直木賞受賞でも注目を集めた真藤順丈の原作小説を、『るろうに剣心』シリーズなどで知られる大友啓史監督による卓越した演出、さらには妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太らが織りなす魂が沸騰するほどの人間模様によって見事に映像化した『宝島』。
物語のはじまりは1952年、沖縄。日本本土が国際社会へ復帰を果たしてもなお、この地は依然としてアメリカの占領下のまま。そんな中、若者たちは徒党を組んで米軍基地に忍び込み、食料から必需品まであらゆる物資を奪い、貧しさに喘ぐ住民たちに広く分け与えていた。人々は彼らを“戦果アギヤー”と呼んだ。
その絶対的リーダー、オン(永山瑛太)はカリスマ性に満ちた英雄であり、皆の憧れの存在。しかしある日、無謀な強奪計画の末に米軍兵士の銃撃にさらされたアギヤーたちは、逃走途中でオンの姿を見失う。その日を境に彼を見た者は誰もおらず、島の英雄は文字通り行方不明となってしまった。
それから6年。メンバーの一人、グスク(妻夫木聡)は琉球警察の刑事となり、オンの恋人だったヤマコ(広瀬すず)は小学校の先生となり、オンの弟レイ(窪田正孝)は刑務所を出所後、ヤクザとなって裏社会を渡り歩く。それぞれバラバラの人生を歩んでいるかに見えて、胸の内の思いは一つ。彼らはいつだって、ひたすらオンを探し続けている。そして米軍統治下でいくつもの理不尽な事件や衝突が重なり、住民たちの怒りがいよいよ沸点に達しようとする中、3人の運命もまた大きな激動へと呑み込まれていき……。
激動の沖縄史とエモーショナルな人間模様
まず、はじめに言っておくと、本作の上映時間は191分。つまり『国宝』の174分を20分近く上回るのだが、もちろん心配は要らない。いざ幕が上がるとむせ返るような臨場感に包まれ、冒頭の強奪戦から数百人規模のエキストラを擁するクライマックスに至るまで、物語世界の力強いうねりはもはや時間の観念をすっかり忘れさせるほど圧巻だ。
その主軸を担うのが“戦果アギヤー”であり、また彼らの生き様は、戦後の沖縄が経験してきた歴史と人々のあらゆる感情を抜きに到底語れない。私たち観客を191分、終始惹きつけ続けるのも、まさにそこだ。
この映画には我々がこれまで知るよしもなかった出来事、あるいは知識として知っていても理解が追いついていなかった事柄が、全編に渡ってぎっしりと敷き詰められている。そうやってあらゆる瞬間に驚き、心を震わせ、登場人物と共に笑い、怒り、泣くという追体験の連続。そこに緊迫したアクションや、アメリカ軍や関係者らとの駆け引き、若者たちの群像模様、そして何よりも重要な”オンの失踪”をめぐるミステリーがしっかりと掛け合わされ、我々の鑑賞体験はなおいっそう忘れがたいものへと導かれていく。
作り手たちのたぎる思いとメッセージ性
大友監督はかつてNHKの朝ドラ『ちゅらさん』の演出家として本土復帰後の沖縄を描いた頃から、「いつか本土復帰前の時代をしっかり描きたい」という思いを抱えていたそう。また、主演の妻夫木にとっても沖縄は、19年前に『涙そうそう』に主演して以来、深く慣れ親しみ、たえず交流を続けてきた地だったとか。
彼が演じるグスクは、オンのような輝かしい英雄ではない。いわば、疾走の最中に梯子を外されたように”目指すべき星”を失い、それでも人生の答えを探し求めようとする役柄だ。刑事として人間の汚い面、非道な面も数多く目にしてきた。傷つき、ボロボロになりながら、この島の未来について絶望しそうになることもある。しかしそれでも彼が何らかの希望を次世代へ託したいと願い続ける眼差しが感動を呼ぶ。
いや、その意味では、ヤマコやレイの生き様も同じだ。彼らが英雄などではなく、一人の等身大の人間として迷い、悩み、それでもなお必死に走り続けようとするからこそ、我々はこれほど共感し、混沌の中に希望を見出すのだろう。この破格のキャストが織りなすアンサンブルは近年の公開作の中でも屈指のもの。まさしく必見である。
『宝島』の191分を駆け抜けたなら、沖縄への見方が大きく変わる。歴史への興味関心の度合いも深まる。そして、激動の時代を生き抜き、現代へバトンを繋いだ名もなき人々の想いがヴィヴィッドに浮かび上がってくるはず。きっと、かつてない映画体験があなたを貫き、観賞後も心とカラダを熱く震わせ続けるに違いない。
『宝島』9月19日公開
原作/真藤順丈 監督/大友啓史 出演/妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太 配給/東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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