次のサーフ界を背負う若き新ニューレジェンド
現在のサーフシーンを牽引するサーフ界の貴公子、タイラー・ウォーレン。プロサーファーであり、シェイパー、アーティストというマルチな才能を誇り、その美しく優雅なライディングは見る者を魅了。ここ最近はインタビューが難しいサーファーの筆頭だったが、今回特別に直接取材に成功。サーフ界の若きレジェンドの素顔に迫った。
●今月のサーファー
タイラー・ウォーレン[TYLER WARREN]
南カリフォルニアはサンクレメンテの北隣にある街ダナポイント。1966年後半にハーバーが建設されるまではここに波が立ちキラーダナと呼ばれたポイントブレイクの歴史的な場所だ。1954年に老舗ボードブランドの〈ホビー〉1号店も誕生。またブルース・ブラウン監督の名作『エンドレス・サマー』もここから誕生した。
「このあたりはサーフィンの歴史が深く根づいているエリア。雑誌『サーファー』創始者であるジョン・セヴァーソンもここに住んでいたんだよ」と、優しい口調で語るのは、彼自身もこの街で生まれ育ったタイラーだ。
サーフ界の若きプリンスとして注目されてから早10年以上。ここ数年はヒゲを蓄え、熟成されたワイルドな風貌に。とはいえそんな彼にだってビギナー時代は存在する。
「9歳の頃、近くのソルトクリークビーチに家族で来たときにはじめて波乗りしたんだ。波の上に立つ浮遊感やスピードを全身で楽しんだのを覚えているよ。それからブルース・ジョーンズのツインフィンを使って毎日練習。陸では波乗りをイメージしながらスケボーでターンの練習をしたり……」
近所の友人と毎日のように海へ通うと同時に、昔のサーフビデオや雑誌を徹底的にチェックした。当時の彼のサーフヒーローは、かつてダナポイントに住んでいたこともあるトム・カレンはじめ、ジョエル・チューダー、ジェリー・ロペス、デレク・ハインドという独自のスタイルを極めたレジェンドばかり。彼らに近づくべくサーフムービーを繰り返し観て技術を吸収。伝説のシェイパー、ジョージ・グリノー制作の『インナー・モスト・リミッツ・オブ・ピュア・ファン』やトーマス・キャンベル制作の『シードリング』などマニアックな作品が多かった。
12歳のときにはコンペティションに初参加。さらに波乗りの機会を増やすために16歳で地元であるソルトクリークビーチのライフガードもはじめた。そんな彼の努力は実り、22歳でプロへと転向。2年後には〈ビラボン〉との契約を交わし専属ライダーへと上りつめた。
「ツアーを通して世界中の素晴らしいサーファーに出会ったり、ウェットスーツやアパレルのデザインができるなんてとても光栄だよ」
ライダーとしての名声を瞬く間に得ていったタイラー。しかし、ボードビルドに興味を抱いたのも、実は彼がサーフィンの喜びを覚えてからわりとすぐのこと。11~12歳のときにはすでに自分のオリジナルサーフボードのデザインをスケッチしていたという。
「サーフィンをはじめた頃から『サーファーズジャーナル』を読んで、いつしか自分の手でボードを作りたいと思うようになっていたんだ。そんなある日、試しに友人と’70年代のクラシックボードのグラッシング部分を剥がしリシェイプしてみたんだ。そうしたら意外と理想的なボードを削ることができたんだ。今までに感じたことのない達成感がこみ上げてきたね。あれはたしか14歳だったと思う」
シェイパーとしても早熟だったタイラーは、シェイプの基礎を学ぶために、ダナポイントの老舗〈ホビーサーフボード〉のファクトリーで修業を開始。その後、彼がちょうどプロになった頃から、彼が手掛けるボードの評判も口コミで広がりはじめ、オーダーが殺到。その中にはフリーサーファーのアレックス・ノスト、サーフアーティストのアンディ・デイビスや、ついにはタイラー本人が憧れていたトム・カレンやジョエル・チューダーなどのレジェンドたちからもオーダーを受けるように。最近ではプロのウォーターマンとして活躍しているマーク・ヒーリーやメイソン・バーンズを含む、多くの若手プロサーファーなど幅広い層のサーファーからオーダーを受けている。
そんな彼にシェイピングの魅力を聞いてみると、
「頭の中のイメージを具体的に形にしていく過程がワクワクするね。できる限り理想に近づけるため全意識を集中させるし、その行為が瞑想みたいで心地いいんだ」
そう語りながら、削り終えた20本近くのボードをグラッシャーに引き渡すタイラー。それらは、フィッシュ、エッグ、ガン、ボンザーなどバリエーション豊富で、彼のオルタナティブな感覚が見てとれる。クラシックスタイルを讃えつつ自身の経験を生かした機能的で洗練されたボードたち。業界を牽引するのも納得だ。
タイラーの才能は波乗りやボードシェイプにとどまらず、アートの世界でも高い評価を得ている。自宅シェイプルームの隣にはアトリエがあり、ほぼ毎日通い作品制作に励む。アートに目覚めたのは10代半ば。アートスクールに通っていた母の影響もあり、サーフボードのスケッチをしたり、アートTを作ってサーフイベントなどで売っていた。
その後アンディ・デイビスのブランド〈フリー〉でアーティストとして経験を積み、さらに10代後半から20代半ばには、画家である叔父のアシスタントとして毎週筆をとった。そこでさらにアートの虜となり、自身のボードにも描きはじめる。そのほかにもアパレルのデザインやアートショーも数多くこなすなど、精力的に活動。彼のアート活動の拠点であるアトリエにはアート本や写真集などの書籍がズラリ。
特に自身のアートに影響を与えたのは、リック・グリフィン、アルフォンス・ミュシャ、アンディ・ウォーホル、それに1920 ~'60年代までの広告やポップスターなど。このようなクラシックかつノスタルジックなテイストをミックスさせた彼の作風は、伝統を受け継ぎつつアップデイトさせるタイラーのボードビルドにも通じているといえそうだ。
そんな彼のインスピレーション源は、旅。
「先日、〈ビラボン〉の撮影でアラスカに行ってきたよ。満月の際にタイダルボアになるスポットがあって、2フィートほどの小波を数マイルもロングライドしたのはとても素晴らしい経験だった。常に新しい出合いを与えてくれる旅は、僕にとって、家族や友人と同じくらい人生の中で大切な要素なんだと思う」
●ホームポイントはココ!
ソルトクリークビーチ[SALT CREEK BEACH]
芝生の丘を降りると広がる美しいスポット。ビーチブレイクが基本でショート~ロングまで楽しめる。ビーチに向かって正面、ライト、レフトと大きく3つに分かれている。冬に西のうねりが入るとサイズアップした波に出合うことも!
150本近くあるボードは専用のラックに収納するが、よく使うものは表に。ボードの上で干しているのはタイラーデザインの〈ビラボン〉Tシャツとボードショーツ
友人のために描いている海アートは完成間近!
シェイプルームはサンクチュアリ。呼吸すら忘れてしまうほど集中するそう
シェイプルームのエントランスは自身のライディングショットや憧れのサーファーの写真でデコレート
朝起きたら、パソコンを立ち上げる。ソルトクリークビーチ、トラッセルズ、サンオノフレ、ドヘニーなどの波をひとまずチェック
これがはじめて乗った5 ' 7 ''のブルース・ジョーンズのツインフィン。今でも大切に保管
雑誌『Safari』9月号 P170~171掲載
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