現代の韓国から朝鮮王朝時代にタイムスリップしたシェフの女性が、料理の腕を武器にサバイバルを繰り広げることになる『暴君のシェフ』。先頃、大好評のうちに最終話を迎えてなお旋風が収まらず、ネットフリックスでの配信によりグローバルな支持も集めてきた人気ドラマなので、もはや見逃している人は少ないと思うが万が一見逃していたとしたらもったいない! そんな快作だった。
第1話のはじまりは、世界的フレンチシェフのヨン・ジヨン(イム・ユナ)がアクシデントに巻き込まれ、タイムスリップするところから。たどり着いた先は、500年ほど前の朝鮮王朝。どうやら、そこは歴史上も悪名高い“暴君”の治世らしい。元の時代に戻る方法を探ろうとする中、ジヨンはひょんなことから“暴君”のイ・ホン(イ・チェミン)と出会い、宮中に足を踏み入れることに。美食家のイ・ホンに料理の腕を買われ、王の食事を用意する役目を担うことになる。
基本的には、現代女性 meets 王様のラブコメといったところ。ジヨンと王様の出会いにも一悶着あれば、彼女が食事担当になるまでにもすったもんだがあり、気の強いジヨンと若くて感情の起伏が激しい王様は折に触れ、ああだこうだと言い合うことになる。加えて、ザ・時代劇の世界らしい危険はそこら中に転がっており、ジヨンの賢さとたくましさに救われることもあればハラハラさせられることも(刀で切られそうになったり、牢屋に入れられたりは当たり前)。そこで役に立つのが、ジヨンの料理の腕。宮中のありとあらゆるうるさがたを唸らせ、感動させ、時には涙を誘いもしながら胃袋をがっちりつかみ、王様に至っては恋心もつかんでいく。
第一の見どころはその調理&実食シーンで、当時の調理器具や食材を使いながら、トップシェフらしい活躍を見せるジヨンの姿にワクワクさせられる。コチュジャンとバターの風味を生かしたビビンバからまさかのマカロンまで、琴線に触れる料理や未知の料理の数々を提供し、唯一無二の料理人の座を勝ち取るジヨン。調理シーンのほとんどを自らこなしたというイム・ユナの熱演はもちろん、料理に魅了される側の演技もポイントとなり、毒見担当の人も王様も敵対勢力も一口食べた瞬間、夢の世界に。そんな状況を、ユーモラスに表現したシーンがいちいち楽しい。
また、もう1つの見どころは、“歴史”をうまく利用したストーリーが繰り広げられるところ。自国の歴史を現代で勉強済みのジヨンは、イ・ホンがのちに王の座を追われる人物であることを察知する。歴史上とドラマ内とで名前などは変更されているものの、後半は特にこの設定が鍵に。宮中で大騒動が起こる中、王様とジヨンの運命の行方に注目が集まる。さらにポイントとなるのが、歴史上は暴君だが、実はチャーミングな面も持ち合わせた王様の人物像。“さまざまな事情から歴史に誤解された王”を、本作で大ブレイクしたイ・チェミンが驚くほど魅力的に演じている。
ちなみに、米Starzの大人気ドラマ『アウトランダー』では、第二次世界大戦後の時代から18世紀にタイムスリップした看護師が医療と歴史の知識を武器にサバイブしている(現在、ネットフリックスでも配信中)。やはり、過去の時代を元気に生き抜く上で必須なのは、特定の分野を極めることと歴史をちゃんと勉強しておくこと? そして、タイムスリップものを成功させる秘訣は、それらの点を上手に描くことだとも思う。
『暴君のシェフ』配信中
監督/チャン・テユ 出演/ユナ、イ・チェミン、カン・ハンナ、チェ・グィファ、ソ・イスク、ユン・ソア、オ・ウィシク 配信/ネットフリックス
2025年/韓国/全12話
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