【ジョン・ウィリアムズ】スクリーンを彩る偉大な作曲家のレガシーとは!?
『ジョーズ』、『スター・ウォーズ』、『E.T.』、『インディ・ジョーンズ』、『ハリー・ポッター』など世界的ヒット映画の音楽を担当し、誰もが耳にしたことのある名曲の数々を生んだジョン・ウィリアムズ。映画音楽界の巨匠を、モーリーはどう見ている!?
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- アメリカ偉人伝! vol.31
スピルバーグ(右)が監督し、ウィリアムズが音楽を担当した映画『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』のプレミア。ウィリアムズ節は本作でも健在だったが、スピルバーグ作品としては興行成績が低迷。2016年撮影
彼はオーケストラ音楽と一般大衆の橋渡しをし、しかもその功績が半世紀以上にも及んだ人物。小規模な映画音楽からはじまり、やがて全世界的なヒットを次々に生んだ。彼の名前は知らなくても、音楽は誰もが知っています。これまで様々な人が彼の音楽を分析しました。たとえば『スター・ウォーズ』のテーマ曲などは、導入部分で急に音を上げてフックを作っています。非常に単純でわかりやすく、こうした仕掛けがあちこちにある。またダース・ベイダーのテーマは、クラシックでは禁則とされるコード進行が用いられていて、非常に現代音楽的。そうした意外性も大きな特徴です。
それから彼は専門用語でクロマティック・ミディアントという手法をよく用います。これが音に不思議な緊張感を生む。かつて現代音楽では、1時間もある曲でこれを散々やりました。でも彼は映画音楽だから、わずか数十秒です。そして映像と合わせたときに強烈な力をもつ。クラシックとしての違和感や緊張感が非日常的な映像と重なり、見事にその雰囲気を強調します。『E.T.』の自転車で空を飛ぶシーンも、実は合計で1分もありません。緊張から解決までを一足飛びにやっていて、まるで4コマ漫画です。
ウィリアムズは数百年に及ぶ音楽のボキャブラリーの中から、あの独特な浮遊感や緊張感を引っ張り出してきます。パクリといわれることもありますが、本人も隠していません。忘れかけたものに上手に光を当てている。また彼は、それまで交わることのなかったクラシックとジャズもどんどん混ぜる。でもバレないようにクラシック的なものの奥に隠します。異世界の話にジャズが聞こえてくるのは嫌なわけですね。これまでのクラシックとは発想が全く違います。
彼は過去の音楽家のやり方を拝借するにとどまらず、本人の視点で考えることができる。発想の原点を見抜き、そのうえで簡単な和音をずらしたり分解したりして浮遊感や緊張感を作ります。しっかりとしたクラシックの技法に基づいているので、前衛的なマイナー感がない。彼の音楽は1億人が聴きます。それでいて通りいっペンではないものを作ろうとする。相当に胆力がいりますよ。でも淡々とペースを守り、成功に押し潰されません。
それから1984年のロス五輪でのオリンピック・ファンファーレです。共産圏がボイコットした大会で、国際社会の秩序を喧伝するアメリカの肝いりでした。開会式の演奏中、ずっと古きよきアナウンサーの国威発揚的な語りを被せていて、非常にマスゲーム的。この曲は五輪で繰り返し演奏されてきた単純な和音の曲のオマージュではじまりますが、何周かすると徐々にウィリアムズ色が強まり、不協和音が混ざり、『E.T.』のような感じも出てくる。そして最後にジャズっぽい音でアメリカらしさを表現し、パッと終わる。不思議と全体主義的に感じさせず、自由やスポーツの素晴らしさが強調され、そういう意味で大成功しました。
彼はクラシックを映画に繋げ、多くの人に音楽と接する機会を提供しました。アメリカ文学などにも共通しますが、シンプル・イズ・ベストなんです。シンプルさの中で深みをもたせ、多くの人の心を掴む。だから難解にならない。彼の最大のレガシーは、音に対する偏見を取り除いたことだと思います。アメリカが文化の坩堝であるように、彼は様々な時代やスタイルの音楽を偏見なく取り入れた。ある女性バイオリニストが話していましたが、ウィリアムズはシリアスな音楽と大衆音楽を分け隔てなく行き来できる。まさにアメリカの強さに通じますね。
彼のアクロバットのような格好よさは、根本から音楽を理解しているからこそ。これは汗を流さないとできません。汗を流し、想像力の力技で音楽を作る。この姿勢ですよね。生成AIの時代だからこそ、学べることは多いと思います。
映画『スター・ウォーズ』シリーズは、ウィリアムズの音楽を抜きに考えられない作品のひとつ。写真は記者会見の席でのC-3 POと握手する様子。1980年撮影
’80年代以降、ルーカスやスピルバーグの作品には欠かせない存在となった。映画『インディ・ジョーンズ』シリーズでは、緊張感と解放感を織り交ぜた音楽で観客を魅了した
『E.T.』、『ジュラシック・パーク』、『ジョーズ』、『ハリー・ポッター』といった世界的ヒット映画の音楽を担当したウィリアムズ。名シーンとともに思い出される名曲の数々を生み出してきた
音楽を手掛けた映画作品は100を優に超える。なかでもスピルバーグとの共同作業は50年間にわたり、2023年には記念イベントも行われた。すでに引退していたウィリアムズだが、スピルバーグに煽られて引退撤回する楽しい一幕もあった。
巨匠の創作の源流に迫るドキュメンタリー映画!
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『ジョン・ウィリアムズ/伝説の映画音楽』
ディズニープラスにて独占配信中 © 2024 & TM Lucasfilm LM
教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家など幅広く活動中。最新著作『日本、ヤバい。「いいね」と「コスパ」を捨てる新しい生き方のススメ』(文藝春秋)が発売中。
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偉大さを知った今も自分の中で葛藤が……
「僕は大学で彼を否定する人たちに音楽を教わった。両方やっておけばよかったとは思うけど、自分が好きなスタイルを手放すのも違う気がする。葛藤しています」
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雑誌『Safari』1月号 P194〜195掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.)
photo by AFLO