ビオセボン・ジャポン 社長室――パスカル ジュルベール・ガイヤール
ジュルベール・ガイヤールが大切そうに持参した瀟洒なウォッチケース。そこには〈カルティエ〉、そして時計を愛するコレクターだったら、まさに「垂涎」する稀少なピースがひしめき、元気に時を刻んでいた。
- SERIES:
- ビジネスセレブの「時を紡いで」 vol.14
●今月のビジネスセレブ
ビオセボン・ジャポン 社長室
パスカル ジュルベール・ガイヤール[Pascal Gerbert-Gaillard]
Profile
フランス・パリ出身。大学在学中より日本に興味を持ち、京都へ短期留学。大学卒業後、原子力、製紙業の会社に在籍。2008年にディスプレイ企業のアジア代表取締役として来日。その後、中国で貿易会社を設立し、経営者として頭角を現す。一度フランスに帰国し、ビオセボン・フランスに入社。2016年よりアジア局長として来日し現在に至る。
カルティエ
タンク サントレ デュアル タイム
●愛用歴/約10年
●購入場所/香港の〈カルティエ〉ブティック
●購入時の金額/約12万香港ドル
緩やかなカーブを描く縦長のケースに搭載されているのは、フレデリック・ピゲ製の2つのエクストラフラットムーブメント。
「フランスと日本、2つの時刻がひと目でわかるデュアルタイム。それもひとつは漢字インデックスなので、フランスと、東洋、日本の文化の融合を時計で表現したかのような、非常に洗練されたエスプリを感じられるところがとても好きです」
カルティエ[CARTIER]
クラッシュ
1967年、ロンドンの〈カルティエ〉ブティックに持ちこまれた、自動車事故により変形した時計からインスパイアされた、その名も“クラッシュ”。1stモデルが発表されて以来、何度か限定モデルとして登場してきたが、いずれも製造本数が少ないため幻の名品として憧憬を集める存在に。ジュルベール・ガイヤールは10年ほど前に個人コレクターと自らのコレクションを交換する形で入手した。
タンク サントレ デュアル タイム
2つの手巻きムーブメントによる2タイムゾーン。2004年、アジア限定で100本だけ製造された。タンク サントレ デュアル タイム自体、とても稀少なモデルだが、下部のダイヤルのインデックスに漢字を使用したこの時計は、とりわけレアなコレクター垂涎のピース。縦長のレクタンギュラーケースは緩やかに湾曲し、そこにあしらわれた2つのリュウズとともに非凡な個性を発揮する。
サントス デュモン 1913
1913年に発表されたサントス デュモン。そのオリジナルモデルのデザインを忠実に再現しつつ、自社製ムーブメント“Cal.9780 MC”を搭載し、2004年に100本限定で発売された。これは11年ほど前、海外のオークションで見つけて5000 USドルで落札したもの。24.5×24.5㎜という、現代の感覚では小ぶりなケースのサイズ感が、クラシカルなエレガンスを強く印象づけ、名品オーラにあふれる。
ビプレーン ドライバー
1997年、カルティエ創業150周年を祝う限定モデルとしてたったの13本だけ発売された激レアピース。約2年前、個人コレクターと自分のコレクションを交換し手に入れた。シリアルナンバーは12。この時計が発売された2年後の1999年、パリのカルティエ本店の100周年を記念し、同様のモデルが世界限定100本で発売されたという。クルマを運転しながら時間を確認できるユニークな1本。
「〈カルティエ〉をはじめ、私が所有している時計の多くは手巻きムーブメントです。〈オメガ〉の自動巻きや、ダイバーズウォッチではクォーツのものもありますけれど、私は手巻きに惹かれます」
なぜなら? そこに“ハートビート”を感じられるから。
「自動巻きやクォーツに比べたら、リュウズを巻き上げる手間がかかるのですが、そこがいい。毎朝起きて、“おはよう! よく寝た?”と話しかけながら(笑)、ひとつずつ大切にリュウズを巻き上げる。まるで生き物のようで愛しいですし、忙しく過ぎる毎日の中、私にとってはかけがえのないひとときです」
とはいえ、「正直、ムーブメントには全くこだわっていません」と微笑む。
「時計愛好家には、たとえば自社製ムーブメントにこだわる方も多いけれど、私にとってはそれはどうでもよくて(笑)。〈カルティエ〉なら特に、自社製でなくても厳選された高品質なムーブメントを搭載していますし、それよりはデザインの美しさに心が動きます」
ジュルベール・ガイヤールと〈カルティエ〉の出合いは、大学生時代だった。
「〈カルティエ〉のブティックをよく訪れて、時計を見させてもらっていたんです。もちろん学生ですから、それらを買えるお金など持っていない。店員の方も、私が今すぐ買えないことは百も承知でしたが、未来のために、親切に丁寧に商品やメゾンの歴史について教えてくれました。私も知れば知るほど、もっと深く知りたくなって勉強して、いつしか〈カルティエ〉にすっかり魅了され、夢を抱くようになったのです」
社会人となり、はじめて入手したのは、現在はもうすべて廃番となったマストタンク。比較的入手しやすい価格帯の、いわゆるエントリーモデルだ。しかしそれはほどなく、彼の手元から去った。
「前の妻にあげてしまったんです(笑)。それ以外にも、入手したものの手放した時計は何本もあります。手に入れたときは自分にマッチしていても、数年たったら似合わなくなったり、気分が変わったりすることもあるので」
それにしても、彼の所有する〈カルティエ〉コレクションは、すべてが入手困難なレアピース。“圧巻”という言葉に尽きる。よく“時計との出合いは縁”と聞くが、これらとは〝縁〞に導かれ、偶然出合ったのだろうか?
「とんでもない! 私はこの世界―レアなタイムピースとの出合いに“偶然”というのはなかったと思っています(笑)。たとえば、今日つけているタンク サントレ デュアル タイムは、本当に欲しくて欲しくて、探して(笑)。やっとたどりついた香港の〈カルティエ〉ブティックで巡り合うことができました」
現在も、サザビーズ、クリスティーズ、アンティコルムなどのオークションをインターネットで毎日チェックしている。
「毎日、とても大変です(笑)。珍しいものはそれこそ、1年に1回、2年に1回とかしか出ません。ちゃんとチェックしないとチャンスを逃してしまいます。結構ストレスだったりもするのですが(笑)、好きなのでしょうね」
この日はほかに、プラチナ製のロンドドゥ カルティエも持参してくれたが、写真のバランスを考え撮影は断念した。それにしても驚いたのは、すべての時計に関して、発売された年をはじめ、そのモデルの歴史的背景を正確に把握し、流暢な日本語で解説を添えてくれる点だ。
「創業者のルイ=フランソワ・カルティエの孫にあたる、ルイ、ピエール、ジャックの三兄弟。〈カルティエ〉に華やかな繁栄をもたらした彼らは世界のあちこちを旅しました。ロシア、アメリカ、インド―訪れた様々な国で得たインスピレーションを創造の源にし、フランス、〈カルティエ〉の文化や歴史と融合させて、新たな作品を生み出していくのです。それは、西洋の文化が入ってきた明治時代以降、現代の日本のカルチャーにも通じています」
そんなジュルベール・ガイヤールにとって腕時計とは?
「私はどういう人ですか? どういう生活がしたい? そして、そういう生活をするにはどんな時計が似合いますか? そんなふうに自問自答しながら、これらの時計をコレクションしてきました。つくづく感じているのが、時計はアートでもあるということ。そう、毎日身につけられるアートです。そしてアートを身に纏うことは率直に嬉しいことですし、気持ちが豊かになります。実は私はもともとエンジニアで、理系なんです。でも、人にはバランスが必要。数字やファイナンス、それらと時計やアートは対極の存在で、だからこそこんなに強く惹かれ続けているのかもしれませんね」
Company Information
パリのエスプリが漂うオーガニックスーパー
2016年に上陸したパリ発のオーガニックスーパーマーケット。「新鮮な生鮮食品」と「日常使いできる品揃え」で人気を博し、フランスを中心にヨーロッパで170店舗以上展開している。店内にはナッツやドライフルーツの量り売りコーナーや、フランスのオーガニックワインをグラスで気軽に楽しめるイートインスペースも。健康意識の高まる日本でも続々と店舗を増やしている。2020年4月13日にはアトレ竹芝に新店舗をオープン予定だ!
雑誌『Safari』5月号 P296・297掲載
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photo : Tomoo Syoju text : Kayo Okamura