Gastronomic City Singapore
アジアの美食の覇権を狙うシンガポールに注目。
『アジアのベストレストラン50』がシンガポールで4年ぶりに通常開催された。アフターコロナの観光誘致でしのぎを削るアジア圏において気を吐く同国の、真っ先に行くべき最新のレストランを2店舗ご紹介する。
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“リベンジトラベル”という言葉が適当かわからないが、アフターコロナで国をまたぐ旅が盛況だ。欧米に比べ後れを取っていたアジア圏の国々は、熾烈な観光誘致合戦を繰り広げている。なかでもシンガポールは、食の多様性をテーマにレストランを観光のキーコンテンツに据えている。今春には、4年ぶりに通常開催された『アジアのベストレストラン50』のアワードも誘致。シンガポールは観光だけでなく、仕事で訪れる読者も少なくないと思うので、今回は接待用としても“間違いない店”として、筆者が太鼓判を押す2店をご紹介。
〈ユーフォリア(Euphoria)〉は、シンガポールを代表するシェフの1人、ジェイソン・タン(Jason Tan)が2020年に開業。戦前に建てられたショップハウスを改造した店内は26席を配し、外光を巧みに取り入れた心地いい空間だ。ジェイソンの料理の哲学は“ガストロ・ボタニカ”という。フランス料理の伝統や技術をベースにしながらも、植物園で感じるような野趣や多様性を、皿の中で優美な料理として表現することを得意としてきたが、この〈ユーフォリア〉ではさらに進化。玉ねぎをベースに野菜だけでソースに使うキーエッセンスを作るなど、ガーデンの野菜に着目し、フランス料理の新しい味覚にも挑戦している。どの料理も軽快で優美で、なにより五臓六腑の食後の納まり加減がとてもいい。
一方、〈ジャーン by カーク・ウエスタウェイ(JAAN By Kirk Westaway)〉は、ビルの最上階にあり、眼下に望むシンガポールの絶景は、昼夜問わず眼福の極み。英国育ちのカークシェフは、その豊かな自然にインスパイアされた"モダン英国料理"を標榜する。フィッシュ&チップスなど英国のレシピをもとに、手の込んだ洗練された料理に仕上げている。多彩な食材が入る土地の優位性を生かし、最高級の旬の食材を使いながら、どこか馴染みのある郷愁漂う味わいに落とし込んでいるのが魅力である。
[ユーフォリア]
“ガストロ・ボタニカ"という独自の新しい味わいに挑戦。
“ガストロ・ボタニカ”を料理の哲学テーマに掲げるジェイソン・タンが、最近夢中になっているのが玉ねぎの魅力だという。料理から出汁のベースまで、玉ねぎの知られざる味わいを最大限に引き出している。料理は盛り付けから風味まで、高いレベルで洗練されている。
“オニオン・ジャンボリー”は異なる調理法で仕立てた玉ねぎで構成し、中心には最高級のキャビアを
柔らかく甘味のあるセヴェンヌ産の玉ねぎに注目したジェイソンシェフは、4つの異なる調理方法を使って、この玉ねぎの潜在的な魅力を引き出す
こちらは人参をリボン状の層状に仕立てた料理。独特の食感と食味がたまらない
アミューズの一例。小さい料理も手が込んでいる
戦前に建てられた歴史的建造物を改装した店内は、スタイリッシュで心地いい
[ジャーン by カーク・ウエスタウェイ]
リュクスな空間で超モダンな英国料理。
カーク・ウエスタウェイは、幼少期に体験した英国の自然の風味と季節感を料理に盛り込んでいる。『ミシュランガイド シンガポール版』で2つ星を獲得するなど実力は折り紙つき。料理だけでなく、ソムリエやスタッフの技術、ホスピタリティも素晴らしい。
新鮮なランゴスティーヌとアスパラを使った一皿。添えられたディルやソースが爽やかさを演出する
“フィッシュ&チップス”はプレゼンテーションもユニーク。薄い皮ごと手づかみで頬張ると、口腔内で馴染みある風味が広がる
英国伝統の“ストロベリーパイ”もご覧のような洗練された雰囲気に
レストランは〈スイスホテル ザ スタンフォード〉のビルの最上階にある。昨年末に内装をリニューアルした
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●今、東京で最も注目すべきブランニューなレストラン!
●大阪発世界へ。美食の地図を塗り替えた注目のレストラン。
●ユーフォリア[Euphoria]
住所:76 tras street, Singapore 079015
URL:https://restaurant-euphoria.com/(予約はWEBから)
●ジャーン by カーク・ウエスタウェイ[JAAN By Kirk Westaway]
住所:Level 70, Swissôtel The Stamford, 2 Stamford Rd, Singapore 178882
TEL:+65-9199-9008
URL:https://www.jaan.sg/
『Urban Safari』Vol.35 P31掲載
美食評論家
1964年神奈川県葉山生まれ。ファッションからカルチャー、美食などをテーマに新聞や雑誌、テレビで活動中。主な著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。2013年より『世界ベストレストラン50』の日本評議委員長も務める。'22年春、JR九州が運行する「ななつ星in九州」の車内誌の編集長に就任。