ドラマチックな秋の劇場へようこそ!【11選】
9~10月は欧米のオペラシーズンの幕開け。舞台装置から衣装、音楽、幕間のシャンパンと、贅をつくした世界を体感できる。日本でも能や歌舞伎など、時代を超えた“生”の体験は特別。華やかな歴史を誇る芸術の殿堂から、カリスマ建築家のセンスが冴えわたる最新劇場まで、“生”の感動を味わいに出かけよう。
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- 春夏秋冬 季節のトラベラー!
声の振動が心を震わせる
オペラは、セリフや感情をすべて生声で歌って表現する。客席に向けられたスピーカーは存在せず、演奏もすべてオーケストラの生音。数千人収容の会場で、瑞々しく美しい声が客席の隅々まで届くさまには圧倒される。映像技術や配信サービスが発達した今だからこそ、逆に深く心に刻まれるはずだ。
マイクなしでの歌唱を可能にしているのが、オペラ歌手が習得する独特の唱法。代表的なものがふたつあり、イタリアで生まれた“ベルカント唱法”(美しい歌声の意味)は、身体中の骨や空洞を効率よく響かせる。低音から高音まで力を抜いて美しい声を届けることができ、広い会場でも十分に響きわたらせることが可能だ。
一方、ドイツ生まれの“ドイツ唱法”は、吸った息をそのまま保ちながら横隔膜を下げて発声。力強い声が出るので、迫力には長けているといわれる。当然ながら前者はイタリア語、後者はドイツ語のオペラを歌うのに適しており、優れた歌手は口からではなく、身体全体からオーラのごとく歌声を発する。
ほかにも緻密に設計が計算されたオペラハウスでは、空間自体が楽器かと思うほど抜群の音響効果を誇る。ゴージャスな舞台装置、一体感あるオーケストラの演奏、華やかな空気に満ちたホワイエなど、実際に足を運んでみないと味わえない魅力が劇場にはつまっている。芸術の秋、是非足を運び“生”の贅沢を楽しんでみては?
スペイン
1908年にオルフェオ・カタラ合唱団の本拠地として建てられ、当時最先端の鉄骨構造を採用。モデルニスモ建築の最高傑作といわれる。設計したリュイス・ドメネク・イ・モンタネールは若くしてバルセロナ建築学校で教鞭を執り、あのガウディを教えていたことでも有名。
アメリカ
コロラド州デンバーの郊外、標高約2000 mに位置する野外コンサート会場。アメリカの音楽誌『ローリング・ストーン』で“全米ナンバーワンの野外劇場”と称されるなど、岩による音響効果が素晴らしい。数々のオペラ舞台だけでなく、ビートルズやU 2、ジミ・ヘンドリックスらのライブも行われた。
オーストリア
“音楽の都ウィーン”が世界に誇るオペラの殿堂。もともとは宮廷のために建てられ、1869年には皇帝夫妻フランツ・ヨーゼフとエリザベートが見守る中、初演にモーツァルトの『ドン・ジョバンニ』が上演された。2025年には9年ぶりの日本公演が決定している。
ブラジル
アマゾン川沿いの最大都市マナウスで、19世紀末のゴム貿易による好景気で建てられた劇場。タイルや大理石はヨーロッパから輸入され、17年かけて外観が完成。豪華絢爛な内装の仕上げには、さらに3年の月日を要した。パリのガルニエ宮をモチーフにしている。
中国
2015年、ロシアと国境を接し、西欧からの文化的影響が大きい黒竜江省ハルビン市に建てられた。設計は、日本人建築家の早野洋介など、ザハ・ハディド建築事務所出身者が設立した北京の建築事務所〈MADアーキテクツ〉。真っ白な曲線美は豪雪地帯ハルビンで粉雪が舞う様子をイメージし、エントランスでは天井から自然光を取り込む。
フランス
1875年に開場。設計者シャルル・ガルニエの名を冠した劇場。“オペラ座”の愛称でも知られる。もともと湿地帯で地下水の多いエリアだったため、地下には巨大な貯水槽が設けられており、これが舞台『オペラ座の怪人』に出てくる地底湖のモデルになっているという。
アゼルバイジャン
潤沢なオイルマネーで潤い、“第2のドバイ”とも呼ばれる首都バクーに、“アンビルドの女王”とも呼ばれたザハ・ハディドが2012年に完成させた。一帯には博物館や講堂のほか、オペラハウスも設けられており、同国の大統領を約10年間務めたヘイダル・アリエフの名前が冠せられている。
日本
島全体が御神体といわれる、広島県の宮島。年に一度、秋の月明かりのもとで能を上演する〈観月能〉を開催。1996年から舞台に立ち続けるのは、今年で84歳になる人間国宝・友枝昭世。大潮の満潮時を選んで上演され、客席からは舞台が水の上に浮かんで見え、幽玄の時間が流れる。
アメリカ
MET(メト)の愛称で親しまれるニューヨークの劇場。1883年、ブロードウェイの39~40丁目に建てられて、ミュージカルの劇場街“シアター・ディストリクト”が生まれるきっかけを作った。火災を経て、リンカーンセンター内に再建。毎年約30演目、200回に及ぶオペラを上演し、世界3大歌劇場のひとつに挙げられる。
イタリア
こちらも世界3大歌劇場のひとつ。1778年に開場し、G・ヴェルディの『オテロ』、G・プッチーニの『蝶々夫人』、『トゥーランドット』など、数々の名作が披露されてきた。ショッピングアーケード“ヴィットリオ・エマヌエーレ2世のガッレリア”を通り抜けていくアプロ―チも心躍る。
スペイン
地元バレンシアの著名建築家サンティアゴ・カラトラバが手掛けた芸術ホール。生物の骨を組み合わせたような斬新なデザインは、角度によって宇宙船のようにも見える。一帯には水族館や科学博物館、IMAXシアターが並び、合わせて“芸術科学都市”を形成している。
雑誌『Safari』11月号 P151〜156掲載
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