【10選】過ぎゆく夏のサンセット!
海を愛する男にとって、水平線に沈みゆく夕陽は四季のバロメーター。日一日と変化していく日没時刻や方角を目の当たりにすることで、夏から秋へと移り変わっていく季節を実感する。今月は世界に点在する夕陽の名所を旅してみよう。
- SERIES:
- 春夏秋冬 季節のトラベラー! vol.5
聖なるマジックアワー
夏から秋へと変わる季節は夕暮れが似合う。過ぎゆく夏への思いに、刻々と彩りを変えていくサンセットが寄り添うからだろう。
その特別な美しさを熟知していたのが、圧倒的な映像美で知られるアメリカの映画監督テレンス・マリック。名作『天国の日々』では、日没後まだ空がほんのりと明るい“マジックアワー”と呼ばれる20分間ほどだけを狙って撮影。この時間帯こそ、俳優や風景を最もドラマチックに撮れると知ってのことだった。
そんな夕陽について、世界には名所と呼ばれる場所がいくつもある。海沿いや水辺に多いのは、水平線ギリギリまで日没が楽しめること、そして水面に太陽や空が映り鏡面効果が得られることが理由だろう。ケーブルビーチのように、ラクダが歩くだけでも劇的な光景が完成する。
また、聖なる場所も夕陽が映える。教会やモスクに後光が差す瞬間は、神の存在を強く意識させるものだ。実際、出雲の人々は古来より夕陽を神聖視して海岸線に社を建立したし、バリ島でもサンセットの美しい海原が「神が降臨するのにふさわしい」として断崖絶壁の上にタナロット寺院が建てられた。
金、オレンジ、ピンク、深い青紫。そして訪れるマジックアワー。聖なる場所も、いつもの海辺も、特別な時間に変えていく美しい夕焼け。秋を告げる虫の音を耳に、過ぎゆく季節の余韻を味わいたい。
オーストラリア
オーストラリア北西部に位置する秘境、キンバリー地域。ここで人気のアクティビティがビーチでのサンセット・キャメル・ツアーだ。インド洋に沈む夕陽と隊列のシルエット、さらに濡れた砂浜が鏡のように空模様を映し出し、まるで映画のワンシーンのよう。
マレーシア
作家・沢木耕太郎が小説『深夜特急』の中で「とてつもなく大きく赤い」と形容したマラッカの夕陽。年間を通じて湿度が高いため、水蒸気に赤い光が散乱し、綺麗な夕焼けになる確率が高いそうだ。海上に浮かんで見えるストレイツ・モスクの白壁も夕陽に染まる。
アメリカ
高確率で夕陽が見られるハワイ島のマウナケア山頂。それもそのはず、標高4205m地点は季節を問わず雲の上であることがほとんどで、雲海へ沈む極上のサンセットが鑑賞できる。空気が乾燥し、周辺に人工の明かりもないことから天体観測の適地としても有名。
日本
千葉県南房総市の原岡海岸には海に延びる木製(先端はコンクリート)の桟橋があり、好天時には後方に富士山のシルエットが浮かび上がる。“関東の富士見百景”として知られている。夕暮れどきになると桟橋の電灯に明かりが灯り、よりノスタルジックな雰囲気に。
イタリア
サッシと呼ばれる凝灰岩の岩盤をくり抜いてできた洞窟住居と岩窟教会が残る南イタリアのマテーラ。その数、なんと3000から4000! 一時は荒廃していたが、現在は世界遺産に登録された。夕陽が沈み、街灯が点灯するマジックアワーの美しさはまさに魔法のよう。
インドネシア
バリ島南西部の岩島の上に建つ、ヒンドゥー教の寺院。海上に浮かんで見える満潮時の神々しさは格別。夕方になると多くの観光客が押し寄せるが、異教徒の境内への立ち入りは禁止。日没後、隣接した高台の公園で行われる伝統舞踊ケチャダンスも必見(有料)だ。
ギリシャ
エーゲ海に浮かぶ火山の島、その外輪山の断崖部分に白い家々が立ち並ぶ。快晴が続く夏場、先端の町イアには多くのリゾート客が集まり、水平線に日が沈むと拍手喝采が巻き起こる。冬場は天候が不安定で、白壁を塗り直していることもあり、この光景は拝みづらい。
日本
島根県松江市の夕陽スポットとして有名な宍道湖の嫁ヶ島。日本夕陽百選にも選定された夕景を楽しんでもらおうと、松江観光協会はHPで日々“夕陽指数”を発表している。日が沈む方角にあるのは神々の国、出雲。そのせいか、夕焼けの空はより神々しく見える。
日本
ジオパークに認定された男鹿半島の潮瀬崎にある、ゴジラそっくりの奇岩。夕陽が口元に重なると、火を吹くゴジラのようだと話題の観光スポットに。火山礫凝灰岩が日本海の波によって浸食されてできた自然の彫刻で、周辺には“ガメラ岩”“ゴジラの尻尾岩”も並ぶ。
ジャマイカ
ジャマイカ西端のリゾート地、ネグリルにあるサンセットカフェ。夕方には多くの観光バスで駐車場が埋まるほどの人気ぶり。レゲエの生演奏を聴きながら、ジャマイカ産ビール“レッド・ストライプ”を飲むのがここでの流儀。岩場から海への飛び込み台も人気スポット。
雑誌『Safari』10月号 P141~146掲載
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text : Keiichi Izawa photo by AFLO