!?監督・脚本のデビュー作で、カルト的なヒットとなった『レザボア・ドッグス』(1992)。カンヌの特別招待作品にも選ばれた


【クエンティン・タランティーノ】映画ファンの心を掴んだ男の本当のすごさとは!?数々の賞を受賞し、映画史に輝く作品となった『パルプ・フィクション』(1994)。主演のジョン・トラボルタが最高の演技を見せ、ユマ・サーマンとのダンスシーンは非常に印象的だった

賞レースの常連で、
華やかな場所が似合う!?


【クエンティン・タランティーノ】映画ファンの心を掴んだ男の本当のすごさとは!?2019年、第72回カンヌ国際映画祭での『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のプレミア。レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピットといった出演者とともに

 クエンティン・タランティーノの歴史 


【クエンティン・タランティーノ】映画ファンの心を掴んだ男の本当のすごさとは!?『キル・ビル』、『ジャッキー・ブラウン』、『パルプ・フィクション』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の順に視聴するのが、タランティーノの成長を知るうえでのモーリーのおすすめ。次回作での引退を示唆している。

気になる話題!
カンヌで明かした次作が最後の監督作品になる!?

【クエンティン・タランティーノ】映画ファンの心を掴んだ男の本当のすごさとは!?今年のカンヌ国際映画祭に名誉ゲストとして招待され、今秋から撮影予定の次回作について、映画評論家が主人公になることを明かした。なお、すでに本作での引退を宣言している。写真は、映画史に関する著書『Cinema Speculation(原題)』の出版に集まったファンたち。

【スティーブ・ジョブズ】カリスマの“魔法”は世界をどう変えたのか!?教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。日米双方の教育を受け、東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家、DJとして幅広く活動中。最近はモーション・グラフィックスなどの映像加工にハマり中。

この偉人になりたい度数
45/100
尊敬しているけれどかなり大変そう……
作品の完成度にはすごく憧れますが、それを実現するために彼が飲まなきゃならなかったであろう“毒”は僕の肝臓ではとても処理できそうにありません! 無理!

前回の“アメリカ偉人伝”は
【カート・コバーン】カリスマの音楽はどのようにして生まれてきた!?

 
Information

雑誌『Safari』8月号 P194~195掲載

“アメリカ偉人伝!”の記事をもっと読みたい人はコチラ!

●『Safari Online』のTikTokがスタート!
こちらからアクセスしてみて!

文=野中邦彦
text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.) photo by AFLO
俳優・三浦翔平が着こなす〈エクスタイル〉の“アメスポ”スタイル!こだわりのスウェットでワンランク上の休日姿に!
SPONSORED
2025.10.29

俳優・三浦翔平が着こなす〈エクスタイル〉の“アメスポ”スタイル!
こだわりのスウェットでワンランク上の休日姿に!

ファッションモデル顔負けの長身と抜群のスタイルで、見るものを魅了する俳優・三浦翔平。幼い頃は水泳とバスケに打ち込み、現在はオフにサーフィンやゴルフ、ジムなどでアクティブに体を動かすスポーツマンとしての側面も。そんな三浦翔平に〈エクスタイル…

TAGS:   Fashion
年末は〈エフピーエム ミラノ〉で特別な旅を。機能美と遊び心が光る上質トロリー。
SPONSORED
2025.10.31

年末は〈エフピーエム ミラノ〉で特別な旅を。
機能美と遊び心が光る上質トロリー。

高品質で優れたデザインのトロリーは旅そのものの満足感を上げてくれる大切な相棒。もちろん見た目だけじゃなく、使い勝手などの機能面も優秀なものを選びたいところ。そんな見た目と機能を兼ね備えたトロリーといえば〈エフピーエム ミラノ〉の“バンクコ…

TAGS:   Urban Safari Fashion
〈ヘルノ〉の新作なら大人にぴったりの品格!とっておきのアウターで特別な週末に!
SPONSORED
2025.10.24

〈ヘルノ〉の新作なら大人にぴったりの品格!
とっておきのアウターで特別な週末に!

まわりと差がつく週末スタイルを作るには、やっぱりアウター選びが最重要。素材とデザインにこだわり抜いた、とっておきの1着を見つけたいところ。そこで間違いないのが〈ヘルノ〉の新作。イタリア発らしい洒脱なエッセンスと、大人にふさわしい品格を感じ…

TAGS:   Fashion
渡邊圭祐が着こなす〈ロロ・ピアーナ〉のホリデーコレクション!レイヤードで魅せる冬の上質カジュアル!
SPONSORED
2025.10.24

渡邊圭祐が着こなす〈ロロ・ピアーナ〉のホリデーコレクション!
レイヤードで魅せる冬の上質カジュアル!

上質な素材使いや洗練されたデザインでお馴染みの、イタリアのラグジュアリーメゾン〈ロロ・ピアーナ〉。今シーズンの“ホリデーコレクション”は、ラグジュアリーな素材を贅沢に用いつつ、ハイテク素材を取り入れたレイヤードスタイルが秀逸。上質なカジュ…

TAGS:   Fashion
〈マッカージュ〉なら違いが出せる1着が見つかる!贅沢で男らしい大人の週末アウター
SPONSORED
2025.10.24

〈マッカージュ〉なら違いが出せる1着が見つかる!
贅沢で男らしい大人の週末アウター

なにげない週末カジュアルだからこそ、男らしさと上品さを兼ね備えたアウターで大人の魅力を引き出したいところ。であれば、ファッション性と機能性に優れた贅沢アウターを得意とする〈マッカージュ〉に注目。落ち着いたクラシック顔も、若々しいスポーティ…

TAGS:   Fashion
色違いで欲しくなる〈ファルコネーリ〉のアイコン!大人の週末コーデは上質のカシミヤで!
SPONSORED
2025.10.24

色違いで欲しくなる〈ファルコネーリ〉のアイコン!
大人の週末コーデは上質のカシミヤで!

最高級のカシミヤやウールを使ったアイテムを展開するイタリアンブランド〈ファルコネーリ〉。上質感のあるシンプルなデザインが特徴で、軽やかな着心地と柔らかな風合いは快適そのもの。週末のカジュアルなスタイルにもマッチするので、シーズンを問わず長…

TAGS:   Fashion
【ABC-MART GRAND STAGE限定】シーンを選ばず着たい〈ニューバランス〉のアクティブウエア!大人に必要なのはお洒落な快適服!
SPONSORED
2025.10.24

【ABC-MART GRAND STAGE限定】シーンを選ばず着たい〈ニューバランス〉のアクティブウエア!
大人に必要なのはお洒落な快適服!

ライフ・ワーク・バランスの重要性が叫ばれる昨今、充実した日常を送るためにはどんなシーンでもお洒落で快適にいられるウエアが必要。ならば、注目したいのが〈ニューバランス〉のウエアだ。仕事も遊びも全力で楽しみ、毎日をとことんエンジョイする。そん…

TAGS:   Fashion
一段とかっこよさを増した〈ジースター〉!ズバ抜けたデニム感がたまらない!
SPONSORED
2025.10.15

一段とかっこよさを増した〈ジースター〉!
ズバ抜けたデニム感がたまらない!

数多くのデニムブランドが存在する世の中で、革新的なスタイルを提案してきた〈ジースター〉。1989年にオランダ・アムステルダムで誕生して以来、解剖学をベースにした独自のアプローチと、ミリタリーやワークを現代的に再解釈したデザインで、多くのデ…

TAGS:   Fashion Denim

NEWS ニュース

More

loading

ページトップへ