〈アルシミスト〉の“雲丹の前菜”
“熟成魚”にフォーカスしたレストランを開き、日本のフランス料理界に新風を吹き込んだ〈サンプリシテ〉の相原薫シェフ。フランスでの経験も豊かな相原シェフが「日本でも現地の薫りを感じる」と、話すフレンチレストランを紹介!
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- 注目シェフが教える感動の「名店メニュー」 vol.30
雲丹×菊芋
(1万2000円~のコースより)
なめらかなムースの奥から、甘さと塩気を併せ持つ濃厚な旨味の雲丹が現れる。パセリを練りこんだパンのパウダーや、塩味のピーナッツクランブルで、塩気や食感を添えて。昼夜のコースに共通して供される前菜の一品
〈サンプリシテ〉相原 薫シェフ
熟成で引き出す旨味、魚が主役のフレンチ
日仏の星つき店、有名店で腕を磨き、料理長としても活躍した相原薫シェフが2018年に開業。魚介を主役に、“熟成”の概念、手法も応用した新しい“魚介フレンチ”で話題をさらう。カウンター中心の店内は、全席シェフズテーブルさながらのライブ感が楽しめる。
住所:東京都渋谷区猿楽町3-9 アヴェニューサイド代官山1 2F 営業時間:12:00~13:30LO、18:00~20:30 定休日:月曜・第1火曜(祝日の場合は翌日) TEL:03-6759-1096
フランス人的味作りのセンスに脱帽
料理人として、目的を持って食事に出かけるなら「フレンチ以外を選ぶことが多い」と相原薫シェフ。
「特に和の職人仕事にひかれます。天ぷらの魚と衣だけで作る味や、寿司屋の魚の扱いに触れると、フランス料理の世界だけでは知り得ない技術を垣間見ることができ、とても刺激になります」
魚に特化した店を開いて以来、その傾向はさらに強まりつつあるという。そんな相原シェフが、国内のフランス料理店で通う店が〈アルシミスト〉だ。
「山本シェフは、日本人らしからぬ感性を持つ数少ないフランス料理人だと思います。斬新な色使い、味の組み立て方。“フランス人ならこうするかも”と思う料理が多く、ハッとさせられる」
移転してわずか半年足らずだが、もう2度も足を運んでいるのだとか。
「あの店作りの感覚も、日本人離れしている。定番料理も進化していて、負けていられないなという気持ちになります」
旨味のエッセンスを技術で抽出
相原シェフとは時期こそ違えど、フランスの同じ店で修業した経験を持つ山本健一シェフ。公私ともに付き合うようになったのは、帰国して店を開いてからだが、「尊敬する先輩です」と話す。“雲丹×菊芋”の一皿をスペシャリテに据えたのも、実は相原シェフらの後押しがあってのことだとか。
「“これは美味しいよ、店の顔になる”と言っていただいて。いまや、常連のお客様が楽しみにしてくださる一皿に」
菊芋を軟らかく炊いて薫香を纏わせ、なめらかにしてから、きめ細やかな泡状にして、温めた雲丹とともに器に盛りつける。小さな一皿にかける手間は膨大だが、「それが私の仕事、そしてフランス料理というもの」と、きっぱり。
「10年の節目に、覚悟を持って店を移転。厨房が広くなり、スタッフが増え、扱える素材の幅も広がりました。コンセプトは変わりませんが、一皿一皿の味を磨き、お客様の期待に応えていきたいです」
Check1 燻製の香りをつけるバターや生クリームを加え、軟らかく炊いた菊芋を燻製に。スモーキーな薫香が、菊芋特有の土っぽい香りと引き立て合い、香りに重層感が生まれ、ワインとの相乗も促す
Check2 エスプーマで泡状にミキサーにかけ、濾してなめらかにした菊芋のピュレを、エスプーマで泡状に。味わいはリッチながら、ふわふわの軽い食感。雲丹とのコントラストを生み、旨味を立体的にする
Alchimiste
山本健一シェフ率いる〈アルシミスト〉が今春、開業10年を機に移転リニューアルを果たした。白金台の路地に立つ一軒家は、1階がレセプションとプライベートルーム、2階がフルオープンキッチンとダイニングという造り。しつらえのスケール感と重厚さは、フランスの高級レストランを彷彿とさせる。店名はフランス語で“錬金術師”の意味。「極上の食材を“よりよい形”に」という開業時からのコンセプトを、食材の自由度も高め、より進化させている。空間からサービスまで妥協のない、次代のグランメゾンだ。
天井が高く開放的
“青森県産 帆立×ビーツ”。ビーツの泡のソースを添えて。1万2000円~コースより
1階の個室
フランスの名店で8年間、腕を磨いた山本シェフ。ミシュランガイドでは9年間1ツ星を獲得
●アルシミスト
住所:東京都港区白金台5-17-10
営業時間:12:00~13:00LO、18:00~20:00LO
定休日:月曜
TEL:03-5422-7358
雑誌『Safari』9月号 P174~175掲載
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photo : Jiro Otani text : Kei Sasaki