【レディー・ガガ】現代を象徴する歌姫が投げかけるものとは!?
グラミー賞を14回も受賞するなど、アメリカを代表するアーティストの1人となったレディー・ガガ。近年は女優としても大きな成功を収め、社会貢献活動も積極的に行うなど、多方面で活躍を見せている。そんな現代の歌姫をモーリーはどう見る!?
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- アメリカ偉人伝! vol.34
2017年のNFL スーパーボウルでハーフタイムショーに登場したレディー・ガガ。ドローンやワイヤーアクションを用いた圧巻のパフォーマンスを披露し、エミー賞にノミネートされるなど国内外で非常に高い評価を受けた
グラマラスさやスター性が注目されがちなレディー・ガガですが、今回は少し違う角度で見たいと思います。ひとつは、彼女の成功に象徴される西側諸国と日本との時計の違い。彼女のもつインパクト、背景にあるものの意味合いが、日本ではどうも薄まってしまいます。あるコラムニストに「どのクラスにもいる不思議ちゃん」と評されたくらいで、小馬鹿にして狭い枠組みに閉じ込める。実はこれが今のフジテレビ問題とも同期します。女性の役割という点でね。
ガガがヒットするまでに、マリリン・モンロー的なものから50、60年経っています。その間にゆっくりと大きな変化が起きた。女性が声を上げられない、教育や職業の選択肢が少ないという社会状況から、’60年代にはじまったのがウーマンリブ。今では女性も教育を受け、収入をもち、能動的に社会参加する時代へとシフトしました。時計が進んだんです。
そしてその裏にあるふたつめの時計が、グローバリズムにより、男たちが女性を家庭に閉じ込めておくだけの力をもち得なくなったこと。日本には“不思議ちゃん”のような便利なツールがあり、「女の子なんだから養ってもらわなきゃ」という本音が温存されてきました。そうしたことがだいぶ遅れて表面化したのがフジテレビの問題であり、時計のギャップを敏感に察知したのがグローバルな企業や株主たちでした。
そして3つめの時計は、女性がセクシュアリティを自己決定するようになったこと。あるがままの自分を肯定するだけでなく、権力もお金も、そして女性的な性も自分で手に入れるということです。ガガはセクシュアリティを自ら発信して大波を起こし、その跳ね返りのプレッシャーも受けている。そこに身を置くことを選んだんです。ハリウッド全盛期のセクシーは、あくまで男性目線。女性が商品として自分を提供し、男性が品定めする。ガガの性的に奔放なイメージは、束縛的な女性の役割への反抗でもありました。本人の言葉で「誰かにポップスターをやれといわれたときに、私は必ず訳のわからないひとヒネリを入れる」というのがあります。それは抵抗であると同時に、“主導権を握る”ことを大切にしているという意味でもあるんです。
これは個人的な感想ですが、彼女の曲は類型的で、どこかで聴いたような感じがします。歌唱力は高いけど、音楽的な凄みは感じない。たとえばビートルズのように、新しい音を聴かせたいという意欲はないと思います。それが悪いわけではなく、ほかのことにエネルギーを集中しているからまわりのプロに任せている。むしろ自分らしさを模索する姿は、歌姫として最適解だと思います。映像作品に映った彼女のメモを見ると、すごく簡単なコードしか使っていません。自分のやるべきことを選択し、あとはひたすら忠実に頑張る。そういう人だと思います。
女性をエンパワーする彼女のスタイルは、日本にどう影響するでしょうか。今はまだ何重にもフィルターがかかっている感じだけど、確実にヒビも広がっています。日本独自の時計はどんどん早まり、社会の変化を感じる機会も増える。その一方で、なにが起きているのかわからない昔ながらの人たちもいて、そこに断絶が生じる。フジテレビの問題などを見ていると、その争いの門が開いちゃった感じがします。もしかしたらテレビ業界だけでは終わらないかもしれません。
ガガはある意味で、世代間の断絶を象徴する存在です。彼女の歌や映画だけでなく、その背景にあるものを見てほしい。彼女のスタッフは人種もジェンダーもミックス。そうした有機的な総体を感じることができるかどうか、それがガガからの問いかけという気がします。彼女からのメッセージを、男女関係なくパーソナルなものとして受け取ってほしい。自分にとってどんな意味があるのかと。
昨年公開された映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の英国プレミアに出席したレディー・ガガとホアキン・フェニックス。ガガはハーレイ・クイン役を好演した
2018年公開の映画『アリー/スター誕生』で主演を務め、アカデミー賞をはじめ多数の主演女優賞にノミネートされた(いくつかは受賞)。また楽曲でも多くの賞を受賞している
ファッションには非常に強いこだわりをもっているガガ。時には奇抜なスタイルを披露して物議を醸すことも。特にステージ衣装は「なによりも大切」と語る
社会貢献活動には非常に熱心。これまでHIVの啓蒙・撲滅、性的マイノリティ支援、いじめの撲滅、貧困問題などに積極的に関わってきた。東日本大震災の際は3カ月後に来日し、多額の寄付と心温まるメッセージで被災地を支援した。
ブルーノ・マーズと組んだ新曲がチャート首位を獲得!

教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。東京大学とハーバード大学に現役合格。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家など幅広く活動中。最新著作『日本、ヤバい。「いいね」と「コスパ」を捨てる新しい生き方のススメ』(文藝春秋)発売中。
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尊敬はしているけど僕の時空にはいない人
「尊敬の念はありますが、強烈なプレッシャーや自己演出などを考えると、できるだけ遠くから見ていたい。浮き沈みが激しいので、近くにいると危険な気が……」
“アメリカ偉人伝”のラインナップ
◆【フランク・シナトラ】アメリカの光と闇を体現した男の正体とは!?
◆【ドナルド・トランプ】議論が絶えない新アメリカ大統領の真実の姿とは!?
◆【ジョン・ウィリアムズ】スクリーンを彩る偉大な作曲家のレガシーとは!?
◆【マイルス・デイビス】ジャズの帝王が音楽にもたらした大変革とは!?
◆【テイラー・スウィフト】Z世代に絶大な影響力をもつその理由とは!?
◆【バラク・オバマ】団結と分断を超えてアメリカ社会に残したものとは?
◆【ニール・アームストロング】人類初の偉業が見せてくれる現代の夢とは?
◆【フランシス・フォード・コッポラ】尽きない情熱で映画に携わる巨匠の業とは!?
◆【モハメド・アリ】伝説的ボクサーが名試合以外に残した価値とは!?
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◆【エルヴィス・プレスリー】アメリカの光と影を映し出すロックの王様!
雑誌『Safari』4月号 P198〜199掲載
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text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.)
photo by AFLO