【マリリン・モンロー】世界を魅了したセックスシンボルの光と影とは!?
20世紀のアメリカを代表する女優の1人で、“セックスシンボル”という言葉が生まれるきっかけともなったマリリン・モンロー。世界中の人々を魅了した美貌の裏側にあるストーリーを、モーリー流の視点から読み解いていく!
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- アメリカ偉人伝! vol.7
1952年にハリウッドで撮影されたマリリン・モンロー。自宅であるアパートメントの窓際でポーズをとっており、リラックスしたような表情にドキッとさせられる。現代のグラビア写真と比べても遜色ないクオリティだ
モンローが亡くなったのは、ちょうど僕が生まれる直前。すでに過去の存在でしたが、やはり文化に残した影響は衝撃的なものでした。彼女は家庭に恵まれず、里親を転々とする中で性的虐待もあったようです。アメリカは好景気に沸く年代。彼女のセクシーさの背景にあったものはなにか。そしてなぜ人々は熱狂したのか。それらが立体的に浮かび上がってくると、現在に繋がる多くの物事が見えてきそうです。
当時のハリウッドは競争相手のいない巨大資本で、その力は絶大でした。枕営業が当たり前で、その中でモンローが勝ち残っていく。ただ、映画の影響力が強すぎたために、同じような役しかもらえなくなります。セックスシンボルとしてのブロンド信仰を体現したわけですね。彼女は演技を学んだり、会社を作ったりして、自分自身のキャリアの主導権を握ろうとしました。でも、時代が許さなかった。
スカートを押さえる有名な写真がありますが、2度めの結婚相手だったジョー・ディマジオがそれを見て、ふしだらだとモンローを殴り、後に離婚します。悲しいですよね。商業によってセクシーさを押し出され、その虚像を夫にすら理解されず、嫉妬して殴られる。誰も実像として接してくれなかった。人間の根源的なミーハーぶりが表れています。
ハリウッドのアイコンともなれば、自分でもわからないほどの大きな商業的な力、そして群衆の期待感に縛られます。たいがいは人格が壊れていく。現代の芸能界においても、役割を演じる中で苦悩し、追い込まれるケースは少なくありません。アイドルなどがファンサービスのためだけに生きる。そのテンプレがモンローです。
彼女を幸せと感じるか、その生き方に美学を感じるかどうか。最近は“推し活”などといいますが、消費者が明らかに優位な立場で、無責任に推せる。当人がどこまで期待に応えなければならないかは、あまり考えられていません。パッとしない人生を送るくらいなら、一瞬の輝きのために頑張るという人もいるでしょう。ただ、ほかに選択肢があることを知るのも大切です。また、推し活を馬鹿にするのではなく、自分の姿でもあるという視点が欲しいですね。人間はなぜミーハーになり、我を忘れてしまうのか。そのメカニズムが見事に切り取られているのが、モンローの物語です。
もうひとつ興味深いのは、モンローがケネディ大統領と、弟で司法長官のロバートと、同時進行で恋愛関係にあったこと。性道徳のタブーを大統領と司法長官が犯し、モンローの商業的なオーラにもなびいた。彼らもミーハーなんです。そしてそのアメリカは、非常にホットな核の時代。まだ地上でどんどん核実験をやっていました。
あるとき、モンローとお泊まりした直後に、ロバートが核実験の視察に行くということがあった。モンローにその話をしてしまったので、政治の素人である彼女は友達にペラペラ喋ってしまいました。誰も管理しないまま重要機密が漏れていたわけです。また、モンローは死の直前に大統領に電話し、ロバートとの関係を相談したそうです。それが盗聴されていたというから、セキュリティもなにもありません。核戦争が間近に迫る中、最高決定権を持つ当人たちは、そのことをどうもあまり理解していなかった。ただ、国民も核の影をうっすらと感じていて、その重い空気がエンタメへの熱狂と裏腹にあった気はします。
でも、改めてモンローのスチール写真や映像を見ると、やっぱりすごいと感じます。美貌もだし、カメラワークも見事。ダンスなんかも本当にうまいですよ。みんなが彼女の魔法にかかり、食い入るように見つめた。モンローは、現代の感覚からすると歪んだ時代、状況に順応したサバイバーですが、それを一巡したうえで、人を虜にするその魅力を素直に味わってみるのもいいと思います。
劇作家のアーサー・ミラーと1956年に結婚。このときにユダヤ教に改宗している。'60年頃から2人の仲は破綻していて、'61年に離婚した
モンローはデビュー前に形式的な結婚と離婚をしていたが、デビュー後の’54年には野球選手のジョー・ディマジオと結婚。ディマジオはモンローが仕事をやめ、家庭に入ることを望んだという。束縛や暴力が原因となり、わずか9カ月でスピード離婚した
1954年、韓国に駐留するアメリカ兵を慰問するモンロー。非常に寒い2月だったが、写真のような薄着で兵たちの期待に応えてみせた
モンローに関するドキュメンタリー作品は、ネットフリックス・オリジナルの『知られざるマリリン・モンロー:残されたテープ』などいくつかある。『ブロンド』と合わせて観るのも面白いはず。
彼女をテーマにした映画が賛否両論!?
ネットフリックスで9月から公開されている映画『ブロンド』は、虚実入り混じった演出で賛否両論を巻き起こした。主演のアナ・デ・アルマスによる本物そっくりなモンローは必見だ。この物語は彼女の実像を描き出しているのか、それとも……。
教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。日米双方の教育を受け、東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家として幅広く活動している。日本テレビの情報番組『スッキリ』の毎週木曜日にレギュラー出演中でもお馴染み。
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最期を知っているからちょっと遠慮したい
「その後の人生を知ってしまっているので、どうしても点数は低くなりますよね。彼女になるということは、ある意味で被害者になりにいくようなものですから……」
前回の“アメリカ偉人伝は”
◆【ウォルト・ディズニー】夢と希望の国を作り出した偉人が遺したものとは!?
雑誌『Safari』1月号 P216~217掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.)
photo by AFLO