Gastronomic City TOKYO
肉で攻めるか鮨で拓くか、東京・和食系のニューウェイブ。
新たな生活様式に伴い、レストランの楽しみ方の選択肢も進化しつつある。そのひとつが“肉割烹”という、割烹に肉料理を持ちこんだ新たなスタイルだ。鮨においても本格的なワインで挑む店が登場。今回は注目の2店をご紹介する。
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“肉割烹”を謳う店が登場しだしたのは、この数年のことだろうか。文字どおり、肉料理を割烹スタイルで提供する店と解していいと思うが、そもそも肉が主役の鉄板焼き店の多くは、カウンター越しで提供しているので、潜在的に割烹との親和性は高いはずである。
先頃、その肉割烹のスタイルに本格参入したのが、老舗の〈うかい〉である。〈うかい〉は、東京や神奈川などで15店舗のレストランを経営する老舗グループであるが、2022年3月1日に、銀座に肉割烹料理〈銀座 kappou ukai 肉匠〉をリニューアルオープンさせた。
もともと〈八王子うかい亭〉は、創業から47年間にわたり鉄板料理を提供し、牛肉に対する知見の高さや品質の確かさを誇っている。今回のリニューアルでは、数々の〈うかい亭〉を歴任してきた半野雄大シェフを料理監修に抜擢したというから、期待も膨らむというもの。
メインの肉料理も、その期待を裏切らないだろう。その肉を、旨味と香りを逃がさないように塊肉のまま、炭火でじっくり焼きあげている。それをカウンター越しに眺めながら、出来立てを割烹スタイルで食せるのは、肉ファンには新鮮で口福な体験になるはずだ。
一方、東京・渋谷のいわゆる“奥渋”というエリアに開業した鮨店〈あじゅう田〉も、店のスタイルや楽しみ方において注目に値する。店主の阿重田博紀氏は名店での修業で培った確かな技術を持ち、ネタもマグロ仲卸の練達〈やま幸〉から仕入れる最高のマグロを使うなど余念がない。
特筆すべきは、この鮨店には阿重田氏のほかに熟練のソムリエを2人も擁していることだ。日本酒の銘醸クラスはもちろん、ワインもブルゴーニュを中心に200本以上常備するというから驚きだ。従来の鮨店にない融通無碍な楽しみ方ができるとあって、新たな客層を呼びこんでいる。
従来の固定概念に固執せず、自由な発想やスタイルに挑んでいる和食のニューウェイブ。外食の醍醐味や歓びを再認識するうえでも訪れたい2店である。
[ 銀座 kappou ukai 肉匠 ]
鉄板の名店が挑む肉割烹の実力に舌鼓。
これも長年の経験と貫禄だろうか。流行りの肉割烹も、名店が手掛けるとひと味もふた味も違う。自慢の牛肉は鉄板ではなく、日本料理の炭火のスタイルで仕立てられると、別の魅力を発揮するから不思議である。接待はもちろん、海外の客人にもおすすめしたい。
“肉匠厳選極上 神戸牛”は肉塊を炭火でじっくり焼くことで本来の旨味を凝縮させた風味絶佳な一皿
この店で使う牛肉は、環境に配慮し育てられた兵庫県・三田の神戸牛や最高峰の松阪牛など。牛タンやフィレ肉など、部位ごとの味わいを引き出す料理もおすすめ
旨味のあるタン元をブイヨンで柔らかく仕上げた自慢の“牛タン”
料理監修の半野雄大氏は、〈うかい亭〉の統括マエストロとして、長年にわたり肉料理の研鑽を重ねてきた
檜一枚板のカウンターを配した贅沢な空間
[ あじゅう田 ]
鮨通ワイン通も唸る鮨のガストロノミー。
奥渋らしい、モダンで自由なスタイルに挑戦したかったという主人の阿重田氏。幅広い好みのゲストに対応するため、専門のソムリエを擁し上質なワインを揃える。“おまかせ”スタイルをベースにしながらも臨機応変に、遅めの時間からも楽しめるよう対応している。
ネタと腕前は折り紙つき。酒の合わせ方も自由に楽しめるのがこの店の骨頂
店には店主のほか、ソムリエの岡地伸幸氏と根岸洋介氏の2名を配し、最高のマリアージュを提供する
店主の阿重田博紀氏は1986年生まれの36歳。いくつかの都内の名だたる一流鮨店だけでなく、日本料理の修業経験も持つ。形式に囚われず旨いものを握り、自由なスタイルで楽しんでほしいという
奥渋らしいモダンな内装になっている
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●銀座 kappou ukai 肉匠
住所:東京都中央区銀座8-9-15 ジュエルボックス銀座 B1
営業時間:ランチ12:00~15:00(13:00LO)、ディナー17:30~22:00(20:00LO)
定休日:日曜・月曜、年末年始
TEL:03-5568-1515
URL:https://www.ukai.co.jp/ginzakappou/
●あじゅう田
住所:東京都渋谷区宇田川町37-15 アリスト渋谷 B1
営業時間:ランチ12:00~13:30(最終入店時間)、ディナー17:30~21:00(最終入店時間)
定休日:日曜、不定休
TEL:03-6804-7095
『Urban Safari』Vol.28 P31掲載
美食評論家
1964年神奈川県葉山生まれ。ファッションからカルチャー、美食などをテーマに新聞や雑誌、テレビで活動中。主な著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。2013年より『世界ベストレストラン50』の日本評議委員長も務める。’22年春より、JR九州が運行する「ななつ星in九州」の車内誌の編集長に就任。