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2021.01.21


波とアートを重ね合わせる自由なソウルの持ち主

セントラルカリフォルニアの大自然に暮らすプロサーファーのネイト・タイラー。10代後半から〈ボルコム〉のライダーとしてキャリアを積むとともに、スカルプチュア・アーティストとしても腕を磨いてきた。2020年には自身のアートとサーフを融合させたフィルムをリリース。そんな彼の自由な生き方は、コロナ時代を生きるすべての人に是非知ってほしい。

●今月のサーファー
ネイト・タイラー [NATE TYLER]


“海なしタウン”の路上で腕磨き


サンタクルーズから3時間ほど南に下った小さな街、テンプルトン。ここで父とともに建てたDIYハウスに暮らすのが、今回紹介するプロサーファーのネイトだ。10代後半から〈ボルコム〉のライダーとして活躍。今や比類なきキャリアを築いたソウルサーファーとして若い世代からも慕われる存在だ。そんな彼のサーフ歴のはじまりは、意外に遅い。

「12歳のときに父と行ったビッグ・サーが人生初。でも、本格的にはじめたのはさらに遅くて、10代後半に入ってからなんだ。というのもここは(南カリフォルニアよりも)寒いから、冷たい海に耐えなきゃいけない。スタミナを蓄えられる大人のカラダが必要だったんだろうね(笑)」

大きな波を乗りこなす彼のライディングはまさにアート。海外トリップがキャンセルになった今年は過去の旅の思い出を振り返っていたそう

最初に乗れた波の感触が今までの人生の中で比較にならないほど最高の経験だったというネイト。その快感をもう一度、という思いに駆り立てられ、いつの間にか夢中になっていたそうだ。しかし彼の住む場所は内陸の“海なしタウン”。かわりにスケボーで横乗りの感覚を掴んでいったという。コンクリートでのトレーニングが功を奏したのか、それとも天性の才能か、〈ボルコム〉からのオファーで16歳からジュニアプロとして活動を開始する。コンペでは好成績をおさめるものの、それとは反対に勝負に興味がないことに気がつき、彼の闘争心は奮い立たされるどころか萎えてしまった。

「サーフィンで仲間を出し抜いたり、勝ち負けを競うことに疑問を感じていたんだ。かなり長い間ね。僕のスタイルはこれではないと気づいて、フリーサーファーに転向したのさ」

ボードコレクションのなかでも最近愛用中なのがこの3本。〈ボルコム〉はじめ、スポンサーのステッカーは所定の位置に

そういえば、ネイトが憧れのサーファーとして名前を挙げるロブ・マチャドもコンペティションサーファーからフリーサーファーへ転向したレジェンドの1人。彼の波へのアプローチからレイドバックしたライフスタイルに至るまで、大きく影響を受けているのだそう。

「フリーになってからは気負わずサーフィン自体を楽しめる。トリップ先ではローカルとの交流を深め、現地のカルチャーを学ぶんだ」

海を眺めそう語るネイトには、20年近くのキャリアを積み上げてきた風格が漂う。

“フリー”になって生まれたアート


コンペティションのないフリーサーファーへと転向したことで、精神的にも肉体的にも解放されたと語るネイト。気分が軽くなるにつれてか、より多くの人を惹きつけるようになったよう。最近では〈オクトパス〉〈グローブ〉〈805ビール〉といったサーフブランド以外のスポンサーも自然と増えてきた。

「日常生活のなかで楽しむことに重きを置くライフスタイルを送るようになって、気持ちにゆとりが生まれたんだ。闘争心を燃やすかわりに笑顔も増えたと感じるよ。そして、趣味のアート制作への情熱も高まっていったんだ」

重いメタルを組み合わせてスカルプチュアに動きをつけている最中

そう、彼はサーフィンだけでなくスカルプチュア・アート(彫刻などの立体物)の分野でも高く評価されているアーティスト。ウッドやメタル、スチールなどを使って、みずからの手でオブジェを組み立てている。

「実は僕の両親もアーティスト。僕が小さい頃は主に木工職人として活動していたんだ。彼らを通してモノ作りの世界に魅了され、10代の頃には見よう見まねで手を動かしていたね。16歳の時にはじめて作った簡単なスカルプチュアを今でも大切にとってあるけれど、それはまさに達成感の証みたいなものなんだ」

彼がアートへ注ぐ情熱は、サーフィンに対するそれと変わらず、作業中の集中力も半端ない。そんなネイトの姿を見た友人で映像作家のマットの提案で、今年サーフアートフィルム『A R BU T U S』が制作された。

サーフアートフィルム『A R B U T U S』の撮影風景 photo by An’na Kawanishi

「父に捧げるキネティック・スカルプチュア(動きのある立体物)を考案、完成させるまでを追ったドキュメンタリー兼アートフィルムみたいなものだよ」

米誌『サーファーズジャーナル』では「ブルース・ブラウンを彷彿とさせるアートフィルム」と好評を博したこのフィルム。そのなかで制作された巨大なスカルプチュアこそ、最初の写真でネイトが眺めているそれ。風を受けるたび各パーツが優雅に動く仕掛けで、これはサーフィン中の波の動きを表現したものなのだそう。自由に波を楽しむことを心から愛す彼らしい作品だ。

コロナ生活にさえ感謝?


私生活では、見せかけでない本格的なサスティナブルライフを実践しているネイト。父と自身の手で築いた家屋に暮らし、庭の一部に作った小さな農場では、野菜やフルーツが収穫できる。そんな“穫れたて”の素材で彼の妻や子供たちに朝食を作るのは朝のルーティーンだそう。その後は波がよければもちろん海へ。なければ自宅そばのアトリエでスカルプチュア制作へと没頭する。

ウッドで作ったフェンスに施したガーデニングは、まさにアート。今年はオーガニックのミニトマトが豊作

「今年はコロナの影響もあってプロジェクト絡みのトリップはキャンセル。思いがけない状況だけど、ゆっくり家で過ごす時間が増えたことに感謝しているよ。父が手掛けるメタルのスカルプチュア制作も手伝えているしね」

2020年に突然訪れた非日常は多くの人に影響を与えたが、そこから真の価値観を見出す人も多く、ネイトもどうやらその1人。

「今までいかに便利な生活に慣れてきたのかと気づかされたし、これからなにを経験していきたいのかを考えさせられたいい機会。今まで以上に家族やコミュニティに感謝しつつ毎日を大切に生きたい、と思っているよ」

ネイトが暮らす手造りハウスの外観がこちら。ブルーのフレームが背景の森林のグリーンと美しく調和している

もともと自然のなかで育ってきたネイト。しっかり基盤ができているからこそ、柔軟に対応できるのだそう。常に自然と調和している彼は、地球とうまく関わるためのバランスや距離感を知っているかのように見える。

「世の中が落ち着いたら、南の島で思いきりサーフィンしたい。それまでに今できるプロジェクトをコツコツと進めていくつもり。こういう時期を乗り越えてこそ新しいひらめきが降りてくるしね。素晴らしい瞬間に感謝だよ」

●ホームポイントはココ!
ビッグ・サー [BIG SUR]緑と海、両方を感じられるセントラルカリフォルニアにある絶景ポイント。リーフで安定した波が楽しめ、特に冬はダブルオーバーヘッドのビッグウェイブも楽しめる。夏は森林でキャンプを楽しむサーファーやヨギーで賑わう。

 
Information

雑誌『Safari』2月号 P186~187掲載

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写真=マット・ぺイン 文=高橋百々 photo : Matt Payne(Megastrada) text : Momo Takahashi(Volition & Hope)
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