バスケットボール選手 渡邊雄太
1994年、香川県生まれ。2018年にメンフィス・グリズリーズと契約し、日本人2人めのNBA公式戦出場を果たした。NBA通算213試合に出場し、1試合平均4.2得点、2.3リバウンド、0.6アシストを記録。東京五輪とパリ五輪で2大会連続、主力としてプレイした。
NBAで日本人最長の6シーズンを戦い抜き、2024-25シーズンからBリーグで新たな戦いに挑んでいる渡邊雄太。ジョージ・ワシントン大学卒業後、ドラフト外から粘り強く自らの実力を示し続け、世界最高峰のNBAにたどりついた。そんな渡邊が分岐点として語ってくれたのは、強豪ブルックリン・ネッツで戦った2022-23シーズン。ケビン・デュラントやカイリー・アービングといったスターが在籍するがゆえに競争も激しいチームで戦う覚悟を決めた渡邊は、開幕前のキャンプでのアピールに成功し、開幕ロスター入りを果たした。
チームの重要な戦力として58試合に出場したレギュラーシーズンは、キャリアハイとなる平均16分のプレイタイムを獲得。デュラントなどのポイントゲッターとの共演で打つチャンスが増えた3ポイントシュートもリーグ屈指の44・4%という成功率で沈め、求められた仕事をあざやかにこなしてみせた。
「ブルックリン・ネッツに所属したシーズンは、自分がようやくNBA選手として認められたと思えた1年でした。チームとの当初の契約は、年俸もなにも保証されない無保証の“キャンプ契約”という一番下の契約からのスタートでした。僕以外にも同じ契約の選手が何人かいましたが、こういった選手はプレシーズン後にカットされるか、そのままGリーグに行くという流れが一般的です。そこから開幕ロスターに残してもらい、NBAキャリアの中でも最高の1年になった。いずれ自分が引退するときに振り返っても、めちゃくちゃ楽しいシーズンだったと思うし、自信を得た1年でもあります」
ブルックリン・ネッツに在籍したのはNBA5年めのシーズンだったが、そのキャリアは綱渡りの連続だった。2018年にキャリアをスタートさせたメンフィス・グリズリーズはGリーグとNBAの2ウェイ契約で、その後在籍したチームの契約においても、いつ解雇されるかわからない状況だった。契約金が全額支払われない可能性もあるプレッシャーの中で自らの実力を示し、自分の居場所を確保する必要があったのだ。そんな渡邊は、5年めのシーズンオフにフェニックス・サンズと契約金の全額支払いが保証された“完全保証契約”の2年契約を獲得。そこまでたどりつけたのも、NBA選手として大きな手応えを得たブルックリン・ネッツでの活躍があったからといえるだろう。
そんなブルックリン・ネッツでは、シーズン後半にデュラントとアービングが移籍するまでは2人のスター選手とともにコートに立ち、優勝という同じ目標に向かって戦ったことが貴重な経験となった。デュラントにおいては、シーズン後のSNSのやりとりで「ユウタ、最高のシーズンだったね。あなたとプレイするのが大好きだったよ」とコメントし、話題となった。
「チーム自体の環境はすごくよかったですし、スター選手の人間性も本当にすごくよくて、まわりに助けられながらではありますが、自分の成長を実感できたと思える1年でもありました。スターといわれるような選手は、とにかく勝ちに対して貪欲。本当に勝ちたい気持ちが強いからこそ、コーチやチームと対立してしまうこともあるんだなということが、同じチームで戦ってはじめてわかりました。外から見ていると、なんでチームと揉めるんだろうって思ってしまう。だけど、KD(ケビン・デュラント)のような選手たちの姿を間近で見ていると真剣にバスケットに取り組んでいるからこそ、意見の食い違いが生まれてしまうこともあるんだって納得できました」
今シーズンから千葉ジェッツに戦いの場を移した渡邊雄太も、NBAのスター選手を彷彿とさせるような熱量の大きいプレイでBリーグを盛り上げている。
「Bリーグで今、自分に求められているのは、NBAの頃とは正反対の役割。NBAではロールプレイヤーという立場で自分ができるのは最低限のことであってもとにかく全力でやるという役割でした。でも、今は自分が持てる力をすべてコート上で出し切らなくてはならない。正直、個人タイトルはもう全く気にしていません。一方で、僕はこれまで1対1やリバウンドなどを全力でやり切ることで少しずつ結果を残してきましたが、そういった部分で手を抜くようなことは絶対にしたくない。シーズンが終わったときにみんなで優勝トロフィーを掲げる景色を見るために、そういった細かい部分も含め、徹底的にやっていきたいと思います」
アーティスト 田村大
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会であるISCAカリカチュア世界大会で、総合優勝。5月31日(土)に両国国技館で行われる“琴恵光引退 尾車襲名 披露大相撲”の会場で、断髪式グッズが販売予定。Instagram:@dai.tamura
※『Safari』6月号222〜224ページ掲載
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illustration : Dai Tamura composition&text : Takumi Endo