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2024.09.20


高橋文哉「あの頃の自分の気持ちと通じるものを感じた」【映画『あの人が消えた』インタビュー】



世に”原作モノ”の作品ばかりがあふれる中、彗星の如く現れた本作『あの人が消えた』は、TVドラマ『ブラッシュアップライフ』(脚本:バカリズム)の演出を手掛けたクリエイター水野格が完全オリジナル脚本を紡ぎ上げ、自ら監督も務めたミステリー・エンタテインメント。「次々と人が消える」と噂されるマンションを舞台に、一人の配達員が入居者にまつわる謎に翻弄されつつ、真相究明に向けて本能的に動き出す、いっさい先読みの不可能な物語である。

張り巡らされた伏線、ヒッチコック、シャマランなど映画史を彩る名作の影響、そして全ての謎が明らかになった時に全身を貫く「やられた!」という感慨・・・これらの幾度も打ち寄せる波の渦中で、観客の目となり耳となって我々を核心へいざなうのが主演のこの人、高橋文哉だ。テレビドラマ、映画に留まらずラジオパーソナリティとしても快進撃を続ける2024年の大注目株にじっくり話を伺った。

ーーー全く先行きが読めず、なおかつ不思議な透明感もある語り口に引き込まれる作品でした。その中で高橋さん演じる主人公はこのマンションをめぐる謎にどんどんのめり込んでいくわけですが、どんなことを大事にしながら演じられたんでしょうか?

高橋文哉 台本を読んでいてもすごく振り回される役だなと思ったので、最初から決めすぎることなく、ちゃんと素直に、まっすぐ、振り回されようって思いました。そういう意味でも、わりと生のリアルな表現をお届けできているかなと思いますね。

ーーー役作りで大変だったことはありますか?

高橋 めちゃくちゃあります。ご覧になればわかると思いますが、この映画にはとにかくネタバレで言えないような部分がたくさんあります。そこをどうテクニカルに演じるかという部分も大変でしたし、主人公・丸子(まるこ)というキャラクターをどのような人間として作っていくかという点も悩みました。クランクイン初日に水野監督と相談させていただく中で「こういうふうに行けばいいんだ」と役がだいぶ体に馴染んでくるのを感じました。

コロナ禍の苦境からはじまる物語
ーーーコロナ禍で誰もが経験した切実な気持ちを、とても大切に内包した役柄ですよね。

高橋 そうですね、序盤の丸子は苦難が続きます。コロナ禍でバイトをクビになって、学費が払えなくなり、何でもいいからまず職を探さなきゃ……という時に、たまたまTVから流れてきたニュースを見て「誰かの”救い”になりたい」と本能的にエッセンシャル・ワーカーとしての配達員の仕事を選ぶ。彼がそんな前向きな気持ちを持った人間だということをしっかりと受け止めて、大切に演じたいと思いました。僕的にはこのシーンがまず、丸子というキャラクターを作る上で一番大きなエッセンスになったかなと。

ーーー高橋さんご自身のコロナ禍の記憶など、演じる上で思い出されたことなどありましたか?

高橋 当時、僕は『仮面ライダーゼロワン』(2019~2020年)をやっていたんですけど、この世界にデビューしてめまぐるしく過ごさせていただく日々の中で、急に全ての撮影がストップして、やるせない気持ちだけが渦巻いてました。毎週の放送は総集編などでしのいでいたんですが、何か他に発信できることはないかってみんなで懸命に考えた結果、僕が発する声や言葉を新たに録ってお伝えすることで視聴者の皆さんに少しでも前向きな気持ちを持っていただけるのではないかということになって。あの頃は日々、ブースに行って録音して、誰とも挨拶せずに帰るみたいなことが続いてましたね。

それ以上、何かできることがないのか、探したくても探せない。なんか僕も気がつくと、ご飯作って、食べて、ゲームしての繰り返しになってしまったり……本当に試行錯誤の日々でした。その点、この映画の丸子が「自分には何ができるだろう」ともがく姿にとても共感できるというか、あの頃の自分の気持ちと通じるものを感じたりもしました。

ーーー配達員のお仕事にスポットを当てたのも本当に面白いポイントです。業務中の所作や人への接し方に、丸子の人柄がとてもうまく滲み出ています。

高橋 オファーを受けて台本を読んだ瞬間から、街を奔走する配達員の方々が目に止まるようになりました。すると、荷物を抱えて走っている時や携帯を操作している時など、いろんな表情が見えてくる。なるほど、お客様に荷物を手渡す時以外にも、仕分け、積み込み、運転など幾つもの段階があって、そこにいくつもの表情のグラデーションがあるんだなと気づいたんです。

なので、運転シーンはあまりハキハキしすぎない感じの適度な脱力感で、かと思えば、荷物を届ける時はたとえ疲れていてもダッシュで階段を駆け上がったりもする。そうやって笑顔でお客様に荷物を届けるまでの動線の中に、ちゃんと人間性が浮かび上がればいいなと。今回、街の配達員の方々から学ばせていただいたことは本当に多かったですね。

ーーー脚本にはいろんな伏線やヒントが緻密に張り巡らされていますが、そういう部分の”演じにくさ”はありましたか?

高橋 それらのヒントや伏線はあくまで後で振り返った時に気付くことであって、役柄としていま気づくことではない、っていうのが大事でした。具体的なことを言うとネタバレになってしまうので、それ以上のことは言えないですけれど、ストーリーを成立させるための演技や細部のバランスを隅々まで計算し尽くしているのがこの映画の魅力ですよね。サッカーとかでよく「針の穴を通すパス」とか言いますけど、まさにあれと似た感覚だと思います。

監督からは撮影中に「ここはテクニカルな部分なので、こういう演技でやっていただきたい」という要望を頂くことも多く、それらは後から振り返った時に全体を成立させるための大切な足し引きの要素なんですよね。ただ、演じる僕としては、そこに乗せる感情をその都度、きちんと作り出さなくてはいけない。そこが難しい部分ではありました。

言葉が持つポジティブな力
ーーー本作には『小説家になろう』という投稿サイトが登場し、小説家になりたい作家の卵が自作を投稿し、読者がそのコメント欄に感想を書き込んで……という相互交流が行われます。高橋さんもラジオ番組のパーソナリティとして、毎週多くのリスナーさんと接しておられますが、こういった相互交流を通じてご自身の意識が変わってきたなという部分はありますか?

高橋 言葉を大事にしようっていう思いは、以前に比べて本当に強くなりましたね。というのも、ひとつ間違えば、ラジオで僕が口にした言葉が何かネットニュースになって、それを見て嫌な気持ちになる方もいらっしゃるかもしれないですし。

でも逆に言葉が持つポジティブな力も計り知れなくて、たった一言によってすごくいい空気や感情が広がっていったり、壁にぶち当たっていた人が乗り越える勇気を得てくださったりすることもあるかもしれない。僕自身、そういう言葉を持てる人でありたいですし、そこの責任感をしっかり持つことが大事だと思ってます。

そして、たまたまアプリなどで初めて聴いてくださった方に、なるほど、このラジオはこういう番組なんだな。次も聞いてみようかな」と思ってもらえるような特色のあるエンタメ作りを続けていかなきゃなと思いますね。

共演者、田中圭から教わったもの

ーーー最後にお聞きしたいのが、TVドラマ『先生を消す方程式。』(2020年)でご一緒された田中圭さんについてです。再共演されていかがでした?

高橋 かつての”先生と生徒”が、今作では”同僚”になったので、月日が経つのはあっという間ですよね。4年前は圭さんとお酒の話をすることもなかったですし、自分の引き出しはまだまだすごく少なかったなと思います。

それに比べると、今回、圭さんを前にした時の自分がはるかに落ち着いてるなと実感できたので、それもまた大人になった証拠なのかなと。圭さんに対しては、僕がどう演じても必ず拾ってくださる絶対の信頼感があるので、僕は演技の面で思いっきりやらせていただけた。本当に感謝の念が尽きないです。

ーーー田中さんから教わったものは何かありますか?

高橋 何よりも”挨拶”です。「挨拶は元気がいちばん!」だと教わりました。それを今なお現場で、誰よりも大きな声で実践しておられるのにはビックリです。

それにしても圭さんは何であんなに変わんないんでしょうね。見た目も変わらないし、あの元気さとパワフルさと、どんどん周囲を引き込んでいく人間的な魅力もいっさい変わらない。ご一緒してると、なんだか自分だけが年取ったような感覚になるんです(笑)。

『あの人が消えた』9月20日公開
監督・脚本/水野格 出演/高橋文哉、北香那、坂井真紀、袴田吉彦、菊地凛子、染谷将太、田中圭 配給/TOHO NEXT
2024年/日本/上映時間99分

 
 
 
 
 
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取材・文/牛津厚信 text:Atsunobu Ushizu
©2024「あの人が消えた」製作委員会

ヘアメイク:KATO(TRON)
スタイリスト:Shinya Tokita
カーディガン 4万9500円、パンツ4万6200円ともにチノ(モールド)
その他スタイリスト私物
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