【マドンナ】お騒がせなポップの女王の正体とは!?
史上最も売れたアーティストの1人で、“クイーン・オブ・ポップ”とも称されるマドンナ。’80年代から現在まで精力的に活動する彼女だが、最近も入院騒ぎで世間の注目を集めたばかり。この音楽史に名を残すスターを、モーリーはどう見ている!?
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- アメリカ偉人伝! vol.15
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1984年に撮影されたマドンナ。「ライク・ア・ヴァージン」でブレイクした頃だ。アクセサリーをジャラジャラとつけた初期ビジュアルは、いかにも’80年代風。ちょっと生意気そうな雰囲気が多くの男性を魅了した!
僕がアメリカにいた’80年代は、マドンナがスターダムに上がっていく真っ只中。でも、僕のいた大学のコミュニティでは、マドンナを徹底的に嫌っていました。なにが嫌だったかを振り返ってみると、たぶんMTVの進出がすごく不純に思えた。まずチャラい。そして原色の映像効果やアニメーションがひたすら流れ、キャンディのような状態が延々と続く。それは知能の低い人間のエンタメだ、と。自主流通のような音楽しか聴かない人間にとって、マドンナは真逆の存在。彼女はいやらしい商業主義の象徴、そのボスキャラになっちゃったんです。
彼女からすれば、すべてパフォーマンス。ショックバリューありきです。同時進行でいろいろなセレブとつき合って、パートナーを定めず「好きにするわよ」みたいな本も出している。そのあり方が、LGBTコミュニティやボディポジティブ系のフェミニストたちにウケました。それに加えて、彼女のグラマラスなイメージが、コスメ産業やハイブランドとの蜜月関係を生んでいく。反体制・反資本主義・反男性をやっておきながら、まさに自分が批判している男性支配のファッション業界を地でいっているじゃないか、と。そういう見方もできるわけです。
ところが、ここからがややこしい。ネット時代になり、当時のマドンナを検証できるようになった。そうすると、確かにビデオに黒人やLGBTを積極的に起用している。当時はそうした人たちをできるだけ使いたくないという時代です。ゲイは特にダメ。そういう時代に、マドンナはマイノリティを非常に推していた。やりすぎると総スカンをくらうけど、嫌悪感を抱かせるところまではやりません。そこに彼女の戦略性、プロフェッショナリズムを感じますね。
彼女がニューヨークに出てきた頃に好きだったのが、詩人のアン・セクストンでした。フェミニズムの芽吹きになったような人ですが、最後には自殺してしまう。マドンナは、こうした男性社会の中で抑圧され、奮闘した女性たちをロールモデルにしたそうです。画家のフリーダ・カーロとかね。さらに彼女が所属したダンスカンパニーが、女性の身体とはなにかをテーマにし、性的な描写がダンスに含まれていた。こうした影響を考えて、あの露出狂のようなマドンナがあると線を引くと、ある種の連続性を感じます。主体的な女性として、自分の身体や性的な部分も含めて発信していくという。
ちょうど10年前、マドンナは今の彼女に至る変曲点というべき即興映像を撮影しています。中米風の警察がマイノリティや活動家を無意味に拷問するという、20分程度の内容。その即興映像に対してマドンナが後づけで考えたのは、声を上げたことで暴力や圧迫を受けているすべての人たちは、みんなで革命を起こさなければならないという強いメッセージでした。その後に行われたインタビューも興味深くて、世界の状況をよく捉えています。フランスやアメリカの政治状況を大味に話しているのですが、その内容がかなり予言的。トランプ以降に起きることを異様なほどいい当てていて、Me tooも予言しています。このあたりからメッセージがガチッと特定の層に向けられ、立ち上がれという内容になっていく。後にレディー・ガガなども出てくるわけですが、マドンナが先に舗装道路を作っていたんですよね。
かつて際どいとされていた彼女のメッセージも、今では当たり前になってきた。それはそれで本望でしょう。マドンナが繰り広げてきた長い戦いは、少なくとも欧米では勝ちに軍配が上がりそう。そこはすごく頑張ったなと感じます。日本はまだまだですが、レディー・ガガやマドンナから生きる力を得て、ヘッドフォンの中で自由になっている子はいるはず。今後、意外なところでマドンナのバトンを受け取る人も出てくると思いますね。
センセーショナル!?
レストランでのディナーに出かけるマドンナとマイケル・ジャクソン。1991年に撮影。2人は一瞬だけ恋に落ちたようだが、大方の予想どおり長続きしなかった
1985年に行われたマドンナとショーン・ペンの結婚式。厳戒態勢で行われたにもかかわらず、マスコミのヘリやパパラッチが押しかける騒動になった
手掛けた伝説的衣装!
1990年、ロンドンのウェンブリー・スタジアムでパフォーマンスするマドンナ。このブロンド・アンビション・ツアーでは、ジャン=ポール・ゴルチエによる前衛的な衣装も話題になった!
マドンナのライブツアーは総じて高く評価されているが、ステージ演出やダンスパフォーマンス、衣装だけではなく、最新のダンスサウンドからエスニック調まで多彩にアレンジされた楽曲も魅力。原曲とライブ盤を聴き比べるのもいい。
なにかと話題のドラマにコラボ楽曲を提供!
ザ・ウィークエンドが製作総指揮を務めたドラマ『THE IDOL/ジ・アイドル』に、ザ・ウィークエンドとのコラボ楽曲を提供したマドンナ。主演はリリー=ローズ・デップで、一部ではセクシーすぎるとの批判も起きた話題作だ。曲と内容の関連性も気になる!?
教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。日米双方の教育を受け、東京大学とハーバード大学の両方に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家、DJとして幅広く活動中。最近はモーション・グラフィックスなどの映像加工にハマり中。
8/100
共鳴する点はあるけど過去のトラウマが……
「20代のトラウマから抜けられず、共鳴できるところはあっても嫌なものは嫌。僕は覆面でギターを弾いて認められたいタイプなので、この点数にさせていただきます!」
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雑誌『Safari』9月号 P186~187掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.)
photo by AFLO