『ブレードランナー』(1982年)
ファンタジー世界のキャラクターだけでなく、
リアルな人間を演じて役の幅を広げていく!
『レイダース~』に続き、ヒットこそしなかったが高評価を得た『ブレードランナー』(1982年)に主演したフォードは、満を持して(一応の)最後のハン=ソロ役となる『スター・ウォーズ ジェダイの復讐』(1983年、現在の副題は『ジェダイの帰還』)に出演。俳優として自信を増した彼は、シリーズの生みの親ジョージ・ルーカスにも積極的に意見するようになる。もっともルーカスを困らせたのは“ハン=ソロは劇中で死ぬべきだ”という要求。家族もバックグランドもないアウトローは、ここで死ぬことによって天涯孤独のキャラクターが強調される。フォードはそう考えたが、ルーカスは決して首を縦に振らなかった。この要望は32年後、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』でようやく叶う。
『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』(1989年)
『スター・ウォーズ』の最初の三部作は完結したが、『レイダーズ~』のシリーズ化によってフォードはさらにスター街道を驀進する。2作目『インディ・ジョーンズ 魔球の伝説』(1984年)、3作目の『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』(1989年)も大ヒット。彼が演じるインディ・ジョーンズは頼れるアクションヒーローの代名詞となった。その人気ぶりは、2008年に19年ぶりの新作『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』が作られたことからもうかがえるだろう。
『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985年)
しかし、俳優ハリソン・フォードはアクションヒーローを演じるだけでは満足しなかった。『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985年)はサスペンスのスタイルを取りながらも、フォードふんする刑事と、アーミッシュと呼ばれる平和主義のコミュニティに所属する母子の交流を描いた深みのあるドラマ。本作はアカデミー賞で作品賞など5部門にノミネートされ、フォード自身も主演男優賞の候補となった。彼のオスカー・ノミネートは現在のところ、この1度のみ。ともかく、本作はフォードがファンタジーの世界のキャラクターだけでなく、リアルな人間を演じられることを広く証明した。ちなみに、同作のピーター・ウィアー監督とは狂信的な自然回帰主義者を演じた『モスキート・コースト』(1986年)でもタッグを組み、こちらも好評を博した。
『パトリオット・ゲーム』(1992年)
1990年代に入ると、フォードはまたもアクションの当たり役を得る。人気作家トム・クランシーが生み出したCIA分析官ジャック・ライアンだ。1990年の『レッド・オクトーバーを追え!』ではアレック・ボールドウィンが演じていたこの役を、フォードは『パトリオット・ゲーム』(1992年)で演じることになった。ハン=ソロやインディと異なり、主人公ライアンは妻子と暮らす家庭人でもある。戦いのモチベーションには職務だけでなく、家族を守るという理由も加わる。『推定無罪』(1990年)や『心の旅』(1991年)で演じた家庭人のキャラが、ここでも生きた。好評を受け、フォードは『今そこにある危機』(1994年)でもライアン役を演じている。
『サブリナ』(1995年)
さらにこの時期、フォードはこれまで敬遠していたラヴストーリーにも挑むようになる。シドニー・ポラック監督、ジュリア・オーモンドと共演した『サブリナ』(1995年)やアイヴァン・ライトマン監督、アン・ヘッシュと共演した『6デイズ/7ナイツ』(1997年)がそれだ。どちらもコメディのテイストが入っているのがミソ。逆に、シドニー・ポラック監督、クリスティン・スコット・トーマスと共演した『ランダム・ハーツ』(1999年)やロバート・ゼメキス監督、ミシェル・ファイファーの夫役を演じた『ホワット・ライズ・ビニース』(2000年)は夫婦愛の疑念を題材にしたサスペンスで、これらもフォードの演技の幅を広げた作品だ。
『エアフォース・ワン』(1997年)
『エアフォース・ワン』(1997年)で米大統領、『K-19』(2002年)では旧ソ連の原子力潜水艦艦長、『ファイヤーウォール』(2006年)でコンピューターセキュリティの専門家と、演じる役柄は年を追うごとに多彩になる。70歳を過ぎた頃から、主演よりも撮影時の拘束時間の少ない脇役を務めることが多くなったが、『42 世界を変えた男』(2013年)や『アデライン 100年目の恋』(2015年)、そして待望の続編『ブレードランナー2049』(2017年)などでの、重みのある存在感はベテランの貫禄を感じさせるに十分だ。
80歳の現在も、フォードは「俳優を引退するつもりはない」と明言している。来年公開予定のMCUの『キャプテン・アメリカ』最新作では、亡きウィリアム・ハートに代わり、ロス将軍を演じるというから楽しみだ。「年齢を隠さず、物語を語るうえで利用し、高齢を疑問視する声に正面から立ち向かいたい」と語るフォード。若き下積み時代に培った“俳優業を食べていきたい”という彼の気持ちには、今もブレがない。それが80歳にして、今なお主演を務められる秘訣に違いない。(前編に戻る)
photo by AFLO