【ウォルト・ディズニー】夢と希望の国を作り出した偉人が遺したものとは!?
子供から大人まで、世界中の人々を魅了し続けるディズニーの世界。アニメーションやテーマパークにとどまらず、いまやあらゆるエンタメ分野へと影響力を広げている。そんな巨大帝国を築き上げた偉人、ウォルト・ディズニーをモーリーはどう見ている!?
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- アメリカ偉人伝! vol.6
アカデミー賞の受賞者に贈られるオスカー像に囲まれたウォルト。これは1940年代に撮影された写真だが、短編アニメ賞などを毎年のように受賞していた。奥の小人が7体並んだオスカーは『白雪姫』のときのもの
実はウォルト本人に関しては、あまりよく知らないんです。右寄りで差別主義的だったという話も聞きますが、それは当時の経営者の典型例。ことさらウォルトだけを悪くいうことはできないし、濃淡でいうとむしろ淡の印象です。ただ、ウォルトは労働者に大変厳しかったそうで、実は現在も同じような問題を抱えています。海外の記事ですが、非常に多様性を意識した作品にもかかわらず、その制作現場は過酷な労働環境にあると告発されている。実際にその作品を観ると、明らかに手抜きが目立ちます。『スター・ウォーズ』などもシリーズが増えていますが、予告編がもう薄い。水飴を薄めて売るようなことをやりながら、それでも一定のクオリティを保つ必要があり、結局は下請けに負荷がいく。
ディズニーはある種の職人芸で画期的なアニメーションを作り、手塚治虫をはじめとした日本の漫画、アニメにも大きな影響を与えました。でも、もしクリエイターの人権が守られていたら、あれほどのものにならなかったかもしれない。ディズニーの二面性ですね。ある意味、日本のアニメはそれを受け継いでいるんです。いまだに最悪な労働環境で、やりがいだけでやっている。利益を最大化するための薄い引っ張り方も同じです。
ウォルトは戦時中を除いて政治的な部分には関わりませんでしたが、ディズニーの作品はある時期からリベラルに傾きます。女性像でいえば『白雪姫』のようなお姫様がいて、戦後アメリカの理想的な女性像を牽引した部分がありました。これがいつからか王子様を待つだけじゃない女性像に変わっていく。ディズニー傘下のマーベル作品を見ると、ガチッと多様性にシフトするのはトランプの頃です。最初は間接的でしたが、今はもうトランプ的な不寛容、排外主義、格差拡大への批判が非常に強い。トランプが最高裁判事を入れ替えたので、今後は誰が大統領になってもしばらく憲法解釈が右に振れるといわれています。そこで一番の争点になっているのが中絶禁止。最高裁が中絶禁止に傾く中、時代錯誤だと強い声を上げているのがディズニーです。
ディズニーはアナ雪で「私らしく、ありのままで」という新しい活路を見つけました。ただ現代のような分断の時代においては、もっと強い覚悟というか、トランプに宣戦布告するくらいでないとお客さんが納得しない。フロリダ州知事ともLGBTについて争っていますが、どちらかの陣営について戦わないとならないんです。特にZ世代は環境問題や格差、人権といった問題をリアリズムとして感じていますから、彼らに応える必要もある。だからカラダを張って進歩的な価値を推進するしか道がないのです。
それとTikTokの普及も大きい。ディズニーのテンプレは、ひとつの理想像を見せて、それにみんなが憧れるというものです。ところがTikTokは全く逆で、マイノリティだろうがプラスサイズだろうが、あるがままの表現からものすごい魅力やパワーが生まれている。ディズニーはこの感覚を理解して、そちらに舵を切っています。
そうそう、ディズニーの『プレデター:ザ・プレイ』という作品はすごいですよ。これは観てほしい。あのプレデターの最新作で、主な登場人物がすべてネイティブ・アメリカン。アメリカ建国前の話です。部族のほとんどが犠牲になる中で、主人公の女性が知恵を絞って立ち向かっていく。僕も最初は、使い古されたキャラで、先住民のお涙頂戴なんてやめてくれと思いました。でも、これがめちゃくちゃ面白い。久々に感動して、心を揺さぶられました。これを作ってくれたお礼として、あと2年はディズニーのサブスクにお金を出そうと誓ったくらい。僕は今のディズニーの姿勢を全面的に支持していますが、この作品を観れば、それがどういうことかわかるはずです。
1993年にフロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートを訪れたダイアナ妃(右端)。スプラッシュ・マウンテンに乗り、楽しそうな様子
’85年に同所を訪れたレーガン大統領夫妻
’55年から’96年まで米ディズニー・チャンネルで放送されたバラエティ番組『ミッキーマウス・クラブ』。’89~’94年の出演メンバーには、ライアン・ゴズリング(左奥)、ジャスティン・ティンバーレイク(右奥)、クリスティーナ・アギレラ(手前)、ブリトニー・スピアーズ(中央)など、すごい顔ぶれが!
ウォルトとともにディズニー社を創業した兄のロイ。その孫のアビゲイルは、アメリカ有数の富豪にもかかわらず、富裕層への課税を強化する活動に力を入れている。また、同社従業員の労働環境についても、メディアで厳しく追及している。
来年に創立100周年を迎えるディズニー社!
今年9月に行われたファンイベント「D 23 Expo」で、「Disney 100 Yearsof Wonder / これからの物語も、一緒に。」と題した年間セレブレーションを行うことを発表。記念作品『ウィッシュ』の公開が決定(日本公開は2023年冬の予定)。
教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。日米双方の教育を受け、東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家として幅広く活動している。日本テレビの情報番組『スッキリ』の毎週木曜日にレギュラー出演でもお馴染み。
20/100
彼の時代から続く労働問題は未解決!
「労働者の問題で20点。ちょっとカルマが悪いです。でも今のディズニーは75点。『プレデター:ザ・プレイ』のような強烈なメッセージを全世界に打ち出すのは使命感がありますね!」
前回の“アメリカ偉人伝は”
◆【スティーブ・ジョブズ】カリスマの“魔法”は世界をどう変えたのか!?
●雑誌『Safari』12月号 P256~257掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.)
photo by AFLO