〈炭手前 鷽(すみてまえ うそ)〉の“炭焼き天ぷら”
ここ数年、ネパール料理の進化が話題を集めているが、その流れを牽引するのが、〈アディ〉のアディカリ・カンチャンシェフ。故郷の料理、母の味を、日本の上質な食材でガストロノミーの領域に。そんなアディカリシェフが刺激を受ける店とは?
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- 注目シェフが教える感動の「名店メニュー」 vol.35
うなぎの炭焼き天ぷら
(8800円のコースより)
鰻は鹿児島から。天ぷらにしてから炭火焼きにすることで、芳しい炭の香りを纏う。秋田産の三関せりは、根は揚げてから炭火焼き、葉はパリパリにしてスパイスのように使用。椎葉村産の柿の甘酢漬けも、さっぱりとよきアクセントに。
〈アディ〉アディカリ・カンチャンシェフ
チャイスタンド併設のモダンネパール料理店
ネパールの伝統料理や家庭料理を分解、再構築したガストロノミックなコースを提供。2020年8月の開業だが、早くもフーディたちの話題の的だ。平日昼はダルバート(定食)営業、チャイスタンドも併設と間口は広く、様々な形でネパールの食の魅力を伝えている。
住所:東京都目黒区上目黒2-46-7 営業時間:11:30~13:30LO(土・日曜11:00~と13:30~の2回制)、18:00~と19:00~(一斉スタート) 定休日:月曜 TEL:050-3184-4491
一皿一皿から作り手の思いが見えてくる
フランス料理店での勤務経験はあるものの、料理はほぼ独学だというアディカリ・カンチャンシェフ。それゆえ、外食も大事な学びの場だが「単に美味しいものを出す店よりも、料理人のやりたいことや、思いが見える店に惹かれ、足を運ぶことが多い」と話す。
「だって、美味しい店で食事をしたからといって、美味しい料理が作れるようになるわけじゃない。それより、シェフの思いや仕事の仕方に共感できる店のほうが、自分を成長させてくれる」
〈炭手前 鷽〉は、はじめは炭火の扱いを学びたいと足を運んだ店だが「それ以上の影響を受けた」という。
「食材の目利きも、産地をバックアップする姿勢もリスペクトできます。さらに自ら打つ蕎麦を通じ、海外のトップシェフとも交流し、和の料理人だからできる発信を常に続けている。炭焼き天ぷらは、小峰シェフの妥協のない仕事と探求心のシンボルのように思えます」
味を重ねず火入れで旨味を引き出す
人と同じことをやっていたのでは、つまらない。この、仕事を楽しむ姿勢が、小峰太一シェフの原動力。独立からわずか3年めで、2軒の店を経営し、アディカリシェフをはじめ、在日外国人の注目シェフから厚い信頼を得ていることからも、その仕事の確かさ、温かな人柄が浮かび上がる。
「アディカリシェフからは、自分も影響を受けているんですよ。言葉に出さなくとも、通じるというか。大事にしているものが似ているのかもしれません」
炭焼き天ぷらは、専門店ならではの“ここでしか味わえない”炭火焼き料理を提供したいという思いが生んだ一品だ。
「天ぷらと炭火焼きのいいとこ取り。衣で包んで油で揚げることで、素材をコートし、中で蒸すようにじっくり火を入れることができる。シンプルだけれど、天ぷらとも、普通の炭火焼きとも違う味になり、いろんな素材に応用できる。お客様からもご好評いただいています」
Check1 薄い衣を纏わせる
天ぷら衣は素材をコートする役割。重くならないよう薄く纏わせ、鰻なら170~180℃でじっくり、水が出やすいや魚やホタテ貝などは、高温で一気にと、素材に応じて揚げる
Check2 柔らかく火を入れる
素材を衣の中で“蒸す”イメージ。鰻はほどよい食感を残しつつ柔らかく仕上げる。穏やかな火が特徴の炭も、鹿児島の農家“マルマメン工房”から。伝統製法を継承する生産者を応援
炭手前 鷽
六本木の和食店〈淡悦〉で腕を磨いた小峰太一シェフが、2018年に開業した炭火焼き料理専門店。スペシャリテの炭焼き天ぷらは、炭火のポテンシャル、炭火焼きだからできる味を伝えたいと、小峰シェフが考案したオリジナル。世界農業遺産に認定されている宮崎県椎葉村をはじめ、産地直送の旬の素材から着想を得るコースは10皿前後。酒肴からジビエ、自ら手打ちする締めの蕎麦まで多彩なラインナップ。キャリアは和食一筋だが、各国料理のシェフとも広く交流を持ち、炭火焼き割烹というジャンルを進化させている。
カウンター中心
“自家製からすみとあんきも”。からすみは軽く炙り、あんきもは柚子ソース、巣蜜を添えて。コース1万3200円からの一皿
燗酒も炭火で
小峰シェフ。東神田で〈あそび割烹 さん葉か〉も経営
●炭手前 鷽(すみてまえ うそ)
住所:東京都中央区日本橋蛎殻町1-8-4
営業時間:11:30~13:30LO(月~金曜)、18:00~23:00LO
定休日:日曜
TEL:090-1650-8220
雑誌『Safari』2月号 P182~183掲載
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photo : Jiro Otani text : Kei Sasaki