勢いのある俳優には、高いハードルの仕事が舞い込み、それを成功させることで、さらにキャリアがアップする……。現在、そんな理想の流れに乗っているのが、セバスチャン・スタンだ。なぜ彼が作り手から愛されるのか。この『顔を捨てた男』を観れば、理由がわかるはずだ。
セバスチャン・スタンといえば、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のバッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャーが当たり役。最新作『サンダーボルツ*』まで9作で同役を演じ、ルーマニア生まれのハリウッドスターとして躍進した。そして昨年の『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』で若き日のトランプを演じ、アカデミー賞主演男優賞にノミネート。さらにベルリン国際映画祭で男優賞を受賞したのが『顔を捨てた男』と、演技力でも映画界を席巻している。『顔を捨てた男』の彼は、まずそのチャレンジ精神が異例レベルだ。演じたエドワードは、顔に変形を持つ俳優志望の男。外見は『エレファント・マン』などを想像してほしいが、この役にスタンは特殊メイクで挑んだ。ある時、エドワードは顔を劇的に変える治療を勧められ、まったく別人の外見に生まれ変わる。変身後、スタンは素顔。つまり“ビフォア/アフター”の演じ分けで、彼の信じがたい実力を目にすることになるのだ。
この手の作品は、主人公のコンプレックスや悲しみに集中しやすく、悪く言えば“お涙頂戴”になりがち。本作も確かにエドワードの日常の孤独感や内気な性格を描きつつ、隣に引っ越してきた劇作家志望の女性との関係など、周囲が意外に彼の顔を“気にしていない”感じを強調。そして本作の大きなポイントとなるのが、治療前のエドワードにそっくりな男、オズワルドの登場だ。演じたアダム・ピアソンは実際に顔に変形を持つ俳優で、特殊メイクではない。このオズワルドの自信たっぷりで軽妙なキャラが、エドワードの精神、および運命に大きな影響を与え、とんでもない展開に! “人間は内面が大事”というありがちなテーマに、ブラックなユーモア、シュールな要素も織り込み、ここまで変化球で伝える作品も珍しい。人気スタジオ、A24製作も納得の野心作だ。
『顔を捨てた男』7月11日公開
監督・脚本/アーロン・シンバーグ 出演/セバスチャン・スタン、レナーテ・レインスヴェ、アダム・ピアソン 配給/ハピネットファントム・スタジオ
2023年/アメリカ/上映時間112分
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