澄みわたる天空の異世界へ!【11選】
秋の空が、ひときわ青く高く見えるのには理由がある。移動性高気圧に覆われ、空気が乾燥してくるため、夏よりも青々と美しくなり、巻積雲が空の高い位置に発生するからだ。そんな澄んだ秋空の下、天空の絶景を旅してみよう。
天界に近い聖なる土地!
天空の、という枕詞は普段住む俗世とは隔絶された、神聖で厳かな山上の別世界を連想させる。なにしろ日本では僧が修行に入ることを“入山”、特別な位置づけの寺院のことを“本山”と呼ぶ。聖地と山は非常に関係深い。
古くから山岳信仰が根づく日本では、仏教が伝来すると山こそが修行者にとって悟りを開くのにふさわしいとされ、比叡山延暦寺や高野山金剛峯寺のように多くの寺が山中に建てられた。世界に目を向ければ、ギリシャ正教の信仰の場であるメテオラは奇岩群の上に建つ。険しい立地にあることで修道士が俗世との関わりを断つことに加え、天の神に祈りを捧げるため、天に近い場所に修道院を建てたとも考えられている。
一方で、違った目的から天空を目指した例もある。スリランカのシーギリヤロックは、父親を監禁・殺害して王位を手に入れたカッサパ1世が、岩山の頂上に王宮を築いたもの。正統な王位継承権を持つ弟の復讐を恐れたカッサパ1世は、ただでさえ難攻不落な絶壁の上の王宮のまわりに塁壁や堀を造り、堀にはワニまで放ったとか。高所に王の居城を置くのは防衛の定石。天空にあっても、俗なるものからは逃れられないというわけか。
これからの秋は、空が高く澄みわたり、天空の聖地や城を眺めるのにぴったり。雲海がたなびけば、さらなる幽玄な世界が広がり、聖と俗のあわいに浸れそうだ。
ドイツ
標高855mの山頂に建てられた、ドイツ3大名城のひとつ。11世紀からはじまるプロイセン帝国皇帝ホーエンツォレルン家の城で、内部は博物館として公開中。142の宝石をちりばめた王冠などの豪華絢爛なお宝が飾られている。春と秋に雲海が発生しやすく、“天空の城”の異名をもつ。
ベネズエラ/ガイアナ/ブラジル
ギアナ高地の国境にまたがる、山頂が平らなテーブルマウンテン。断崖絶壁の地形、火山活動の影響を受けなかったことから、山上台地には太古の生態系が残るといわれ、アーサー・コナン・ドイルのSF小説『ロストワールド』の舞台にもなった。雲の上に突き出した姿は、軍艦にも形容される。
ミャンマー
サンスクリット語で“花があふれた”を意味し、一帯に国立公園が広がるポッパ山。その山麓にそびえる岩頸の頂にあるのが、ミャンマー土着の精霊信仰の聖地タウンカラッ。麓から寺院まで777の階段を登ると、マネキンにも見える精霊像が37柱ずらりと並ぶ。
スリランカ
高さ約180mの一枚岩の上に、約1500年前に築かれた王宮。父親を殺し王位を奪った“狂気の王”カッサパ1世が、復讐を恐れてここで暮らした。王宮のほか兵舎やプール、ダンスステージ跡などが現存。中腹にフレスコ画で描かれた“シーギリヤ・レディ”も必見だ。
メキシコ
スペイン語で“沸騰した水”を意味する間欠泉。岩の至るところからぶくぶくと水が沸いて見えるが、これは炭酸カルシウムを含むからで、実際の水の温度は冷たい。断崖絶壁にあり、上から見ると自然のインフィニティプールのよう。横から眺めると石灰分を含んだ水が流れ落ち、滝をそのまま白く固めたような驚きの奇景も楽しめる。
中国
高さ100mを超える石柱が3000本以上も林立。かつて海の底だった砂岩の層が地殻変動で隆起し、その部分が風雨で侵食されることで今の姿となった。映画『アバター』の舞台として一躍有名に。秋の紅葉も美しく、峰々の間を霞がたなびくさまは仙境のように神秘的だ。
ノルウェー
光を反射する花崗岩の性質から、ノルウェー語で“光のフィヨルド”を意味。写真の“プレーケストーレン”は氷河活動によってできた高さ約600 mの断崖。映画『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』のラストの格闘シーンが撮影されただけでなく、すぐ近くに野外シアターを設営し、プレミア上映会が行われたことでも話題となった。
ペルー
いわずと知れたアンデス山中、標高2450 mにある古代インカ帝国の遺跡。この観光の玄関口、マチュピチュ村の初代村長は、実は野内与吉という日本人。温泉掘削や鉄道の線路拡大などに尽力した。また〈ホテル・ノウチ〉も建設し、無償で村に提供するなど発展に貢献。
ブータン
標高3100m、垂直に切り立った岩壁に建てられたチベット仏教の寺院。ブータンに仏教を広めた祖が虎に乗って舞い降りたという言い伝えから、“虎(タク)の隠れ家(ツァン)”の名がつけられた。麓から往復で約6時間。ちなみに9月のブータンは松茸の季節で知られる。
日本
標高353mにある山城遺跡。豊臣秀吉に臣従した赤松広秀が最後の城主として城を整備。当時の石垣はほぼ完存し、“日本100名城”にも選定される。虎が臥せて見えることから“虎臥城”、また雲海が出現し天空に浮かぶ姿から“日本のマチュピチュ”とも呼ばれる。雲海が目当てなら9月~12月の早朝、寒暖差が大きく風のない日が狙いめ。
ギリシャ
“空に浮く”を意味するギリシャ語“メテオロン”に由来。60以上の奇岩群の上に建てられた複数の修道院を指す。高いもので標高600m。厳しい地形は修道士が俗世から離れ、祈りと瞑想を捧げるのに最適な環境で、今でも6つが現役の修道院となっている。
雑誌『Safari』10月号 P123〜128掲載
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