〈オルガン〉の“シャルキュトリー”
大人の町・西麻布にオープンしてはや8年。食通にはもちろん、ファッション関係者らにも絶大な人気を誇るビストロ〈ルブトン〉。外食の店選びにも楽しみ方にも確固たるスタイルがある杉山将章シェフに、通い続ける店と一皿について話を聞いた。
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- 注目シェフが教える感動の「名店メニュー」 vol.33
アンドゥイエット
(2000円~)
豚の内臓肉を腸詰めにしたアンドゥイエットは、シャルキュトリーの一種。内臓の香りと食感、ゼラチン質の旨味などが、ワインを呼ぶ。ジャガイモのピュレをつけて味わえば、旨さが増幅。価格はポーションにより異なる。写真は2600円
〈ルブトン〉杉山将章シェフ即興の臨場感があるカウンターが中心
国内外の上質な食材で作るビストロ料理から遊び心あふれる一品まで、メニューは多彩。ナポリタンなどの洋食メニューは有名で、自家製調味料でワインに寄り添う味に落としこむ。カウンターが中心、ポーションから付け合わせまで食べ手のわがままに対応する接客も評判。
住所:東京都港区西麻布2-15-1 営業時間:18:00~22:00LO 定休日:日曜、第1・3月曜 TEL:03-3797-3837
年月とともに磨かれていく味わい
好きな店の条件は「カウンターがあること、アラカルトメニューがあること」と話す、杉山将章シェフ。
「好きなものを好きに食べたい。あと、料理するところを見ながら食べるのが好きなんです。調理はもちろん、注文が立てこんだときにどう対処するかなども見てしまう。結局、外食も勉強ですね」
友人の店に食事に行くことも多いという。紺野真シェフは、20年来付き合い続ける料理人の友人の筆頭だ。
「僕がスーシェフとして働いていた店で、当時はサービスマンをしていました。素直でセンスがよく、とにかく勉強家で、気づけばスターシェフに」と、話す。好きな一皿について尋ねると「ひとつに絞るのは難しい」と前置きしたうえで、アンドゥイエットを紹介してくれた。
「技術が味に出る、ごまかしがきかない料理。年々美味しくなる味を確かめるたびに、紺野シェフのマジメさ、妥協のなさが表れているなと感じます」
フレンチの伝統と技を宿す一皿
開業から10年。〈オルガン〉の料理は時代とともに変遷を重ねたが、変わらず作り続けるのがアンドゥイエットなどの、フランスの伝統的なシャルキュトリー。完成までに数日を要する、手間のかかる料理の代表格として知られる。作り続ける理由を尋ねると、料理を“点描画”にたとえた答えが返ってきた。
「少し前まで、たとえばフレンチは赤、イタリアンは緑……と、各国の料理はくっきり色分けされていたのに、いまや境界がなくなりつつある。いわばグレー一色」
紺野さんが話すとおり、料理のボーダーレス化は世界中で進んでいる。
「では、一見同じに見えるグレーの美しさを決めるのはなにかと考えると、赤や緑の小さな点の鮮明さだと思う」
料理が時代の空気を纏うことも必要だけれど、歴史と確かな技術に裏打ちされたフランスの食文化という“美しい赤”が隠れたグレーを描きたい。一皿に、紺野さんの決意がこめられている。
Check1 香味野菜と下茹でまず内臓類を下茹でするところから。香味野菜で臭みを取りつつ、柔らかく、ほどよい食感が残る仕上がりに。旨味たっぷりの茹で汁は、成形後のアンドゥイエットを茹でるのに活用
Check2 材料をしっかり練る下茹でした内臓を細かく刻み、繋ぎ役の豚挽き肉と、香味&旨味に変わる刻みタマネギと一緒にしっかりと練って生地を作る。この後、厚みのある直腸に詰めてソーセージ状に
organ
西荻窪の地元民に愛される一方で、料理人やソムリエといった食のプロが日本中、いや世界から足を運ぶ。紺野真シェフが一人ではじめた三軒茶屋〈ウグイス〉の2号店として2011年に開業した〈オルガン〉は、いまや東京を代表するビストロの一軒だ。有名店で料理修業した経験のない紺野シェフだが、パリのレストランでのスタジエ(研修)やフランスを中心としたワイン産地を巡る旅などを通じ、経験の枠を広げ、店を育ててきた。ナチュラルワイン生産者や輸入業者との信頼関係も厚く、ワインの品揃えもファン垂涎。
DIYで作った店内
“ホタテのムースとイワシの炙り”。ルッコラとほおずきのソース。コース6600円からの一皿
作家ものからアンティークまで、器使いにも定評あり
紺野シェフ。長く休業中だった〈ウグイス〉も営業再開
●オルガン
住所:東京都杉並区西荻南2-19-12
営業時間:17:00~22:00(21:00LO)
定休日:月曜、第4火曜とその翌日
TEL:03-5941-5388
雑誌『Safari』12月号 P230~231掲載
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photo : Jiro Otani text : Kei Sasaki