【ボブ・ディラン】世界中の人々を魅了し続ける男の実像とは!?
歌手として初のノーベル文学賞受賞でも話題となったボブ・ディラン。メッセージ性の高い詩的表現は今なお多くの人の心を捉え、81歳となる現在も第一線で活動し続けている。そんな伝説的ミュージシャンを、モーリーはどう見ている!?
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- アメリカ偉人伝! vol.11
1968年、ニューヨーク州ウッドストックで撮影。芸術コロニーのバードクリフで、雑誌『サタデー・イブニング・ポスト』の撮影を行なった様子。1966年のバイク事故以降、ディランはこの地で静養を兼ねた隠居生活を送った
実はディランというのは、僕と一番遠いところにいるんです。会ったことのない父親のような感じ。疎遠だった主な理由は、ハーバード大学に通っていた頃に出会った、メンター的な先輩ですね。彼らは非常に政治性が強く、よくディランの話をしていた。初期こそが本物だとか、その後は商業化したとかね。ディランは’60年代の急進的な政治運動や、ビートの詩人や文学者に強い影響を受け、どんどん歌を生みだした。
大学の先輩が「初期のディランはよかった」というのは、ビート文学、ベトナム反戦、カウンターカルチャー、ビートルズ、それら全部を合わせて最高という話。そこにはノスタルジーがあるんです。僕が大学にいたのは’80年代なので、もう完全に後ろ向きな説教や教科書のようでね。僕らが若い人に「ブルーハーツも知らないのか」なんて語りだしたら、嫌ですよね。
ディランの時代になにが起こったのかを整理すると、彼は時代の共鳴点に立つのだけど、ベトナム反戦や公民権運動がヒートアップする中で、自分ではコントロールできない力に翻弄される。そして人気者の自分に全方位的に便乗され、なにかの象徴にされていく。彼はいったんすべてから距離を置き、サウンドを聴かせる人になる。それでライブをやったところ、昔のようにギターをかき鳴らして歌わないということで非難された。そんな経緯もあり、僕らの頃のディランは、もはや世捨て人のようになっていました。
ディランが影響を受けたビート文学というのは非常に巨大です。バロウズ、ケルアック、ギンズバーグは、これからもずっと音楽家のバイブルであり続けるはず。それを商業的に進めたのが当のギンズバーグ。世の中の流行に乗せてうまくプロモートしました。それでディランにも近づく。ビートは全盛期をかなり過ぎて、反戦運動の流れで再評価された。実は僕の在学中にも再評価の波がありました。当時つき合っていた女性が大学の新聞記者をやっていて、ギンズバーグにインタビューする機会があって、すっかり感化されて、夏の休暇の間に自分もビート体験をするといいだした。それでドラッグ漬けになって帰ってきて、とんでもないことになりました。だから僕にとっては、それらすべてがおぞましいものに見える。運命の巡り合わせか、悪い形でしかディランに接していないんです。
ただ、ディランも苦悩したはず。ある時代の最先端に押し出され、降りようとしても降りられない。演奏がヘタだとか、自分を疑う要因もいろいろと出てくる。この50年、ずっと苦しみの中で生きてきたんじゃないかな。彼のある種の厭世的な立ち位置というのは、ソローのようなアメリカ文学の伝統を受け継いでいるところがあります。つまり都会の便利な生活を離れ、自給自足で暮らすアメリカニズム。そこには当然、プロテスタントの信仰があります。貧困や迫害から逃れて移民した人々が、神のプランに基づいて人生を全うする。アメリカの建国以来共有されている使命感ですね。ところが語られないのは、そこにはカトリックやユダヤ人の排除があった。ディランもユダヤ人だから、二面性があるわけです。同様に、商業主義を批判しつつ、レコードを売って儲けているという矛盾もある。
彼はある時点で「俺はもう善悪じゃない」といっています。おそらく素直な気持ちだったと思うんです。なにからなにまでインチキだ、俺だってインチキじゃないか、という自己嫌悪が強くあった。その点で、彼は真の詩人ですよね。自己嫌悪できる人は少なく、どちらかというと流れに乗ってしまう人がほとんど。ギンズバーグはそういう人だったけど、ディランはそれをいっさいやらず、ある意味で高潔でした。彼にとって幸運だったのは、早い時期に自分の名声が虚しいものだと気づいたこと。溺れてしまう人も多いのに、そこは本当に尊敬できますよね。
影響を受け、そして与えた!
1965年に撮影された“フォークの女王”ジョーン・バエズとの写真。ディランが有名になる前から親交があり、最大の理解者であり、恋人でもあった
元ビートルズのジョージ・ハリスンとディラン。1988年に撮影。同年には2人を含む覆面バンド“トラヴェリング・ウィルベリーズ”が結成された
勲章を授与されたことも!
2012年、ホワイトハウスに招かれ、当時の大統領バラク・オバマから大統領自由勲章を授与された。米国の国益、世界平和、文化活動などに貢献した人物に贈られるもので、アメリカでは最高位の勲章
ディランはもともとユダヤ人・ユダヤ教徒として生まれたが、1970年代末に一時、新興キリスト教団体の福音派に改宗している(数年でユダヤ教に回帰)。ファンからはブーイングを浴び、ジョン・レノンなどからも公に反対された。
待望の来日公演がいよいよ間近に迫る!
初来日から45年となる今年、ワールドツアーの一環として4月に来日。大阪・東京・愛知で合計11公演というのは、彼の年齢を考えると異例のこと。来日は2018年のフジロック以来。新作を発表した2020年に来日公演がコロナ禍により中止となっていた。
教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。日米双方の教育を受け、東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家、DJとして幅広く活動中。膨大な知識と縦横無尽な思考に加え、ユニークなキャラクターでも人気。
33/100
接点は少ないけど見習うべき点も多い!
「知れば知るほど痛々しい部分が見えてきちゃう。ただ、60年以上の息の長い活動に敬意を表して33点です。同じ人生は送りたくないけど、見習いたい部分も多い人物ですよね」
前回の“アメリカ偉人伝”は
◆【マイケル・ジャクソン】世界中に多大な影響を与えた真のすごさとは!?
雑誌『Safari』5月号 P242~243掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.)
photo by Elliott Landy/Magnum Photos/AFLO
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