DON JOHNSON
1949年、米ミズーリ州生まれ。名門演劇学校アメリカン・コンサバトリー・シアターで学んだ後、映画やドラマに出演。『特捜刑事マイアミ・バイス』のソニー・クロケット役でブレイクする。 '90年代後半には『刑事ナッシュ・ブリッジス』でタイトルロールを演じたほか、製作総指揮を務めて再ブレイク。2000年以降の映画出演作に『マチェーテ』『ジャンゴ 繋がれざる者』『ヴェンジェンス』などがある。元妻メラニ ー・グリフィスとの間に誕生した娘ダコタ・ジョンソンも女優として活躍中。
Better to be dead and cool than alive and uncool.
『ハーレーダビッドソン&マルボロマン』より
ブラッド・ピット? トム・クルーズ? ジョージ・クルーニー? はたまた、ヒュー・ジャックマン? 男が憧れるハリウッドスターは大勢いるが、’80年代を知る人からは、この人の名前が挙がるかもしれない。 今年で70歳になるベテラン俳優ドン・ジョンソンは、1984年から1989年にかけて米NBCネットワークで放映された犯罪捜査ドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス』に主演。ワイルドでチャーミン グな刑事ソニー・クロケットを演じ、たちまちテレビドラマ界のトップスターとなった。
後にコリン・ファレルとジェイミー・フォックス共演の映画『マイアミ・バイス』としてリメイクもされた『特捜刑事マイアミ・バイス』は、マイアミ警察の潜入捜査官コンビが活躍。住まいはヨット、同居相手は“エルヴィス”と名づけたワニ、無精ヒゲ&ラフなヘアスタイルで巨悪に立ち向かうソニー・クロケットは男女問わず大勢の視聴者を魅了。ドラマ史の中で今も語り継がれる名キャラクターとなった。
そのファッションセンスも当時は注目の的で、〈ヴェルサーチ〉のスーツを着こなし、〈ロレックス〉の腕時計をはめ、素足にシューズで愛車の〈フェラーリ〉を乗りまわす姿が印象的。ドラマからはヤン・ハマーのテーマ曲をはじめとするサウンドトラックも大ヒットし、MTV時代に誕生したシリーズとしても親しまれることになった。
ちなみに、ドン・ジョンソン自身も大学時代からバンド活動に励んできたミュージシャンで、 1986年にはシンガーとしてアルバムをリリース。 タイトル曲の「ハートビート」はソニー・クロケッ ト人気もあり、全米チャートを賑わせた。
テレビドラマで成功した大勢のスターたちと同様、『特捜刑事マイアミ・バイス』に前後して映画にも積極的に出演。ロサンゼルス市警のさえない刑事を演じた『サンタモニカ・ダンディ』、こちらもセクシー俳優として人気だったミッキー・ロ ーク共演の『ハーレーダビッドソン&マルボロマン』、そして当時の妻で女優のメラニー・グリフィスと夫婦を演じた『愛に翼を』などで話題をさらった。
しかしながら、やはりドン・ジョンソンの持ち味を生かすには連続ドラマのフォーマットが合っていたのかもしれない。1996年から2001 年まで米CBSネットワークで放映された『刑事ナッシュ・ブリッジス』でテレビドラマ界に復帰。サンフランシスコ市警の特別捜査班を率いる刑事ナッシュ・ブリッジスを演じたほか、エグゼクティブプロデューサーとして番組制作にもかかわった。
またしても犯罪捜査ドラマ⁉︎ と思うかもしれないが、同じ刑事でもナッシュ・ブリッジスはソニー・クロケットとタイプの異なるキャラ で、よりユーモラス。相棒の刑事ジョー・ドミンゲス(チーチ・マリン)との軽快なやり取りも楽しく、 気の置けない彼らの関係が作品のテイストを担っている。一方、家族の問題、仲間の死など、シリアスな状況が彼を悩ませ、人間らしさが顔を出す ことも。シリーズ開始当時、40代後半に達していたドン・ジョンソンの等身大の魅力も詰まった内容になっている。
『特捜刑事マイアミ・バイス』と『刑事ナッシュ・ ブリッジス』。これらの大ヒットによりドン・ジョ ンソンは2つの代表作を得たことになるが、『特捜刑事マイアミ・バイス』は前述のとおり2006年にリメイク済み。かたや『刑事ナッシュ・ブリッジス』はリバイバル企画が予定されており、視聴者が再びナッシュ・ブリッジスに会える日も近づいているという。名作ドラマのリメイクやリブートが相次ぐ昨今ではあるが、記憶に残るシリーズが 2本もあることは俳優として喜ばしいことだろう。
●『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』ニューヨークの豪邸で世界的ミステリー作家の85歳を祝う誕生日パーティが開かれた 翌朝、彼が遺体で発見される。匿名の人物から事件の調査依頼を受けた名探偵ブノワ・ブランは、パーティに参加していた家族や看護師、家政婦ら、屋敷にいた全員を第一容疑者として調査を進めるが......。監督は『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』のライアン・ジ ョンソン。●2020年1月より、TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー photo Credit: Claire Folger
もちろん、彼自身は過去を振り返るばかりで はなく、現在も映画にドラマに意欲的に出演。来年1月には、トロント映画祭で披露されて好評を博したミステリー映画『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』の日本公開が控えている。『ス ター・ウォーズ/最後のジェダイ』のライアン・ジョンソンが監督を務める本作は、ニューヨークの 大豪邸で巻き起こる密室殺人もの。ミステリー作家アガサ・クリスティの大ファンを公言するジョンソン監督が、クリスティ作品への愛を詰めこんだ内容になっているそうだ。
ダニエル・クレイグ やクリス・エヴァンスらも出演する中、ドン・ジョ ンソンがミステリー世界でどんな顔を見せているのか気になるところ。また、気になるといえば こちらも要チェックなのが、米ケーブルテレビ局HBOで放送中の新ドラマ『ウォッチメン』(原題)。 同名アメリカンコミックをベースにした『ウォッチメン』は、2009年に製作された映画版でも知られている。すでに大勢の視聴者の関心を集めはじめている中、ジョンソン演じるキャラクターにも衝撃の展開が訪れて話題の的に。もしかしたら、 第3の代表作誕生ということになるのかも......。 時期尚早であるのは百も承知のうえで、そんな期待すらしたくなる。
『Urban Safari』Vol.13 P6〜7 掲載
photo : Jennifer Roberts / Contour by Getty Images text : Hikaru Watanabe