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CULTURE カルチャー

2026.04.19


孤独に寄り添う傑作映画5選

 

 


『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
製作年/2016年 監督/ケネス・ロナーガン 出演/ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー

哀しみと向き合い、再び歩き出す瞬間を描いた傑作
リー(ケイシー・アフレック)はマサチューセッツの都市部で孤独に暮らすアパートの用務員。きちんと仕事はこなすが、いつも無愛想で住民からの苦情は絶えない。そんな彼が兄の急死に伴い、これまで遠ざかっていた故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーで過ごす日々。それは遺された甥の暮らしを支える一方、かつてこの街でリー自身が経験した計り知れない悲劇と向き合うことを意味していたーーー。

アカデミー賞脚本賞&主演男優賞に輝いた本作は、穏やかな語り口とほのかなユーモア、そして海辺の美しい自然描写を織り交ぜながら、悲しみの淵にある甥と叔父を優しく包み込む。甥役のルーカス・ヘッジスも素晴らしいが、輪をかけて出色なのはやはりケイシーの存在感だろう。ある時はふわふわと掴みどころがなく、かと思えば、一つの重要な記憶が明かされるとき、彼が全身全霊で体現する哀しみは観る者の心を押しつぶしてしまいそうなほど大きい。しかし傷を抱えてもなお、時間をかけてゆっくりと人生を前に進めていこうとする姿が尊く、感動を呼ぶ。きっと10年後、20年後も時代を超えて愛され続ける秀作だ。
 
  

 


『her/世界でひとつの彼女』
製作年/2013年 監督/スパイク・ジョーンズ 出演/ホアキン・フェニックス、エイミー・アダムス、ルーニー・マーラ

まるで未来を予見したかのようなラヴストーリー
独創的な作風で知られるスパイク・ジョーンズが近未来のロサンゼルスを舞台に描くSFラブストーリー。依頼人に代わって心温まる手紙をしたためる代筆ライターのセオドア(ホアキン・フェニックス)はある日、人工知能を搭載したOSを手に入れる。音声でやりとりできるその存在をサマンサと名付け、離婚したばかりの孤独を埋めるように語りかける彼。絶妙に応じるAI。両者はいつしか恋人どうしのように打ち解けあい……。

ジョーンズがこのアイディアを初めて着想したのは2000年代の初頭。インスタントメッセージを介しAIとやりとりできるウェブサイトに関する記事を読んだのがきっかけだとか。つまりSiriなどが登場する随分前から構想を持っていたことになる。その唯一無二の感性はテクノロジーを温もりある存在として描き、淡い暖色系で彩られた未来都市の光景もずっと眺めていたくなるほどに優しい。公開から10年以上が経つ今もなお、見直すたび先見性の高さに唸り、よりいっそう魅力が深まっていく一作。
 

  

 


『リービング・ラスベガス』
製作年/1995年 監督/マイク・フィギス 出演/ニコラス・ケイジ、エリザベス・シュー

ケイジの真価を開花させた90年代の秀作
アルコール依存症のベン(ニコラス・ケイジ)は、愛する家族に去られ、上司や友人にも見放され、それでもなお生き方を変えようとしない。退職金を握りしめ、向かった先は眠らぬ街ラスベガス。そこで酒に溺れて孤独に死ぬつもりだった。しかし娼婦セラ(エリザベス・シュー)との出会いが彼の日常に癒しを与え……。

ケイジにアカデミー主演男優賞をもたらし、俳優人生の決定的なターニングポイントとなった一作。フィギス監督は主演二人に徹底した役作りを行うよう指示し、とりわけケイジはダブリンで2週間にわたって自らアルコール漬けの生活を送り、そこでカメラを回して酩酊状態の喋り方や所作を徹底的に研究したとか。四六時中ネオンに照らされたラスベガスはまるで夢とうつつの境界のようで、スーパー16mmが活写する空気感やスティングのジャズナンバーがメランコリックな幻想性に深みをもたらす。もう全てがどうでもいいと感じていたはずの主人公に生じる相手を想う気持ちと、感情の澱(おり)。それを人間の証と呼びたくなるほど脆く繊細に彩られたヒューマンドラマである。
 

  

 


『SOMEWHERE』
製作年/2010年 監督/ソフィア・コッポラ 出演/スティーヴン・ドーフ、エル・ファニング

束の間の父娘時間が、空虚な毎日を変えていく
ソフィア・コッポラが自らの幼少期の記憶などにヒントを得て作り上げ、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞(最高賞)に輝いた一作。セレブ御用達の老舗高級ホテル「シャトー・マーモント」で暮らすハリウッド俳優のジョニー(スティーヴン・ドーフ)は何物にも満たされない空虚な日々を送っている。そんな折、前妻と暮らす11歳の娘クレオ(エル・ファニング)を一時的に預かることになり……。

孤独な生活空間に突如入り込んできた娘。彼女と同じ場所、同じ時間を共有しているだけで、ジョニーの中の何かが少しずつ変わり始める。それは長らく実感できずにいた父性の芽生えと捉えることもできるだろうし、『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)や『マリー・アントワネット』(2006年)がそうであったように、こうして結晶化された「もう二度と戻ってこない日常」の描写こそソフィア作品の真骨頂と言える。ほぼ等身大の役柄を演じたファニングの本格的活躍もまさにここから始まった。
 

  

 


『息子のまなざし』
製作年/2002年 監督/ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 出演/オリヴィエ・グルメ、モルガン・マリンヌ、イザベラ・スパール

胸苦しくなるほどの現実の向こうに見える光
ベルギーの巨匠ダルテンヌ兄弟が手掛け、カンヌ映画祭にて男優賞を受賞したヒューマンドラマ。職業訓練所で若者たちに木工技術を教える寡黙な男オリヴィエは、少年院を出たばかりのフランシスをあえて自らのクラスで引き受ける。少年の一挙手一投足を注意深く見つめるオリヴィエ。その鋭い眼差しには理由があった。実は彼は、かつてフランシスに一人息子を殺された父親だったのだーーー。

二人の関係性から始まるのは復讐劇、かと思いきや、物語は手持ちカメラがもたらす息苦しくなるほどの生々しさによって、主人公の心の変容を写し撮る。なぜ、オリヴィエは息子を殺した少年の面倒を見るのか。そんなことをして何のメリットがあるのか。理由はおそらく彼本人にもわからない。わからずともそうしてしまうところに、人間の持つ複雑さ、不可解さ、あるいは彼なりに絶望を乗り越えようとする思いが感じられる。そして白眉なのは、ひたすらオリヴィエの行動や表情を追い続けていたカメラが不意に振り返り、彼の見つめる先を捉えるラスト。自ら意志を持ったかのようなその深淵な動きに胸が震えるばかりである。




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文=牛津厚信 text:Astunobu Ushizu
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