Gastronomic City MIE & WAKAYAMA
紀伊半島から世界に発信、ローカル・ガストロノミーの名店。
紀伊半島は、本州から太平洋へと突き出した日本最大の半島である。神話や歴史の舞台として、あるいは豊かな自然と食材を誇るこの地を表現し、世界の美食家やVIPたちを魅了するふたつのレストランの魅力をご紹介。
- TAGS:
- Urban Safari Gourmet
『世界のベストレストラン50』では、ランキングとは別に、『50BESTディスカバリー』という地球規模のレストラン・ガイドを作り、ウェブサイトで無料公開している。日本国内は現在162店が選出されているが、今回は紀伊半島から選ばれた2店舗を、その魅力とともにご紹介したい。
〈ラ・メール〉は、志摩観光ホテルのメイン・ダイニングとしてよく知られた存在である。総料理長の樋口宏江シェフは、2016年のG7伊勢志摩サミットのワーキング・ディナーを担当したことで、その名は世界でも知られるようになった。樋口シェフの料理は、伝統のフランス料理の文脈に添いながらも、輸入食材に頼らず、鮑や伊勢海老などの海の幸をメインに、地域でしか出せない味覚を、多彩な調理法で表現する。近年は、伊勢湾で揚がる“答志島トロさわら”や南伊勢の田曽浦で養殖される“スジアオノリ”、あるいは英虞湾の“真珠貝の貝柱”など、地元でしか手に入らない珍しい食材も積極的に取り入れて、新たな料理に挑んでいる。彼女ならではの“伊勢志摩ガストロノミー”は、紀伊半島の食の魅力を知るうえでも体験する価値は極めて高い。
もう1店舗の〈ヴィラ アイーダ〉は、和歌山県の紀ノ川沿いの町、岩出市にある一軒家のレストランである。野菜や香草や果樹といった食材の多くは、店の敷地内の畑で、小林寛司シェフ自らが栽培・収穫したものが使われる。ゆえに“農家レストラン”や“ファーム・トゥ・テーブル”、あるいは“地産地消”というキーワードで語られるが、彼にとって料理とはガストロノミーであることが大前提にあり、畑作りはむしろ、理想の料理の延長として、不可欠な食材を生み出すための素材作りと解すべきだろう。個人的には発想を逆転して、“テーブル・トゥ・ファーム”と考えたほうが理解しやすいように思う。それは筆者が彼の料理スタイルを“アグリ・ガストロノミー”と呼ぶ理由でもある。
地域の新しい表現としても刮目すべきふたつのレストランを、是非訪れてほしい。
[ ラ・メール ]
伊勢志摩の豊かな食材を本格フレンチで。
長年にわたり伊勢志摩の豊かな自然や食文化と向き合い、伝統の“海の幸フランス料理”を“伊勢志摩ガストロノミー”へと進化させつづける総料理長の樋口宏江シェフ。2019年のミシュランでは1つ星獲得。農林水産省料理人顕彰制度“料理マスターズ”にも選ばれた。
“ぬちぐすい”は、選び抜かれた地元野菜など、30数種の食材を異なる調理法で仕立てた新メニュー
“アオスジノリをまとった伊勢真だいブールブランソース”は、爽快な酸味とコクのソースが味の決め手
“伊勢海老ソテー柑橘と人参のソース”は、ソテーした伊勢海老に南伊勢の柑橘の果汁、人参のジュースをバターで優しくまとめたソース仕立て
伊勢志摩の未だ知られざる食材を探り、新たな味覚に挑戦しつづける樋口宏江シェフ
レストランからは美しい英虞湾が一望できる
[ ヴィラ アイーダ ]
畑から作るアグリ・ガストロノミー。
地方レストランのお手本として、多くの料理人だけでなく、生産農家や地方自治体にも注目されている小林寛司シェフ。都会の喧騒から離れた田畑の中の一軒家で、1日1客に限定して、その日限りのコース料理を提供。食材の野菜や香草や果実の多くは自家栽培したもの。
近海のハタをしっとり焼き、庭のオリーブの新漬け、畑の野菜で構成
ビーツとラディッシュ、ローゼルとダリアをごま油風味で仕立てたサラダ
小林寛司シェフは、『ミシュランガイド京都・大阪+ 和歌山2022』において2つ星の獲得に続き、2022年度『アジアのベストレストラン50』では、初登場で14位の快挙
まるでイタリアの田舎の邸宅に招かれたような、美しい調度品に囲まれた店内
●今絶対に行くべき、横浜で注目の美食系レストラン。
●世界トップシェフたちが東京で新たに挑む話題のレストラン。
●肉で攻めるか鮨で拓くか、東京・和食系のニューウェイブ。
●今行きたい! 東京・フレンチと東京・中華の新星現れる。
●王道それとも気鋭? 東京・フレンチ名店の鴨対決!
●レストランの未来のトレンドの形を示す東京の2店舗。
●今行くべき東京の和食系レストランの最旬事情を探る。
●今、東京で注目される若手外国人シェフの実力。
●奥能登の輪島で日本の美食旅の魅力を味わい尽くす。
●東京の底力を見せた今年の『アジアのベストレストラン50』。
●ラグジュアリーな美食エリアとして注目される軽井沢。
●ローカル・ガストロノミーの聖地、南魚沼の絶品料理。
●沖縄から世界に発信する、宮古島の最新ガストロノミー事情。
●今、東京で最も注目すべきブランニューなレストラン!
●大阪発世界へ。美食の地図を塗り替えた注目のレストラン。
●ラ・メール
住所:三重県志摩市阿児町神明731 志摩観光ホテル
営業時間:朝食(宿泊者のみ)7:00~10:30(10:00LO)、昼食(貸切のみ)11:30~14:30(13:00最終入店)、夕食17:30~22:30(20:30LO)
TEL:0599-43-1211(受付時間9:00~20:00)
URL:https://www.miyakohotels.ne.jp/shima/restaurant/lamer/#lnk_info
●ヴィラ アイーダ
住所:和歌山県岩出市川尻71-5
営業時間:夏季12:30~、冬季13:00~
※6席1テーブル(2~6名・3日前までの予約制)
不定休
MAIL:madam@villa-aida.jp(予約はメールにて)
URL:http://villa-aida.jp./
『Urban Safari』Vol.31 P39掲載
美食評論家
1964年神奈川県葉山生まれ。ファッションからカルチャー、美食などをテーマに新聞や雑誌、テレビで活動中。主な著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。2013年より『世界ベストレストラン50』の日本評議委員長も務める。’22年春より、JR九州が運行する「ななつ星in九州」の車内誌の編集長に就任。