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2025.03.16


春の旅立ちはいつも駅から【11選】

別れもあれば、新たな生活がはじまる人もいる。そんな春の旅立ちをいつも静かに見守ってきたのが、駅。今月は山の頂から、雄大な湖上や海辺まで、名建築や歴史に彩られた世界の美しい駅を紹介。春風に誘われて駅のホームに立ったら、胸を高鳴らせる未知への旅へ、いざ出発進行!

日常から未知へと誘う
駅のホームに降り立つ!


ハリー・ポッターがホグワーツ魔法魔術学校へと向かったのはロンドンのキングス・クロス駅、赤毛のアンがマシューとはじめて出会うのはプリンス・エドワード島のケンジントン駅がモデル。出会いと別れが交差する駅のホームは、人生が大きく切り替わる絶好の舞台。列車に乗り込む勇気や、覚悟を決めて下車する決断が新たな世界へと導いていく。

そんな少年少女小説の舞台となる鉄道駅も、海外と日本では違いがある。たとえばホームの高さ。日本では高さ92〜110㎝ほどなのに対して、ヨーロッパの多くの国が55〜76㎝ほどで、より線路が近く感じられる。また、海外では改札がない駅がほとんどで、ホームへの立ち入りが自由。そのため、海外の映画やTVドラマではホーム上での喜怒哀楽や、車内検札の車掌が存在感を放つシーンも珍しくない。

逆に、海外の鉄道駅では珍しいのが、出発の際に鳴り響く発車チャイム。日本ではじめて導入されたのは、1912年のJR上野駅。利用者数の増加に伴い発車ベルが採用され、今では駅や路線ごとにご当地メロディへと進化。映画『塔の上のラプンツェル』の「輝く未来」(JR舞浜駅)や、アニメ『鉄腕アトム』の主題歌(JR高田馬場駅)など、ドラマチックな世界へと誘う選曲も目立つ。

4月は新たな舞台へ立つのにふさわしい季節。少年の頃を思い出し、見知らぬ駅へと運ばれてみるのもいい。

【01】ワシントン・ユニオン駅 
アメリカ


春の旅立ちはいつも駅から【11選】首都ワシントンD.C.のメインとなる駅。全米でも有数の利用者数を誇り、築100年以上の格調高い駅舎は新古典主義の建築家、ダニエル・バーナムが手掛けた。なお、ユニオン駅とは複数の鉄道会社や交通機関が乗り入れるターミナル駅を指し、全米に複数存在する。

【02】ユングフラウヨッホ駅 
スイス


春の旅立ちはいつも駅から【11選】ヨーロッパ最高地点となる3454m、山の地下に位置する駅。隣接する複合施設〈トップ・オブ・ヨーロッパ〉は、アルプス最大級のアレッチ氷河を望む“スフィンクス展望台”(写真)、氷河の中に造られた氷の宮殿“アイスパレス”、ユングフラウ鉄道の歴史を学ぶギャラリー・アトラクション“アルパイン・センセーション”など満載。

【03】シルケジ駅 
トルコ


春の旅立ちはいつも駅から【11選】かつてパリとイスタンブールを結んだ、豪華絢爛な寝台列車“オリエント急行”の始発、終着駅。1977年に同直通便は廃止。現在では主に国内の地下鉄駅として運用され、旧駅舎には鉄道博物館やレストランが入る。オリエント急行は西欧で復活の兆しがあるが、残念ながらトルコまで延伸の予定はない。

【04】フンガーブルク駅 
オーストリア


春の旅立ちはいつも駅から【11選】チロル州の州都、ウィンタースポーツが盛んなインスブルック。町の中心部と標高860mのフンガーブルクを結ぶケーブルカーの4駅すべてを手掛けたのは、新国立競技場のコンペでも話題になった故ザハ・ハディッド。アルプスの氷河を想起させるデザインで、降雪時には流線的な白亜の外観が銀世界に溶け込み、一段と美しさを増す。

【05】日立駅 
日本


春の旅立ちはいつも駅から【11選】茨城県日立市に1897年に開業。現在のガラス張りの駅舎が完成したのは2011年のことで、国際デザインコンペティション“ブルネル賞駅舎部門”で最優秀賞に輝いた。同駅を手掛けた妹島和世は“プリツカー賞”受賞建築家で、実は日立市出身。駅直結の〈シーバーズ カフェ〉からは太平洋の大パノラマが望める。

【06】サン・ベント駅 
ポルトガル


春の旅立ちはいつも駅から【11選】ポートワインの生産で知られるポルトの主要駅。1900年に建てられた駅舎内部の壁面に、ポルトガルを代表するアズレージョ(タイル装飾)作家ジョルジュ・コラソの作品が2万枚も飾られ、“ジョアン1世のポルト入城”や“セウタの攻略”といったポルトガル史の重要なシーンが描かれている。

【07】奥大井湖上駅 
日本


春の旅立ちはいつも駅から【11選】静岡県の大井川鐵道井川線の駅。ダム湖に突き出た半島状の先端に立ち、線路の前後を真っ赤な鉄橋“奥大井レインボーブリッジ”が架かる姿がフォトジェニックだと話題に。井川線はスイスの登山鉄道で多く見られるアプト式を日本で唯一採用。最大90パーミルという日本一の急勾配を登っていく。

【08】アーネム中央駅 
オランダ


春の旅立ちはいつも駅から【11選】ドイツ国境に近く、ライン川沿いにある美しい町アーネム。オランダの建築設計事務所、UNスタジオが手掛けたこちらの駅は、波打つような壁面と無柱空間が特徴。乗降客は利用の際、バリアフリーなのはもちろん、照明やスロープによって導かれ、直感的に移動しやすい構造にデザインされているという。

【09】リヨン駅 
フランス


春の旅立ちはいつも駅から【11選】パリの南東、セーヌ川右岸に位置し、リヨン、南仏、スイス、イタリアなどへ向かう列車の発着駅。写真は駅舎の2階にある1901年創業の老舗レストラン〈ル・トラン・ブルー〉。ベルエポックを連想させるフレスコ画やシャンデリアはまるで宮殿を連想させ、ここが鉄道駅であることを忘れてしまうほど豪華絢爛。

【10】オリエンテ駅 
ポルトガル


春の旅立ちはいつも駅から【11選】1998年のリスボン万博の際に開業した、モダンな佇まいの駅。スペインの著名建築家サンティアゴ・カラトラバによるもので、構造計算に基づいたフレームやアーチ状の空間は「人体の骨格のよう」と称される。ここでもホーム屋根の骨組みが特徴的。夜間にナトリウムランプでオレンジ色にライトアップされた姿も、華やかで美しい。

【11】トレド駅 
イタリア


春の旅立ちはいつも駅から【11選】南イタリアのナポリを走る地下鉄1号線の駅。モザイク画やデジタルアートなど、複数のアーティストの作品が飾られ、駅全体がまるで美術館のよう。深海を連想させるエスカレーターでは天窓の光が時間とともに変化し、イギリスのデイリー・テレグラフ紙から“ヨーロッパで最も美しい地下鉄駅”に選出されたこともある。 

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Information

雑誌『Safari』4月号 P198〜199掲載

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文=伊澤慶一 text : Keiichi Izawa photo by AFLO
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