●今月のビジネスセレブ
グランド ハイアット 東京 総支配人
ロス・クーパー[Ross Cooper]Profile
1975年、ニュージーランド生まれ。パーク ハイアット メルボルンの開業準備に携わり、2011年には中国・グランド ハイアット深センのホテルマネージャーに就任。2014年、パーク ハイアット 釜山 総支配人、2016年、アンダーズ 東京 総支配人を歴任し2021年10月に現職に就任した。
カルティエ
パシャ シータイマー
●愛用歴/約15年
●購入場所/香港のカルティエ ブティック
●使用頻度/ほぼ毎日
逆回転防止ベゼルやスーパールミノバを施した針といったタフさと、〈カルティエ〉らしいエレガンスが融合。ブラックが際立つ。
「SSにブラックラバーが施された、このブレスレット。これを購入した香港もそうですし、その後の赴任地も湿度が高いところが多かったので、湿気で傷むことを気にせず使えるこのブレスレットは本当に気に入りました。また、以前勤務していたホテルでは、スタッフが身につける時計は黒色という決まりがあったので、私にはパーフェクトな時計でした」
CARTIER[カルティエ]
パシャ シータイマー
〈カルティエ〉の中でも、古い歴史をもつパシャ。時代とともに様々なバリエーションを展開してきたが、“防水時計”という出自を象徴する、回転ベゼルやリュウズガードといったアイコニックなディテールは忠実に受け継がれ、男女問わず愛され続けている。このパシャ シータイマーは、2006年にリリースされた、ダイバーズウォッチに準ずる100m防水を備えたスポーツウォッチ。ロスが愛用するラバーコーティングを施したブレスレットのモデルは、発売当時大きな話題を呼んだ伝説的な1本だ。
新卒でハイアットグループに入社して以来、様々な国の“グランドハイアット”“パーク ハイアット”“アンダーズ”でホテリエとしてのキャリアを重ねてきたロス。2021年、かつて料飲担当の副総支配人として活躍したグランド ハイアット 東京に、今度は総支配人として戻ってきた。20年以上にわたるロスのホテリエ人生の大半、彼の手首に寄り添ってきたのが、今もほぼ毎日のように愛用している〈カルティエ〉のパシャ シータイマーだ。
「私は2000年から約8年間、香港で働いていたのですが、これはそのときに購入したもので、もう15年ほど使っています。香港はみなさんもご存知のように、当時から、時計に限らずラグジュアリーブランドのブティックがとても目につく街でした。また、勤務先であるグランドハイアット 香港は、様々なラグジュアリーブランド様がよくイベントを開催してくださっていたので、あらゆるブランドの名品を実際に目にする機会も多く、自然と、自分もいつか、大人にふさわしい時計が欲しいと思うようになったのだと思います」
その思いを温めながら、貯金もしていたというロス。“縁”というのは不思議なもので、この運命の時計との出合いはある日突然やってきた。
「ずっと欲しいと思いながらも、特に“今日、買う!”という意気込みはなく、なにげなく入った〈カルティエ〉のブティックでこのパシャ シータイマーが目に飛び込んできました。以前から、正統派のデザインや視認性の高さなど、パシャには魅力を感じていましたが、ステンレススチールをラバーでコーティングした珍しいブレスレットに、いわばひと目惚れしまして。試着して、躊躇なくその場で購入しました」
即決したその一番の理由である、ラバーコーティングされたブレスレット。ラグジュアリースポーツウォッチ全盛の現在では様々なブランドが取り入れているデザインが、当時はまだ珍しい意匠だった。
「湿度の高い香港で身につけるのに、これ以上適した素材はありません。以前から持っていた時計はレザーストラップでしたが、湿気による劣化は避けられず、しばしば交換しなければならなくなっていたという経験もしておりましたので」
時計そのものを単体で見ると、そのブラックのラバーの色やテクスチャーから、アバンギャルドな雰囲気が色濃い。それでいながら、この日のロスの、シックでオーセンティックなスーツスタイルにも違和感なくマッチするエレガンスも併せ持つ。それは〈カルティエ〉でしか構築できない絶妙なバランスだ。
「この時計を購入してから、いつも身に着けてきたのでたくさんの思い出があります。そのなかでも最も印象深いのは、妻と結婚する際に義理の両親が私にお祝いとして、とても素敵な、〈カルティエ〉の違うコレクションの時計をプレゼントしてくださったことです。本当ならそちらの時計も、大切にしまっていないで、箱から出してもっと身につけるべきなのでしょうが、とてもデリケートなデザインなので傷つけてしまうのが怖くて(笑)。今もなかなかつけられないでいます」
スマホやスマートウォッチなど、アナログな機械式時計より手軽に、そしてもっと正確に時刻を知るツールが当たり前となった現在。敢えてこの腕時計を身につけ、そこから時刻を読み取る理由はどこにあるのだろうか?
「多くのビジネスパーソンもきっと同様と思いますが、時計は私にとってジュエリーのような存在でもあります」
アクセサリーをあまり身につけないタイプというロス。しかしこの日は、写真には写っていないものの、右手首には細い〈ブルガリ〉のバングルをさりげなく纏い、上品な手元コーディネートを完成させていた。そのセンスを褒めると、「これは妻からのプレゼントなので」と、少し照れながら微笑んだ。
「私の最初の時計は、祖父が使っていた古い時計です。祖父が亡くなった際に、祖母が私にくれました」
ロスの父親が彼の腕に合わせてストラップを調整し、大切に受け継いだ。
「当時の私はまだ幼く、アナログ時計から時間を読み取るのが少し難しいと思った記憶があります。最初の数週間は正しい時間がちゃんと読み取れるか、何度も挑戦しました。今ではもう使うことはないけれど、もちろん大事にとってあります。幼い私と週末、一緒に遊んでくれた祖父との思い出が詰まった宝物なので」
ロスにとっての腕時計の原体験。それは彼の時計観に大きな影響を及ぼしているに違いない。いつの日にか、このパシャ シータイマーも、彼の子供に受け継がれていくのだろうか?
「そうなったらとても幸せですね。でも、私の子供は双子の娘なので、もう1本買わなければいけません(笑)。そのためにもまた頑張って働いて、次の時計に巡り合いたいですね」
ラグジュアリーな体験で世界を魅了し続ける国際的ホテルグループのひとつとして多くの人々を魅了しているグランド ハイアット。2003年東京・六本木ヒルズ内に開業以来、ミシュランガイドや国際的トラベル誌において高評価を獲得。世界各国からセレブリティやVIPを迎え、いまや日本を代表するライフスタイルディスティネーションホテルに。2021年には18年めを迎え、単なる“素敵な滞在”ではなく印象深いデザインや建築、革新的なレストランやスパ、イベント空間など、文化的に多様な環境で卓越したサービスや体験を満喫できる。
雑誌『Safari』1月号 P212~213掲載
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photo : Mai Hokari text : Kayo Okamura