ドバイ発SS2026コレクションで〈ゼニア〉が伝えたかったこと
〈ゼニア〉のSS2026ファッションショーが、6月11日夜(現地時間)ドバイのオペラハウスで開催された。今年1月までミラノでショーを行なっていた〈ゼニア〉だが、今回はドバイで初開催。また、同会場には1週間限定で創業者のレガシーが体験できる空間“ヴィラ ゼニア”も設置。あらためて1910年に創業者が描いたビジョンに着目すると、そこには今だからこそ大事にするべきメッセージがあった。
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ランウェイとなったのは砂漠のオアシス!
毎回趣向を凝らしたファッションショーで話題の〈ゼニア〉。前回1月にミラノで行われたAW2025のショーでは、会場に大量の芝生を張り巡らせ、〈ゼニア〉最高峰のウールテキスタイル“ヴェリュス・オウレウム”が育まれるオーストラリアの丘を描いてみせた。そして今回は、ドバイ・オペラハウスの中に大量の砂を敷き詰めたショー会場を設置。砂漠の地ドバイの自然と〈ゼニア〉が植林を進めてきた自然保護区“オアジ・ゼニア”が融合したかのような空間で、約600人の招待者を唸らせた。砂漠と緑の対比が織りなすショー空間。〈ゼニア〉のヴィジョンを具現化したものだ
美しく叙情的なパフォーマンスを見せてくれたジェイムス・ブレイク
現地時間の20時過ぎに、ジェイムス・ブレイクの歌とピアノパフォーマンスでショーが幕開け。SS2026のファーストルックは、胸元を開けた白シャツに見るからに快適そうなジャケット姿。あえてシューズを手に持ち、砂地を裸足で進む姿が印象的だった。その後のルックも緊張感とは無縁なものが続く。ジャケット、シャツ、パンツなど洗い晒し感のあるシワをたたえたものが多く、開放感を身にまとうような気持ちよさが伝わってくる。また、自然には様々な色があるように、今回の〈ゼニア〉もナチュラルなトーンを中心に色彩を楽しむことを忘れていない。最もこだわりが投入される素材感も多彩だ。ウールやシルク、リネン、コットン、そしてレザーなど、見るからに上質かつ軽やか。それがゆとりあるシルエットのアイテムと相まって、コレクション全体のリラックスムードを作り上げていた。
このコレクションを指揮するのは、ご存知アーティスティック ディレクターのアレッサンドロ・サルトリだ。彼は〈ゼニア〉のルーツである生地づくりに忠実でありながら、その素材の可能性をさらに探求。日常の体験によって服がかたちづくられていくと同時に、服の着こなし方や使い方をファッションとして実験し続けている。一方で彼のコレクションを見ると、“人とファッションのあるべき姿”に思いを馳せたメッセージを感じ取る人も多いのではないだろうか? アレッサンドロ・サルトリは、今回のコレクションに寄せて、次のように語っている。
「このコレクションには、土俗的な魅力と生命力があり、その背後にある重層的な思考プロセスとは裏腹な即時性と活気もあります。リサーチの中で、私の意図を完璧に表現するような1枚の写真に出会いました。それは、脱ぎ捨てられた衣服が椅子の上に積み重なっている写真で、おそらく翌日にまた着るために置かれているのでしょう。その層の重なりと無造作さは、濃密な人生を物語っており、まさに私たちが目指しているものです。私たちデザイナーが行うのは、その半分にすぎません。残りの半分は、着る人が日々服をどう解釈するかによって完成します。その個人的で標準化されていない解釈こそがランウェイで表現されているものです。そこには〈ゼニア〉が自然に溶け込む本来の舞台、すなわち人生が映し出されています。装いには文化があり、正統さと気取らなさを併せ持つスタイルがあります。 それこそがブランドのシグネチャーとして守り続けたい、特有のイタリアンな響きなのです」アーティスティック ディレクターのアレッサンドロ・サルトリ
そしてもうひとつ、彼の思いの中には、創業者エルメネジルド・ゼニアが描いてきた“オアジ・ゼニア”のビジョンが同居する。“人と山、自然と文化のあるべき姿”を次世代へと維持、継承すること、つまりそれは“共生”のビジョンでもある。服と人が一体となって豊かに育まれる空間では、ファッションが人生とひとつになる。このような考え方は今でこそ“サステナブル”という言葉で表現されるだろうが、創業者の思想が115年前に生まれ、今でも色褪せていないことを考えると、その先見性に驚かざるをえない。
最新ルックにブランドの個性や思想、メッセージが表れるのは当然のことだが、〈ゼニア〉の場合、創業者のルーツやレガシーにフォーカスすることでもブランド価値を表現している。この役割を担っているのが、2024年にスタートした“VILLA ZEGNA(ヴィラ ゼニア)”だ。ヴィラ ゼニアは遊牧民的な構想のもと、世界中の地域ごとにブランドストーリーを展開するプライベートクラブ。昨年は上海、ニューヨークで開催。そして今回ドバイの土地のレンズを通して創業者のビジョンを再解釈する試みを行なった。オアジ・ゼニアに見立てた会場を案内するスタッフ。首から下げているのは、様々な種類の鳥の鳴き声が出せるバードコール
“A VISION OF OASIS” をテーマに掲げた今回は、ファッションショー会場となったオペラハウス内で開催。創業の地イタリアのトリヴェロではじまった〈ゼニア〉の物語が、砂漠の地ドバイで展開された。入口を入ると、ゲストはブランドのシンボルであるオアジ・ゼニアの地図を持って、120種を超える野鳥の声が流れる通路へ。次のツリーギャラリーでは、樹齢100年を超える木々の幹が立ち並び、再生力と記憶の生きたアーカイブを目の当たりにすることになる。創業者のオフィス前に設置されたエルメネジルド・ゼニア愛用の椅子。スポットライトを浴びたその姿にスートーリー性が感じられる
一番印象的だったのは、創業者エルメネジルド・ゼニアのオフィスが忠実に表現された空間だ。机に置かれたスケッチや手書きのメモ、図面、私物は当時そのままのもので、彼のひたむきで豊かな心を垣間見ることができる。また、その奥にあるフレグランスルームは、〈ゼニア〉の香りの新しい幕開けを告げる場所。ゲストはマスターパフューマーのファブリス・ペレグリンがヴィラ ゼニアのためだけに創作した限定の香り“Il Conte(イル コンテ)”を体験した。創業者の静かな日常の儀式、彼のデスク、愛用の道具、そしてその空気感をもとに創作された香りは、レザーアコード、バニラ・タヒテンシスのインフュージョン、べンゾインレジノイドをブレンド。どこにもない、ほかに似ているものが見当たらないオリジナルな香りを吸い込むと、創業者と同化するかのような気持ちになった。エルメネジルド・ゼニア愛用の机には当時のドキュメントをディスプレイ。本人の息遣いが感じられるよう
ヴィラ ゼニアは単なる場所やフォーマットではなく、〈ゼニア〉のビジョンやブランド価値を知る体験そのものとなっている。人とファッションの関わり方がどんどん変化する時代に、100年以上前に生まれたビションが未来に向けてしっかりと受け継がれようとしている。そんな〈ゼニア〉の姿勢を体験すると、「この先どうあるべきか」が見えてくるような気がした。
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