●今月のビジネスセレブ
TFC代表取締役
フィリップ・テリアン[Philippe Terrien]
Profile
1956年生まれ。1980年、パリ・ソルボンヌ大学経済学科、日本語学科卒業、翌年来日。在日フランス系企業を経て、1986年、独立。ヨーロッパのデザイナーや商品を日本に紹介するほか、ビジネス・コンサルティング業務を行う。以降、ミクリ・ジャポンなどフランスのブランドの日本法人を複数立ち上げ、2003年、TFCを設立し現在に至る。
ロレックス
オイスター パーペチュアル デイトジャスト
●愛用歴/約30年
●購入場所/アンカレッジ空港免税店
●購入時の金額/約20万~30万円
多くの文字盤のバリエーションを擁する時計だが、白文字盤にバトンインデックスという極めてシンプルなタイプをチョイスした。
「長年愛用しても決して飽きのこないシンプルなデザイン、それに尽きます。ブレスレットも3連で、〈ロレックス〉の中では最もカジュアルなタイプですが、スーツやジャケットにも合う品格を持ち合わせていて、幅広く使えるところも魅力です」
ROLEX[ロレックス]
オイスター パーペチュアル デイトジャスト
1945年、文字盤の3時位置の小窓にカレンダー表示を備える初の自動巻き防水クロノメーター腕時計として誕生して以来、変わらぬ顔つきを守り続けている不朽の名品。堅牢なオイスターケース、カレンダー表示の視認性を高めるサイクロップレンズなど、ひと目でそれとわかるアイコニックなディテールで構成されたデザインは世紀を超え人々の憧憬を集め続けている。フィリップが選んだのは、ステンレススティールのブレスレット、スムースベゼルのシンプルな1本。
無駄のないスレンダーなスタイルに、ストイックなブラックのタートルニット。20代で来日し、日本在住歴が長いフィリップだが、コーディネートにも、醸し出される雰囲気にも、フランスの洗練が漂う。手元には、シンプルな〈ロレックス〉のオイスター パーペチュアル デイトジャスト。それは彼の日本在住歴とほぼ同じ歳月を共にしてきた、もはや“年代物”といえる代物だ。
「この時計は、もう25年? いやもっと前になります。日本とヨーロッパの間に、まだ直行便の飛行機が少なかった頃ですから。当時はだいたい、アンカレッジの空港で乗り継ぐのですが、エンジントラブルで飛行機が遅延して10時間くらい空港で足どめに。それで暇つぶしに入った免税店で、なんとなく買ってしまいました(笑)。本当に、そんなつもりなんてなかったのに、全くなにも考えずに」
その日、予定どおりに飛行機が飛んでいたら、この時計とは出会わなかった。まさに“縁”を感じさせるエピソードだ。
「この時計も今と比べれば安かったのですが、当時26か27歳くらいだった私にとっては非常に高価な買い物です。でも、こういうクラシックな時計はきっと飽きずに、長く使えるんだろうな、自分への投資だと思って購入しました」
まぎれもなく衝動買いではあったけれど、「今思えばとてもいい選択だった」とフィリップは微笑む。
「なぜなら、これだけ長い歳月がたっても、この時計の魅力は全く褪せないから」
1945年に誕生して以来、ムーブメントは最新テクノロジーをもって常に進化し続け、外観にも細かいアップデイトが施されているオイスター パーペチュアル デイトジャスト。しかし、時計の“顔”そのもののデザインは変わることなく、フィリップはそれこそがマスターピースだと言いきった。この日は、世界各国で買ったブレスレットを重ねづけして登場してくれた。
「こういうヒッピーっぽいブレスレットに合わせてもいいし、最近では弊社で取り扱っている、和紙を糸にしたサスティナブルな服や小物のブランド〈KAMITO〉のブレスレットとコーディネートすることも多いですね」
ムーブメントには興味がなく、自身にとって時計はあくまでもファッションの一部というフィリップらしい、自由で感性豊かな手元コーディネート。こんなふうにカジュアルに寄せても、どこかエレガントでリッチなイメージへと昇華させる〈ロレックス〉の名品力は絶大だ。
「実は購入してから一度もオーバーホールをしていないんです(笑)。なぜなら一度も壊れたことはないし、時間を正確に刻み続けてくれているから。コレってすごいことですよね。でも、本当はちゃんとオーバーホールをしたほうがいいですよね。わかってはいるのですが、気がついたらこれだけの歳月が過ぎてしまったという感じなんです(笑)」
時計は、このほかに〈エルメス〉のケープコッドを所有しているとか。
「ケープコッドは洒脱なデザインと、〈エルメス〉ならではの上質なレザーストラップに惹かれて購入しました。それもとても気に入っていて、〈ロレックス〉同様長年愛用していますが、〈ロレックス〉に比べたらやはりコーディネートが限定されてくるので使用頻度はあまり高くないかもしれないですね」
近年、様々なタイプが発売されている、いわゆる“スマートウォッチ”には興味はないのだろうか?
「アップルウォッチが発売されて間もない頃、一時期使っていたことはあります。もちろん機械としてはとても便利でしたけれど、なんとなくいつも時計に監視されているような気がしてしまって(笑)。結局、〈ロレックス〉と〈エルメス〉にまた落ちつきました」
長い間新しい時計は購入していないフィリップ。それは愛用の2本で心が満たされているからに違いないが、そろそろほかに欲しい時計に出合ってもいい頃ではないだろうか?
「2019年に復活した〈アイクポッド〉ですが、マーク・ニューソンがデザインを手掛けていた’90年代のモデルのような、デザイン的にちょっと斬新なものがあったら欲しいですね。個人的な考えですが、今の時計、特にラグジュアリーブランドの腕時計は、概ねデザインがイージーな気がして。あまり惹かれないんです」
オイスター パーペチュアル デイトジャストという、ある意味究極の、王道の1本を所持しているからこそ、よほど彼の心を突き動かすデザインの時計が現れない限り、新しい時計には食指が動かないのかもしれない。
「なので次になにを買うかより、私はまず、この時計をオーバーホールに出すべきですよね(笑)。きっと壊れてしまうまでこのまま使い続けると思うけれど」
ブランドビジネスをあらゆる角度でサポートヨーロッパのデザイナーのために、日本での営業活動とPR、プロモーション活動を統合するというビジョンのもと、2003年に設立。様々なコマーシャルエージェントの展開や、ライセンスコーディネーション、PRやプロモーション活動、コンサルティングなど、ブランドビジネスに関する事業を幅広く手掛けている。また、2017年にはフィリップのパートナーとともに自然派スキンケアブランド、〈DAMDAM〉を立ち上げて、上質なライフスタイルを提案している。
雑誌『Safari』2月号 P188~189掲載
“ビジネスセレブ”の記事をもっと読みたい人はコチラ!
photo : Mamoru Kawakami text : Kayo Okamura