【フランシス・フォード・コッポラ】尽きない情熱で映画に携わる巨匠の業とは!?
『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』などの名作で知られる映画監督、フランシス・フォード・コッポラ。アカデミー作品賞・監督賞をはじめ数々の受賞歴をもち、85歳となった今も精力的に新作を手掛ける偉人を、モーリーはどう見ている!?
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- アメリカ偉人伝! vol.26
2007年、ローマ国際映画祭で開催された新作『Youth Without Youth(邦題:コッポラの胡蝶の夢)』のワールドプレミアに出席したコッポラ。10年ぶりの監督作品ということもあり、サインを求めて多くの人が殺到した
コッポラは新作のために、所有していたワイナリーを売却して資金を作った。彼はこういう大博打を何度もやっていて、当たるも外れるも平気な人。ルーカスなどとも仲がよく、俺たちが映画を変えるという'60年代型の理想がありました。彼のほとんどの作品にはなんらかの自叙伝性があり、自分は何者なのかを問う行為と映画を撮ることが一致しています。試行錯誤は覚悟のうえ。バジェットも気にしない。デジタルを信じておらず、アナログな手作業にこだわる。ただ、今回は『地獄の黙示録』にフォーカスしたいと思います。やはり画期的だし、現代に通じるすごみを感じる作品です。
少し技術的な話ですが、コッポラは学生の頃、ソ連の映画監督のエイゼンシュテインという人を研究し、大きな影響を受けています。偶然にも、僕も大学で学びました。ロシア語を直訳したような、非常に分厚くて読みづらい理論書があってね。彼が提唱したモンタージュ理論というのをコッポラも実践しました。モンタージュは、ショットを編集して繋ぎ合わせることで、人の無意識に訴えかける手法。そうすることで、心の奥底にあるエネルギーに触れられるから。ただ、人間の無意識を動かすことは地球の歴史を動かすこと……といった誇大妄想的な話にも繋がっていく。ヒトラーのプロパガンダ映像などは、これに多大な影響を受けています。ハリウッド作の反共映画やヒッチコックも多用しました。コッポラもこれを全力でやった。しかも時代的にサイケデリックです。LSDのような薬による幻覚体験と、映像が見せる幻影というのは、当時は完全に繋がっていました。
コッポラは『地獄の黙示録』で幻影を作ろうとします。ドキュメンタリーのように社会の現実を訴えるのではなく、全くの絵空事を通してなんらかの真理を描こうとした。それでデニス・ホッパーのような薬漬けの狂気的な人を連れてくる。マーティン・シーンを追いつめ、泣き喚きながら演技させたりもした。そういうカオスやサイケデリックによって、コッポラ自身の時間の流れや感覚を歪めようとしたんです。そこから垣間見えるものを見たいわけです。
彼はナラティブ(物語)を積極的に破壊し、それによって別の感覚を生み出します。時間の流れや感覚を遮ることで、幻影のように別の感覚を引き起こしている。映画の初期にエイゼンシュテインが編み出した手法を熟成させ、ヒッチコックとも違う形で実践した。そこに彼の作家性みたいなものが出てきます。
ベトナム戦争を描くにあたって、当時のアメリカ社会には、これ以上は不快という一線があったと思います。コッポラも商業映画の監督としてよくわかっている。そのスレスレを美しく見せ、観客を惹きつけていく。本当の戦争はもっと残酷だけど、映画では彼の美意識で取捨選択されています。少ない素材で残酷さや狂気を演出し、観客にそう感じさせる。非常に幻影的です。また、彼は戦争の告発ではなく、人に内在する普遍的な狂気を描いた。非常に自叙伝的です。
コッポラはいくつになっても、最初の頃と同じような無茶苦茶ぶりで映画を作る。でも、もしかしたらアメリカだから可能なのかもしれません。普通はお金が集まらない。そういう意味では、合理化が進む業界における最後のアナログ人。野太くクレイジーで、芯が通っていて、最後までフィルムを追求している。最近の記者会見では「映画の歴史なんて短い。まだまだはじまったばかりだ」といっていました。そんな雄大なことをいえる人、たぶんほかにいない。きれいごとばかりの時代に、毒を含んだコッポラ作品を観ることは、逆説的に癒しになるような気がします。おぞましいのだけど、一貫して美しい。それとやはり出演している俳優がいい。人間が人間を描く以上、それがあってこそと改めて感じます。
作り出してきた!
映画『地獄の黙示録』のワンシーン。マーティン・シーンによるこの場面は、2020年に公開されたファイナル・カット版のメインビジュアルになった
映画『ゴッドファーザー』の撮影風景。中心にいる2人はマーロン・ブランド(右)とコッポラ
映画監督として活躍!
2004年の第76回アカデミー賞でのコッポラと娘のソフィア。ソフィアが映画『ロスト・イン・トランスレーション』で脚本賞を受賞した。その兄のロマンも、監督・脚本・プロデューサーとして映画界に携わる。長兄は若くして事故で亡くなっている
映画『地獄の黙示録』の製作過程を捉えたドキュメンタリー作品『ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録』は、まさに狂気というべきスリリングな舞台裏を垣間見ることができる。是非、本編と合わせて視聴したい。
40年かけて構想を練った新作映画がついに完成!
最新作『メガロポリス』がついに完成し、カンヌでプレミア上映された。NYを思わせる荒廃した都市を舞台に、建築家(アダム・ドライバー)が未来的なユートピアの再建を目指して奮闘するSF大作。その評価は賛否両論で、まだ配給元も未定だ。
教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。日米双方の教育を受け、東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家、DJとして各方面で幅広く活動している。最近はジャズコードを中心にギターの腕前をアップデイト中。
75/100
ピリピリした現場をちょっと覗きたい!?
「憧れはあるけど、あの作業と重圧に胃が痛くなってリタイアしそう。末端の業務を請け負うくらいがちょうどいいかな。撮影現場にケータリングを届ける人とか」
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雑誌『Safari』8月号 P188〜189掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.)
photo by AFLO