【9選】忘れられない夏の日の花火
年を重ねても、ずっと忘れられない夏の日の花火ってない? このちょっと切ない気持ちは、日本の花火が死者を弔う鎮魂に由来しているせいかも。一方、海外の華々しい花火はお祝いの象徴。そんな違いも楽しみながら、日本と世界の花火を旅してみよう。
- SERIES:
- 春夏秋冬 季節のトラベラー! vol.4
3年越しの花火が上がる
浴衣を着て、団扇であおぎながら、夜空の大輪を静かに見上げる。日本人にとって、花火はそんな夏の風物詩だが、世界各国で最も花火が多く打ち上がる日は大晦日。つまりニューイヤーを祝う花火で、音楽と歓声、そしてカウントダウンが一体になった賑やかなイベント。打ち上げ数や並びの長さなど、花火に関するギネス記録の多くも12月31日に達成されている。夏に上がる花火も、独立記念日や建国記念日など、国を挙げての華々しいお祝いやお祭りが目立つ。
日本の花火が海外と違って情緒的なのは、もともと慰霊のための儀式だからだろう。そもそも花火大会が夏に集中しているのは、お盆の送り火として打ち上げられたことに由来する。夜空が花火で埋めつくされたような錯覚に陥る“長岡まつり大花火大会”も、湖面が鏡のように花火を映す“諏訪湖祭湖上花火大会”も、そのはじまりは戦没者の鎮魂だ。
弔いか、お祝いか。その目的は日本と海外で真逆に感じられるが、たとえば隅田川花火大会の起源は江戸時代の疫病退散祈願ともいわれており、ぺストの終息を祈ったベネチアのレデントーレ祭に通ずるものがある。いずれにしても人々が心を解放し、よりよい明日を祈って、花火に思いを託すという点は、世界共通。今年、日本ではコロナ禍が終焉に向かってからはじめての花火大会がやってくる。特別な思いで迎えたい。
日本
1949年、戦没者を追悼し、早期復興を願ってはじまった長野県の花火大会。現在の名物は、“水上スターマイン”。湖上で速射連発花火を行うことで、半円の花々がいっせいに咲き乱れる。盆地ゆえに花火の破裂音が周囲の山々に反響し、大迫力の音響効果を生むことでも知られている。開催は毎年8月15日、2023年も開催予定。
ハンガリー
毎年8月20日、21時。ハンガリー建国を祝ってドナウ川沿いで打ち上げられる花火。4万発以上の数は欧州最大級の規模で、ライトアップされたブダペストの国会議事堂や鎖橋をさらに明るく照らす。近年はプロジェクションマッピングやドローンショーなどの演出も。
フランス
“キャトーズ・ジュイエ”(仏語で7月14日、つまり革命記念日)を祝ってエッフェル塔から打ち上げられる。日没が遅いため、スタートも23時と遅め。塔の真下、シャン・ド・マルス公園で開催されるクラシックコンサートの音漏れが聞こえるエリアの芝生を陣取り、ロゼやビールを片手に開始を待つのがパリジャン流だ。
イタリア
16世紀のペスト終息を祝うお祭り。当時ベネチアでは人口の4分の1が亡くなったとされ、ペストから解放してくれた神へ感謝の印として建設されたレデントーレ教会で行われる。祭りは7月の第3日曜日だが、花火が上がるのはその前日深夜。花火を見に来た小舟で、ベネチア運河は埋めつくされる。
シンガポール
8月9日、マレーシアからの独立を祝う記念日。軍による航空ショーやパラシュート落下パフォーマンスなどと併せて、各所で盛大な花火が打ち上げられる。面白いのはリハーサルの入念ぶり。2カ月も前から数回にわたり準備を行い、本番前に何度も花火を見ることができる。特等席のひとつが〈マリーナベイ・サンズ〉。
日本
新潟県の長岡空襲(1945年8月1日)の慰霊と、復興を祈願してはじまった。大曲、土浦の花火大会と並んで“日本三大花火大会”と称される。河川敷会場ならではの大型花火が魅力で、なかでも新潟県中越大震災の復興を願う“復興祈願花火フェニックス”は、連なるとその長さが約2㎞にも及び、ケタ違いの大きさに。8月2、3日で開催。
日本
毎年8月の第4土曜日に秋田県大仙市で開催される、通称“大曲の花火”。全国から選ばれた一流の花火師のみが参加できる国内最高レベルの競技大会であり、鎮魂や復興ではじまったほかの花火大会とは少し成り立ちが異なる。花火のデザインや色彩、創造性を重視して審査が行われ、最優秀作品には“内閣総理大臣賞”が与えられる。
スペイン
守護聖人・聖女メルセを称える、バルセロナのお祭り。毎年9月24日前後の数日間開催。人間の塔(カスティス)や、高さ4mの巨大人形(ヒガンテス)のパレードのほか、花火と爆竹で悪魔やドラゴンを追い払う“コレフォック”が見どころ。打ち上げ花火は最終日、モンジュイックの丘付近で見ることができる。
アメリカ
ニューヨークのイーストリバーで5万発近い花火が打ち上がる、アメリカ最大級の花火イベント。老舗デパート〈メイシーズ〉がスポンサーを務めることでも知られている。7月4日はアメリカ各地で花火が打ち上がり、全米花火協会(APA)によるとこの日だけで1万6000もの花火イベントが開催されるという。
雑誌『Safari』9月号 P111~116掲載
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