写真右/主人公のフェリス・ビューラー(マシュー・プロデリック)
1980年代にハリウッドから時代のテイストを詰め込んだ傑作青春映画を発信し続けたジョン・ヒューズ監督。中でも、服に作品のテーマを語らせた、という意味で、『フェリスはある朝突然に』(’86)はスペシャルな存在だ。
シカゴ郊外の高級住宅地に住む高校生のフェリス・ビューラー(24歳でぴっかぴっかのマシュー・プロデリック)が、親や学校に仮病と嘘をついて仲間たちとお気楽なデイオフ(休暇)を楽しみまくる。ただそれだけの話なのだが、フェリスが着るいわゆる”スラッカー(仕事や勉強に無関心)シック”なファッションは、経済的に急成長を遂げていた1980年代当時のアメリカ社会にあって、ある種のスピードダウンを促した自由やアメカジなのだ。
例えば。自宅から親友のキャメロン(アラン・ラック)を電話で呼び出す時のフェリスは、大胆なプリントのキャンプカラーシャツにピンストライプのスーツパンツ、クリーム色のラグソックス、使い込んだコンバース(多分)という組み合わせ。脚をチェスターの上に乗っけて足元を見せつけているはヒューズ演出の上手いところだ。
やがて、ガールフレンドのスローン(ミア・サラ)を学校でピックアップして、カーマニアのキャメロンのパパが所有する真っ赤な61年型250GTカリフォルニア・フェラーリを運転してシカゴの街に繰り出すフェリスは、ベレー帽を小粋に被り、ダークなクラブマスターサングラスをかけ、白いTシャツの上にアニマル柄のガーディアンベスト、その上にヨレヨレのバイカージャケットという、まるでシティとバイカーをミックスしたようなあり得ないルックでズル休みを楽しむ。『フェリスはある朝突然に』と聞けば、即、このスタイルに身を包んだマシューが思い浮かぶとほど、アイコニックなコーデである。
また、この時、最初はホッケー・ジャージにチノパン&ペニーローファーだったキャメロンが、やがて、ジャージからボロボロのアンダーシャツ&サスペンダーに着替えて常識破りに変身していくところにも注目して欲しい。
ちなみに、フェリスが羽織ったバイカージャケットは映画が公開されてから26年後、とあるオークションで3万ドルで落札されている。マニアってどこにでもいるものなのだ。
“スラッカーシック”を違う言葉に言い換えると、WFH(WORK FROM HOME)=リモートワークに相応しい服ということになるらしい。それが本当なら、まさに今着るべき服。別にサボることを推奨しているわけではないが、フェリスのワードローブは忙しいビジネスパーソンにとって、意外なヒントになるかも知れない。
『フェリスはある朝突然に』
製作年/1986年 製作・監督/ジョン・ヒューズ 出演/マシュー・ブロデリック、アラン・ラック、ミア・サラ
photo by AFLO