野球選手 則本昂大
1990年、滋賀県生まれ。東北楽天ゴールデンイーグルス入団1年め(2013年)に開幕投手に抜擢され、15勝8敗の好成績でチームの初優勝、日本一に貢献。2014年の日米野球で日本代表初選出。
気迫を前面に押し出した投球で、打者をねじ伏せる東北楽天ゴールデンイーグルスの則本昂大。昨シーズンからは、試合の最後を締めくくるクローザーとしてその重責を担っている。彼が分岐点として語ってくれた試合は、2013年7月6日の福岡ソフトバンクホークス戦。開幕投手を任され、鮮烈なデビューを飾ったルーキーイヤーにプロ初のリリーフ登板を任された一戦だ。
「交流戦の後くらいから、なかなかよい結果が出せない試合が数試合続いていました。さらに、この試合の前夜のソフトバンク戦では、うまく打ち取ろうと思ってコースを狙いすぎてしまい、気づいたら1イニングで4失点という状態に。自己最短の1回で降板させられてしまった。これはもうファーム行きだろうと思っていたところ、コーチから中継ぎでブルペン待機という指示があり、運よく出番が回ってきたという一戦でした」
初回KOとなった前夜からの連投で、しかも初の中継ぎという采配にどよめきを浴びながら、マウンドに立った則本。先発・戸村健次が二死一、三塁と攻め立てられた3回裏のことだったが、新人右腕はこのピンチをあざやかに切り抜け、6回まで無失点の好投。6月6日以来、1カ月ぶりとなる7勝めを挙げた。
「実は打ち込まれた日の夜に意気消沈していたところ、嶋(基宏)さん、小山(伸一郎)さん、田中(将大)さんの3人から屋台に誘ってもらって。そこで嶋さんに“お前で勝った試合が何試合もあるんだから、今日1試合で落ち込むな。切り替えろ”っていう話をしてもらって、吹っ切れたところがありました。そうした気持ちの中で投げて勝利投手になることができたのですが、そこで“腕を振って一生懸命投げる”という基本の大切さを改めて確認することができた。そうした意味で、僕自身にとっては重要なターニングポイント。1年めは本当にがむしゃらにやっていただけですが、今でも悩んだり自信がなくなったりすることはやっぱりあるので、そこでもう1回自分を見つめ直す作業は、常にやっています。この試合のことは今でも鮮明に覚えていて、そういったときに必ず思い出す試合でもあります」
当時の監督は、星野仙一。チームの先輩に加え、監督をはじめとする首脳陣からの計らいに感謝した試合でもあった。
「前夜のソフトバンク戦で打ち込まれたことについて、“あんなピッチングしとったら20点取られてもおかしくない”みたいなことを星野監督が記者の方に語っていたのを、新聞やニュースで知っていました。そこまで言っていた次の日にチャンスをくれたことにものすごく感謝していますし、本当にありがたかった。ファーム行きを覚悟していた自分としては、そこで与えてもらったチャンスをしっかり掴み取れたことは、シーズンの後半戦を戦い抜いていくためにもすごく重要な意味があったのだと思います」
そんな一戦を経たルーキーシーズンは15勝を挙げ、球団のリーグ優勝と日本一に貢献。その後、エースとしての活躍を経て、昨シーズンは抑え転向1年めながらセーブ王に輝いた。クローザーとしても結果を残せた理由を、どんなふうに自己分析しているのだろうか。
「昨シーズンは本当に運がよかったと思いますし、辛抱強く最後まで抑えとして使ってもらえたことに感謝しています。そしてやはり絶対的な存在だった松井裕樹選手にアドバイスをもらいながら練習に取り組めたことが大きかったと思います。精神面のコントロール、調整や練習方法など、本当にいろいろなことを教えてもらいました。印象深かった言葉を挙げるとすれば、“9回だからといって特別視する必要はない”ということ。先発をやってきた経験でいうと、9回というのは8イニング投げてから巡ってくる最後の締め。だから、重要に捉えすぎてしまう部分もあったのですが、抑えの投手はそれが毎日のことだから特別視してたらうまくいかないんだということですね。その言葉をもらったことで構えてしまう部分がなくなったというか、意識が大きく変わりました。また、その言葉には権藤さん(侍ジャパンの投手コーチを務めた権藤 博)からもらった言葉にも通ずるものがありました。“9回だから完璧に抑えなければならないわけではない。状況に応じてチームが勝った状態で試合を締める。それだけでいいんだ”と。松井裕樹選手と権藤さん、2人からもらった言葉を心に刻みながら今シーズンも戦い抜いて、勝利に貢献したいと思います」
アーティスト 田村大
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会であるISCAカリカチュア世界大会で、総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは10万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。Instagram:@dai.tamura
※『Safari』8月号174〜176ページ掲載
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illustration : Dai Tamura composition&text : Takumi Endo