【ウディ・アレン】映画を変えたレジェンドの真実の姿とは!?
映画『アニー・ホール』などで知られ、これまでアカデミー賞に史上最多の24回もノミネートされた映画監督、ウディ・アレン。スキャンダルの影もちらつく中、今も精力的に作品を送り出している。この映画界の巨星を、モーリーはどう見ている!?
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- アメリカ偉人伝! vol.20
2001年公開の映画『スコルピオンの恋まじない』の制作現場で撮影されたウディ・アレン。グラフチェックのシャツに茶のスラックスという着こなしが非常に洒落ている。ファッションアイコンとしても根強い人気がある
彼を語るには性的虐待と、その揉み消しに関する疑惑を避けることはできません。ことの発端は、アレンと交際していたミア・ファローの告発。別れた夫との間の養女と、アレンが肉体関係をもっていたことが発覚しました。その後、2人の養子である当時7歳の娘に対する性的虐待が告発され、証拠不十分になったものの疑惑は残りました。そして2017年、ワインスタインのセクハラ事件が明るみに出た。それを徹底的に追いつめたのが、アレンとファローの実子であるローナン。彼はアレンを含む業界のネットワークに真っ向から反撃し、それが#MeTooへと繋がりました。
かつては天才として許され、伝説にすらなったもの。日本でいえば昭和的。その構造に守られた人たちの中にアレンもいた。この問題は、天才を神輿に乗せておきたい側の問題でもあります。かつてはファンも許容しました。時代の意識が変わる中で、なにがレガシーとして残るのか。
ウディ・アレンの真相については知る由もないですが、少なくとも一時代を築いた初期作品については彼を信じたい。’60年代以降の知識層の進歩的な流れをくみ、その一方で理想に溺れた左派知識人には辛辣。常識を覆す、一見格好悪い主人公。しかもマイノリティのユダヤ人であることを前面に出し、見下されていることを気にしつつ、まわりよりも頭が切れるからやり返したい。そういう小さな半径で生きている人物像を繰り返しやるわけです。これが非常に革新的でした。
ガーディアン誌の“観るべき作品”のランキングでは、1位が『マンハッタン』で2位が『アニー・ホール』。僕もこの2作を観たけれど、当時の社会背景やNYのユダヤ人文化がわからないと理解できないネタも多いです。でも、それを噛みしめられるとより面白くなるはず。可能であれば、字幕ナシで観てほしい。
両作品でダイアン・キートンが演じた女性像は似通っていて、論争を恐れずにモノをいい、人に好かれようとしない。当時の進歩的な空気の中で出てきた、自我をもった女性です。アレンが演じる主人公は、それを都合よく解釈し、思いどおりに支配しようとする。彼は同時代性を上手に描くと同時に、そこにある女性の葛藤を本当によく理解していた。これは『ピグマリオン』という映画へのオマージュだと思いますが、作中にこうしたオマージュがたくさん出てきます。
アレンは'50年代以降の知識人の欺瞞を上手に表現すると同時に、彼が実際に受けたユダヤ人差別にも触れています。戦後になって表面上は収まったけれども、なにかあるとすぐに表出する。ユダヤ人は歴史の教訓として、自分たちを守るだけではなく、黒人や女性を含むマイノリティを大切にする世論を作らないとマズいと考えていました。だから弱い立場の人をとにかく擁護する。ただ依然として、社会に進出すれば取捨選択を迫られる。そういうせめぎ合いを突破したのがアレンでした。彼は自由で開放的な都市という環境において、極めて深い洞察によるリアリズムを実現した。紋切型で儲け主義のハリウッドとは一線を画し、全く違うもので突破したすごさを感じます。
彼の作品はフィクションにもかかわらず、時間の断片のドキュメントとして、相当なリアリズムが盛り込まれています。しかも攻撃的な言葉を使うわけでもなく、日常的な言葉の表現力だけでヤバいものを描く。まさに巨匠です。若い人たちはもしかしたら「ウディ・アレンって性的虐待の人でしょ」という認識かも。確かにそうなんだけれど、でも「彼が名声を得るきっかけになった作品、ちょっと観てみたくない?」と誘導したいですね。
彼の表現は時代と向き合わないと出てこないもの。逃げも隠れもしてない。プライベートでは逃げ隠れしたけどね。とにかく観ないですますのはもったいない、多層的で奥深い物語だと思います。
世に送り出してきた!
1977年公開の映画『アニー・ホール』の場面写真。アレンが独自の作風を確立した作品で、今なお多くのファンに愛される。ダイアン・キートンが見せた着こなしは、“アニー・ホール・ルック”といわれるほど流行した
1979年公開の映画『マンハッタン』の場面写真。アレンの愛するNYを舞台に、モノクロの映像で綴られる物語。作中を彩るガーシュインの音楽も素晴らしい
別の顔ももつ!
ジャズ・クラリネット奏者としての腕前は一流。彼が率いるバンドの欧州ツアーを追ったドキュメンタリー映画も公開されている
映画『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(2019年)では、ワインスタイン事件とアレン自身の疑惑を受け、全米で上映が無期限延期。出演していたティモシー・シャラメがギャラを受け取らず、全額寄付するという事態に発展した。
儚くも美しい人生を描く新作映画が公開間近!
©2020 Mediaproducción S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.
ウディ・アレン監督による映画『サン・セバスチャンへ、ようこそ』が公開。国際映画祭を舞台にしたロマンチック・コメディで、彼がこよなく愛するヨーロッパ映画へのオマージュも随所に織り交ぜられる。
『サン・セバスチャンへ、ようこそ』
脚本・監督:ウディ・アレン
出演:ウォーレス・ショーン、エレナ・アナヤ、ジーナ・ガーション
2024年1月19日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
配給:ロングライド
教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。日米双方の教育を受け、東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家、DJとして各方面で幅広く活動している。最近はモーション・グラフィックスなどの映像加工にハマり中。
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彼になってみるより偉大な過去を称えたい
「本当に素晴らしい人物だとは思います。終わった時代の人として過去を偲んだり、夢想したりするのはいいけれど、彼になってみたいかといえば、残念ながらゼロです」
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雑誌『Safari』2月号 P198~199掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.)
photo by AFLO