古き良き時代のアメリカーナを満喫できる街
エブリデイ・バーボンの街からアメリカン・ミュージックの聖地へ
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Nashville Tennessee
「オールド・フォレスター蒸留所」の外観。創業時から同じ場所に建っており、歴史的な風格と内部には最新鋭の蒸留設備を備えている
ケンタッキー州最大の都市、ルイビル。バーボンの聖地、ケンタッキー・ダービーの舞台、モハメド・アリの故郷として知られる、南部の文化と伝統が息づく街だ。通りを歩くと赤レンガの建物や歴史を感じさせる街並みが続き、南部特有の温かい空気に包まれる。まずはダウンタウンの“ウィスキー・ロウ(Whiskey Row)”と呼ばれるエリアの中心にある老舗のバーボン蒸留所『オールド・フォレスター』を訪ねてみた。
蒸留所内はモダンな内装が施され、樽庫内には数千本の熟成樽が壁面を覆う
創業150年を超えるこの蒸留所は、ケンタッキー・バーボンの伝統を今に伝える貴重な存在である。蒸留所の扉を開けると芳醇な香りが鼻腔を満たす。熟成感あふれるバーボンの甘い香りは、まさにアメリカン・スピリッツの象徴だ。ケンタッキーの石灰岩でろ過された軟水と、トウモロコシを主原料とした特別な配合が、この地域独特の味わい持つバーボンを誕生させるのである。ウィスキー職人たちの熟練した技術、巨大な銅製の蒸留器から立ち上がる蒸気、慎重に温度管理された発酵タンク、そして何年もの歳月をかけて熟成されるオーク樽の数々。長い時間をかけてゆっくりと育まれるバーボンの製造過程は、まさに芸術品を創り上げるかのような作業である。
蒸留所の最上階にあるテイスティング・ルーム。4種類の個性を味わえるテイスティングが楽しめる
最上階にあるウッディな装いのテイスティング・ルームでの試飲では、熟成年数の異なる数種類のバーボンを味わった。若いバーボンの鋭角的な力強さから長期熟成されたバーボンの甘く複雑で深い味わいまで、それぞれが印象に残る個性を持っている。中でも12年熟成の逸品『OLD FORESTER PRESIDENT’S CHOICE』は、バニラとカラメルの甘い香りのあとに、オーク樽の木の風味が口の中の広がり、じつに印象に残る味わいだった。
ダウンタウンの「ウィスキー・ロウ」には写真のようなバーが多く点在し、壁一面にローカルなバーボンが並ぶ
オールド・フォレスター蒸留所のあるメイン・ストリートの6番街から9番街の区間は、ダウンタウンでもっとも保存状態の良い歴史地区だ。このエリアにあるウイスキー・ロウは、古くからバーボン産業の本拠地として知られており、現在ではルイヴィルの中心的な観光スポットとなっている。オールド・フォレスター蒸留所は創業時と同じ場所に建っており、伝統的なウイスキー・ロウの歴史を尊重しながら、この街のバーボン産業の牽引役となっている。
色鮮やかなセラミック・タイルで描かれたアリの肖像が印象的なファサードを持つ「モハメド・アリ・センター」
ルイビル出身の偉大なボクサー、モハメド・アリの軌跡を辿った「モハメド・アリ・センター」は、街の中心に位置するモダンな建物の博物館だ。ここは単なるスポーツ博物館を超えて、人権と平等をテーマにした教育施設としての役割も果たしている。入口付近にある「Float like a butterfly, sting like a bee (蝶のように舞い、蜂のように刺す)」という、アリの象徴的なフレーズをテーマにした印象的な屋外展示に迎えられ、胸が高鳴る。
モハメド・アリの輝かしいキャリアがインタラクティブなタイムライン形式で展示されている
来館者が自然環境保護や生物多様性への興味・理解を深める入り口としてデザインされ、このフレーズが書かれた巨大なサインや、アリの写真・肖像も大きく掲げられている。館内の展示で特筆すべきは、アリがベトナム戦争への参加を拒否し、世界ヘビー級チャンピオンのタイトルを剥奪されながらも信念を貫いた時期の展示だ。「私にはベトコンと戦う理由がない」という彼の言葉は、スポーツ選手としての枠を超えた社会的メッセージとして、今も多くの人々の心に響いている。
アリのシグネチャー・カーとしてセンターの目立つところに展示されている茶色のロールスロイス
アリが所有した1977年式のロールスロイスのコンパーチブル、実際に使用されたグローブやローブ、オリンピックの金メダル(後にオハイオ川に投げ捨てたという逸話で有名)のレプリカなど、貴重な品々を間近で見ることもできる。大きなスクリーンに映し出される、フォアマンとの歴史的なタイトルマッチ、『キンシャサの奇跡』やフレージャーとの激戦3部作など、名勝負のハイライト映像は何度見ても鳥肌が立つ迫力だ。
世界最高峰の競馬レース“ケンタッキー・ダービー”の舞台となる『チャールズ・ダウンズ競馬場』のメインエントランス
ルイビル郊外にある広大な『チャールズ・ダウン競馬場』は、1875年から続く長い歴史を誇り「スポーツの中で最も興奮する2分間」と称されるケンタッキー・ダービーの舞台として、世界中の競馬ファンの聖地となっている。実際に競馬場に足を踏み入れると、まずはその壮大さに圧倒される。美しい芝のトラック、歴史を感じさせる観客席、そしてその向こうには有名な双塔(ツイン・スパイア)が青空に向かってそびえ立っている。
毎年5月の第1土曜日に開催されるケンタッキー・ダービー。当日は正装した観客がミント・ジュレップを飲みながらここからサラブレットのレースを観戦する
競馬場内に併設されている『ケンタッキー・ダービー博物館』では、過去の名馬たちの軌跡と栄光の歴史を辿ることができる。博物館内では、セクレタリアト、シアトルスルー、アファームドといった伝説の名馬たちの展示に心を奪われる。360度スクリーンでのダービーレース体験では、騎手の視点から見るレースの迫力を疑似体験でき、実際のレースの迫力と興奮がどれほどのものかを実感することができる。
博物館にある360度スクリーンのパノラマシアターでは『ザ・グレイテスト・レース』という18分間の映像が上映されており、ケンタッキー・ダービーの興奮と歴史を体験できる
競馬場内のガイドツアーでは、普段は入ることのできないパドック、ジョッキールーム、ウイニングサークルなどを見学でき、なかでも印象的だったのは、毎年5月の第1土曜日に行われるダービーデーの様子を描いた写真展示だ。13万人を超える大観衆で埋め尽くされたスタンドの熱狂ぶりは、写真を通してでも十分に伝わってくる。
近代的な高層ビルが建ち並ぶナッシュビル・ダウンタウンの中心地
テネシー州の州都ナッシュビル。ミュージック・シティとも呼ばれ街中に音楽が溢れている。1925年から放送が開始されたカントリー・ミュージックのライブ放送『グランド・オール・オプリー』が大人気となり、ハンク・ウィリアムズ、ジョニー・キャッシュなどの巨匠から、ドリー・パートン、ガース・ブルックス、テイラー・スウィフトなど、人気アーティストを数多く輩出した。多くの優れたミュージシャンが集まっていたため、大手レコード会社のレコーディング・スタジオが建設され、ナッシュビルは全米有数の音楽都市として発展していった。
テネシー州の豊な音楽遺産へのオマージュとして設立された「カントリー・ミュージック殿堂博物館」。建物正面はピアノの黒鍵を模したデザインになっている
ダウンタウンの中心に位置する『カントリーミュージック殿堂博物館(Country Music Hall of Fame and Museum)』は、カントリー・ミュージックの歴史と魂を余すことなく伝える聖地だ。ガラスと石を組み合わせた壮麗な外観は、まるでギターの弦やピアノの鍵盤を思わせるデザインで、音楽都市ナッシュビルを象徴する存在となっている。内に足を踏み入れると、カントリー・ミュージックの原点から現代まで、その発展をたどる壮大な展示物が館内を埋め尽くす。
“Let's Have a Party”というテーマのロカビリー関連の展示。「クイーン・オブ・ロカビリー」として知られるワンダ・ジャクソンの代表的な衣装や楽器が展示されている
展示室には名だたるアーティストが実際に使用したギターや衣装、手書きの歌詞ノート、レコーディング機材などが並び、まるで音楽の歴史が息づいているかのようだ。なかでもジョニー・キャッシュの黒い衣装やエルビス・プレスリーが所有していた1960年型キャデラックなどは、訪れる人々を圧倒する存在感を放っている。さらに、音源や映像を自由に再生できるブースもあり、カントリーミュージックの多様なサウンドを体感的に学ぶことができる。
カントリー・ミュージック界のレジェンド、ハンク・ウィリアムスが大切にしていたマーチンD-28モデル
エルビス・プレスリーが所有していた『ソリッドゴールド・キャデラック』。ボディはダイヤモンド・ダスト・パールと呼ばれるカラーで、砕いたダイヤモンドと魚のウロコを混ぜた塗料で塗装されている
ナッシュビルを訪れるならこの博物館は絶対に外せないスポットだ。単なる展示を超えてカントリー・ミュージックがいかにアメリカ人に愛されてきたのかを実感できる。もちろんカントリー・ミュージックだけでなく、音楽という文化が持つマジックやパワーを感じたい人にも絶好の場所である。
1971年に国家歴史登録財に指定された、美しいゴシック・リバイバル様式の建築物『ライマン・オーディトリアム』
賑わいの中心、ブロードウェイ通りからほど近い場所にある『ライマン・オーディトリアム(Ryman Auditorium)』は、“マザー・チャーチ・オブ・カントリーミュージック”と呼ばれる伝説的なコンサート会場だ。1892年に福音伝道師トーマス・ライマンによって建てられた教会で、ゴシック様式の赤レンガ建築が歴史の重みを静かに伝えている。1943年にカントリーミュージックの人気ラジオ番組『グランド・オール・オプリー』の会場となったことで、その名は一躍全米に知られるようになった。
内部は2層構造になっており、木製のシートが1階のメインフロアに1,298席、2階のバルコニーに1362席を備えている
内部には教会の面影を残す木製のベンチシートやアーチ型の天井が残されており、温かみのある音響が特徴だ。座席数は約2500と決して大きくはないが、その親密な距離感こそがライマンの魅力だ。ジョニー・キャッシュ、ボブ・ディラン、エリック・クラプトンなど、歴史を彩った多くのスターたちがこのステージに立った。1974年にオープリーの本拠地が移転した後も、ライマンは音楽遺産として保存され、改修を経てコンサートホールとして再開している。現在ではカントリーに限らず、ロックやフォーク、ブルーグラス、さらにはクラシックまで、多様なジャンルのアーティストが出演している。
ダウンタウンの主要な観光スポットと「RCAスタジオB」を繋いでいるシャトルバス
もう一つナッシュビルの音楽史に欠かせない場所といえば『RCAスタジオB』だ。ダウンタウンから車で15分ほどの“ミュージック・ロウ”と呼ばれるエリアの一角にひっそりと建つこのスタジオは、1957年にRCAレコードによって設立され、数々の伝説的ヒット曲が生まれた“ナッシュビル・サウンド”の拠点として知られている。その温かみのある独特なスタジオの響きは、カントリーミュージックのみならず、アメリカのポピュラー音楽全体に大きな影響を与えた。
『RCAスタジオB』の壁と天井は音響を考慮した特別設計が施され、2階にはエコーチェンバーが設置されていた。エルビス・プレスリーの数々の名曲が生まれた伝説のスタジオだ
このスタジオを特別な部屋にしているのはエルヴィス・プレスリーの存在だ。彼は1960年代を中心に200曲以上をこのスタジオで録音しており、『Are You Lonesome Tonight?』『It’s Now or Never』『Can’t Help Falling in Love』など、彼の代表曲であり、今なお世界中で愛される名曲の多くがこの場所で生まれた。スタジオの内部は驚くほど質素だ。防音材を貼った小さな部屋にピアノ、ドラム、アンプが並ぶだけの空間。そのシンプルさこそがアーティストの表現を最大限に引き出し、温かく包み込むような音を生み出してきた理由だといわれる。スタジオの一角には、当時エルヴィスが実際に弾いたとされるスタインウェイのピアノが今も残されている。
現在の『グランド・オール・オプリー・ハウス』で開催されているライブステージ
1925年にWSMラジオ番組としてスタートした『グランド・オール・オプリー』だが、現在はナッシュビル郊外にある『グランド・オール・オプリー・ハウス』という会場で、ライブ公演の形式で開催されている。2025年には創設100周年を迎え、年間を通して『オプリー100』という記念シリーズが展開されている。
ナッシュビルの賑わいの中心、ネオン輝くブロードウェイの夜
ナッシュビルの目抜き通りブロードウェイの夜は、まさにミュージック・シティの雰囲気に包まれる。ライブハウスやバーの扉が開くたびギターのリフが響き、スチールギターの滑らかなサウンドが流れ、そして力強いドラムのビートが夜の通りを行き交う人々の心を踊らせる。そしてピンクやブルー、琥珀色のネオンの文字が踊るように通りを照らす。この喧騒感あふれたカラフルな盛り上がりは、連日深夜まで続くのだ。
ブロードウェイの大半のクラブではカバーチャージを取らない。バンドのギャラはチップのみ。この環境から多くのスーパースターが生まれたのだ。
『ポスト・ヒューストン』の屋上からのヒューストン・ダウンタウンの眺め
テキサス州の中心都市であるヒューストンは、多様な文化、産業、自然、芸術が混ざり合うダイナミックな大都市だ。〈ZIPAIR〉の東京ーヒューストン間の直行便も2025年3月に就航し、日本からのアメリカ南部のデスティネーションとしてぐっと身近な存在になった。この街で現在話題の施設を2ヶ所ほど紹介しよう。
『バッファロー・バイユー・パーク』の地下に残されている1914年に建設された飲料水貯水施設。現在は神秘的な光の反射と音響効果を利用して、多目的な展示スペースなどに利用されている
ダウンタウンにそびえる高層ビル群、そして隣接する『バッファロー・バイユー・パーク(Buffalo Bayou Park)』 を歩けば、美しく整備された散策路、川沿いの緑、そして街のスカイラインという“二重風景”が楽しめる。この公園の地下に残されているかつての飲料水貯水施設が、現在アート展示やユニークな音響体験ができる公共空間として利用されているのだ。この巨大な地下構造物には221本の細い柱が林立しており、その光景から“地下のパルテノン神殿”とも呼ばれている。少量の水が貯水施設の底に残されており、それによる光や音の反射・反響がなんとも幻想的な空間を生み出しており、まさに異次元の展示や体験スペースとなっている。
かつての郵便仕分け施設のユニークな構造をリニューアルして誕生した『ポスト・ヒューストン』
そしてもう1ヶ所は、アート+カルチャー+商業施設というハイブリッドな空間を紹介しよう。かつてヒューストン中心部にそびえていた巨大な郵便仕分け施設が、『ポスト・ヒューストン(POST Houston)』としてリニュアルされた。1962年竣工のコンクリート建築を壊さず再利用し、内部に3つの吹き抜けと印象的な大階段を挿入。物流拠点だった無機的な空間は、人が集い、歩き、発見する公共の場へと見事に生まれ変わった。いまでは飲食、アート、音楽、コワーキングスペースが共存する複合文化拠点として、ヒューストン再生の象徴となっている。屋上の『Skylawn』から望むダウンタウンの眺めも格別だ。
〈ZIPAIR〉は日本航空(JAL)の100%子会社として2018年に設立された中長距離LCC(格安航空会社)。成田国際空港を拠点とし、快適さと手頃な価格の両立を実現させている。機内では無料Wi-Fiが利用可能で、シートは全席にパーソナル電源とタブレットスタンドを装備。機内食や受託手荷物などはオプションとして追加でき、必要なサービスだけを選べる柔軟な運賃体系が特徴だ。運航機材はボーイング787-8型機で、ビジネスクラス相当の『ZIP Full-Flat』と、広めのエコノミー『Standard Seat』の2クラス構成となっている。ヒューストン線は北米5都市目(ロサンゼルス、サンフランシスコ、サンノゼ、ホノルルに次ぐ)となる路線だ。
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