【10選】移りゆく時間を愛でる秋の紅葉!
紅葉を楽しめる地域は限られている。1年の間にはっきりと四季が分かれていたり、夏と冬の気温差が大きかったりすることが条件となるからだ。日本の秋は侘び寂びを感じる世界観が美しいが、大地が一面に色づく海外のダイナミックな紅葉もまた魅力的だ。秋から冬への移り変わりを告げる世界の紅葉を巡ってみよう。
- SERIES:
- 春夏秋冬 季節のトラベラー! vol.6
雄大な自然の生存戦略!
花咲く春、新緑から深緑へ生命力が弾ける夏が終わって、いよいよ“成熟”の秋がやってきた。燃えるような赤や温かな黄色に染まる紅葉は、ロマンチックでありながらどこか切ない。味わい深ささえ感じるのは、人間が年を経ていく過程で、艶やかな輝きをまとっていく姿を重ねているせいかもしれない。
そんな心を打つ紅葉も、実は植物にとっては巧みな生存戦略の一環だと考えられている。春夏は積極的に光合成を行うため植物細胞に多くの葉緑素(クロロフィル)が含まれているのだが、秋になると日照時間が短くなるので、光合成の効率が悪くなる。そこで植物は、自らの生命を維持するために細胞内の葉緑素を分解して養分に変え、葉の働きを少しずつ止めていく。その過程でもともとあったカロテノイドや、新たに生成されたアントシアニンといった色素の働きによって、葉の色があざやかな赤や黄色へと変わり、やがて落葉し新芽の季節を待つことになる。
つまり紅葉は、越冬するための一時的な省エネモードへと入るシグナル。紹介した紅葉の名所はどこも厳しい冬が待ち受けるが、猪突猛進に寒さに挑むのではなく、力をゆるめ、休むことの大切さを教えてくれる。すべては、やがて訪れる春夏にさらに成長するため。生き残っていくための自然のサイクルに思いを馳せれば、その美しさはいっそう深く、心に染み入りそうだ。
アルゼンチン
南米大陸パタゴニア地方、ロス・グラシアレス国立公園にあるペリト・モレノ氷河。最低気温が比較的高いため崩壊と再氷結を繰り返し、“生きた氷河”の異名を持つ。南半球のため例年4月下旬から紅葉のピークがはじまり、南極ブナ科のニレやレンガが赤く色づく。
日本
京都市西部にある標高382mの嵐山。一般的には渡月橋を中心とした周辺の観光地を指す。かつて貴族や歌人たちはアカマツやヤマザクラ、モミジなどが美しく混じり合う大堰川の渓谷で舟遊びに興じ、多くの和歌を残した。今でも秋の保津川下りでは、これと同じ景色を楽しめる。
日本
新宿駅から高尾山口駅まで最速43分。都心から抜群のアクセスに加え、『ミシュランガイド』で3ツ星観光地に選ばれてからは年間登山客が300万人を超え、世界一登山客の多い山になった。標高は599mだが、ケーブルカーで標高470mまで行け、気軽に紅葉を楽しめる。
アメリカ
南北4㎞にわたって広がる、ニューヨーク市民の憩いの場。カエデやオーク、ヒッコリーなど、約2万本の樹木が植林されており、映画『オータム・イン・ニューヨーク』ではリチャード・ギアとウィノナ・ライダーが紅葉のセントラルパークを歩く姿がポスターを飾っている。
ニュージーランド
南島クイーンズタウンからクルマで1時間ほどで着くワナカ湖。国内屈指の観光地で、トレッキングやウォータースポーツ、そしてウィンタースポーツの拠点として世界中から観光客が集まる。4月頃にはポプラ並木がいっせいに黄金色に染まる“黄葉”が見られる。
日本
600年ほど前に桜の木をすべて伐採して“春より秋を選んだ”禅寺。境内には約2000本のカエデが植えられ、渓谷の上に架かる通天橋(写真奥)からの眺めは京都一との呼び声もある。あまりの人気のため、繁忙期は橋上からの撮影は禁止。心の目でしっかりと焼きつけたい。
中国
石灰質の地層と透明度の高い水によりエメラルドグリーンに輝く九寨溝(きゅうさいこう)。原生林が生い茂る渓谷で、神秘の光景が発見されたのは1970年代。森林伐採の労働者による偶然の発見だった。太陽の角度や雪景色、そして紅葉で変化する豊かな色彩は万華鏡にもたとえられる。
カナダ
フランス語圏ケベック州の南部にある丘陵地帯。なかでもモン・トランブランは洗練されたスキーリゾートとして人気。標高が高いため9月下旬頃には早くも紅葉のピークを迎え、その美しさは全長800㎞ある紅葉の名所“メープル街道”の中でもハイライトとして名高い。
日本
室町時代の宝徳年間(1450年頃)に建てられた、群馬県桐生市の禅寺。境内に100本以上のモミジが植えられ、鏡のように磨かれた本堂の床に映る“床モミジ”の特別公開(春・夏・秋の期間限定)が有名。また境内からは関東百名山のひとつ、鳴神山の紅葉も同時に楽しめる。
アメリカ
“デナリ”とは北米大陸最高峰マッキンリー山を指し、アラスカ先住民の言葉で“偉大な存在”を意味する。8月下旬になると、麓に広がる高山植物が赤い絨毯のようにいっせいに紅葉。アラスカの大自然に魅せられた写真家・星野道夫も、この地の短い秋を最も愛した。
雑誌『Safari』12月号 P149~154掲載
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