【カート・コバーン】カリスマの音楽はどのようにして生まれてきた!?
’80年代末から’90年代の西海岸で、爆発的な輝きを見せた伝説的バンド、ニルヴァーナ。その中心人物であったカート・コバーンは、わずか27歳で帰らぬ人となった。今なお多くのフォロワーを生むカリスマの人生を、モーリーはどう見ている!?
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- アメリカ偉人伝! vol.13
1993年12月、MTVのライブ作品『ライブ・アンド・ラウド』をシアトルで収録中のカート。その様子はバンドの公式ユーチューブチャンネルでも公開され、衝撃的な死の数カ月前とは思えない力強い演奏を見せている
ニルヴァーナが出てきた頃、僕もちょうどアメリカにいました。東海岸と西海岸で事情は違いますが、似たような部分も多く、すごく親近感があります。カートを考える際の大前提は、豊かなアメリカのサバーブ(郊外)。保守的な白人中産階級がいて、今とは違って経済的に安定していました。ただ、そこに入っていけずに脱落するカートのような子たちもいて、無力感を抱いていた。彼は貧困の中にいたわけじゃありません。この背景を理解しないと、曲のメッセージもわからなくなると思います。
カートが抱いた無力感とはなにか。彼が育ったシアトルは太平洋側の流通拠点で、経済的には非常に良好でした。豊かだけど退屈で、みんなが同じ方向を向き、それに馴染めず居場所がない。現代の若者が共感する資本主義への不満とは全く違います。そういう人は僕の大学にもいて、彼らはサム・ライミの映画『死霊のはらわた』が大好きでした。インモラルで意味のないスプラッター。それで笑って浄化されるけど、バイトや学校でまた重苦しさを感じる。社会はまるで巨大な保守カルトのようで、そこに参加できないことに悩む。その繰り返しです。
そうした中、西海岸のパンクが出てきます。カートは好きなバンドをメモに書き残しましたが、そのひとつがノイズ系のフリッパー。とにかく暗く、IQが低くて反抗的。そうした音楽に共鳴した層が、サバーブの白人青年です。アンダーグラウンドで流通し、カセットのダビングで広がりました。その頃、カートは学校をやめて彼女と暮らしはじめる。どういう場所に住んだかというと、サバーブのさらに外にある“エクサーブ”といわれるエリア。ボロボロの空き家がポツンとあったりして、これが激安で借りられる。同じような境遇の白人の若者がそこに住み、汚く自由に暮らしたんです。
カートはノートに膨大なメモを残しました。でもまともに勉強していないから、スペルミスがすごく多い。皮肉なことに、ヘロインもシリンジ(注射器)も間違えています。基礎教養はないけれど、思いつきや陰謀論でなにを語っても、誰にも反論されません。だから“世の中が俺を殺そうとする、だったら死んでやる”なんて詞を書けた。現代ならSNSで“やめなよ”とかいわれて、毒気も抜けるよね。屈折したエネルギーを作品に昇華するには、膨大な無駄な時間が必要です。一日中テレビを見て、コマーシャルなものに疎外感を受ける。その怒りを勢いで言葉にする。有り余ったエネルギーがポエムと演奏、そしてドラッグに費やされました。彼らの音楽は、完全に孤立したあの環境でしか成立しなかったんです。
こうした若者のコミュニティはアメリカ中にあり、そこから次々にバンドが出てきた。手渡しでレコードが流通し、深夜のカレッジラジオがかける。ある種の経済圏がありました。そこに出てきたのがニルヴァーナ。なにかが響いたのでしょうね。建設的な話はいっさいせず、俺の痛みを聴けと。カートの原型はそこにあり、その共感が彼を押し上げた。それがヒットし、商業化していき、彼のピークと急激なメンタルの崩壊もはじまりました。
彼がかわいそうなのは、人の評価を気にして、すべて真に受けるんです。割り切れない。彼が傷ついて不安定になるにつれ、それが発する怪しい光をレコード会社も待ち構えているわけです。あと、昔の映像を見ていて気づいたのは、カートのそばにそっくりな見た目の付き人がいるんですね。これは日本でもあって、タレントに似た監視役の付き人をあてがう。仲間だと思わせてコントロールするんです。彼のように純粋な人は気づけないでしょうね。でも結局のところ、彼は自分を見つけて、仲間たちと最後まで貫いた。そこは本望じゃないかな。世間に強烈な一撃を食らわせて、討死した。そういう人だったと思いますね。
1993年にLAのギブソン・アンフィシアター(旧称はユニバーサル・アンフィシアター)で行われた、MTV ビデオ・ミュージック・アワードに出演するカートと、妻のコートニー・ラブ、娘のフランシス
レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーとカート。’91年にはともにツアーを回ったこともある
グランジの先駆者であり、今なお大きな影響をもつニルヴァーナ。活動期間7年で残したアルバムはわずか3枚だが、全世界で7500万枚以上のレコードを販売した。2014年に、資格取得1年めでロックの殿堂入りを果たした
ガンズ・アンド・ローゼズとニルヴァーナの不仲は有名だが、カートは死の直前にガンズのベーシストのダフとたまたま飛行機に乗り合わせ、境遇を語り合って打ち解けた。カートの死を契機に、両メンバーは完全に和解している。
盟友デイヴの率いるフー・ファイターズ来日!
ニルヴァーナのドラムで、カートの盟友だったデイヴ・グロール率いるフー・ファイターズが、今年のフジロックのヘッドライナーに決定。昨年ドラマーのテイラー・ホーキンスが亡くなり、復活のステージとなる。
教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。日米双方の教育を受け、東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家、DJとして幅広く活動中。膨大な知識と縦横無尽な思考に加え、ユニークなキャラクターでも人気。
?(判定不能)/100
あまりにも身近すぎてもはや判定できない!
「パンク、膨大なメモ、そして胃潰瘍で入院。嫌な部分だけ僕と似ています。トラウマを思い出しそうなくらい身近。もう1人の自分という感じなので判定不能です!」
前回の“アメリカ偉人伝”は
◆【マイケル・ジョーダン】バスケを愛しバスケに愛された男の時代性とは!?
雑誌『Safari』7月号 P186~187掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.)
photo by AFLO