ストイックな生活を送りゆる~いサーフアートを生む!
幼少期からアートに夢中になり、グラフィティ少年だったティーン時代。ある日、友人に誘われ軽い気持ちで波乗りにトライした結果、予想外にサーフィンの世界へどっぷりと浸かることに。今ではゆるいテイストで人気のサーフアーティストへと成長。そんなハヴィアはここ最近、横ノリ業界全体で注目の存在だ。
●今月のサーファー
DJ・ハヴィア[DJ JAVIER]
緑豊かで閑静な住宅街が並び、落ち着いた雰囲気のサンタバーバラ。このビーチタウンの郊外で育ったハヴィアは、最近業界で注目されているアーティストサーファーだ。今でこそサーフィンありきの毎日を送っている彼だが、かつては全く波乗りとは縁遠い生活を送っていた。
「高校までは家の中で絵を描いたり、粘土で遊んだり、どちらかというとインドア派だったんだ」
そんな彼の転機は、高校に入って水泳をはじめたこと。人生ではじめて真剣にスポーツに取り組んだ経験だったそうで、それまでアート一色だった彼の生活には大きな変化だった。水泳に熱を入れているハヴィアを見た友人は、ある日彼をサーフィンに誘う。
「友人から誘われたときは正直、サーフィンには全く興味がなかったけど、パドルなら水泳の足しになるかな? くらいに思って試してみることにしたんだ」
と、たいして乗り気ではなかったハヴィア。しかし、はじめての波乗りは目の前に広がる光景も美しく新鮮で、まるで違う世界に来たかのような素晴らしい経験だった。さらに幸運なことに、その日は友人の助けもあり、偶然にも波に乗ることに成功した。
「人生で最初に乗った波は、どんな波より特別なもの。実際にボードの上に立てたときは、一瞬だけど宇宙と繋がっているような不思議な一体感を味わったんだ」
特別な経験をしたそれ以来、週の半分以上は海に通い夢中でサーフィンを覚えたハヴィア。波の動きやフォームなどが掴めるようになるまでに、さほど時間はかからなかった。
「憧れのサーファーのDVDを繰り返し鑑賞してテクニックを研究したよ。それからサーフボードもいろんな長さを試したね。最近は滑りのいいスピード感のある10フィート前後のロングボードにハマっているんだ」
サーフィンが生活の一部になった今では、波がなくても海で水浴びや水泳をするそう。というのも、彼にとって海にいる時間自体が一種のメディテーションになっているのだ。と、今でこそビーチライフにどっぷりなハヴィアだが、「それでもやっぱり、人生で波乗りをすることになったのは予想外だったね(笑)」。
ハヴィアは物心ついた頃から家で絵を描いたり、粘土でオブジェを作ったりと、アートを通してなにかを表現することに夢中な子供だった。ティーンエージャーの頃、特に影響を受けたのがグラフィティとトラディショナルなタトゥーのアートワーク。それらを自分なりにアレンジし、オリジナルな作品を生み出すことに情熱を傾けていたのだとか。高校を卒業し、カレッジでは迷わずグラフィックデザインを専攻。卒業後はデザインエージェンシーに就職した。一見順風満帆で、アートの知識を生かせる恵まれた道へ進んだように思えたハヴィア。しかし実際は自分が本当に作りたいものとのギャップに悩まされることに。仕事に面白みを見出せない葛藤の反動で再開したのが、しばらく休んでいた彼自身のアート制作だった。
「仕事のランチタイムは必ずスケッチブック片手だった。そこにいつもなにかを描いていたよ。自分の手を使ってなにかを作ることで、もともと持っていたアートへの情熱を思い出してきたんだ」
ストイックなハヴィアは、それに加えて毎朝30分ほどスケッチの時間を自らに課すことで、スキルの向上をはかった。気分が乗らない日もあったが、毎朝描き続けることで自信がつき、自身のひらめきをキャッチし、アートに落としこむ訓練にもなったという。
「このプロセスはサーフィンに近いものがあると気づいたんだ。海に通っていればいるほど自信がついていろんな波も対処できるようになってくるでしょ? そういう日々の積み重ねがいつか目に見える成長として現れてくるのは、波乗りもアートも同じなんだ」
やがて彼の作品は地元で注目を集めるようになり、アートショーや海系のイベントにも積極的に参加するように。しばらくするとハヴィアのアートは業界全体でより認知され、最近では、〈パタゴニア〉のウォールアートや〈ヴィスラ〉とのコラボなども手掛けている。昼休憩にアートスケッチをしていたときに夢見ていた、“サーフィンとアートの融合”が今実現しているんだ、とハヴィアは嬉しそうに語ってくれた。
毎朝のようにサーフィンを楽しむハヴィアは地元のメーサレーンというポイントの近くに住み、アート活動に日々励んでいる。朝は6時に起床し、まず聖書を読む。次にすべてのメールをチェックし、30分ほどスケッチを行う。この3つのルーティンだけは必ず守っているのだそう。その後は、コーヒーを飲みながら仕事をスタート。最近は、週3日アパレルブランド〈シービーズ〉のアートディレクターとして活動し、残りの4日間はアーティストとして自身の作品を制作。ペインティング、ドローイング、グラフィティ、版画やコラージュなど、様々な形での作品を手掛けている。そんな彼が波乗りをしに海へ行くのはだいたい作業がいち段落した夕方頃。サーフィンで気分をリフレッシュするのがお決まりだとか。
「朝入るときもあるけれど、波に夢中になって仕事に支障をきたすときもあるので(笑)、お楽しみは仕事が終わった後にとってあるんだ」
休みの日もほとんど変わらず、サーフィンとアートに没頭している。プロジェクトを抱えていないときでも常に手を動かしているそうだ。トリップやキャンプなども楽しみたいが、今は湧き出てくる作品のアイデアをアウトプットするのに集中すると決めている。ここまでストイックになれるのは、側でそっと見守っている最愛の妻、コートニーの存在が大きいという。と、アーティストとして目まぐるしい日々を謳歌しているハヴィアだが、今年も新規のサーフブランドとのコラボ計画が進行中。ブランドのキャンペーンとともに来日する日を夢見て、じっくりとプロジェクトを練っているそうだ。
ホームポイントはココ!
メーサレーン[MESA LANE]
サンタバーバラのピアの北側に位置するポイント。住宅地を抜けると急な階段があり、そこを下りると美しい海が広がっているドラマチックな景観のビーチ。基本はビーチブレイクでサイズが上がればロング~ショートを楽しめる。
アトリエに飾ってあったハヴィアの代表作のひとつ。オリジナルのキャラクターが印象的だ
スプレーは庭の片隅で。キャンバスに施したペイントの上から夕陽をイメージして吹きつけているとこ
ろ
ボードコレクションの一部。右2つのロングボードが最近のお気に入り
〈シービーズ〉のアートディレクターとしても辣腕ぶりを見せるハヴィア。自宅には本ブランドのシューズが山積み!
1歳になる愛犬との散歩はメディテーションのような癒し効果もあるそう
ヴィンテージ〈シュウィン〉の自転車は、近くのビーチまで波チェックするときに重宝。スプレーで塗装し、荷台などは自分でカスタマイズ!
雑誌『Safari』5月号 P294・295掲載
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