【ジェームス・ブラウン】音楽史に輝くファンクの帝王の光と陰とは!?
画期的なファンク・サウンドを生み出し、1970年代以降のポップス、ヒップホップ、ダンスミュージックなどに多大な影響を与えたジェームス・ブラウン。陰の部分も語られつつ、今なおリスペクトを集める“ゴッドファーザー・オブ・ソウル”を、モーリーはどう見ている!?
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- アメリカ偉人伝! vol.23
2006年6月のパリ公演で撮影された写真。この年、ジェームス・ブラウンは世界ツアーを行うなど健在ぶりをアピールしたが、同年12月に歯科医を訪れ、肺炎の症状が判明。その翌日、入院先の病院で帰らぬ人となった
彼の場合、まず無数の性暴力疑惑など、犯罪的な側面を避けて通ることはできません。手放しで美化できず、特に晩年の崩壊ぶりは隠せません。ただ、それでもやはりジェームス・ブラウンが起こした奇跡は確かにある。彼が自分の表現を完成させたちょうどその頃、エルヴィスの時代が終わり、ビートルズやローリング・ストーンズの時代が来ます。そこで彼はショーやダンスのすごさを見せつけた。すべてにおいて大人と子供ほど完成度が違う。それまで黒人向けラジオでしか聴けなかったものが、白人社会の中でトップに上りつめました。
'60年代中期には激しい公民権運動が起こります。ジェームスもキング牧師の集会でショーをやり、ものすごく盛り上がった。ごく短い期間ですが、ある意味で公民権運動を体現する超人的な成功者になりました。そこまではよかった。その後の彼は、黒人に厳しい政策を行った保守派のニクソンを大応援します。共和党は南部州で勝つために、黒人への社会保障や公助を廃止し、共助と自助をもとにした政策を打ち出した。表面上は“黒人も頑張れ、応援しているよ”と聞こえるわけです。ジェームスはそれを額面どおりに解釈した。でもアメリカは構造上、成り上がりを許さない国。貧困は貧困のままです。ジェームスの言動に黒人は失望し、ショーでは抗議デモが起きました。
その一方、音楽的には最高峰を極めました。サウンドが化けた。彼は非常に独裁的で、バンドメンバーに厳しく、気分次第でギャラを払わないこともありました。あるとき、ついに我慢の限界が来て、ほぼ全員が辞めてしまった。そこで急遽、シンシナティにいた青年たちを飛行機に乗せて連れてきます。それがコリンズ兄弟たちですね。最初の数回のライブはグダグダ。だってファンの子たちなんだから。ところが才能はちゃんとあって、もとの曲を若者向けにアレンジした。次第にショーも引き締まり、あの「セックス・マシーン」のサウンドが生まれる。これが後の音楽に大きな影響を与えました。
ファンクの起源論にはいろいろな見解があり、そのひとつが'60年代にジェームスが出した「コールド・スウェット」という曲。サックスのフレーズが印象的ですが、あれはマイルス・デイヴィスの「ソー・ホワット」へのオマージュだそうです。簡単にいえば、独特な浮遊感のあるコード。それを「セックス・マシーン」ではギターでやっています。ジェームスはジャズがすごく好きで、ショーのスタイルやダンスもデューク・エリントンなどのビッグバンドから拝借したそうです。彼はR&Bにジャズ的な展開やビッグバンドの面白みを持ち込みました。これはかなり冒険的。譜面は読めなかったので、バンドと一緒に作り上げたといえます。
数々の暴力や教養のなさゆえの政治的迷走もありつつ、それに目をつぶりたくなるほどジェームスのサウンドはすごい。黒人の音楽が非常に厳しく統制されていた社会で、白人に対して強引に「俺を聴け」と魅了した。ローリング・ストーンズなどを聴いていた白人のロックファンにも、やっぱり本物はすごいと思わせました。やがて親のレコードを聴いて育った子たちが若者になり、ヒップホップが生まれます。ジェームスの曲が盛んにサンプリングされ、社会性・政治性の強いラップが乗り、ブラックパワーとはなにかが思想として受け継がれていきました。
ただし、貧困を由来とする黒人コミュニティの男尊女卑も継承されてしまった。これに向き合えないのはヒップホップの大きな課題なのですが、最近になって声を上げる女性ラッパーたちが増えています。ジェームスが開けた扉を、彼女たちが別の形で蹴破るかも。彼自身がバリバリの男尊女卑で、よく女性に暴力を振るっていました。でもショーは本当に素晴らしい。この矛盾に耐えながら、是非彼の曲を聴いてほしいところです。
影響を与えた!
2003年、黒人向けケーブルテレビ局のアワードで、飛び入り参加したマイケル・ジャクソンと20年ぶりに共演。マイケルは「この人物ほど僕に大きな影響を与えた人はいない」とスピーチした
ローリング・ストーンズのミック・ジャガーはドキュメンタリー作品の中で、キャリア初期にジェームス・ブラウンのステージアクトを徹底的に研究したと語っている。1973年撮影
アーティスト!
’93年のベルギーでのショー。一緒に写っているのは、46年間にわたりバンドの名MCを務めた“マントマン”ことダニー・レイ
1970年に大幅に入れ替わった後のバンドはThe J.B.’s名義で活動し、オリジナルアルバムの制作も行った。初期メンバーにはキャットフィッシュとブーツィーのコリンズ兄弟、ドラムのジョン・スタークスなどがおり、'76年まで活動した。
彼の足跡を振り返るドキュメンタリーが公開!
ジェームス・ブラウンが与えた音楽的影響を考察する公式ドキュメンタリー『James Brown: Say it Loud』が、今年2月に公開。写真は娘たちが登場したプレミアでのもの。プロデューサーの1人にミック・ジャガーの名も!
教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。日米双方の教育を受け、東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家、DJとして各方面で幅広く活動している。最近はジャズコードを中心にギターの腕前をアップデイト中。
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表裏一体の苦しみは味わいたくない!
「彼の音楽って、貧困に喘いだ子供時代の苦しみと表裏一体なんですよね。それが滲み出てくるから、やっぱり遠くから見る感じがいい。あの辛い思いはしたくないかな」
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雑誌『Safari』5月号 P210〜211掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.)
photo by AFLO