IWC ブランドディレクター――マニュエル・ブランデラ
日本における〈IWC〉のトップとして、ブランドを牽引するブランデラ。彼が自社の時計を愛用していることは当然と思われるかもしれないが、ブランデラの〈IWC〉愛は、ビジネスを超越したものだ。
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- ビジネスセレブの「時を紡いで」 vol.35
●今月のビジネスセレブ
IWC ブランドディレクター
マニュエル・ブランデラ[Manuel Brandela]Profile
1968年、フランス・ニース生まれ。パリのビジネススクール、東洋大学(LANGUES ORIENTALES)で学ぶ。日本には1993年に来日。工業機械の企業、カルティエ ジャパンなどを経て、2002年より現職。日本における〈IWC〉の認知度を大きく上げ、幅広い世代のユーザーを獲得した立役者として知られ、業界内での信頼も厚い。
IWC
ポルトギーゼ・オートマティック
●愛用歴/約4年
●現在の価格/ 294万2500円
●使用頻度/週に2~3回
3時位置にパワーリザーブ、9時位置にスモールセコンド、そして6時位置にカレンダーが42㎜のケースに端正に配置され、時計本来の美が際立つ。
「シンプルでシックなデザイン、タフなところ……。気に入っているポイントは挙げればキリがありません(笑)。だけどもしも写真でフォーカスするなら、リュウズやストラップのバックルにも施されたエンブレムでしょうか? ブランドの誇りを象徴する刻印です」
IWC[アイ・ダブリュー・シー]
ポルトギーゼ・オートマティック
1939年に誕生した、〈IWC〉を象徴するフラッグシップコレクション。その端正な文字盤のデザインは、80年以上の歳月を経た現在も当時から変わらず、時代を超えたモダニティを体現している。幅広いバリエーションの中でも、ブランデラが愛用しているオートマティックは、機能、デザインともに最もシンプルなモデル。レッドゴールドのケースは艶がありながらも嫌みはなく、知性も漂わせる。ケースバックはスケルトンで、美しい仕上げが施された精緻なムーブメントを堪能できる。
「私が現職に就いたのは、2002年。早いものでもうすぐ20年になります」
時計業界だけではなく、トップが数年ごとに代わることが多いラグジュアリーブランドビジネスにおいて、ブランデラのようなケースは稀だ。それだけにブランドに対する愛情は深い。
「それまでは同じリシュモン ジャパンの〈カルティエ〉で6年ほど勤めていたのですが、〈IWC〉が日本でリシュモン ジャパンに移行されるというタイミングで、私に声がかかりました。〈IWC〉は日本における歴史も長かったけれど、当時はまだ一般的には知名度が低く、いわば“知る人ぞ知る”というような存在。だから、自分が日本で、ゼロに近いところからブランドイメージをつくり上げたい! という気持ちになりましたし、現在もその使命を受け取ったときとほぼ同じチームメンバーなのですが、素晴らしいこの仲間たちと、どこまでブランドを育てられるか? もうすぐ20年になる今も、個人的にも、挑み続けたい。そしてやはり、〈IWC〉というウォッチメゾン自体の魅力。私がこれだけ長くこのブランドに在籍しているのは、それらの複合的な理由からです」
気がつけば、時計のコレクションは10本以上になっていたというブランデラ。ブランドのトップでも、実は他メゾンの時計も所持していて、休日などに愛用しているケースも多いが、ブランデラは違う。
「私は他のブランドの時計は一切持っていません。手前味噌かもしれませんが、弊社の時計は本当に素晴らしいんですよ。もちろん他ブランドにもたくさん素敵な時計がありますが、私は心の底から、〈IWC〉が至高と思っているので」
その中から、今日選んだのは、レッドゴールドケースのポルトギーゼ・オートマティック。愛用してから、約4年になるという。実際に使ってみて、主観的にこの時計をどう感じているのだろうか?
「なにより、時計自体が本当に美しい。心からそう思います。シンプルで嫌みのないデザインはタイムレスな魅力があります。そしてとても丈夫。この時計だけではなく、〈IWC〉の時計すべてにいえることですが。また、この時計に関していえば、ゼンマイの巻き上げ効率もよく、パワーリザーブは7日間。実用性も高い。数日間ほかの時計を使っていても動いてくれているのはありがたい機能です」
ブランデラの手元で、静謐な存在感を放つポルトギーゼ・オートマティック。レッドゴールドという、ともすれば華美に映りがちなケース素材も、あくまでも上品で知性も漂わせる。これこそが〈IWC〉というブランドの希有な特性だ。
「ブランドのDNAに対して、誠実であるデザイン、ただたくさん売るためにDNAを裏切ることは決してしない。我々のブランドは、永遠にブレません。シンプルで、落ち着いていて、決して“華美になりすぎない”。もちろんいろいろなバリエーションがありますし、時々素材などで新しいことに挑むことはありますが、基本は必ず残します」
〈IWC〉の時計たちが、シンプルなのに非常にアイコニックである理由は、そんなブランドのフィロソフィーにあるのだろう。
業界では切れ者として知られるブランデラだが、ひとりの男として自らの時計を語っていくにつれ、少年が自分の宝物を自慢するときのように、瞳の輝きが増していく。
「本当は時計のためによくないから絶対におすすめしませんし、最近はやめましたが、以前は時計が好きすぎて、つけたまま寝てしまうということもありました(笑)。もう、自分の腕の一部のような感覚です」
そんなブランデラにとって、“腕時計”というのはどんな存在なのだろう。
「美しく時間を見るための、とてもパーソナルなもの。よく、時計は男にとってアクセサリーという言葉を聞きますが、私は時計をアクセサリーとは決していいたくないんです。〈IWC〉の時計はアクセサリーではありません」
美しく時間を見る……それはブランデラ一流の美学。
「時間を見るために必ず必要かといえば、現代社会においてはそうではありませんよね。でも、綺麗に時間を見るために、そして時間に対しての尊敬の念も込めて。時間はとても貴重なものです。だからこそ、素敵なカタチで時間を見たい。自分の心を満たすために」
機能美を極めたシャフハウゼンの名門
1868年、スイスのドイツ国境に近い古都・シャフハウゼンで創業した名門ウォッチメゾン。現在も同地に本社と工房を構える。長い歴史の中で様々な名品時計を生み出し続け、その真摯なウォッチメイキングで高いステイタスを確立。2000年にリシュモングループの傘下に入ってからも、企業理念や時計製造に対する美学を変えることなく、貪欲に進化を続け、2022年発表の新作にも期待が集まっている。
雑誌『Safari』4月号 P180~181掲載
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photo : Koki Marueki(BOIL) text : Kayo Okamura