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CULTURE カルチャー

2024.07.14


【まとめ】絶対面白い! ネットフリックス作品67本

週末は、配信動画作品をイッキ見するのがオススメ。ここではネットフリックスで観られる作品をご紹介。絶対に面白いので、是非ご鑑賞あれ!



『ビバリーヒルズ・コップ:アクセル・フォーリー』
製作年/2024年 原案・脚本/ウィル・ビール 製作/ジェリー・ブラッカイマー 製作・出演/エディ・マーフィ 監督/マーク・モロイ 出演/ジョセフ・ゴードン=レヴィット、テイラー・ペイジ、ジャッジ・ラインホルト、ジョン・アシュトン、ケヴィン・ベーコン 

オリジナルの楽しさが甦る!
『ビバリーヒルズ・コップ』は、1984年に第1作が公開。エディ・マーフィの底抜けに明るいキャラが刑事役にハマって大ヒットし、1994年の第3作までシリーズが続いた。つまり今回は第1作から40年ぶり。そして前回の作品から30年ぶりという、かなり長いインターバルでの復活だ。さすがにエディもシブいベテラン刑事に変貌しているかと思いきや……30年前のイメージとほぼ同じ! エディ・マーフィは現在63歳なのだが、演じるアクセル・フォーリーの、おなじみの調子の良さ、マシンガントーク、さらに軽やかな肉体の動きを完璧にこなし、観ているこちらがタイムマシンで過去に戻ったような錯覚さえおぼえてしまう。デトロイト市警のアクセルが、ビバリーヒルズにやって来て難事件を捜査する展開はシリーズのお約束どおり。ただし今回は、アクセルの娘の命が危険にさらされる、というきっかけだ。

シリーズの最初の2作を手がけたジェリー・ブラッカイマーが製作に戻ったせいか、エンタメ的なノリが全開。オープニングでいきなり、あの『ヒート・イズ・オン』が流れ、オリジナルの楽しさが一気に甦る。カーチェイスや銃撃がポイントで派手に演出され、アクセルがベテラン刑事ならではの裏テクも駆使。笑えるネタ、父と娘の葛藤でによるちょっぴりシリアスな展開など、バランス良く盛り込んだ構成に、ハリウッド映画の王道を感じられる。
 

  

 


ULTRAMAN: RISING
製作年/2024年 監督・脚本/シャノン・ティンドル 共同監督/ジョン・アオシマ 声の出演/タムリン・トミタ、ゲディ・ワタナベ、キーオニー・ヤング、クリストファー・ショーン、ジュリア・ハリマン

英語で”シュワッチ”はどう表現する!?
主人公は、野球界のスーパースターであるサトウ・ケン。LAのドジャースから日本球界に移籍した彼は、スーパーヒーローに変身する能力を持っており、現れた怪獣と戦う。基本は、おなじみのウルトラマンの設定。怪獣が存在する世界は、明らかに非現実的なのだが、この作品、驚くほどリアリティ満点なパートがある。それは野球まわりの描写、日本の街並みの映像だ。ケンが入団するのは読売ジャイアンツ。そのユニフォームは本物どおりで、東京ドーム(名前は『新東京ドーム』に変更)の内部から、TV中継のスコア表示まですべて、われわれ日本人が見慣れた光景になっている。ケンは松井秀喜に憧れて野球選手になり、メジャーリーガーも経験したのでイチローや大谷の名前も出てくる。登場人物が『六甲おろし』を歌ったりも。そしてウルトラマンが戦う日本の街は、おなじみの看板が並び、微妙に変更された会社名や商品名を見ているだけでテンションUPしてしまう!
 

  

 


『スペースマン』
製作年/2024年 原作・製作総指揮/ヤロスラフ・カルファシュ  監督/ヨハン・レンク  脚本/コルビー・デイ  出演/アダム・サンドラー、キャリー・マリガン、クナル・ネイヤー、ポール・ダノ

宇宙の感覚を疑似体験!?
『スペースマン』の主人公は、チェコの宇宙飛行士ヤコブ。木星の向こう側に広がる、チョプラと呼ばれる雲を調査するミッションに、わずか一人で挑んでいる。地球に残った妻は妊娠中。ヤコブは広い宇宙空間で、孤独のためにやや精神的な限界も感じていた。そんなある日、宇宙船内で“何か”の存在を感じはじめるヤコブ。地球から遠く離れたこの場所で、彼には信じがたい運命が待ち受けていた……。2017年に発刊された小説『ボヘミアの宇宙飛行士』の映画化。宇宙でのミッションを展開するのがヨーロッパのチェコというのが斬新で、しかもライバルの国が韓国。グローバル化が進んだ未来を観ているような感覚を味わえる。ヤコブを演じるアダム・サンドラーは、得意のコメディ演技を封印し、シリアスさで勝負。妻レンカは『マエストロ:その音楽と愛と』でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたキャリー・マリガンで、彼女の絶好調ぶりがうかがえる。
 

  

 


『ポップスが最高に輝いた夜』
製作年/2024年 製作・出演/ライオネル・リッチー 監督/バオ・グエン 出演/マイケル・ジャクソン、ブルース・スプリングスティーン、シンディ・ローパー、ボブ・デュラン、スティーヴィー・ワンダー、ダイアナ・ロス、ヒューイ・ルイス 

次から次へ興奮の映像が、ここまで途切れないのは奇跡的!
それは、1985年のこと。音楽の世界で、ひとつの歴史が作られた。超一級のアーティスト45人が“USAフォー・アフリカ”として集まり、レコーディングした『ウィ・アー・ザ・ワールド』が、全世界で2000万枚という大ヒットを記録。アフリカへのチャリティーとして、その印税は全額寄付された。あまりに有名な曲となったわけだが、当時から“よくここまでのメンバーが一同に集まれたものだ”と話題になった。本作は、その舞台裏を貴重な記録映像とともに展開。レコーディング決行の1月28日は、アメリカン・ミュージック・アワード(AMA)の授賞式で、人気ミュージシャンが揃っており、さらに賛同した面々が駆けつけたことで、LAのスタジオで信じがたい光景が実現したのである。

AMAの司会を務めたライオネル・リッチーに、作詞・作曲を手がけたマイケル・ジャクソン、プロデュースのクインシー・ジョーンズが中心となり、驚くほど短期間で曲を完成するプロセスもスゴいし、“本当にみんな来るのか?”というスリリングなムードも再現。

そして当日のレコーディング風景には、ビッグネームたちの素顔がたっぷり収められ、1980年代ポップスを少しでも好きな人は感涙モノである。マイケルの献身的努力、意外に仕切るスティーヴィー・ワンダー、かなり戸惑っているボブ・ディラン……。カオスと化す時間、明け方までかかり、声も出づらくなってのソロパートの録音など、約40年前の映像とともに、現在のブルース・スプリングスティーンやシンディー・ローパーらが振り返るコメントも心にしみまくる。観ているわれわれに、彼ら天才ミュージシャンの気持ちを、同じ人間として近い感覚で共有させるのも本作の素晴らしさ。『ウィ・アー・ザ・ワールド』という曲自体がもちろん、音楽の偉大さを実感できる必見作だ。

  

 


『雪山の絆』
製作年/2023年 原作/パブロ・ビエルチ 製作・監督・脚本/J・A・バヨナ 出演/エンゾ・ボグリンシク、アグスティン・パルデッラ、マティアス・レカルト、エステバン・ビリャルディ 

クライマックスは激しいまでに感動!
1972年、ウルグアイのモンデビデオからチリのサンティアゴへ飛行中のチャーター機の連絡が途絶える。ウルグアイのラグビー・チーム一行45人が乗った同機はアンデス山脈で墜落。パイロットらは死亡し、続いていた捜索も打ち切られるなか、生存者16人はどのような運命をたどったのか……。航空機事故の歴史でも語り継がれるこの実話は、ハリウッドで1993年にイーサン・ホークらの出演で『生きてこそ』として映画化されたが、今回は『ジュラシック・ワールド 炎の王国』で知られるスペイン出身のJA・バヨナ監督が、ラテン系の俳優を集め、セリフもスペイン語にするなど徹底してリアリティ重視で再現している。

極寒の雪山。食料もわずか。目の前で仲間が次々と命を落としていく。もちろん外部と連絡する方法は見つからない。そんな過酷な状況での、生存者たちの“究極の選択”も本作は、しっかりと見据え、背筋が凍る瞬間が多発する。食べ物が制限されると、こんな生理現象が起こるのか、というシーンにはびっくり。俳優の極端なアップで寒さと閉所の両方を伝え、広大な雪山をとらえたワイドショットで孤立感を倍増。こうした映像の使い方も計算されたうえ、日に日に死が迫ってくる恐怖と、「絶対に生還する」という決意や勇気が、それぞれの人物を通してエモーショナルな高みへと達する展開が見事だ。
 

  

 


『終わらない週末』
製作年/2023年 原作/ルマーン・アラム 製作・監督・脚本/サム・エスメイル 出演/ジュリア・ロバーツ、イーサン・ホーク、マハーシャラ・アリ、ケヴィン・ベーコン 

信じがたい領域に連れて行かれる!?
同名の小説を映画化した本作。原作は2020年秋に発刊され、世界全体を脅かしていたコロナ禍とのシンクロも話題になった。ニューヨークのブルックリンに暮らす4人家族が、週末のバカンスということで郊外の海沿いの町へ向かう。レンタルしたのは豪華な一軒家。ところがその夜、家のオーナーだという親子が現れ、中へ入れてほしいと懇願してくる。いったい何が起こったのか? そもそも彼らは本当にこの家の所有者なのか? こんな基本設定だけでも、どこかゾクゾクする予感が漂う本作。一家の夫婦を演じるのは、ジュリア・ロバーツとイーサン・ホーク。突然現れた親子の父親を『グリーンブック』などでオスカー2度受賞のマハーシャラ・アリ。知名度&実力ともトップクラスの彼らなので、そのやりとりを観ているだけでテンションが上がる。
 

  

 



『REBEL MOON パート1 炎の子』
製作年/2023年 監督・脚本/ザック・スナイダー 出演/ソフィア・ブテラ、ジャイモン・フンスー、エド・スクレイン、ミキール・ハースマン、ペ・ドゥナ、チャーリー・ハナム、アンソニー・ホプキンス 

壮大なスペースオペラ!
ザック・スナイダー監督が、数十年の構想の末に、満を持して送り出したのが、この『REBEL MOON』2部作。11歳の時に『スター・ウォーズ』の1作目を観て「自分もこんな映画を作りたい!」と映画監督を目指した彼が、その原点を追い求めるように壮大なスペースオペラを完成させた。物語は小さな惑星の村ではじまる。銀河系を支配する帝国のマザーワールドが、その村の農作物を狙って来襲。危機を救うために立ち上がったのは女性戦士のコラだった。このパート1では、巨大なマザーワールドに対し、コラが各地で“ならず者”の戦士をリクルート。少数精鋭の集団を組織し、マザーワールドの提督が組織する軍と激しいバトルを繰り広げる。
 

  

 


『マエストロ:その音楽と愛と』
製作年/2023年 製作・監督・脚本・出演/ブラッドリー・クーパー 出演/キャリー・マリガン、マット・ボマー、マヤ・ホーク、サラ・シルバーマン、ジョシュ・ハミルトン 配信/ネットフリックス

伝説の音楽家を描く!
ブラッドリー・クーパーが演じたのは、名指揮者で作曲家のレナード・バーンスタイン。20世紀を代表する音楽家として記憶されている。ミュージカルの名作『ウエスト・サイド・ストーリー』を作曲するなど、映画界に与えた影響も多大。その生涯は波乱に満ちており、ブラッドリー・クーパーは俳優として若き日々から老年期までを熱演する。指揮者としての動きも完璧に再現。さらに監督として見応え満点の力作に仕上げてきた。

作品の軸となるのは、バーンスタインが音楽に懸けた情熱と類い稀な才能なのだが、女優でピアニストのフェリシアとの愛の物語が同時進行。一方でバーンスタインと男性との奔放な関係など、私生活の事実からも目を逸らさない。フェリシア役、キャリー・マリガンの鬼気迫る演技もあって、“芸術家の妻”の映画としても共感させる作りだ。
 

  

 



『スライ:スタローンの物語』 
製作年/2023年 製作総指揮・出演/シルベスター・スタローン 監督・編集/トム・ジムニー  配信/ネットフリックス

実父との確執に衝撃を受ける!
この映画は、スタローンが慣れ親しんだカリフォルニアの家から、東海岸へ引っ越そうと決めた告白からはじまる。まず驚くのは、その自宅の豪華さ。ロッキーの像が飾られ、プールの水がキラキラと輝く庭などが映像に収められ、セレブのプライベートを体感させてくれる。しかし引っ越しの決意も含め、スタローンの語りには、50年近くスター俳優としての人生を体験した者にしたわからない思いが、次々とあふれてきて、予想外に胸を締めつけてくる瞬間が多発する。キャリアのターニングポイントとなった、1976年の『ロッキー』前後のエピソードが濃密に描かれ、その『ロッキー』シリーズに、次の当たり役となった『ランボー』、さらに『エクスペンダブルズ』への流れから、一人の俳優の“歴史”が浮かび上がってくる作りだ。

アーノルド・シュワルツェネッガーやクエンティン・タランティーノ、エイドリアンを演じたタリア・シャイアらの証言も収められているが、やはりスタローン本人の言葉が強いインパクトで迫ってくる。過去の自分のインタビューをカセットテープで聴きながら、当時を振り返り、“チャンスがあれば俺は勝てた、とは絶対に言いたくない”など、名言がとび出す。生まれ育ったNYのヘルズキッチンへの65年ぶりの帰還や、『ロッキー4/炎の友情』でICUに入院し、死を覚悟した秘話、さらに若くして亡くなった息子への思い……。そして全編にスタローンと実父との複雑な関係が影を落とし、その部分はちょっとショッキングだ。本作を観ると、スタローンがハリウッドスターの中でも特殊な存在であることを納得するはず。そして77歳の現在、次のステップへ向かおうとする彼の野心を応援したくなる。
 

 
 

 


『ザ・キラー』
製作年/2023年 原作/アレクシス・ノレント  監督/デヴィッド・フィンチャー 脚本/アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー  出演/マイケル・ファスベンダー、アーリス・ハワード、チャールズ・パーネル、ティルダ・スウィントン  

デヴィッド・フィンチャー監督の巧みな演出に唸る!
主人公はプロの暗殺者(=ザ・キラー)。秘密裡に仕事をこなすので、数々の偽名を持ち、本名は明かされない。そんな男がパリで、あるターゲットを射殺する任務から本作ははじまるのだが、タイミングを待つ間の細かい準備、心身ともに最高の状態にするストイックなプロセスが描かれ、一気にその世界に没入させるのがフィンチャー作品ならでは。

ここ数作、つねにクールなオープニングタイトルは今回もカッコいい。いつ暗殺任務が遂行されるのか。その瞬間までの“タメ”の時間に映画の贅沢感を味わい、やがて訪れるアクション場面の暴走感は凄まじいレベル。パリから隠れ家のあるドミニカへ戻った主人公を信じがたい運命が襲い、やがて物語は依頼人への報復へと化していく。

見せ場はじっくりと演出され、すっとばす部分は重要なシーンを畳み込むように詰め込む。フィンチャーの作り出す映画的なメリハリは、もはや達人の域。体感として心地よい流れ。殺し屋の世界の裏ワールドとともに、予想外の事態が次々と描かれるのだが、そこに主人公のモノローグで重なる。 

 
 

 


『セイント・オブ・セカンドチャンス:ベック家の流儀』
製作年/2023年 製作・監督/モーガン・ネビル 監督/ジェフ・マルムバーグ 出演/チャーリー・デイ

野球好きなら誰もがハマる波乱万丈ドキュメンタリー!
主人公のマイク・ベックは、アメリカの野球殿堂入りも果たしたビル・ペックの息子。ビルは、メジャーリーグの複数球団でオーナーを務め、シカゴ・ホワイトソック時代には、カブスの陰に隠れていた同球団の人気をアップさせた人物として知られる。ゲーム中の花火の打ち上げや、グッズの販売など革新的アイデアを成功させたのだが、息子のマイクも父を手伝い、スタジアムに動物を登場させたり、理容室を作ったり、さらに自らマスコットキャラの着ぐるみに入ったりと、大胆なアイデアに挑戦。しかし、1970年代の終わり、“ディスコ・デモリッション・ナイト”なるイベントで観客が球場内になだれ込む大騒動を起こし、球界から追放されてしまう。そんなマイクの“転んでも起きる”半生が描かれる本作は、野球ファンにはテンションが上がるネタが多数!

ギャンブルで財産を失うなど、マイクの人生は豪快なのだが、メジャーリーグを追われ、独立リーグの球団を担うことになる、まさに“セカンドチャンス”の後半から、映画はさらに面白くなっていく。独立リーグだからこそできるチャレンジの数々に驚きの連続だし、マイクの心からの野球愛が生むエピソードは予想外の感動をもたらしてくれる。
 

  

 
ディープブレス 呼吸、深く

『ディープブレス 呼吸、深く』
製作年/2023年 監督・脚本/ローラ・マクガン 共同監督/ロバート・フォード  

フリーダイビングの過酷さがわかる!
1988年に公開された『グラン・ブルー』(日本での最初の公開では『グレート・ブルー』というタイトル)は、フリーダイビングの記録に挑む2人の男の友情を描き、主人公の1人、ジャック・マイヨールが最後にどうなったのか想像力を刺激。多くの人に愛される作品となった。フリーダイビングとは、酸素ボンベなし、つまり無呼吸状態でどこまで深く潜れるかを争う競技。深さへのこだわりあもちろん、水面までの復路も計算し、無酸素での失神のリスクにも備える。時間との闘いであり、つねに死と隣り合わせの過酷さが待ち受けているのだ。本作では限界に挑むイタリアの女性ダイバー、アレッシア・ゼッキーニにフォーカス。実際にダイバーが撮った映像によって、水面の明るさが水深100mで真っ暗と化す恐怖、さらに水面に戻ってくるも気を失いかけているダイバーの生々しい表情など、全編に目を疑う瞬間が詰まっている。

女性としての世界記録をめざすアレッシアの最大のライバルが、日本人ダイバーのHANAKO(廣瀬花子)。このあたりは日本人のわれわれとしても一気に親近感がアップ。そして本作は、緊急時に水中でサポートする救助ダイバーも登場し、その1人、スティーヴン・キーナンとアレッシアの関係は、思いもよらぬエモーショナルな運命へと導かれていく。
 

  

 
ハート・オブ・ストーン

『ハート・オブ・ストーン』
製作年/2023年 製作総指揮・監督/トム・ハーパー 製作・出演/ガル・ガドット 脚本/グレッグ・ルッカ、アリソン・シュローダー 出演/ジェイミー・ドーナン、ソフィー・オコネドー、マティアス・シュバイクホファー 

ガル・ガドットの本格アクションに驚く!
ガル・ガドットが演じるのは、『007』シリーズでもおなじみの英国諜報機関“MI6”の新メンバー、レイチェル・ストーン。ベテランのエージェントを後方支援する役割で、イタリアのアルプスでの任務に加わるが、ターゲット確保のための激しい闘いに巻き込まれてしまう。

しかしレイチェルには、MI6の仲間にも言えない別の顔があった。秘密組織“チャーター”に所属する、いわゆる二重スパイなのだ。MI6では新米でも、じつは実力十分。いやむしろ、諜報員として無敵と言っていいレイチェル。ポルトガルのリスボン、アフリカのセネガル、さらにアイスランドへと移る彼女のミッションは、『007』や『ミッション:インポッシブル』シリーズに引けを取らないスペクタクルとともに展開。そこに斬新な設定がプラスされている。

その設定とは“チャーター”が持つ高度なシステムだ。元諜報員の精鋭を集めたこの国際的組織の目的は、世界の平和を保つこと。そこで使われる“ハート”という巨大コンピュータは、あらゆる機関の数兆ものデータにアクセスし、自在にコントロール可能。未来も予測できるので、現場の諜報員に最善の策を指示できたりする。まさにAIの超進化型というイメージ。このハートの使われ方は、映画のビジュアルとしてもテンションを上げる。 

 
 

 


『バレリーナ』
製作年/2023年 監督・脚本/イ・チュンヒョン 出演/チョン・ジョンソ、キム・ジフン、パク・ユリム 

女性版ジョン・ウィックのような激しさ!
見どころのひとつは激しいアクションシーンで、冒頭のコンビニでの格闘戦からはじまりラブホテル、犯罪組織の麻薬工場と様々な場所で死闘が繰り広げられる。特に麻薬工場でのアクションは必見。大人数の男たちを相手に戦う近距離でのガンアクションは、まるでキアヌ・リーヴス主演の『ジョン・ウィック』を彷彿とさせるほどの激しい内容となっている。

アクションだけでなく、スタイリッシュな映像にも目を奪われる。韓国の復讐劇といえばジメッとした路地裏や街中の雑踏が舞台となることが多いが(そこが魅力なのだが)、本作では美しく印象的なシーンが数多く登場。さらにセリフが少なく、映像で物語を説明していく演出も特徴的。主人公オクジャを演じるのは『バーニング 劇場版』(2018年)、『ザ・コール』(2020年)のチョン・ジョンソ。復讐のためには手段を選ばない無慈悲な役柄を体当たりで演じている。監督はイ・チュンヒョン。『短編映画『身代金』(2015年)や『ザ・コール』を手がけ、革新的なストーリーテリングと大胆な演出で知られる存在。その独創性は本作でも十分に発揮されている。 

 
 

 


『ベッカム』
製作年/2023年 監督/フィッシャー・スティーヴンス 編集/マイケル・ハート 出演/デヴィッド・ベッカム 

ベッカムの半生を貴重な未公開映像で振り返る!
2023年10月4日から独占配信されているドキュメンタリーシリーズ『ベッカム』。サッカー界の世界的大スターであるデヴィッド・ベッカムの軌跡を未公開映像を交えながら4話構成で描いている。本人や妻ヴィクトリアのインタビューに加えて、両親やベッカムを一流選手に育てた元マンチェスター・ユナイテッドの監督アレックス・ファーガソン、元チームメートのガリー・ネビル、ルイス・フィーゴ、ロベルト・カルロスらが登場。ベッカムとの秘話を明かしている。

300m先のコインにボールを当てるなど、子供のころから類まれなる才能を発揮していたというベッカム。第一話では、イングランド中に名が知れ渡った1996年のプレミアリーグ開幕戦ウィンブルドンFC戦でのロングシュートなど、スター選手へと成長していく華やかな道のりを関係者の証言を交えて紹介する。順調なサッカー人生が一転してしまったのは、1998年FIFAワールドカップ決勝トーナメント1回戦のアルゼンチン戦。「デヴィッドは厄介な選手だった」「俺の闘争心に火をつけてくれた」と語るアルゼンチン代表のディエゴ・シメオネに背後からファールを受け、その報復行為をしたとして退場処分となってしまう。PK戦の末、チームが敗退したことによって国中から非難の矛先がベッカムに集中。道を歩いていても暴言や唾を吐きかけられる事態に発展。ベッカムは当時のことを振り返り、「記憶を消せる薬があればいいのに……」と胸中を吐露する。

その後のエピソードでは、逆境からの復活劇、常勝軍団レアル・マドリードへの移籍、周囲を驚かせたロサンゼルス・ギャラクシー入団、そしてパパラッチがつきまとう私生活の様子なども描かれていく。自宅のワードローブにもカメラが向けられるのだが、その様子が圧巻。ジャケットやデニムシャツ、セーター、カーディガンなどがきちんとハンガーに掛けられ、引き出しには下着やソックスが丁寧に畳まれて収納されている。まるで高級ブティックのように整理されていて、くつろぎ空間の自宅とは思えないほどのキレイさ。Tシャツにいたっては「色別に分けたうえで、すぐ下にどの服があるか分かるように、少しずらして収納しているんだ」。さらに驚かされる、というより呆れてしまうのが、その週に着る服を1週間分事前に用意しているところ。最近、身についた習慣だとベッカムは得意げな表情で語るのだが、う〜ん、さすがに几帳面すぎない!? 

 
 

 
ザ・ディプロマット

『ザ・ディプロマット』
製作年/2023年 原作・制作/デボラ・カーン 出演/ケリー・ラッセル、ルーファス・シーウェル、デヴィッド・ジャーシー 配信サービス/ネットフリックス

緊迫感たっぷりの政治ゲームが展開!
イギリスの空母が爆破される事件が発生。爆破犯と目されるイランを巡って緊張が走るなか、駐英大使に任命されたアメリカ人外交官ケイト(ケリー・ラッセル)は、同じく外交官の夫を伴ってイギリスへ。第3次世界大戦をも引き起こしかねない事態を鎮静化すべく、世界を相手に奮闘していくが……。『HOMELAND/ホームランド』などのデボラ・カーンが手掛けた脚本の下、緊迫感たっぷりの政治ゲームが展開。ウィットに富んだ会話の応酬と独特のユーモアが、作品の魅力を担っている。登場人物もくせ者揃いで、誰が何をしでかすかわからない分、物語の先も読めない。シーズン1だけで事態は収束せず、シーズン2も予定されている。 

 
 

 
生まれ変わってもよろしく

『生まれ変わってもよろしく』
製作年/2023年 原作・制作/イ・ナチョン 出演/シン・ヘソン、アン・ボヒョン、ハ・ユンギョン 配信サービス/ネットフリックス

転生し続ける女性が恋した相手とは?
何度も転生し、今は19回目の人生を生きているパン・ジウム(シン・ヘソン)。前世の記憶を持ったまま転生し続ける彼女は、短く終えた18回目の人生時の初恋相手が忘れられず、大人になった彼との再会を望む。原作は同名のウェブ漫画で、ファンタスティックな展開に込められた人間ドラマが視聴者を魅了。人生を何度も生きて身につけた余裕と悲哀、そして率直さを、印象深い瞳やユーモラスな言動に滲ませるジウムのキャラクターが作品全体の魅力になっている。そんな主人公の姿を生き生きと捉えた映像も美しく、全12話が愛おしい時間に。ジウムの恋模様だけでなく、転生にまつわるミステリーにも心地よく翻弄される。 

 
 

 
タイラー・レイク-命の奪還- 2

『タイラー・レイク-命の奪還- 2』 
原案・製作・脚本/ジョー・ルッソ 製作/アンソニー・ルッソ 監督/サム・ハーグレイブ 製作・出演/クリス・ヘムズワース 出演/ゴルシフテ・ファラハニ、トルニケ・ゴグリキアーニ、イドリス・エルバ 

前作を越えた20分のワンショット! 
2020年に配信された前作は、当時の視聴世帯数記録を更新。裏社会の傭兵、タイラー・レイクが絶対に不可能と思われるミッションに、体力と筋力、瞬発力、決断力と総合格闘技チャンピオンのような資質で挑み、有無を言わさぬ興奮をもたらした。

そのラストで、橋から川に落ち、命も失ったかと思われたタイラー。もちろん不死身の彼は生還。重傷を負ったため一度は仕事から引退するも、元妻ミアからの依頼で危険極まりない仕事を引き受ける。今回の敵は、西アジア、ジョージアのギャング組織。ミアの妹が、その組織の中心人物であり、刑務所に囚われた妹と子供たちを助けるため、タイラーは現地へ向かう。当然、組織は全力をあげてタイラーを阻止しようとするのだった。

この『タイラー・レイク』シリーズのスゴさは、アクション映像の究極を見せつけるところ。ひとつの見せ場では、タイラーとその周辺人物をワンショット(ワンカット)でカメラが追い続ける。しかもその時間は、なんと20分! 室内から外での闘い、さらに乗り物で移動するまで延々とカメラが途切れないので、観ているこちらも異常レベルの臨場感&没入感となる。

実際には不可能なワンショットなので、もちろんうまく編集されてはいるが、その繋ぎ目はわからない。前作では約10分だったこの手法が、今回は倍の長さになった。一方で別の見せ場では、あちこちで進行するアクションや人物の動きを短いカットの連続で展開し、こちらはスピード感で陶酔させる。さらにこの続編では、タイラーと元妻の間の息子のエピソードが切なく絡み、人間としての主人公に熱く共感してしまい、多方向から満足させる仕上がりになっている! 

 
 

 
ワム!

『ワム!』
製作・監督/クリス・スミス 出演/ジョージ・マイケル、アンドリュー・リッジリー

伝説のポップデュオの濃密な4年間を追体験!
結成40年のタイミングで作られた、ワム!のドキュメンタリー。『ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ(Wake Me Up Before You Go-Go)』『クラブ・トロピカーナ』『ケアレス・ウィスパー』『フリーダム』、そして『ラスト・クリスマス』など、2023年の今も愛される曲の数々が流れるだけでテンションが上がり、それぞれの曲の知られざる秘話が重なっていく。小学校で知り合ったジョージ・マイケルとアンドリュー・リッジリー。音楽に夢中になった2人の少年が、念願のデビューを果たし、世界中を夢中にさせるも、ワム!としての活動期間はわずか4年間だった。その短くも濃密な4年を、われわれも一緒に駆け抜けながら体験してしまう。これはそんな作品だ。 

 
 

 
ザ・マザー:母という名の暗殺者

『ザ・マザー:母という名の暗殺者』
原案・製作・脚本/ミシャ・グリーン 製作・出演/ジェニファー・ロペス 監督/ニキ・カーロ 出演/ジョセフ・ファインズ、ルーシー・パエス、オマリ・ハードウィック、ガエル・ガルシア・ベルナル

銃撃戦にカーアクションと予想以上の激しさに圧倒される!
軍隊を経験し、殺し屋となった主人公(名前は出てこない)。妊娠中に危険な目に遭いながら、なんとか娘を出産するも、その娘の安全を考えて離ればなれの人生を強いられる。しかし12年後、娘に危険が迫ると知り、身分を隠して再会を果たすのだが……。

ジェニロペが演じる“マザー”は、イラクやアフガニスタンの戦地で46人を暗殺。ライフルのM24で、1300m離れた相手も仕留める凄腕スナイパーだ。その鮮やかなテクニックと不屈の闘争心を、衰え知らずの肉体で表現するジェニロペに、誰もが惚れぼれしてしまうはず。

とくに中盤のキューバでは、敵とのチェイスで見ず知らずの相手のクルマを奪うなど、かなり強引なシーンもあるのだが、この人が演じると説得力が増すから不思議! ひたすら切羽詰まった顔を貫くジェニロペに圧倒されながら、アクション演出は全体に過激なので、思わず声を上げてしまう瞬間もある。 

 
 

 


『ハンガー:飽くなき食への道』
原案・監督/シティシリ・モンコルシリ  脚本/コンデート・ジャトゥランラッサミー 出演/オークベープ・チュティモン、ノパチャイ・チャイヤナーム、ガン・スワスティ、ブミバット・タウォンシリ 

天才シェフのスパルタ指導を乗り越えろ!
バンコクの旧市街にある、家族経営の小さな食堂。そこで料理を任されているのが、20代のオエイ。ある日、食堂を訪れた客にその腕を見込まれた彼女は、超高級料理を提供することで知られるシェフチーム“ハンガー”で働くことに。

一流シェフへの道が約束されたオエイだが、ハンガーを仕切るポールは、独創的レシピの開発者ながら、スタッフには完璧を求め、その指導はスパルタ的。過酷な状況でオエイは自身の限界に挑んでいく。数々のハードルを乗り越える“スポ根”的なノリもあり、理想と現実、同僚や家族との関係など、主人公の気持ちに入り込みやすいのが、この『ハンガー』の魅力だ。

映画の後半は、オエイの運命も意外な方向へ進み、料理修行の向こう側にあるメッセージも浮かび上がってくる。お金さえ払えば、本当に美味しいものが食べられるのか。仕事で成功すると大切な何かを失っていないか。そんなテーマが物語にすっきり溶け込んだ印象。

オエイ役は、高校生のカンニング犯罪を描き、日本でも話題になった『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』でも主演を務めたチュティモン・ジョンジャルーンスックジン。そのクールな表情に誰もが魅せられることだろう。 

 
 

 
刑事ジョン・ルーサー:フォールン・サン


『刑事ジョン・ルーサー フォールン・サン』
原作・製作・脚本/ニール・クロス 監督/ジェイミー・ペイン 出演/イドリス・エルバ、シンシア・エリボ、アンディ・サーキス 

スリリングな展開にハラハラする!
この『刑事ジョン・ルーサー』は2010年からイギリスのBBCで放映され、シーズン5まで続いているシリーズ。日本でも配信やNHK BSの放映などで密かな人気を保つ刑事モノだが、サイコパス的な事件を多く扱い、衝撃度も高い。

主人公であるロンドン警察の警部ジョン・ルーサーも、ちょっと精神的に不安定なキャラで、その部分がサスペンス感を盛り上げたりする。待望の映画版は、描かれる事件もかなりショッキング。無差別とも思われる連続殺人が発生し、しかもその犯行方法が狂気そのもの。犯人の策略にハマったルーサーは刑務所に収容されるも、なんとか事件を解決すべく脱獄を図ろうとする。

ルーサーを演じるイドリス・エルバは一時、次のジェームズ・ボンド役に名前が挙がっただけあって、パワフルな存在感。そこに人間味あふれる演技、アウトローの危うさを加えて観る者を魅了する。目を疑う脱獄劇や、ロンドンの観光スポットでの緊迫の激闘では、エルバのアクションの才能も冴えわたる。このルーサーを映画で初めて観る人も、俳優と役の最高レベルの合体を確信できるはず。

そして本作で最大のポイントとなるのは、捜査に行き詰まる警察が、ルーサーを“利用”して凶悪犯に接近する流れ。それぞれの思惑が入り乱れ、さらなる衝撃の犯行も起こったりして、スリリングな空気はラストまで充満。犯人がターゲットにするのが、周囲に言えない秘密を抱える人たちだが、それがどう選ばれるか……。観ているこちらも思わず“明日は我が身?”と実感してしまうのも、本作の怖さ! 

 
 

 
ネットフリックス『西部戦線異状なし』の臨場感にただただ圧倒される!


『西部戦線異状なし』
原作/エリッヒ・マリア・レマルク 製作・監督・脚本/エドワード・ベルガー 出演/フェリックス・カメラー、アルブレヒト・シュッヘ、アーロン・ヒルマー、モーリッツ・クラウス 

臨場感にただただ圧倒される!
映画ファンなら、このタイトルに聞き覚えがあるかもしれない。今から92年前の1930年の映画で、アカデミー賞作品賞などを受賞した名作だ。ドイツのエーリヒ・マリア・レマルクが書いた反戦小説を、ハリウッドが映画化。その衝撃のラストシーンは今もなお語り継がれている。

今回は、同原作を基にドイツが新作として完成。第一次世界大戦中のヨーロッパで、西部戦線へ赴いた17歳のドイツ兵、パウルを中心に、フランス側を相手にした戦争の最前線、その過酷な運命が描かれていく。パウルの志願の経緯や、ドイツとフランス、それぞれの司令官の苦悩や協議のエピソードも出てくるが、基本的に兵士目線による激烈バトルに焦点を絞った作り。観ているこちらも戦地に放り出されたとような感覚で、生死ギリギリのスリルを味わうことになる。

冒頭からいきなり壮絶なシーンの連続だが、ほかの戦争映画と大きく違うのは、犠牲者の“後処理”まで見せる演出。戦地での人命の軽さがひしひしと伝わり、背筋が凍る。数秒前まで隣にいた仲間の死。バラバラになる肉体……と、容赦のない映像にも息をのむばかり。思わず声を上げてしまうショッキングなシーンも用意される。

一方で戦車や銃、手榴弾など、第一次世界大戦時のメカや武器が丁寧に再現され、戦争映画ファンにとっての見どころも満載だ。そしてもちろん、100年以上前の悲劇に現在進行形の戦争が重なる瞬間もあり、人間の愚かさ、戦いの虚しさを突きつけてくる。 

 
 

 


『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』
監督・脚本/ライアン・ジョンソン 出演/ダニエル・クレイグ、エドワード・ノートン、ジャネール・モネイ、キャスリン・ハーン、レスリー・オドム・Jr、ジェシカ・ヘンウィック、マデリン・クライン、ケイト・ハドソン、デイヴ・バウティスタ 

ド派手アクションでも魅せるエンタメの見本のような一作!
2019年の『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』では、探偵ブノワ・ブランがイギリス郊外の豪邸で起こった作家の不審死事件を解決した。どんよりとした曇り空をバックにした前作から一転、この続編では舞台がギリシャのリゾートへ移動。豪邸だけが建つ孤島に、億万長者のマイルズが友人たちを招待し、そこで彼がゲームを仕掛けたことから、衝撃の殺人事件へと発展していく。集められた友人たちは、誰もがマイルズと深く複雑な関係があり、容疑者となる動機も十分。さらに現場の島は、外部から隔絶された空間……と、ミステリーとしては最高のシチュエーション。超有名人が一瞬だけ登場したり、前作にはなかったブノワの私生活が描かれたりと、細部まで観逃せない一作だ。 

 
 

 
ネットフリックスですぐ観られる! 驚きのドキュメンタリー映画5選!

『リディームチーム:王座奪還への道』
製作総指揮・監督/ジョン・ワインバック 出演/レブロン・ジェームズ、ドウェイン・ウェイド、コービー・ブライアント

屈辱の米バスケ代表をコービー・ブライアントが立て直す!
バスケットボールといえば、アメリカのお家芸。当然のごとくオリンピックでも金メダルが“常識”とされていたが、2004年のアテネ大会で、NBAのスターも出場したにもかかわらず、アメリカは銅メダルに甘んじた。相手を見くびっていた結果で、国内では大バッシングを受ける事態となる。そこから4年後の北京大会へ向けて、バスケット男子アメリカ代表チームがどのように欠点を克服したのか、そのプロセスを克明に見つめていく。

大学チームの名コーチを迎え、プライドやエゴを捨て、チームプレイに徹しようとする。そんな苦闘を、レブロン・ジェームズ、ドウェイン・ウェイドら一流プレイヤーたちが振り返るのだが、チームの要となったコービー・ブライアントは2020年に事故死したため、当時の映像のみの登場。北京での彼への熱狂など、いま改めて観ると胸が締めつけられる。過去にさかのぼって、1972年ミュンヘン大会の決勝戦の映像はかなり衝撃的。この作品、とにかくテンポが良く、挫折からの復活、クライマックスの怒涛の盛り上がり……と、ハリウッドのエンタメ大作のような構成が鮮やか。 

 
 

 
ネットフリックスですぐ観られる! 驚きのドキュメンタリー映画5選!

『リターン・トゥ・スペース』
製作・監督/エリザベス・チャイ・バサルへリィ、ジミー・チン 出演/イーロン・マスク

イーロン・マスクが実現する宇宙への夢とは?
何かと話題がとぎれない、イーロン・マスク。彼がこだわり続けるのが民間人による宇宙旅行で、その宇宙開発のために立ち上げた企業が“スペースX”だ。これは、新たなテクノロジーで実験を繰り返し、ロケットを作る同社の壮大なプロジェクトを追った作品。命綱なしで断崖の登頂に挑む『フリーソロ』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞し、タイ洞窟の救出事件に迫った『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』を手がけた監督コンビなので、ドキュメンタリーとしての見せ方が絶妙な一本になっている。

NASAが2011年のスペースシャトル以来の国際宇宙ステーション(ISS)への有人飛行を模索するなか、スペースXのエンジニアたちも協力。2020年、スペースXが打ち上げたカプセル型宇宙船“クルードラゴン”が宇宙飛行士をISSまで運ぶことに成功するなど、アメリカの宇宙開発復活への道が、ドラマチックに展開。飛行士の家族の思いや、名作『アポロ13』も甦る地球帰還のプロセスなど、何度か心を揺さぶられる瞬間が用意される。人間の宇宙への夢に、素直に感動してしまう人も多いはずだが、イーロン・マスクの野望の深層心理は観ているわれわれに委ねられ、そこも本作の面白さだろう。 

 
 

 
ネットフリックスですぐ観られる! 驚きのドキュメンタリー映画5選!

『Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む』
監督・脚本/フェリシティ・モリス

マッチングアプリ詐欺の被害者が犯人を追う!
“Tinder”は人気のマッチングアプリ。多くの人は真剣に、そして純粋に恋愛の相手を探すために使っているのだが、その中には罠も潜んでいる。夢中になってしまった相手に、いつの間にか多額のお金をつぎこんでしまい、借金地獄に陥ってしまい……。そんな女性たちが素顔をさらけ出しての告白で、恋愛詐欺の実態を浮き彫りにする衝撃のドキュメンタリー。実際に送られて来たメッセージや音声、映像に、生々しい再現ドラマも加え、一瞬も飽きさせない作りに観ているこちらは引き込まれる。

相手から騙し取った大金を利用して、富豪のフリをして次の獲物を引っ掛ける。それが詐欺師、サイモンの手口。高級ホテルでのデートや、自家用機による出張同行の誘いなどで、めくるめくセレブ生活と真剣な恋愛を一瞬だけリアルに信じこませる上級テクニックに目を疑うが、ターゲットとなった女性たちも騙された時間を夢心地で回想したりする。事件そのものがセンセーショナルなうえに、人間の複雑な心理に背筋が凍ったりも!? 事件が発覚し、逮捕されたサイモンはどうなったのか。その“現在”を想像させるパートもかなりエグい! 

 
 

 
ネットフリックスですぐ観られる! 驚きのドキュメンタリー映画5選!

『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』
製作・監督・脚本/クリス・スミス

大失敗となった音楽フェスの舞台裏を暴く!
個人が所有するバハマの無人島で世紀の音楽フェス“ファイアー・フェスティバル”が開催されることが発表。スーパーモデルたちが宣伝に使われ、インフルエンサーは報酬をもらってプロモーションに協力。SNSではバズり、あっという間にチケットは完売する。企画したのは、アーティストと彼らのクライアントをつなぐマッチングアプリ“FYRE(ファイアー)”を立ち上げたビリー・マクファーランド。しかし会場となる島には、来場者を迎える十分な設備は存在しない。フェス開催なんて当然、無理! しかしマクファーランドは“やるやる詐欺”で嘘をつきまくり、投資家も騙してしまう。その一部始終を描いたのが本作だ。

まったく準備もできていないのに、バハマにやって来た数百人の客たち。食事やトイレもままならず、彼らは混乱の極地に陥ってしまう。その風景はショッキングを通り越して、コメディ映画を観せられているかのよう。フェスの舞台裏以上に驚くのは、マクファーランド本人。社員たちが語るのは、想像を超える彼の実像だ。思わず周囲がついて行きたくなるカリスマ性や会話の才能を持ち、めちゃくちゃ承認欲求が高い。まさに映画の題材にふさわしいキャラクターで、呆れつつも最後は感服してしまうはず。 

 
 

 
ネットフリックスですぐ観られる! 驚きのドキュメンタリー映画5選!

『イカロス』
製作・監督・脚本・出演/ブライアン・フォーゲル

自ら禁止薬物を摂取してドーピング検査を通過できるか実験する!
配信先行の作品として、アカデミー賞で初の長編ドキュメンタリー賞に輝いた、記念すべき一作。タイトルのイカロスは、太陽の光で翼が溶けて海に落ちたギリシャ神話の登場人物。かつてドーピングが発覚し、人生が失墜した自転車ロードレースのスター、ランス・アームストロングを、そのイカロスに重ねて本作を撮ったブライアン・フォーゲル監督。アマチュアのロードレーサーでもある彼が、自らの肉体を実験台にして撮影。つまり禁止薬物を摂取しつつ、ドーピング検査をパスして大会に出場しようとする。その設定だけで驚愕レベルだ。

監督に協力するのは、ロシアの反ドーピング機関の所長。しかもその所長は、ドイツのTV番組で告発されたことで、ロシア政府から目をつけられ、アメリカへ逃亡。フォーゲル監督にかくまわれる身となる。このあたりは監督も映画を撮る前は予期しなかった事態で、並みのドキュメンタリーでは味わえない超スリリングなムードへ突入。やがて所長の数奇な半生も明かされていく。ドーピングを巡るアスリートたちの実態や、国家ぐるみの計画など「こんな事実を明らかにしていいの?」というエピソードの連続で、スポーツに興味のない人も惹きつけるパワーが充満する力作。 

 
 

 
大人こそが没入してしまう『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の脚色に唸る!

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』 
原作/カルロ・コロディ 製作・監督・脚本/ギレルモ・デル・トロ 出演/グレゴリー・マン、ユアン・マクレガー、デヴィッド・ブラッドリー、ティルダ・スウィントン、ケイト・ブランシェット、ジョン・タトゥーロ、ロン・パールマン 

大人こそが没入してしまう!
19世紀の末にイタリアで書かれた原作は、あまりにも有名。ゼペットじいさんが作った木の人形が妖精の魔法によって動き出し、見世物になる物語。ディズニーアニメとして人気となり、2022年には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のロバート・ゼメキス監督による実写版も作られた。

そして同じ2022年、“オタク監督”として知られるギレルモ・デル・トロが、人形をわずかに動かし、1コマ、1コマ撮影するストップモーション・アニメで映画にした。基本のストーリーは原作、ディズニーアニメと同じ流れ。嘘をつくと鼻が伸びてしまうピノッキオの特徴や、コオロギのキャラ、見世物小屋でのパフォーマンスなどが描かれつつ、まったく新しい物語に出会ったようなサプライズと感動が用意されている!

ピノッキオの外見からして、シンプルな“木の人形”なので、これまでのイメージが一変。そして、木の人形が動き出すプロセスに、最高の手法がストップモーションであると本作を観て実感する。これはデル・トロの狙いどおりかも。ピノッキオ以外も、すべてのキャラの動きが観ているだけで愛おしいし、要所では最先端の映像テクノロジーもブレンドされているので、究極のアートを体感する印象だ。

そして新たな脚色のアイデアが絶妙。ゼペットがなぜ木の人形を作ったのか。背景となる第二次世界大戦が、どのようにピノッキオや周囲の運命に関係してくるのか。さらに、あの有名な結末はどうなっているのか……。デル・トロらしい、ややマニアックで怖い隠し味、ミュージカルとしての高揚感も含め、大人こそ没入してしまう可能性が大の本作。“生きることとは何なのか”というテーマも物語に美しく溶け込み、忘れがたい後味に浸らせてくれる。 

 
 

 
『グッド・ナース』

『グッド・ナース』
原作/チャールズ・グレーバー 監督/トビアス・リンホルム 脚本/クリスティ・ウィルソン=ケアンズ 出演/ジェシカ・チャステイン、エディ・レッドメイン、ンナムディ・アサマア

身近な恐怖を突きつけられる!
本作の題材になった実際の事件は、病院での入院患者の相次ぐ不審死。亡くなった患者の体内からありえない量のインスリンが発見される。つまり故意に点滴の中に混ぜられていたのだ。やがて一人の看護師への疑惑が持ち上がる。その看護師チャーリーは9つの病院を転々としており、勤務先で必ず同様の不審死事件が起こっていた。シングルマザーの看護師エイミーは何も知らずに新たな同僚のチャーリーと親しくなり、彼はエイミーの娘たちとも仲良くなる。やはて警察も動き出すなか、全編、張り詰めた空気に包まれるサスペンスが展開していく。

病院の患者にとって医師や看護師は絶対的に信頼を寄せる相手。しかし日本でもこれと似た事件が起こったように、邪悪な存在がそこに紛れていれば、患者は成す術もない。その恐ろしさが、リアルに伝わってくる。事件を隠ぺいしよいとする病院側の体質も生々しい。本作の舞台は2003年でオバマケアがはじまる前のこと。エイミーは心臓疾患を抱えているが、健康保険に未加入で1回の検査や診察に支払うのが、なんと980ドル(約15万円)! アメリカの医療費も衝撃的だ。エイミー役のジェシカ・チャステインとチャーリー役のエディ・レッドメインは、ともにオスカー俳優だけあって、圧巻の演技で観る者の目をクギづけにする。 

 
 

 
【どう撮った?】冒頭11分間のノーカット映像に圧倒される! ネットフリックス『アテナ』

『アテナ』 
製作年/2022年 製作・監督・脚本/ロマン・ガブラス 出演/ダリ・ベンサーラ、サミ・スリマン、アントニー・バジョン、オウアシニ・エンバレク 

冒頭の11分間のノーカット映像に驚く!
フランスの郊外にある“アテナ”という団地で、若者たちを中心とした大暴動が起こる。その団地に暮らす一人の少年が殺され、加害者が警察官だと思われたからだ。若者たちと、それを鎮圧しようとする警察隊との激しい攻防が展開。被害者は四兄弟の末っ子で、三男のカリムは暴動のリーダー役として仲間を指揮。

次男のアブデルはアテナでも尊敬される軍人、そして長男で異母兄弟のモクタールは、麻薬の密売人……と、3人それぞれの闘いはショッキングな運命になだれ込んでいく。ストーリーはこのように、兄弟の確執が軸となってギリシャ悲劇も思わせるが、基本は怒涛のスペクタクルアクション映画だ。

冒頭からタイトルが画面に出るまでの11分間。暴動と警官隊との闘いが驚異のノーカットで展開。その11分間に、火炎瓶による大爆発、カーチェイスやバイクの曲乗りなどが盛り込まれ、ノンストップ感で圧倒する。あとは一気の展開にのみこまれる印象だ。ヴェネチア国際映画祭ではコンペティションで上映され、強烈なインパクトを残した。 

 





『シニアイヤー』
原案・脚本/アンドリュー・クノアー 監督/アレックス・ハードキャッスル 出演/レベル・ウィルソン、ゾーイ・チャオ、サム・リチャードソン、ジャスティン・ハートリー 

女子高生が目覚めたのは20年後の世界!?
主人公は女子高生のステファニー。人気者になりたいと決意した彼女は一念発起し、チアリーディングの主将になる。しかし練習中の落下で、なんと昏睡状態に……。それから20年後。奇跡的に目を覚ました彼女は、もう一度、高校に戻って夢だったプロムクイーンを目指す。タイトルの『シニアイヤー』は、アメリカで高校最後の一年のこと。肉体は37歳のステファニーだが、精神的には17歳のまま。まずそのギャップで笑わせるが、ステファニー役、レベル・ウィルソンが自分の変化を受け止め、周囲の高校生になじんでいくプロセスを超ナチュラルに演じていて、観ているこちらも楽しい気分になってしまう。そこが本作の最大の魅力かもしれない。

スマホやSNSはもちろん初体験。レディー・ガガの写真を見てマドンナだと思い込んだり、20年前の流行でストップしてるステファニーの奮闘に笑いの連続。1990年代が懐かしいと感じる人には、ツボとなるネタ満載のはず。一方で、本作ならではの新鮮さもいっぱい。かつての友人たちが、今や高校の校長やPTA。友情や確執、恋愛感情が新たなステージに変わっている。ハリウッドの“青春映画あるある”な学校内の階級社会をSNSとともに強調しながら、そこから一歩先へ突き進む清々しさもある。最近、何かとコンプライアンスで表現の自由が逆に制限されてる現実も皮肉ったりして、映画としてなかなか攻めてる一作。観終わった後、スッキリといい気分になってるのは間違いない! 

 
 

 


『ホワイト・ホット:アバクロンビー&フィッチの盛衰』
製作・監督/アリソン・クレイマン 

一時代を築いたファッションの“盛衰”がリアルにわかる
“アバクロ”といえば大人気のファッションブランドだが、最近あまりその名前を聞かなくなった気もする。一時ほどの人気はなくなったのかもと思ってたら、実は大変なことになっていた……と大暴露するのが本作。〈アバクロンビー&フィッチ〉は、その元をたどると100年以上前に誕生した歴史あるブランド。2000年代の初め頃から、プレッピー(有名大学のエリート的なファッション)とセクシーを取り込んだスタイルを前面に押し出し、アメリカを中心に爆発的ブームを起こした。モールのショップの前にはムキムキの半裸の男性が立ち、ムスクの香りが漂う店内は暗めの照明で音楽が鳴り響く。広告も、とにかくセクシーさを強調。アバクロのファッションこそ最高にイケてる時代が続いたのである。

そんなアバクロが重視したのは、店の売り上げよりもスタッフの外見。黒人スタッフは夜勤の清掃が割り当てられ、アジア系が多い地区でも白人が優先的に採用される。あまりに差別的な実態に訴えが起こり、CEOの実像が明らかになっていくのだが、一企業に対し「ここまで描いていいの?」という忖度ナシのアプローチが、映画の面白さにつながっていく。次々とスキャンダラスなネタが暴露されつつ、いろいろと考えさせられるのも事実。ファッションブランドには自分たちの方向性があり、「似合う人に買ってほしい」という本音もあるはず。消費者には、単にカッコいいと憧れる心理もある。でもその考え方が行き過ぎると、時代に合わなくなっていき、アバクロのようにあからさまな差別につながってしまう。タイトルどおり、一時代を築いたファッションの“盛衰”がリアルにわかる、これは必見のドキュメンタリー!  

 
  




『目指せメタルロード』
製作・脚本/D・B・ワイス 監督/ピーター・ソレット 出演/ジェイデン・マーテル、アイシス・ヘインズワース、エイドリアン・グリーンスミス 

ヘビメタバンドを結成する高校生3人組の奮闘ぶりが面白い!
『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットしたように“バンド映画”は、アクション映画とはまた違ったベクトルで、観ているこちらのアドレナリンを上昇させる。音楽そのもののパワーはもちろん、メンバー同士の関係が超ドラマチックだったりするからだ。そんなバンド映画に、またひとつ愛すべき一作が誕生した。

バンドといっても、タイトルにあるように“ヘビメタ”。高校でマーチングバンド部に所属するケビンが、メタル大好きなハンターから誘われ、メタルバンドを組む。ケビンはドラム、ハンターはギターを担当するが、あと一人、どうしてもベースが必要。なかなかメタルに興味がある生徒がいないなか、ケビンが目をつけたのはチェロが得意な女子、エミリーだった。こんなメンバーでバンドが組めるのか、学内のバンドコンテストに出場できるのか、というドラマが、ハリウッド王道の青春ムービーのノリで進んでいく。メタルが好きなハンターは白い目で見られるし、明らかに気弱なイメージのケビンはイジメの標的になり、エミリーは精神的トラブルを抱えていたりと、キャラ設定も絶妙で3人の奮闘に共感してしまう作りだ。

この手の作品、往々にしてディープなネタがいっぱい出てくるが、本作の場合はメタルのバンドや曲の蘊蓄(うんちく)はサラリ。マニアックに行きすぎないので、実に観やすい。ハンターがこだわるのが“ポスト・デスメタル”。つまり自分たちの音楽を極めようとするし、「権力には真実と抵抗、そしてスピードだ」と語られるメタルの精神も、人生哲学っぽくて妙にカッコいい! 劇中には思わぬカーアクションもあったりと、サービス精神もたっぷり。そしてもちろんクライマックスのステージパフォーマンスは怒涛の映像&サウンドで展開されるので、気づいたら興奮と感動に酔ってしまった……という印象。ヘビメタのレジェンドたちが意外なシーンで登場するが、彼らとケビンの会話も実に味わい深い。 

 
 

 


『アダム&アダム』 
製作・出演/ライアン・レイノルズ 監督/ショーン・レビ 出演/マーク・ラファロ、ジェニファー・ガーナー、ゾーイ・サルダナ 

「あの時、もしこうしていたら……」を、叶えてくれる!
タイムトラベル映画は、時空を超えた主人公が、行き着いた先の人々とともに何かを“変える”ことが常識だが、本作の場合、タイトルから予想されるように、別の時代の自分と出会う。意外にこのパターンは少ないので、新鮮な感触! 主人公のアダム・リードは、2050年の戦闘機パイロット。その時代はタイムトラベルも使えるようになっているのだが、アダムはある理由から、タイムトラベルの発明を阻止するために2018年へ向かおうとする。しかし事故が原因で、到着したのが2022年。そこで12歳の自分と出会ったことで“2人”は協力してミッションに挑む。12歳のアダムが未来の自分に気づくプロセスもユニークだし、同じDNAを持っていることがカギになったりと、巧妙な展開に引きこまれてしまう。

設定だけ考えればシリアス&ハードだし、ド派手なアクションも盛りこまれるが、作品のムードは軽やかでハートウォーミング。そこも本作の大きな魅力。『スター・ウォーズ』や『ターミネーター』へのオマージュもストレートでわかりやすい。監督は『ナイト ミュージアム』のショーン・レヴィで、大人のアダム役が『デッドプール』のライアン・レイノルズなので、この軽快なノリも名人芸の域(彼らは前作『フリー・ガイ』でも組んでいる)。タイムトラベルものは、何かと辻褄合わせや、禁止ルールなどややこしかったりする。しかし本作はそのあたりもスッキリ作られているので観やすいはず。そして重要なシーンでは感動も用意されるが、そこもサラリと心地よい後味。誰もが「子供時代の自分に何を伝えたい?」と思いを巡らせることだろう。 

 

 
【ネットフリックス】惑星衝突で人類滅亡の危機!?『ドント・ルック・アップ』

『ドント・ルック・アップ』
原案・製作・監督・脚本/アダム・マッケイ 出演/レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス、ジョナ・ヒル、ティモシー・シャラメ、ケイト・ブランシェット、メリル・ストリープ、アリアナ・グランデ

惑星衝突で人類滅亡の危機に人々はどうする!?
天文学を専攻するミンディ博士と、教え子の大学院生ケイトが、地球に向かってくる巨大な隕石を発見。半年後に太平洋に墜落し、その被害は人類を壊滅させると予想される。あわてた2人は、アメリカ大統領に直訴するも、真剣に取り合ってもらえず、TV番組や、大企業を巻き込んで信じがたい大騒動へ発展。とりあえず彗星に攻撃を与えて進路を変えようとする作戦がはじまり……と、基本は地球滅亡のパニック映画なのだが、ノリは完全にエンタテインメント。

次々と事態が変わるジェットコースーターのような流れに乗せられつつ、ホワイトハウスやTV局の目を疑うような事実で超ブラックな笑いを誘ったりする。『サタデー・ナイト・ライブ』出身で、『バイス』などを手がけて、現在のハリウッドで最も勢いのあるアダム・マッケイ監督が、その才能を全開にした印象。

最初はさえない天文学者がメディアの人気者になるミンディ博士役にレオナルド・ディカプリオ。強気ながら、肝心な時に失敗する教え子のケイト役がジェニファー・ローレンス。このコンビのやりとりが最高に楽しいうえに、メリル・ストリープはアメリカ大統領役で大怪演。TVキャスターのケイト・ブランシェット、大企業CEOのマーク・ライランスと、ズラリ揃ったオスカー俳優が、それぞれ過去の作品とまったく違った演技。自身をパロったようなアリアナ・グランデも加わり、サプライズと笑いの連鎖が止まらない。彗星接近のカウントダウンの結果と、彼らの運命は? ここまで先が読めない作品も珍しいし、そのラストも軽々と予想を超えていく! 

 
 

 

『YOU-君がすべて-』
原作/キャロライン・ケプネス プロデューサー・脚本/セラ・ギャンブル、グレッグ・バーランティ 出演/ペン・バッジリー、エリザベス・ライル、ヴィクトリア・ペドレッティ シーズン1(全10話)、シーズン2(全10話)、シーズン3(全10話)

面白さ=異常さが魅力のサイコサスペンス作品!
動画配信サイトで連続ドラマを楽しむ際に必要になってくるのが、“一息つく勇気”。「◯話まで見たら、今日は終わりにしよう」「あと1話くらいは見たいかも」の攻防が視聴者の中で起こりがちになる。現在、ネットフリックスでシーズン3まで配信中の『YOU-君がすべて-』も、“一息つく勇気”を問われるシリーズ。だが、3シーズン経てなお面白さは健在で、悩ましい攻防にもなかなか勝たせてくれない。それどころか、シーズンを重ねるごとに面白さは加速。もっとも、このドラマの場合、面白さ=異常さでもあるのだが。

物語の主人公は、書物を愛する好青年のジョー・ゴールドバーグ(ペン・バッジリー)。シリーズ冒頭のジョーは、ニューヨークの書店で店長を務め、大好きな本に囲まれながら穏やかな日々を送っている。ただし、このジョーという男が実は非常に厄介で、想いを寄せた女性への執着が異常。相手の住居に不法侵入したり、SNSをパトロールしたりするなどのストーカー行為はもちろん、時には恋愛成就を目指して邪魔な人間を排除したりもする。

そんなジョーが大学院生のベック(エリザベス・レイル)に一目惚れし、彼女を振り向かせるために手を尽くしたのがシーズン1。ジョーの想いはベックに届くの? 届かないの? のスリルと、その先に待ち受ける意外な結末がシリーズの人気を決定づけた。1つだけ明かしておくと、この作品ではターゲットにされる側も決して清廉潔白な人間ではなく、それが物語のバランスの鍵になっている。

続くシーズン2は舞台をロサンゼルスに移し、ジョーが新たな相手をストーキング(!)。ただし、このお相手となるラブ(ヴィクトリア・ペドレッティ)が予想の斜め上を行くキャラで、実はジョー並みにクレイジーな女性であることが判明。

サンフランシスコが舞台となるシーズン3では、似た者同士で家庭を築くことになったジョーとラブのサイコ合戦が展開する。しかも、2人の間にはすでに可愛い第1子が誕生。クレイジーな夫婦は永遠の愛を誓い合えるのか? 誘惑、不倫から監禁、殺人まで、歪んだ家族ドラマがホームコメディ半分、血みどろ半分のノリで展開し、シリーズ史上最も面白いシーズンとの声も。ジョーとラブの異常な攻防にハラハラさせられながら、視聴者は“一息つく勇気”の戦いも強いられるはずだ。 

 
 

 

『マイネーム:偽りと復讐』
監督/キム・ジンミン 脚本/キム・バダ 出演/ハン・ソヒ、パク・ヒスン、アン・ボヒョン、キム・サンホ 配信/ネットフリックス
全8話(1話45分〜59分)

ヒロインのつらくて切ない死闘ぶりに心が動かされる!
主人公は、ハン・ソヒ演じる女子高生のユン・ジウ。父1人、子1人の家庭で育ったジウは、麻薬組織の一員だった父親を何者かに殺され、天涯孤独の身になってしまう。悲しみに暮れるジウは、父の親友だった麻薬組織のボス、チェ・ムジン(パク・ヒスン)のもとへ。父の復讐を果たすため、復讐する力を手に入れるため、組織の一員となって生きる決意をする。だが、そこは想像を絶する過酷な世界だった……。

と、これはまだシリーズ冒頭の展開でしかなく、ジウの復讐劇は何年にもわたる壮大なものへ。チェ・ムジンの後ろ盾を得ながら組織の中でサバイブしていくジウは、父を殺害した犯人が警察の人間であると確信。やがて正体を隠して警察官となり、新しい名前”オ・ヘジン”として生きることになる。ヘジンの目的は警察内部からチェ・ムジンをサポートすること、そして父の死の真相を突き止め、死に追いやった人物への復讐を遂げること。果たして彼女は目的を果たすことができるのか? ギリギリの状況に身を置くヘジンの死闘がノンストップで描かれていく。

シリーズも中盤を過ぎたころには、大半の視聴者は“マイネーム”を捨てて奮闘するヘジンに復讐を遂げさせてあげたくなるはず。身を置く状況の複雑さに反し、彼女の願いを最初から至ってシンプルなのだから。しかし、そう簡単にはいかないであろうことは、展開1つ1つの残酷さや壮絶なアクションシーンが物語っている。ヒリヒリとした全8話のラストに待ち受けているのは何なのか。先が気になり過ぎて居ても立ってもいられなくなるため、できれば一気に見る時間を作って楽しむのがおすすめ。 

  

 
ネットフリックス史上、最大の視聴者数!
『イカゲーム』は、なぜ面白い!?

『イカゲーム』
監督・脚本・演出/ファン・ドンヒョク 出演/イ・ジョンジェ、パク・ヘス、オ・ヨンス、ホ・ソンテ 配信/ネットフリックス
2021年/韓国/全9話

賞金456億ウォンをかけたサバイバルゲーム
『イカゲーム』で繰り広げられるのは、賞金456億ウォンをかけたサバイバルゲーム。謎の巨大施設に集められた参加者たちが、勝利を目指して各ゲームに挑戦する。ギャンブル癖を抱えて借金にまみれたソン・ギフン(イ・ジョンジェ)をはじめ、一家離散の憂き目に遭った脱北者のカン・セビョク(チョン・ホヨン)、会社の金を横領したエリート証券マンのチョ・サンウ(パク・ヘス)ら参加者の顔触れは様々だが、共通するのは大金を手に入れたい意思。それぞれの事情を抱えた者たちが寝食を共にしつつ、“負けたら即死亡”の世界へといざなわれていく。

また、施設のインテリアやファッション演出も残虐性からは程遠く、基本カラーはピンクとグリーン。参加者のジャージが濃いグリーンなら、運営スタッフの制服は濃いピンクのジャンプスーツで、ポップでキュートな色づかいに意地の悪さを滲ませる。

怖気づいた参加者たちを、一度は日常に帰しもする。それによって浮かび上がるのは、参加せざるを得ない現実、背後にある社会。一方、行方不明の兄を追って施設に潜入する警察官ファン・ジュノ(ウィ・ハジュン)を介し、犯罪行為にまみれた運営側に目を向けることも忘れていない。児童への性的虐待問題を扱った社会派映画『トガニ 幼き瞳の告発』などで知られるファン・ドンヒョクが全9話の監督、脚本を手掛け、腕を振るっている。 

 
 

 


『アーミー・オブ・シーブズ』 
原案・製作/ザック・スナイダー 監督・出演/マティアス・シュバイクホファー 出演/ナタリー・エマニュエル、ルビー・O・フィー、スチュアート・マーティン 配信/ネットフリックス
2021年/アメリカ/視聴時間129分

『アーミー・オブ・ザ・デッド』の前日譚!
マーベルやDCのヒーロー映画のように、それぞれの作品がクロスオーバーする世界観は、ハリウッドですっかり主流になった。しかしあまりに作品が広がりすぎると、追いつけなくなったりするのも事実。そこでオススメしたいのが、この作品だ。

『300<スリー・ハンドレッド>』や『ジャスティス・リーグ』などでアクション映画ファンに根強い人気を誇る、ザック・スナイダー監督。当たり障りのない痛快アクションというより、かなり過激だったり、マニアックな欲求を刺激したり、アクの強い表現も得意な彼の持ち味が最大限に発揮され、絶賛されたのが『アーミー・オブ・ザ・デッド』。ゾンビが解き放たれたラスベガスで、金庫からの大金強奪を描いたが、そこで天才的な金庫破りのテクニックを披露したキャラが、今回の主人公。ラスベガスの事件から時間を戻し、ヨーロッパを舞台にド派手な強盗アクションが展開していく。世界の強盗たちにとっても“伝説”とされる4つの金庫がターゲットとなるのだ。

『アーミー・オブ・ザ・デッド』でも、ちょっぴり浮いた存在だった、金庫破りの天才マティアスは、今回も超難関な犯罪計画に巻きこまれながら、自慢のテクを使いたい野心と、もともとの軽めの性格が絡み合って、さらに味わい深く、共感しやすいキャラへと進化。金庫に触れながら、複雑な内部に“感応”する鍵開けのシーンは、じつにユニークだ。マティアスを犯罪に誘うスリの名人のほか、計画の仲間たちも強烈に怪しい面々で、そのチームプレーが思わぬ方向へなだれこむあたりもスリリング。アメリカでゾンビが発生する事態や、意外なキーパーソンなど、『アーミー・オブ・ザ・デッド』とのシンクロを見つけられるし、この2作、どっちから先に観ても楽しめる。2022年には『アーミー・オブ・ザ・デッド』のアニメシリーズも完成するので、この“アーミー・オブ”ワールドの動向から、しばらく目が離せなくなりそう!

 
 

 


『レッド・ノーティス』
製作・出演/ドウェイン・ジョンソン 監督/ローソン・マーシャル・サーバー 出演/ガル・ギャドット、ライアン・レイノルズ、リトゥ・アリヤ 配信/ネットフリックス
2021年/アメリカ/視聴時間117分

壮大なスペクタクル犯罪劇!
『デッドプール』のライアン・レイノルズ、『ワイルド・スピード』シリーズなど大ヒット作が続くドウェイン・ジョンソン、そしてワンダーウーマン役でおなじみのガル・ガドット。3大スターが世界を駆け巡るアクション大作で集結。それだけで面白さは保証されたようなもの! レッド・ノーティスとは、インターポール(国際刑事警察機構)から最重要の指名手配犯に出された国際手配書のこと。高級美術品を狙う詐欺師のノーランが、レッド・ノーティスのターゲットだ。ローマでクレオパトラが残した秘宝を狙う彼の前に、FBIのスゴ腕捜査官が立ちふさがるが、インターポール、謎の大泥棒も入り混じり、壮大なスペクタクル犯罪劇へと突入する。
ツッコミどころもあるものの、一気の勢いにかき消される感じ。そして何より、R・レイノルズの、おちゃめ&おとぼけな活躍、ロック様の豪快さとコミカルな演技、男2人を手玉に取って余裕のガルと、これ以上ないほどのハマリ役を託されたスターたちに、最後の最後まで魅了されるのは間違いない。 

 
 

 意外な展開に驚くリベンジアクション!『スイートガール』
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『スイートガール』

製作・監督/ブライアン・アンドリュー・メンドーサ 脚本/グレッグ・ハーウィッツ、フィリップ・アイズナー 出演/ジェイソン・モモア、イザベラ・メルセド 配信/ネットフリックス

後半は、かなりとんでもない展開へ!
ガンで苦しむ妻を見守るレイ・クーパーは、新たな薬に最後の望みをかけていた。しかしその新薬は突如、市場に出ないことが決定され、妻は死去。製薬会社のダークな思惑が絡んでいると感づいたレイは、真実を突き止めようとしたところ、逆に謎の組織に命を狙われることになってしまう。レイと、娘のレイチェルは壮絶な運命に巻き込まれていき……。

大切な家族を亡くした失意の父娘の復讐劇というストーリーなのだが、父娘ともにボクシングで鍛えているという設定で、要所に過激なバトルも用意され、アクションサスペンス映画のムードが濃厚。とくにレイの戦闘シーンは「なんでこんなに強いんだ?」とも感じるけれど、『アクアマン』でのスーパーパワーが重なって、観ているうちに説得力を帯びていくから不思議!

そしてこの映画、後半にかなりとんでもない展開へなだれ込む。映画を観慣れた人も、たぶん心の準備ができておらず、驚くのではないか。その時点でタイトルが『スイートガール』だったことを思い出すと、なかなか意味深かも。 

 

 


『D.P. -脱走兵追跡官-』
監督・脚本/ハン・ジュニ 出演/チョン・ヘイン、ク・ギョファン、キム・ソンギュン 配信/ネットフリックス
2021年/韓国/全6話

感動と笑い、骨太なテーマを抱えた傑作ドラマ!
邦題にある“脱走兵追跡官”がダイレクトに示すように、ドラマの主人公は脱走“兵”を追跡する人。兵役義務のある韓国で、D.P.=Deserter Pursuit(軍隊離脱者追跡)の任務に就いた捜査官の苦闘が展開する。

捜査官と言っても兵士を追跡・逮捕するのもまた兵士で、主人公のアン・ジュノ(チョン・ヘイン)は兵役義務によって入隊した一兵士。鋭い洞察力と冷静で真面目な態度を見込まれたジュノがD.P.に抜擢され、様々な事情を抱えた脱走兵たちを追いながら軍隊の実情を目の当たりにしていく。

脱走兵の中には軍隊生活におけるいじめや虐待の問題にさらされた者も多く、ジュノ自身もドラマがはじまって早々に先輩兵から理不尽な仕打ちを受ける。いじめを苦に脱走する者、家庭の事情を抱えて家に戻りたがる者、ただ単に兵役の義務と向き合いたくない者などケースは様々だが、脱走兵たちの物語を通して傷つき、成長する主人公の果たす役割は大きい。

原作は2015年に連載がはじまったウェブ漫画で、D.P.経験を持つ作者キム・ボトン自ら脚本に参加。エンタテインメント性を帯びながら現実を巧みに投影した物語はやがて、韓国の軍隊における実際の事件と地続きになっていく。

ドラマの舞台になっている2014年について、ドラマを見てから知るもよし、頭に置いておきながらドラマを見るもよし。その後現在に至るまで兵士の虐待や脱走問題は減少傾向にあるというが、まだまだ考えるべきことはあると、衝撃のクライマックスが警鐘を鳴らす。笑いや感動をもたらし、青ざめもさせる。世界配信ドラマらしい気概のバランスもお見事。 

  

 


『刑事グロム VS 粛正の疫病ドクター』
原作/アルテョム・ガブレリャノフ、エフゲニー・フェドトフ 監督/オレグ・トロフィム 出演/ティーホン・ジズネーフスキ、リュボーフィ・アクショノヴァ、セルゲイ・ゴロシュコ、アレクセイ・マクラコフ 配信/ネットフリックス 

出会えてよかったと思える作品!
本編がはじまってすぐに映し出されるのは、舞台となるサンクトペテルブルクの街並み。だが、主人公の刑事イーゴリ・グロムは美しい風景などには目もくれず、というより美しい街を破壊しながら強盗を追いかけていく。これがマイケル・ベイ映画ならド派手で大胆不敵なアクションシーンを咎められることはないかもしれないが、グロム刑事は“やり過ぎ”のせいで上司に叱られるというオチ。冒頭数分で、この作品の迫力、ユーモア、現実味が示される。

茶色のベレー帽にくったりしたレザージャケットがトレードマークのグロム刑事はその後、ある殺人事件の裁判が行われる法廷へ。被害者は施設育ちの少女、加害者は富豪一家の青年。そして、青年に言い渡された判決は無罪。少女の兄はもちろん、事件の担当刑事だったグロムも、世間も、怒りを覚える。そんな中、街には“疫病ドクター”を名乗る人物が出現し、無罪になった富豪青年を殺害。黒いマントに鳥をモチーフにしたマスクをつけ、金持ちや権力者を次々と粛清しはじめた疫病ドクターを、グロム刑事が追うことになる。

疫病ドクターの出で立ちは「アメコミ好きの人かな?」と思わせるもので、実際、『刑事グロム VS 粛正の疫病ドクター』自体もロシアの人気コミックが原作。登場直後に明かされる疾病ドクターの正体に、バットマンとして活躍するブルース・ウェインのやり様とその敵ジョーカーの意識を重ねた人も多いと思う。疾病ドクターがSNSを通して若者や貧困層を煽り、模倣犯を従えながらヒーローと化していく展開に漂うのも“ゴッサム感”だ。

また、ポップでリズミカルな演出も作品の持ち味だが、とりわけユニークなのはグロム刑事が何か作戦を実行に移す前、(向こう見ずなくせに)頭の中でいちいちシミュレーションをするくだり。あっ、グロム刑事が死んでしまった…と思ったら、それは彼の脳内再生映像。「いかん。この方法では敵にやられてしまう」と結論づけて別の方法を探るグロムが、衝撃とハラハラを余計に提供してくれるのも楽しい。 

 
 

 


『ベケット』
製作年/2021年 原案・監督/フェルディナンド・シト・フィロマリーノ 脚本/ケビン・ライス 出演/ジョン・デビッド・ワシントン、ボイド・ホルブルック、ビッキー・クリープス 配信/ネットフリックス

緊迫逃亡劇ながら、旅行ムービーとしての魅力も備えた一作!
舞台となるのは、ギリシャ。アメリカ人旅行者のベケットは、ガールフレンドのエイプリルとともに休暇を満喫していた。深夜、クルマでの移動中にベケットは居眠り運転をしてしまい、崖から転落。クルマは崖下の民家に突っ込んでしまう。首都のアテネでは政治に対するデモでちょっとした混乱が起こっており、ベケットとエイプリルはギリシャ北部を旅していたのだが、これが裏目に出た。

頼れる人もいない場所での交通事故が、信じがたい運命に発展。ベケットは大怪我を負いながらも、理由もわからずに命が狙われ、孤独な逃亡を強いられてしまう。「なぜか追われる」という設定は、アルフレッド・ヒッチコック作品などで、サスペンス映画の王道。観ているこちらもベケットと同じ恐怖を味わいながら、彼のサバイバルを見つめることになる。ギリシャらしい遺跡や、絶景スポット、列車なども数多く登場し、緊迫逃亡劇ながら、旅行ムービーとしての魅力も備えた一作になっている。
 

 
 

 



『アーミー・オブ・ザ・デッド』
製作年/2021年 製作・監督・脚本/ザック・スナイダー 出演/デイブ・バウティスタ、エラ・パーネル、真田広之 配信/ネットフリックス

ゾンビだらけの中から大金を奪取せよ!
ソンビが大量発生し、外部から完全隔離されたラスベガス。しかし、あるホテルの金庫には2億ドルという大金が眠っており、その強奪計画のためにスゴ腕のチームが結成された。ゾンビを一掃するために隔離地区は間もなく爆破される。残されたわずかな時間で、空前のチャレンジは成功するのか? 

大量のゾンビが襲ってきて、噛まれたら自分も感染するという“ゾンビ映画”の基本を押さえ、カウントダウンの中での金庫破りという、緊迫クライムアクションが描かれる点が新鮮。チームの中心人物、スコット役が『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などのデイヴ・バウティスタで、計画を依頼する謎の男、タナカ役が真田広之。ほかに大スターが出ていないぶん、誰が生き残るか、全く読めないキャスティングが効果的だ。

なぜラスベガスにゾンビが出現し、どうやって隔離されたのか? その一部始終がオープニングに怒涛の映像で展開し、一気に引きこまれてしまう(この前日譚も今後、映画化)。スコットが集めたメンバーは無敵のエキスパートたちで、プライドのぶつかり合い、裏切りなどもあって、終始ハラハラ。その中で唯一、金庫を開けるために雇われた頭脳派が、いいアクセントになっている。 
 
 

 
ぶるぶるとスリルに震えるGWはいかが!?
ネットフリックス『ザ・サーペント』が超怖い!

『ザ・サーペント』
監督/トム・シャンクランド、ハンス・ヘルボッツ 脚本/リチャード・ワーロウ、トビー・フィンリー 出演/タハール・ラヒム、ジェナ・コールマン、ビリー・ハウル、エリー・バンバー、アメシュ・エディレウィーラ、ティム・マキナニー 1シーズン全8話(1話56〜59分)

実在の連続殺人犯とそれを追う外交官の攻防戦!

今年1月にBBC Oneでオンエアされ、4月からネットフリックスでの世界配信が始まった『ザ・サーペント』は、1970年代半ばに東南アジアやインドを震撼させた実在の連続殺人犯シャルル・ソブラジの物語。親切な宝石商を装って若い欧米人旅行者たちに近づき、詐欺と殺人を繰り返したソブラジの凶行と、事件の解決に人生を捧げた男の攻防が全8話の中で展開していく。

実話に着想を得た物語であることを冷淡に示すかのように、第1話の冒頭に登場するのは、何件もの殺人を犯してなお自由を得ているらしき事件後のソブラジ。「えっ。凶悪な殺人犯に制裁が下ってめでたし…ではないの?」という不安を容赦なく投下するストーリー構成が、かなり意地悪だ。やはりこちらも実在の殺人鬼“切り裂きジャック”を話の入り口にし、ミステリードラマとして高い評価を得た『リッパー・ストリート』の脚本家リチャード・ワーロウが、リアリティとドラマ性を交錯させながら手腕を振るう。

さらに、交錯するのはリアリティとドラマ性だけでなく、物語の時間軸も。ソブラジとその恋人らが犯罪に手を染める過程をシビアに描きながら、彼らを追うことになる外交官ヘルマン・クニッペンバーグの奮闘にも目が向けられていく。バンコクのオランダ大使館で働く中、ソブラジが殺したオランダ人カップルの事件を知り、現地警察に頼れない状況に翻弄されながら独断で動くヘルマンのストーリーは犯罪捜査ドラマらしいスリルと苦みが伴うもの。ソブラジらによる“事件時”とヘルマンらによる“捜査時”の間隔が、話が進むにつれ、ヘルマンがソブラジに近づくにつれ、徐々に狭まっていく感覚にもドキドキさせられる。 

 
 

 
予測不能な衝撃サスペンス!
ネットフリックス『瞳の奥に』に驚愕するワケとは!?

『瞳の奥に』
出演/シモーナ・ブラウン、イヴ・ヒューソン、トム・ベイトマン、ロバート・アラマヨ    全6話:各46〜53分

驚愕にも程がある結末が話題!
イギリスの作家サラ・ピンバラのベストセラー小説を原作にした物語は、シングルマザーのルイーズ(シモーナ・ブラウン)がバーで出会った既婚男性と意気投合するところからはじまる。しかも、相手の正体は、ルイーズが勤務する診療所の新任精神科医デイビッド(トム・ブラウン)だと判明。

惹かれ合う気持ちを抑えられない2人はたちまち肉体関係を持つようになるが、その一方、ルイーズはデイビッドの妻アデル(イヴ・ヒューソン)ともひょんなことから友人に。抜き差しならない状況に悩まされつつ、ルイーズは夫婦が抱える秘密に翻弄されていく。

不倫ドラマにサスペンスをミックスした味わいの展開は、それだけでスリル満点。夫婦の間で揺れ動くことになった主人公ルイーズへの共感は薄いが、どこか追い詰められたようなデイビッドの物悲しく頼りない佇まいや美しい分だけ狂気をはらんだアデルの言動が物語世界へと引き込む。
映像や登場人物たちの表情の中にそれとなく張り巡らされた伏線もあれば、悩ましいミスリードもあり。それらがすべて、“驚愕のラスト”へとつながる。 

 
 


 



『ラブ&モンスターズ』

監督/マイケル・マシューズ 脚本/ブライアン・ダフィールド、マシュー・ロビンソン 出演/ジェシカ・ヘンウィック、マイケル・ルーカー 視聴時間109分

キモかわモンスターズが妙に魅力的!
地球に小惑星が急接近し、人類はミサイルで惑星を迎撃。その攻防によって危険な化学物質が地上に降り注ぎ、巨大モンスターと化した生物が人間を襲いはじめた……。わずかに生き残った人類は、あちこちの地下室で生活。仲間とサバイブするジョエルは、130km離れた場所にいる恋人と再会するため、モンスターたちがうごめく地上へと出ていく。

130kmを日本で置き換えると、東京から静岡の手前あたりまで。この距離を、どこに潜んでいるかわからないモンスターをかいくぐって進むジョエルの冒険は、まさにドキドキの連続。モンスター以外との思わぬ出会いも、ジョエルの運命をドラマチックに盛り上げるので、全く飽きることがない。

アカデミー賞にノミネートされただけあって、モンスターたちの映像には、ひたすら衝撃と興奮を味わえる。基本的に昆虫や爬虫類が巨大に進化したデザインなのだが、細部まで生々しく、グロさだけでなく妙なかわいさもあったりして、レトロな“怪獣”のような印象も。

恋人の居場所に近づく後半は物語にひとひねりあったりして、エンタメとしての構成も上質だ。モンスター系、クリーチャー系が好きな人は大満足だし、そっちに興味がない人も、愛と勇気の物語を素直に楽しめる、オトクな1本なのは間違いない! 
 

 
 



『ザ・ホワイトタイガー』
原作/アラビンド・アディガ 製作・監督・脚本/ラミン・バーラニ 出演/アダーシュ・ゴーラブ、ラージクマール・ラーオ、プリヤンカー・チョープラー 視聴時間125分

インドの現実が見えてくる!

舞台はインド。来印する中国の首相に向けた、殺人罪で指名手配されている主人公の手紙の文面がナレーションとなり、物語が展開する。主人公バルラムは貧しい村で生まれ育った下層カーストの若者。貧困から抜け出そうと地主の運転手の仕事を得た彼は、米国留学から帰国して自由な空気をまとっている地主の次男アショクに憧れを抱く。しかし、アショクの妻が交通事故を起こし、その罪をバルラムが負うハメに。この時の怒りから、バルラムの胸にドス黒い欲望が広がっていく。

原作はインド出身の作家アラヴィンド・アディガによるブッカー賞受賞小説『グローバリズム出づる処の殺人者より』。インドと中国の急激な経済成長を背景に、それに乗るために危険な賭けに打って出た下層市民の告白を描いている。貧しい者が起業するには、手を汚して、ズル賢く立ち回らねばならない。そんな汚れの下に経済成長が成り立っている。宗教国家インドの現実を浮き彫りにした鋭い視点を、映画はそのまま反映している。

物語後半は一転して犯罪スリラーの色を帯びてくる。バルラムが抱いていたアショクへの憧れは失望に変わり、忠誠は不誠実な主人を裏切っても許されるという気持ちにどんどん変わっていく。それはバルラムが殺人罪で指名手配されることに繋がってくるのだが、これ以上はネタバレになるので、さらに予想外の展開に発展する……という解説にとどめておきたい。 
 
 

 


『シャドー・オブ・ナイト』
監督・脚本/ティモ・ジャヤント 出演/ジョー・タスリム、イコ・ウワイス 視聴時間120分

壮絶すぎるバイオレンスアクション!
主人公のイトウは、巨大犯罪組織トライアッドの殺し屋軍団“6つの大海”の幹部を務める男。ある日、麻薬を横流しした村人たちを虐殺する任務を受けた彼は、村の幼い少女に手をかけることができず、組織の戦闘員たちを皆殺しにして彼女を助けてしまう。トライアッドがこれを見逃すはずもなく、追われる身となったイトウはレイナとともに逃亡し、信頼できる昔の悪仲間ファティに助けを求める。

トライアッドはカジノを仕切る幹部アリアンに、“6つの大海”を任せることをチラつかせて、イトウの抹殺を命じた。イトウやファティのかつての仲間であるアリアンは、このミッションに複雑な思いを抱く。一方、トライアッドの包囲網はイトウをジワジワと追い込み、刺客が次々と出現。痛手を負いつつ何度も死線を乗り超えたイトウは意を決して敵地へと乗り込み、アリアンと対峙することになる。

殺し屋と少女の逃避行は『レオン』にも通じるエッセンスだが、その旅路は壮絶。欧米のアクション映画であれば、子供キャラの前で主人公が射殺や撲殺で自衛するような場面はほとんどない。その点、本作は容赦がなく、血しぶきは上がるわ、死体はゴロゴロ転がるわのトラウマレベルで、この娘の将来が他人事ながら心配になってくる!? ともかく、それだけギリギリの世界に彼らは放り込まれているのであり、緊張感も並々ならぬものがある。 

 

 



『ザ・コール』
原案/セルジオ・カシー 監督・脚本/イ・チュンヒョン 脚本/カン・ソンチュ 出演/パク・シネ、チョン・ジョンソ、キン・ソンリョン、イ・エル 視聴時間112分

どんでん返しだらけの
韓国ホラー!
物語の始まりは、2019年。20年前に父親を火事で亡くした女性ソヨン(パク・シネ)が、いまや無人となった実家を訪れることに。スマホを失くしたソヨンは仕方なく、家の物置にあったコードレス電話を使おうとする。

すると、電話の向こうからは見知らぬ女性の声が。その女性が生きている時代は1999年で、ソヨンが今いる家で暮らしているらしい。不可思議な現象に戸惑いながらも、電話の女性ヨンスク(チョン・ジョンソ)とソヨンは、時を超えた会話を通して距離を縮めていく。

あらすじのみ追うとほっこりした印象を受けるし、実際、ともに28歳のソヨンとヨンスクが電話越しに親しくなっていく姿は微笑ましい。ソヨンのいる時代の進歩を知ったヨンスクが目を輝かせたり、K-POP今昔話で盛り上がったり。しかし、冒頭から終始不穏な空気が充満する作品世界は、そのキュートなやり取りに笑みをこぼすことなど許さず、すぐさま意地の悪いスリラーの様相を呈していく。

過去にいるヨンスクは当初こそ未来にいるソヨンのため、しだいに自分のため“歴史の改変”に手を染めていくのだが、本作が恐ろしく、またユニークなのは改変するヨンスクが狂気の殺人鬼であるところ。敏感に一転二転する事態が悪夢のように、暴走するヨンスクと彼女を食い止めようとするソヨンの戦いへと変化していく展開が見事だ。 
 
 

 



『ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから』
製作・監督・脚本/アリス・ウー 出演/ダニエル・ディーマー、アレクシス・レミール 視聴時間/104分

愛の答えを求める若者たちに共感し、
傑作を引用した演出力に唸る!
物語の舞台は、アメリカの田舎町。母親を亡くし、父親と2人で暮らす中国系アメリカ人の高校生エリーは、相容れない同級生たちに囲まれながら、半ば諦めモードで学校生活を送っている。成績がよく、同級生たちに頼まれたレポートの代筆も淡々とこなす(お代はちゃんといただく!)エリーを担任教師は気にかけ、彼女を花開かせるような大学への進学を促すが、エリーの態度はどこまでもクールだ。

そんな中、アメフト部のポールが、ラブレターの代筆をエリーに依頼する。宛先は、学校で一番の美少女アスター。美しさだけでなく知性も備えたアスターは、ポールにとって高嶺の花だ。そればかりか、実はエリーもアスターに恋している。そうとは知らないポール、そして恋心をひた隠すエリーは、アスターを射止めるための『シラノ・ド・ベルジュラック』作戦を遂行することになるが……。

切実さを乾いたユーモアでくるみつつ、文学や映画の粋な引用に本音や皮肉を滲ませながら、それでも漏れてくる青春のきらめきを丁寧にすくい取ったアリス・ウー監督は台湾系アメリカ人で、同性愛者でもある。エリーらの物語には、自身の経験も投影しているそうだ。

となるとパーソナルな香りが漂うかもしれないが、そうではない。有能な監督と愛おしい登場人物たちが、これは“自分たちの物語”なのだと感じさせてくれる。青春映画の新マスターピースとして、長く大切に付き合っていきたい作品だ。 
 
 

 


『クイーンズ・ギャンビット』
原作・制作/スコット・フランク、アラン・スコット 出演/アニャ・テイラー=ジョイ、ビル・キャンプ、マリエル・ヘラー、トーマス・サングスター、モーゼス・イングラム 全7話/各話46〜67分  

孤児がチェスの才能を武器にのし上がる!
1960年代のアメリカから始まる物語は、至ってシンプル。母親を亡くして孤児となった少女エリザベス・ハーモン、通称ベスが、養護施設でチェスの才能を開花させ、やがて世界的なプレイヤーへと成長していくのが主な流れだ。冒頭、世を拗ねた天才少女として描かれるベスは可愛らしく、その姿からは児童文学のいたいけなヒロインの香りすら漂うが、ただし状況は思いのほか厳しい。「気持ちが落ち着くように」と養護施設で与えられた精神安定剤が、薬物やアルコール依存の問題となってベスの人生に暗い影を落としていく。

原作小説の著者は、自身もアマチュアのチェスプレイヤーだったウォルター・テヴィス。物語自体はフィクションだが、ベスの人物像には世界チャンピオン、ボビー・フィッシャー(映画『完全なるチェックメイト』でトビー・マグワイアが演じた)の要素が含まれている。とはいえベスは女性で、ボビー・フィッシャーは男性。あるときは性別を超えた知性でライバルを打ち負かし、またあるときは異性としての魅力を仲間に向けて放ちもするベスの活躍は、より痛快ですがすがしく見える。 

 
 

 



『ミッドナイト・スカイ』
製作・監督・出演/ジョージ・クルーニー 出演/フェリシティ・ジョーンズ、カイル・チャンドラー 

リアリティかつスケール感のある映像に圧倒される!
ジョージ・クルーニーが演じるのは、北極の基地に1人で残った科学者のオーガスティン。舞台は2049年。地球は滅亡の危機を迎えている状況で、多くの人が避難先を探す中、彼は宇宙船と交信して、地球に戻ることは危険だと知らせようとする。

孤独な時間を過ごすオーガスティンは、交信のために吹雪の中、遠く離れた天文台へ向かう。彼のサバイバルと奇妙な体験、さらに宇宙船の乗組員たちのドラマも同時進行し、未体験のスリルとスペクタクル、感動を届ける作品に仕上がった。

『ゼロ・グラビティ』では宇宙空間で自らの命を犠牲にしてまで仲間を助けたジョージ・クルーニー。今回は地上から宇宙船を助けるという役まわりだが、ヒゲもボーボーの姿で、より悲壮感を漂わせる表情に心を揺さぶられる。

そして宇宙のシーンにも力が入っており、宇宙船の美しい外観のデザインや内部の最新システムは、斬新ながらリアリティ満点。SF映画ファンが観てもテンションがアガるはず。要所のアクションのスケール感や、思わぬドッキリシーンの入れ方、謎の人物の行動の描写など、“監督ジョージ”の演出力も安定感バッチリ。宇宙船の地球への帰還と、オーガスティンの運命がひとつになるクライマックスも、“大人の演出”で見せきったジョージ、さすがである! 
 
 

 



『ザ・プロム』
製作・監督/ライアン・マーフィ 出演/メリル・ストリープ、ニコール・キッドマン、ジョー・エレン・ペルマン

『Glee /グリー』を彷彿とさせる、テンションがアガるミュージカル!
主人公はインディアナ州に住む女子高生のエマ。卒業を祝うプロムに、同性カップルで参加しようとした彼女が、PTAらに猛反対をくらい、プロム自体が中止の危機になってしまう。そのニュースを知った、NYブロードウェイの俳優たちが、保守的なインディアナ州の町に乗りこんで、エマを応援。

“多様性”をテーマにした今どきの物語を、とことんポップに明るく映画化したのは、ドラマ『Glee/グリー』などのクリエイター、ライアン・マーフィー。もともと舞台で高く評価されていた作品なので、音楽は最高のノリ。頭の中でリフレインする名曲も多いうえに、高校生たちのナンバーは振付がかっこよく、自然と楽しくなっていく感じ。

ブロードウェイの俳優を演じるのは、メリル・ストリープ、ニコール・キッドマンら大御所スターたち。実は彼らも、新作が大コケするなどコンプレックスを抱えており、自虐ネタで笑いを誘うシーンも多数。一方で、周囲から反発にあっても前向きなエマのキャラは、観ているこちらにも勇気と元気を与える。

大統領選が証明したアメリカの分断やカルチャーギャップも含め、普通のドラマで描いたら、ちょっと白々しくなりそうな状況も、ミュージカルだと感動できてしまうから不思議! キャストたちの最高の“芸”を、明るい青春映画のムードとともに堪能してほしい。 
 
 

 



『リベレーター:勝利へ、地獄の行軍500日』
原作・制作/ジェブ・スチュアート 出演/ブラッドリー・ジェームズ、マーティン・センズメアー、ホセ・ミゲル・バスケス 全4話/各話46分〜56分

アニメと実写を融合した革新映像に驚く!
ジャンルでいえば、この作品はアニメ。しかし限りなく実写に近い印象を与えるのは、『Trioscope(トリオスコープ)』という実写とCGIの最新合成テクノロジーを、初めて本格的に使った作品だから。未体験の映像に最初はとまどうかもしれないが、目が慣れていくと新鮮な感動すらともなっていくのだ。

1943年、イタリアに上陸したアメリカ軍の歩兵連隊サンダーバーズ。ドイツ軍を相手に苦戦を強いられながらも、フランスの山を越え、バイエルンでの悪夢のような決戦に挑む。タイトルにあるとおり、500日におよぶ死闘は、連隊を率いたフェリックス・スパークスの実話。そのスパークスに軍規違反で逮捕状が出されるなど、ドラマチックこのうえない展開が待っている。

俳優の演技をそのままアニメ化した作品は、以前もキアヌ・リーヴス主演の『スキャナー・ダークリー』などがあった。けれども、この作品は、より実写に近いイメージ。人物の表情や動きが異様に生々しいのだ。背景、特に遠景は実写の印象に近く、砂ぼこりや水しぶきも細かい部分までリアル。

一方で、流れる血がアニメっぽかったりして、戦争ドラマの衝撃感は斬新。後半のアクションは予想以上に壮絶だ。スパークス隊長が集めたメンバーは、前科者のワルばかり。それぞれ戦闘のエキスパートで、黒澤明監督の『七人の侍』を受け継ぐ、チームものとして感情移入させる。映像が映像だけに、最初は兵士たちの区別がしづらいが、ドラマの進行とともに各キャラが味わい深くなり、違和感も忘れるはず。そこも今作の大きな魅力! 
 
 




『Mank/マンク』
製作・監督/デヴィッド・フィンチャー 脚本/ジャック・フィンチャー 出演/ゲイリー・オールドマン、アマンダ・サイフリッド、リリー・コリンズ

モノクロ映像とレトロなサウンド、こだわりの演出!
舞台となるのは1930〜40年代のハリウッド。“時代の寵児”といわれた、若き天才監督、オーソン・ウェルズが、映画史に残る大傑作『市民ケーン』を完成させるまでの物語。とはいっても主人公は、ウェルズではなく、脚本を書いた、ハーマン・J・マンキーウィッツ(周囲に“マンク”と呼ばれていた)。

アルコール依存症が原因で大ケガを負ったマンクが、牧場の宿泊施設で、ウェルズの新作の脚本に取り組むが、そこにマンクの過去が重なっていく。ウェルズ側からの無理難題や、アルコールの欲求との格闘、看護師ら女性たちとのドラマで、オスカー俳優のゲイリー・オールドマンが、マンクを愛すべき天才として名演。思わず共感する瞬間が何度もある。

マンクが書く脚本の主人公は、旧知の新聞王ウィリアム・ハースト。ハリウッドでも権力を持つ男のスキャンダラスな面を入れこんでいるので、同時進行する過去のパートでは、映画業界のドロドロの舞台裏も展開。映画ファンには、たまらないエピソードの連続だ。

当時の映画を意識して、わざと合成っぽく見せる映像や、『ファイト・クラブ』でも語られたフィルムのウンチクを入れるなど、こだわりの演出がたっぷり。背景となる州知事選が、今のアメリカの大統領選に重なったりもする。

とはいえマニア向けというわけではなく、語り口はわかりやすいし、ハリウッド黄金期の女優を演じるアマンダ・サイフリッドのオーラを放つ美しさには、誰もがうっとりするに違いない。 
 
 

 



『コブラ会』
出演/ラルフ・マッチオ、ウィリアム・ザブカ、ショロ・マリデュエニャ 

オリジナルキャストの出演に、過去映像の挿入と、続編らしい演出にグッとくる!
ケンカが弱く、イジメにもあうダニエル少年が、師匠のミヤギから空手を習い、因縁の相手と対決する、スポ根を絵に描いたような『ベスト・キッド』。同作でダニエルが闘った相手、ジョニーを中心にこの『コブラ会』は展開していく。

34年前の大会でダニエルに敗北を喫したジョニーは、その後、飲んだくれの人生を送るものの、かつて所属していた空手道場“コブラ会”を復活させる。なんといってもテンションが上がるのは、ダニエル役のラルフ・マッチオと、ジョニー役のウィリアム・ザブカが再び共演している点。

すっかりオヤジになった彼らのプライド対決はもちろん、ジョニーの息子がダニエルの部下となって空手を習い、ジョニーの一番弟子がダニエルの娘と交際するなど、絡み合った人間関係が面白すぎ!

盆栽や、沖縄で買った刺身包丁など、『ベスト・キッド』シリーズのネタが次々と出てくるうえに、ポイントでは懐かしの映像をたっぷり挿入。特にミヤギ役で、今は亡きノリユキ・パット・モリタの勇姿と“教え”には思わずニンマリとしてしまうはず。

やや奇抜な空手のトレーニングも受け継がれ、このあたりはオリジナルを知らない人でも大いに楽しめるだろう。そしてジョニーとダニエル、2人の主人公に善と悪の両面が入っているあたりが今っぽい。

ダメ主人公の一念発起で胸が熱くなるオリジナルの精神が、時代を超えてアピールするのは確実。 
 
 

 



『シカゴ7裁判』
監督・脚本/アーロン・ソーキン 出演/エディ・レッドメイン、アレックス・シャープ、サシャ・バロン・コーエン、ジェレミー・ストロング、ジョゼフ・ゴードン=レビット、マイケル・キートン 

巧みな演出で熱血男たちに引きこまれる!
妙にかっこいい響きの“シカゴ7”。これは1968年、ベトナム戦争への派兵に反対し、民主党大会でデモを起こそうとしたとされる活動家7人のこと。彼らが扇動したデモによって、警察側と激しい衝突が起こり、数百人の負傷者が出た。シカゴ7(セブン)と呼ばれた彼らの裁判は、全米の注目を集めることになる。

こんな風にストーリーを書くと、やや堅苦しい社会派の印象で、法廷での密室ドラマが予想されるが、映画の冒頭から裁判官とシカゴ7のやりとりがちょっと笑えたりして、脚本の巧さに引きこまれてしまう。監督と脚本を担当したのが、『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞脚色賞に輝いたアーロン・ソーキンなので。このあざやかさも納得!

裁判中に出てくる数々の証言や、意外な事実など、法廷の外での再現シーンもたっぷり。デモ隊vs警察のアクションは過激だし、手に汗握る緊迫感も充満する。やや複雑な人間関係も、それぞれが役者の魅力でキャラ立ちしているのですんなり理解できるはず。

特にベテラン陣の演技が味わい深く、本心を表に出さない弁護人のマーク・ライランス、実に嫌味な裁判官のフランク・ランジェラは今年の助演男優賞に推したいほどのインパクトなので注目を。終盤はいかにもハリウッド作品らしいエモーショナルな流れなのだが、素直に心が揺さぶられる人も多いのでは? ベトナム戦争時代の実話ながら、今を生きる我々に訴えてくる強靭なテーマをもった一作! 
 
 

 



『オールド・ガード』
原作・製作総指揮/グレッグ・ルッカ 監督/ジーナ・プリンス=バイスウッド 出演/シャーリーズ・セロン、キキ・レイン、マーワン・ケンザリ 

不死身の肉体を持つ苦悩に、最後は涙!
シャーリーズが演じるアンディは、“不死”の肉体を持って生まれてきたという設定。戦いでケガをしてもすぐに治癒し、命を落とすことはない。何百年も生き続け、人類の歴史に“傭兵”として関与し、重要なミッションをこなしてきた。

“オールド・ガード”と呼ばれる不死身のチームは、新たにメンバー入りした軍兵士のナイルを含めて現在、4人。彼らは“死なない”という特殊な能力を持っているのだが、それ複製しようと、製薬会社が恐るべき陰謀を仕掛けてくる。

一見、スーパーヒーロー映画のようだが、描写は徹底してリアル。アクションとドラマのバランスも絶妙で、グイグイと作品世界に引きこまれる感覚を味わえる。

スリムなボディを生かした、流れるように美しいアクション。そして、男たちも率いて限界に挑むリーダーシップ。シャーリーズの性別を超えたかっこよさは、そのしなやかな動きを観ているだけで惚れぼれする! また新メンバーのナイル(こちらも女性)の無鉄砲な活躍にもテンションがアガるだろう。

そして、オールド・ガードたちの“永遠に生き続ける”という能力を持ったがための苦悩、これに関しても要所要所で語られ、その痛切さもビンビン伝わってくる。メリハリあるストーリー展開は、実に映画然としている。ちなみに、一瞬だけ登場する脇キャラも印象的なので、ご注目を。全体の流れから、シリーズ化の可能性も感じてしまうので、そんな想像力を広げながら楽しむのも一興だ。 
 
 

 



『タイラー・レイク ―命の奪還―』
監督/サム・ハーグレイヴ 脚本/ジョー・ルッソ 出演/クリス・ヘムズワース、デヴィッド・ハーバー、ゴルシフテ・ファラハニ

激しいバイオレンスアクションに圧倒される!
クリスが演じるのは、アフガニスタンなどに出征経験のある傭兵タイラー・レイク。彼は世界各地の危険なミッションを依頼され、持ち前のパワーと完璧な計画で任務をクリアしていく。アクション映画の主人公としてパーフェクトすぎるキャラだ。

今回タイラーが請け負ったのは、誘拐された犯罪組織のボスの息子を救い出す仕事。舞台はバングラデシュのダッカ。少年の捜索と救出劇は、現地のギャングや警察をも巻きこみ、想定外の危険なレベルへと発展していく。撮影は実際にダッカとその周辺で行われたため、現地の空気感や匂いまでが伝わってきそうなリアル感。

最大の見どころは、タイラーの“強さ”だ。無敵の肉弾戦に、スナイパーとしての銃撃テクはスーパー級。さらに瞬発力もハンパなく、敵をバッタバッタと倒していく。

そのタイラーの活躍を追うカメラにもご注目。それが、中盤くらいに約10分間続くワンカット(に見える)シークエンスだ。カーチェイスにはじまり、入り組んだ集合住宅内へと続く敵との攻防で、タイラーとカメラが一体化。観ているこちらに圧倒的な没入感、臨場感を届けてくれる。

ドラマでは、タイラーがなぜそこまで少年を守るのか。その理由もポイントになってくる。バイオレンス描写が全体に強烈なので、このあたりは観る前に心の準備を!
 
 
 

 



『スペンサー・コンフィデンシャル』
監督/ピーター・バーグ 出演/マーク・ウォールバーグ、ウィンストン・デューク、アラン・アーキン 

熱血アクションに、とにかくテンションが上がる!
主人公は、5年の刑務所暮らしを強いられた警察官のスペンサー。出所後、もちろん復職できるわけはないのだが、持ち前の正義感に逆らえず、勝手に危険な事件の捜査に乗り出していく。

そんな設定自体、映画向き。しかも演じるのが、マーク・ウォールバーグ。カッとなったらすぐに手が出てしまうワイルドな性格で、しかも格闘能力は抜群。肉体派スター、マークにぴったりなうえに、彼の当たり役となった『テッド』のようなコミカルな魅力も今回のスペンサー役に加味。

無謀で強引なその行動やアナログな性格に、観ているこちらはアドレナリンが上がったり、思わず笑ってしまったりと、その配分が絶妙なのだ。

監督のピーター・バーグは、男くさいアクション映画が得意中の得意。これまで4本の映画でマークと組んでいるだけあって、スペンサーに共感させる演出がスムース。

相棒を演じるのが、初の映画出演である人気ラッパーのポスト・マローン。ややぎこちない演技も役柄にぴったりで、スペンサーとの微妙な距離感が、これまたいい感じ! 

そのほか、やたらと犬が重要な役割を果たすのも、今作の見どころになっている。汚職警官やギャング、FBIという巨大な敵を相手にした、体育会系ヒーロー。その活躍は何度も観たくなる豪快さだし、原作の小説は人気シリーズなので、2作めが作られる可能性は大!?  
 
 

  



『トリプル・フロンティア』
原案・脚本/マーク・ボール 監督・脚本/J・C・チャンダー 出演/ベン・アフレック、オスカー・アイザック、チャーリー・ハナム、ギャレット・ヘドランド 視聴時間125分

盗みすぎた大金、どうやって運ぶ!? 

民間軍事会社に所属する主人公のポープ(オスカー・アイザック)が、ブラジルの麻薬王から大金を強奪しようとする物語。声をかけたのは、米陸軍特殊部隊時代の仲間。大金に目がくらんだ5人は、かなり強引といっていい作戦をはじめるのだが……。

『七人の侍』や『オーシャンズ』シリーズ、さらには『アベンジャーズ』シリーズなど、腕に自信のある者たちが“ワンチーム”になる設定は、それだけでテンションが上がる。本作もその流れを受け継いでいて、しかもヒーローではなく“アウトロー”の集団だというのが大きな魅力。大金を強奪する場面でも、それぞれ我が強い彼らのプライドがぶつかり合う。

5人の運命も予定調和じゃないので、サプライズも楽しめる。ちょいワルどころじゃない、ハイレベルなワルたちの犯罪アクション映画を是非! 
 
 

 



『ザ・テキサス・レンジャーズ』

監督/ジョン・リー・ハンコック 脚本/ジョン・フスコ 出演/ケヴィン・コスナー、ウディ・ハレルソン、キャシー・ベイツ
視聴時間132分

犯罪者ボニー&クライド、どう捕まえる!? 

まず驚くのが、冷血そのもののボニーとクライドが、アメリカ国民にとっては、ある種の“ヒーロー”だったという事実。銀行を襲い、刑務所から囚人を脱走させ、追ってきた警官を返り討ちする2人。その姿が、権力や富に反発する人々の心を掴んでしまった。ボニーのファッションが女性たちの間で流行したりと、そんな異様な当時の状況も本作は描いている。

しかも、ボニーとクライドの顔を映像でほとんど見せていない。これも、うまい演出! 終盤の展開は『俺たちに明日はない』を知っている人には“お約束”ではあるが、それでも一大クライマックスまでに高まる緊迫感と、すべてが爆発するアクションは圧巻の一言だ。

そしてこの映画に最も引きこまれるポイントは、テキサス・レンジャーズの隊員2人が下す決断と苦闘。演じるのはケヴィン・コスナーとウディ・ハレルソンで、はっきり言って若くはない。

一度はレンジャーズを退いた中年の彼らが、アメリカで最恐の犯罪者に立ち向かうわけで、衰えていた銃の腕前や体力を復活させる姿は、ちょっぴりユーモラスでもあり、共感せずにはいられない。そんな2人がFBIとも対立しながら、経験とひらめきで追跡を続ける。時代や国を超え、濃厚な男のロマンが充満する一作となっている。
 
 
 

 



『アンカット・ダイヤモンド』
監督・脚本/ジョシュ・サフディ、ベニー・サフディ 出演/アダム・サンドラー、キース・スタンフィールド、ケヴィン・ガーネット 
視聴時間135分

ダメ男の一獲千金の大勝負! 
アダム・サンドラーが演じるハワードは、ニューヨークの宝石商。かなり高額な商品も扱い、顧客には有名人もいる。エチオピアで採掘された超貴重なオパール(宇宙が見えるという石!)をようやく手に入れた彼は、競売にかけようとする。けれども、この石に惚れこんだNBAのスター選手から、彼のチャンピオンリング(指輪)を担保に一晩貸してほしいと頼まれ……。

このハワードという男、仕事での一攫千金をもくろんがために、ギャンブルに溺れ、多額の借金を抱えていたりする。かなりのザ・ダメ男なのだ。この点はアダムにぴったりだが、たどる運命は、めちゃくちゃ危険! 担保の指輪を質に入れて大金を手にしたり、オパールがなかなか返ってこなかったりと、セコい悪事や想定外の失敗が重なってドツボにハマっていく姿は、まるでアリ地獄のようでスリル満点!

映画というものは、ストーリーを追うことを重視するタイプと、雰囲気やノリで見せるタイプがあるけれど、今作は明らかに後者。宝石店での客とのやりとりや、借金返済を迫る一味との攻防など、観ているこちらもそこにいるようなリアリティで演出されている。そしてクライマックスの怒涛感は、文字どおり心臓バクバクの効果絶大! ちなみに、NBAの元スーパースター、ケビン・ガーネットが本人役で出演しており、本格的ゲームシーンにも注目を! 

 
 

 


『タイガー・キング:ブリーダーは虎より強者?!』

監督/エリック・グッド、レベッカ・チャイクリン 出演/ジョー・エキゾチック  1シーズン8話(1話/48分)

ヤバい犯罪者だらけの衝撃ドキュメンタリー! 
特別に映画ではなく、ドキュメンタリーのシリーズ作品をご紹介。というのも、今、ネットフリックスで話題沸騰の作品があるから。3月20日に配信が始まり、10日間でなんと3420万人が視聴したうえに、キム・カーダシアンらセレブがこぞって熱狂している。それが、『タイガーキング』だ。観はじめてすぐ、その“ヤバさ”に誰もが呆気にとられるはず。賛否両論巻き起こしている、ドキュメンタリーなのである!

まず強烈なインパクトで迫ってくるのが、主人公のキャラクター。私設の動物園を経営し、100頭以上のトラなど野生動物を大量に飼育しているジョー・エキゾチック。その外見、生い立ちが過激なうえに、ゲイで2人の夫と同時に結婚。ほかにも、直にトラと触れ合うなど、何から何まで想像をはるかに超えるエピソードだらけ! 

さらに驚くのは、ヤバすぎるのがジョーだけではないってこと。彼を猛批判する動物愛護活動家の女性が、これまた怪しい保護活動をしており、過去の重罪がちらつくのだ。さらにジョーが師と仰ぐ、やはり私設動物園を運営する男はまるでカルト教団のリーダーのよう。野生動物を取引する麻薬王なども出てきて、とにかく“闇”の世界がどんどん広がっていくのだ。

トラに襲われる飼育員など目を疑う映像なども挿入され、誰もがこのドキュメンタリーを観て感じるだろう。“アメリカって、本当にここまでイッちゃってる人がいるんだ!”ということを。エピソードにどんどんハマっていく感覚を味わえる問題作。 

 
 

 

 
Information

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文=斉藤博昭、相馬学、渡邉ひかる text:Hiroaki Saito、Manabu Souma、Hikaru Watanabe
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