【ビル・ゲイツ】ITの新時代を拓き巨万の富を得た男の目指すものとは!?
若くしてマイクロソフト社を創業し、PC時代の礎を築き上げた天才、ビル・ゲイツ。退社後は巨万の富を元手に慈善事業の財団を設立し、世界の諸問題に立ち向かっている。あまり表舞台に姿を見せない彼を、モーリーはどう見ている!?
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- アメリカ偉人伝! vol.19
2002年、マイクロソフト社の独占禁止法に関する裁判で証言する際、妻のメリンダとともに撮影された写真。2021年に離婚したが、今も財団の活動は、ともに協力しながら継続している
今回はビル・ゲイツの光と影というよりも、彼が目指したものに絞って語ります。彼の父親は弁護士でした。白人上流社会に生まれ、寄宿学校で英才教育を受け、親から経済力や教養、ビジネスマインドを受け継ぐ。アメリカにはこういう層が一定数います。三角形の頂点にいて、よほどのヘマをやらない限り、どんどん豊かさを更新していく。そういう仕組みがあるんですね。僕が通ったハーバード大学のルームメイトにも、ゲイツと似たような人がいました。理数系にめっぽう強く、ディベートや論文も完璧で、まさに神童でした。ところが、あることをきっかけに精神がダウンしてしまった。つまり、ビル・ゲイツ候補の天才はたくさんいて、それが少しずつふるいにかけられるんです。些細なことでつぶれていく人を僕もたくさん見ました。
ゲイツの場合、経歴はハーバード中退ですが、大きな仕事をするために辞めています。また、科学者やエンジニアによくあるのが、金儲けのことを考えず、のびのびと真理や技術を究めるという考え方。ゲイツはそこからも早々と離脱し、ビジネスを巨大化して、世界の隅々まで“ウィンドウズ”を浸透させることを考えました。全人類がこの技術を使ったら世界が変わる、と。僕も“ウィンドウズ”が出てきた頃のことを覚えていますが、ソフトウエアが物理層以上に価値をもつということが、今ひとつピンとこなかった。あの段階では、ゲイツのビジョンを理解できる人は限られていたし、競合相手もほとんどいませんでした。しばらくしてゲイツは経営から抜けます。その後もコンピューターは進化し続けましたが、結局“ウィンドウズ”を超える革新的なOSは出てきていないんですよね。
興味深いのは、後の世代であるザッカーバーグやマスクの場合、どちらかというと自分が儲かることが大事。それから、特にマスクは目立ちたがりで、なにをやっても彼が主役です。ゲイツの振るまいは対照的で、世界一の富豪にはなったけど、これ以上資産を増やしてどうするのかという葛藤があった。そして家庭生活が崩壊しそうだったこともあり、妻のメリンダと財団を作って、世界の本質的な問題を解決する方向にシフトします。
彼が目指したのは、いわゆるグローバルサウスで起きている貧困や健康などの問題について、システム全体を把握し、超国家的に取り組むということ。人類の何%かを救おうと、いろいろなことをやっています。でもその都度、大きな事件が立ち塞がるんですね。ナイジェリア北部のイスラム原理主義、ジンバブエの独裁政権……。実際に財団の人がワクチンを配りにいき、銃撃されたこともありました。国際社会の意志では、アフリカの貧困はなかなか解決しない。リターンがないから投資の機運も生まれない。人類史的な問題として継承された負の遺産に、ゲイツもぶち当たるんです。
彼自身が語っていますが、最適化の技術を革新させるのは彼の得意とするところです。それで問題全体を解決できるという楽観視、期待感がある。でも、そんな彼ですら、政治と貧困が絡み合った問題はなかなか進まない。もはや全く別種の、怪物的な問題になってしまっているからです。この世界には賢者が解決できない種類の問題もあるということが、壮大な社会実験でわかってしまった。
それでも、ゲイツが示したプロトタイプは意味のあることです。特に僕が期待しているのは、上下水道の普及とワクチン。ここが改善すると、世界の問題を解決はできなくても、緩和することはできる。この取り組みは本当に必要だと思います。彼を目指せる人はほとんど出てこないでしょう。でも、ビジネスを回しながら社会をよくしていくような社会的企業は目指せます。特にZ世代やそれに続く世代には受け継いでほしい。彼から学べることは多いはずです。
世界的問題に取り組む!
ロックグループU2のヴォーカル、ボノとともに、ニューヨークで行われた世界経済フォーラムでの記者会見を行うビル・ゲイツ。2002年の撮影。ボノとは個人的な友人であり、気候変動やアフリカの貧困問題などに取り組む仲間でもある
南アフリカの大統領だった故ネルソン・マンデラの自宅を訪れ、リラックスした雰囲気で会談したビル・ゲイツ
ずっしりと重い本を持ち歩くのがビル・ゲイツのスタイル。仕事のためにPCの画面を眺めるのと、考えるための読書を明確に分けている。友人の証言によれば、かなりのスピードでページをめくり、読んだ内容の90%は覚えているという。
まっすぐ育った娘は“あの人”の孫と交際中!
ビル・ゲイツの娘のフィービーは、あのポール・マッカートニーの孫であるアーサー・ドナルドと交際中。まだ学生のフィービーだが、SNSで多くのフォロワーを抱え、尊敬する母の後を追うように社会的な活動を展開。すでに会社も立ち上げている。
教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。日米双方の教育を受け、東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家、DJとして各方面で幅広く活動している。最近はモーション・グラフィックスなどの映像加工にハマり中。
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妙な親近感もありつつ重圧も大きそう……
「やったことは魅力的だけど、背負ってきた重圧も大変そう。彼は自分の自我と折り合いをつけ、現実と向き合うことができる人。そこはとてもいいなと思いますね!」
“アメリカ偉人伝”のラインナップ
◆【マーティン・ルーサー・キング・ジュニア】人種差別の解消に尽力した偉人の語られざる顔とは!?
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◆【マーク・ザッカーバーグ】IT界を牽引する若き天才はどう世界を変えた!?
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◆【ジョン・F・ケネディ】第35代アメリカ合衆国大統領の真実の顔とは!?
◆【イーロン・マスク】壮大すぎる夢追い人は救世主かペテン師か!?
◆【エルヴィス・プレスリー】アメリカの光と影を映し出すロックの王様!
雑誌『Safari』1月号 P194~195掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.) photo by AFLO