まだ間に合うかも! 〈アルピナ〉D3 S
今のタイミングでのレポートになり非常に心苦しいのだが、もし本当に純粋なる血統のこのクルマを手に入れたいのなら、残念ながら今年がラストチャンスになる。そう〈アルピナ〉だ。しかし先にこれだけは言っておく。今からご紹介するD3 Sをはじめ、いくつかのモデルは「まだ買える!」。デリバリーはおそらく来年だけれど、オーダーはまだ受けているのですよ。それに正直、軒並み輸入車が値上げしている昨今、すでにお値段据え置き状態になっている現行シリーズはもはや、お買い得にすら感じるご時世だ。いやはや、“クルマニア”なら正直、一生一度は所有する価値がある。ひとまず“最期の”D3 Sをレポートしたい。
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D3 Sは、セダンの“リムジン”とステーションワゴンの“ツーリング”をラインナップする。さらに同プラットフォームとしてはガソリンエンジン版のB3 GTも存在するが、どちらも〈ビー・エム・ダブリュー〉G20型の3シリーズ(後期モデル)がベースだ。つまり〈ビー・エム・ダブリュー〉の最新モデルを基準にすれば、ひと世代前のモノという認識で間違いない。しかし〈アルピナ〉の手にかかれば世代のギャップなんて大した話じゃない、とすら思えてきてしまうから不思議。デザインひとつ取ったってそうだ。
フロントバンパー下にあしらわれた“ALPINA”ロゴを含むリップスポイラーや、リムジンにのみに装着されるリアスポイラーなどの、恐ろしいほどのささやかさ……。なのに、この圧倒的な存在感はどうしたことか。試乗車にはオプションの20インチホイールが装着されていたが、何度観ても見飽きることのない〈アルピナ〉クラシックホイールの繊細なスポークにも毎度、心惹かれてしまう。キドニーグリル内部も縦バー意匠に変更されているのだが、かように、手の入れ方は最小限に収められているにも関わらず、燦然と輝く気品を強烈に漂わせるその手法には恐れ入る。
実は〈アルピナ〉の走りも全く、その外観の印象を裏切らない仕上がりになっている。エンジンは本家〈ビー・エム・ダブリュー〉3シリーズで日本未導入となる3.0ℓ直6ディーゼル ビ・ターボ。最高出力355PSに、730Nmの最大トルクをわずか1750rpmで発生させる、パワフルかつトルキーなものだ。だからスペック上では0-100km/h加速も4.8秒(ツーリング)となかなかに勇ましいし、諸兄の中にも〈アルピナ〉に対してそのプライスタグのバイアスからか、同社にとてつもないスパルタン・スポーツのイメージを抱く層もおられるかもしれない。
トランスミッションは上位車種SUVにも採用されているものを使用し、さらに四輪駆動制御をリア寄りに設定、電子制御サスペンションのダンピング、LSD、パワステなど、その手に入れ方には強い愛を感じる丁寧さ……わけもない。なのだけど、それらの最終着地点には“究極のグランドツーリング性能”、つまり究極の街乗り性能が用意されているのだ。特に走行モードを“コンフォートプラス”にしたときの〈アルピナ〉味の妙味たるや。
俊敏なのに穏やか、ソフトなのにカッチリ、そしてしなやかなのに締まっている。このペラペラの扁平タイヤから、いったいどうしたらこんなエレガンスなアタリが生まれるのか。できればエンジニアに直接聞いてみたかった。そう、脳内バグが大量発生すること請け合いの、不思議な感性がそこにある。もちろんよくならされた直6の素直さを、さらに48Vのマイルドハイブリッドが後押しして、スロットルワークも悶絶級の踏み心地となっているのだけども。もう一回言うけど、コレ、まだ買えます。本当に今後もこの味を継承してくれることを心から願いつつ、買える人は是非早めの決断をお願いしたい。
★DATA 〈アルピナ〉D3 S ツーリング
●全長×全幅×全高:4723×1827×1438㎜
●車両重量:1950kg
●ホイールベース:2851㎜
●エンジン:3.0ℓ直列6気筒ディーゼル ビ・ターボ+48Vマイルド・ハイブリッド・テクノロジー
●最高出力:261kW(355PS)/4000〜4200rpm
●最大トルク:730N・m(74.4kgm)/1750〜2750rpm
●トランスミッション:8速オートマチック
●駆動方式:四輪駆動
●税込み価格:1410万円