【ジョン・レノン】今も絶大な影響力をもつレジェンドの実像とは!?
いわずと知れたビートルズの中心人物であり、今も歌い継がれる名曲の数々を残したジョン・レノン。イギリス人でありながら’60年代以降のアメリカに大きな影響を与え、その実像はいまだ議論が尽きない。音楽史に燦然と輝く巨星をモーリーはどう見る!?
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- アメリカ偉人伝! vol.24
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名ベスト盤といわれる『ジョン・レノン・コレクション』でも使用されたポートレイト。殺害当日の1980年12月8日に、写真家のアニー・リーボヴィッツが撮影した最後の公式写真として知られている
ジョンがいかに天才だったかという記事は、世界中に山ほどあります。どこか松本人志の状況に似ていますね。あの番組がすごかったとか。坂本龍一もそうだけど、祭り上げられてしまう。そういうものを排除して、クリエイター/人間としてどんな道を選び、どう進んだのかを見たほうがいいと思います。
まずビートルズとしてヒットに至る過程です。ジョンが死んだ直後に書かれた、ある英語の論評が面白かった。ビートルズが生まれたリバプールは港町で、いち早くアメリカの音楽に触れることができました。そして主に黒人のロックから精神性を得る。抑圧に抵抗する人たちのシャウトですね。ジョンたちにとっては、労働者として頭打ちの生き方を強いられ、それに満足するよう仕向けられる。それは俺たちの夢なんかじゃないと。そしてそれを自分たちの言葉として表現できたのがジョンだったという内容です。
当時のリバプールの音楽シーンはかなり乱暴で、みんな酔っ払って聴いていない。そういうラフな環境では、音をガーンと出すことが大事でした。そして地元の青年の言葉で語る水平な目線があった。そこにロックのブレークスルーがあったという意見があり、僕も信憑性を感じます。
彼らが売れた後、ジョンはある程度の妥協をしつつ、いいなりにならないという態度を貫く。そういう冷静さがありました。ビートルズが究極になっていくのは、ジョンを筆頭にベトナム反戦運動にのったから。世代の象徴としてマイノリティの声に火をつけました。ところが、’68年の大統領選挙で選ばれたのはニクソン。主流社会はびくともしなかった。運動が過激化し、ドラッグが蔓延する混沌とした状況の中、ビートルズのサウンドはサイケデリックになっていく。前衛アーティストとの関係も深まり、そこでオノ・ヨーコが出てきます。
ヨーコは安田財閥の末裔で、いわば支配階級の出身でした。労働者階級出身のジョンとは対照的。非商業主義の前衛アートというのは、そもそもお金と人脈のある富裕層がやるものです。他人の評価なんてどうでもいい。知られざる富とアートの世界があって、ジョンはそこに繋がったわけです。多くの人は彼を商品として見るけれど、そうではない数少ない人がヨーコだった。2人の間で化学反応が起きたのは、ジョンが抱えていた劣等感をぶち抜いて、向こう側から見ることができたからじゃないかと思います。
’72年にニクソンが再選されると、ビートルズに熱狂した世代は無力感に覆われます。革命の旗振り役を自認していたジョンも、しばらく姿を消しました。ゴシップ的にいろいろいわれますが、単純に政治的なところから脱皮して、よりパーソナルになっていった時期。酒や薬で生活も狂いはじめます。なんのためにやっているのか見えなくなり、本当の自分が見つからない。そんな中でもジョンは曲を作り、セッションを重ねました。このクリエイターとしての努力は、もう少しフォーカスされたらいいなと思います。
そしてジョンはヨーコのもとに戻り、ショーンが生まれます。子育てをしながらデトックスし、音楽性も家族の方向に向かう。そういう時期に殺されるんですよね。外からの刺激に依存せず、本当になにを語りたいのか考える。そんな落ち着いた局面に差しかかっていました。彼は絶えず過去の自分を総括しながら進んできたように見えます。常に成長したいという音楽家としての意欲を感じます。その一方で、乱れた生活からなにかが見えた瞬間もあると思う。そのかけ合わせで彼の表現が成り立っていた気がします。
ジョンの最初の息子であるジュリアンは、60歳近くになってようやく偉人の子であることから解放され、自分を取り戻せたそうです。つまりジョン・レノンというのは、それだけ強い余波や副作用のある“出来事”だったということですね。
大きな影響を与え続ける!
1969年3月と6月にジョンとヨーコが行った“ベッド・イン”のパフォーマンス。この写真は3月にアムステルダムで行ったときのもの。ホテルの部屋に記者を招き、平和について語り合った
1966年、日本武道館で行われたビートルズ来日公演。日本の音楽業界やファンのみならず、様々な方面に影響を与えた出来事だった
永久不滅の音楽!
1967年に撮影されたビートルズのポートレイト。多くの楽曲がジョンとポールの共作だった。ジョンは解散後も、簡潔ながら独特な和声や繊細なメロディを特徴とする名曲を紡いだ
アメリカレコード協会が提供するアルバム総売上枚数では、1億8300万枚を売ったビートルズが歴代トップ。アルバム単体では“ホワイト・アルバム”が2400万枚で、レッドツェッペリンの名盤と並び5位。ちなみに1位はイーグルスのベスト盤。
語られなかった18カ月に迫るドキュメンタリー!
ジョンがヨーコと別居していた“失われた週末”といわれる18カ月に、2人の個人秘書だったメイ・パンの証言で迫るドキュメンタリー映画。50年の時を経て、貴重な映像とともに知られざる物語が語られる。
『ジョン・レノン 失われた週末』
5月10日(金)より、角川シネマ有楽町、シネクイント、新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
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教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。日米双方の教育を受け、東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家、DJとして各方面で幅広く活動している。最近はジャズコードを中心にギターの腕前をアップデイト中。
70/100
大ブレイクする瞬間を味わってみたい!
「1964年頃までのジョンにはとても憧れます。狭いところでヤケクソになって歌っていたのが急に大ウケしたわけで、その瞬間は是非とも味わってみたいものです!」
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雑誌『Safari』6月号 P242〜243掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.)
photo by AFLO